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【環境コミュニケーションの現場】 建築、設備、環境のトータルな調和を求めて―東京ガス「建築環境デザインコンペティション」

企業・団体のCSRやPR活動の姿を訪ねる【環境コミュニケーションの現場】。第2回は東京ガスが主催する「建築環境デザインコンペティション」を紹介します。
これは24年も続く「デザイン」「環境」「設備」の3つの課題を調和させた建築アイデアを競うコンペで、若手の"登竜門"とされるほど注目を集めている活動です。CSRや企業のコミュニケーションでは「継続」と「広がり」を、どのように実現するかが問題となります。このコンペがそれらを達成できたのはどんな理由があったのでしょうか。事務局を運営する東京ガス株式会社 都市エネルギー企画部の中里 菜穂美さんに話をうかがいました。

環境重視の取り組みを先駆的に支援

―建築コンペは数多くありますが、「環境」に目を配るものは珍しいのではないですか。しかも始まりが1987年からというのは先駆的です
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始まったときから基本的なテーマは変わっていません。「デザイン」「環境」「設備」の調和した建物のアイデアを求める点です。開始当初は先駆的なテーマだったと思いますが、時代の変化によって、今はテーマが社会にぴったり合うようになりました。
現代の建築は機能性や快適性が追求されることで発展してきたと思いますが、80年代後半ごろから、その追求によってエネルギーの大量消費などの問題も顕在化してきました。そのような時代背景の中で、東京ガスができることは何かと考え、このコンペが始まったと聞いています。
当社は都市でのエネルギーの「あるべき姿」を考え続けてきました。エネルギーは環境と密接にかかわりますし、建築界とも深い関係があります。そのため、建築と環境と設備について、一緒に考えさせていただくとともに、建築にかかわる皆さんをコンペによって支えたいという願いもありました。

―テーマに「設備」を取り入れているのもユニークですね

建築業界では80年代当時、デザインやコンセプトに注目が集まり、デザインを競うコンペが多い一方、設備関係者が挑戦できるコンペは少なかったことから、開始当時は設備関係者の皆さんを支えるという目的もあったようです。今でも、設備関係者が挑戦できるデザインやアイデアのコンペは数が少ないために、一定の役割を果たし続けていると思います。
当コンペでは、個人ではなくチームでの応募が大半ですが、これはデザインと設備の双方の知恵が必要になるためでしょう。審査では提案の実現可能性、実用性も重視されます。そのために、審査委員には必ず設備の専門家も含まれています。
ですから評価を受ける応募作品には、デザイン性、発想の面白さだけではなく、その建物をつくるにはどうすればいいのかという現実的な発想も織り込まれています。「設備」という要素をテーマに盛り込むことによって、建築を総合的に考えなくてはならなくなり、作品の質も向上しているのだと思います。
また、一次審査で優秀賞候補となった作品の中から、公開審査会で最優秀賞を決定します。応募者によるプレゼンテーションと、審査員のヒアリングによるやり取りによって、最優秀賞が決定していくところも、本コンペの特長だと思います。

時代を反映した課題が挑戦をうながす

―1987年は「ウォーターフロントの倉庫改造プロジェクト」、2006年には「温暖化地球におけるノアの方舟」など、そのときに注目されている課題を設定していますね。近年は地球環境のテーマが続いています

その年の課題は審査委員の皆さんの合議で決めています。2009年には「風と生きる建築」、10年は「地球に生きる」でした。特に10年は、大変スケールの大きな課題が設定されました。
09年の最優秀賞は、「原風景に生きる風」(橋本佳典ほか6人(株式会社ジェイアール東日本建築設計事務所))でした。これは愛知県常滑市のまちの再活性化計画です。このまちはかつて陶器製造で栄え、今は60本程度の煙突が使われずに残っています。その煙突を風の通り道にしながら、さまざまな形で人が集う場として再利用しようとしたものです。

conpe09.jpg2009年の最優秀賞「原風景に生きる風」

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2010年の最優秀賞「いどばた」

10年の最優秀賞は「いどばた」(綿貫志野ほか3人(株式会社久米設計))でした。昔は井戸から必要な分だけ水を汲み上げていたように、人々が必要な分だけのエネルギーを汲んで暮らすことを提案しています。さらに、エネルギースポットとしてのいどばたをつくることで、コミュニティも再生しようというものでした。

―24回の歴史を振り返ると、応募作品の姿は時代ごとに変わっているのでしょうか

2009年には約230点、そして今年は難しい課題でありましたが約120点の応募がありました。いずれも考えの練られた質の高い作品が多く、応募者の熱意と創意工夫が見られました。
かつては「未来を考える」作品が多かったのですが、最近では「今を見つめ直す」ものが増えていると感じます。新しいものをつくる発想から、廃墟など今あるものを再利用するなどです。さらに「コミュニティの再生」「人のつながり」など、ソフト面への配慮が深まっています。建築界では大規模開発の計画が少なくなり、既存のものを再生する「リノベーション」が考えられるようになりました。そうした変化がコンペにも現れているのではないかと思います。

建築界の支えが、コンペを支えた

―コンペが24回も続き、注目されるようになった理由はどこにあるのでしょうか

ここまで決して平坦な道のりであったわけではなく、存続が危ぶまれたこともあります。しかし、建築業界の皆さんに支えていただいたことで、今日まで継続してくることができました。私は建築、設備の専門家ではありませんが、一目見て素晴らしいと思う作品が、毎年多数寄せられます。そうやって質の高い作品が集まることで、挑戦すべきコンペとして認知されるようになりました。また、このコンペへの応募を会社の新人研修や、研究室の課題のひとつに取り入れるなど、建築業界が上手に活用くださっています。このコンペが多くの方の手によって成長していることを感じます。
自由度が高いことも、このコンペに注目が集まる理由の一つであると思います。参加資格は問いませんし、基本テーマと課題を満たせば、どんな建築物でもかまいません。大切なのは発想力と知識のバランスです。そのため、ベテランだから最優秀賞を取れるとも限らないし、逆に若手にも十分にチャンスがある。このことが、若手の"登竜門"と言われる理由なのかもしれません。

―会社のCSR、そしてコミュニケーションは「広げる」ことが難しいとされます。どんな工夫がありますか
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それは今後の課題です。建築界の皆さんとの関係を深めると同時に、建築界以外の方と新しい関係を構築したいと考えています。
このコンペは、「建築と環境」について考える場を提供することで、アイデアの提供を通じて、環境にやさしいまちづくりに貢献できるものと考えています。また、今後の活躍が期待される建築業界の方々や、建築を専攻する学生の方々の飛躍の場にもなっていると思います。この取組みは、建築業界だけでなく、引いては社会全体へ貢献するものであると信じていますが、まだまだPR不足な点があることは否定できません。
建築は社会と密接に関わっており、このコンペで示された建築界の人々の知恵を、さまざまな人に知っていただくことが、私たちの役割なのだと思います。例えば、大丸有地区は変化を続ける場所です。こうしたまちにかかわる方は、まちづくりのアイデアを必要とするはずです。このコンペの成果が活用できる場面も多くあるのではないでしょうか。
このコンペを多くの人に知っていただき、成果を分かち合う取り組みを広げたいと考えます。社会に必要とされればCSRは意味あるものとなり、「継続」と「広がり」につながるでしょう。

建築界の才能が開花する場をつくる。その才能が、社会、そして日本を変えていく。東京ガスの「建築環境デザインコンペティション」は、そんな期待の抱ける活動です。その一段の発展に期待をしたいと思います。