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【丸善松丸本舗BookNavi】 5月号 「これからの社会的責任(Social Responsibility)」-柄谷行人『倫理21』、スティーヴン・キング『スケルトン・クルー』など

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松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア・丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。

テーマ:「これからの社会的責任(Social Responsibility)」

お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 中澤 健矢さん(以下中澤
・松丸本舗マーチャンダイザー在岡 正人さん(以下 在岡

このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!

○ 5月のオススメ本

  • 『災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録』 中井 久夫(著) みすず書房
  • 『倫理21』 柄谷 行人(著) 平凡社
  • 『スケルトン・クルー <1> 骸骨乗組員』 スティーヴン・キング(著) 扶桑社ミステリー
  • 『ボランティア もうひとつの情報社会』 金子 郁容(著)、岩波新書

アクビ: 東日本大震災以降、日本は大きなパラダイムシフトを迎えつつあるように感じています。さまざまな価値観が変わりつつありますが、その中でも大きく変化しつつあるのが「社会的責任」に対する意識ではないでしょうか。原子力発電所の事故については、国や企業の社会的責任が大きく問い直されていますし、個人レベルではこれまで敬遠される場面も多かったボランティアや社会貢献活動に人が押し寄せています

これからの社会的責任はどうあるべきか、国・企業・個人などがそれぞれのスタンスでいかに社会に参画していくかを考えるいい機会だと思い、今回のテーマを「これからの社会的責任(Social Responsibility)」としてみました。

大丸有(大手町・丸の内・有楽町)は、「まちのCSR(Community Social Responsibility)」を考えるべく、毎年CSRレポートを発行しているんですよ
大丸有CSRレポート2010

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在岡: わたしからは、まずは、震災に関連するものを紹介したいと思います。1995年に阪神淡路大震災がありましたよね。東日本大震災と違って津波ではなく火災の被害が大きいなど、ケースは全然違うものの、そのときにボランティア参加した人の記録でとても良いものが残っているんです。『1995年1月・神戸』という本で、中井 久夫さんという方が書いていた本です。PTSD(心的外傷後ストレス障害)って阪神大震災のときに知られるようになったんですが、この先生はPTSDの治療など心のケアをするためにつくられた「心のケアセンター」通称「コケセン」の所長をされていた方なんですね

地震が起きた後の早い段階で、ノンフィクションライターの最相 葉月さんが中心になって、インターネット上でこの本を読めるようにと働きかけ、阪神淡路大震災との比較や著者が今回の震災で感じたことなどを付け加えて『災害がほんとうに襲った時――阪神淡路大震災50日間の記録』というタイトルで4月11日に緊急出版されました。今もインターネット上で読めるようになっているんです

アクビ: 直近の話ですね!

在岡: 最近地震に関する本がいろいろ出ていますが、興味本位のものも多いですし、後々まで残って読み返す価値があるものはそんなに多くなかったりするんです。これは、阪神大震災の時にボランティアや社会参加がどのように行われたのか、なにがうまくいって、どんなトラブルがあったのかなど、災害にあったときの教訓が詰まった本です。簡素な本ではあるのですがいろんな人に読んで欲しいですね

著者はこの本で「大きな災害が起きてから人の集中力が続くのは40日なので、40日以内に対策に何らかの目処をつけなければならない」ということを教訓としていっているんですけど、今回に関しては規模が大きすぎて無理な部分は多かったですね。軍事の世界でも40日は大きな目安になるらしく、それを過ぎると自分から銃弾に当たりに行くなどの自暴自棄がおきやすくなるらしいです。集中力が続くうちに大事なことは片付けておけ、と

中澤: メディアでいろんな報道がされていますが、見ている側もだんだん慣れてしまってきていますよね。継続は難しいですね

アクビ: 振り返ってみると、たしかに40日目くらいが境目だったのかもしれません。私、GW前に福島の被災地に行って現地の人にいろいろお話を聞いてきたんです。そこで聞いた話なんですが、震災から少し経ったころに分配された義捐金が盗まれる事件があったらしいんです。それ以来避難所の中が苛立った空気になってしまって、子どもたちが声をあげて遊んでいると大人が叱りつけたりするようなギスギスした場面が増えたそうです。最初のうちは気が張っているし、生き延びるために必死で助け合っていたのに、そういう気持ちの糸が途切れたのが、やはりちょうど40日目あたりだったんですよね

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在岡: 崩れちゃうんですね......。そういう中で考え直したいのが倫理です。この本『倫理21』の21とは21世紀の意味です。この本が書かれたのが1999年なんです

この中に水俣病の事件についてとりあげられている章があります。水俣病ではチッソという会社が海に有害物質を流しちゃいましたけど、今回の震災後の原子力発電所の事故では放射性物質を海に流しちゃったわけですよね。こういった場合の責任や倫理をどう考えればいいのかと

今生きている人間同士の補償の問題もありますけど、未来の人に対する責任もありますよね。今から生まれてくる、発言もできないしどうして欲しいかわからない人たちに対する責任も考えなければならないし、重要なことだと。あるいは過去の人への責任。その人たちとコミュニケーションはとれませんが責任はある

戦後処理についても取り上げられています。「一億総ざんげ」など、ある種のでたらめによって責任の所在がごまかされた敗戦のときの無責任状態と、現在の状況が似ていると言っている人もいます。「原子力を推進してきたのは日本国民全員だ」なんてことになって誰も責任をとらないと、日本は敗戦時と同じことを繰り返す、と

アクビ: 背筋が寒くなりました。水俣病の話を聞いたときに、まさに現在と同じ状況だとぞっとしたんですが、さらに第二次世界大戦のころから国全体の体質も変わっていないと思うと言葉をなくしますね

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中澤: 根深いですね

在岡: いま政治の人材が枯渇していますよね。人を育てるのにはこれから何十年もかかってしまう。そういう意味でも、大変な時代になってしまったなと

この本には環境問題や敗戦問題に関する事柄がわかりやすくまとまっています。大きいテーマではありますが、責任とか倫理とか日本も考え直さなきゃということで、紹介してみました。そんなに難しい本ではないですよ

中澤: 松岡正剛さんも「3.11が、自分がこれから書こうとしていた展開をすべて明るみにしてしまった」と言っていますね。日本は西洋型の文化を見境なしに取り入れてきたけれど、よく見てみると日本のインフラってグローバル社会に対応するようなものではなかった。それによって生まれたひずみのようなものをこれから紐解いて行こうと計画していたしていたのが、今回一気に明るみに出てしまった、と

アクビ: 最近、いろんな問題をいっぺんに付きつけられている感じですよね

中澤: 僕からの紹介は、もう少し小さいレベルで。ひとつは『ボランティア もうひとつの情報社会』 という金子 郁容さんが書かれた本です。ボランティアに関心があるけど近寄りがたい人、すでにやっているけど違和感を覚える人、偽善ではないかと感じてしまう人などに読んでほしいと冒頭に書いてあります

Booknavi1105_6.jpgたとえば個人でやっているボランティア活動が話題になって取材の問い合わせが来る。最初のうちは受けていたけれど、取材が多くなってくると業務に支障があるからと会社側から禁止のお触れが出るといったケースが出てきます。会社とか大きなものと個人がバッティングしてしまうんです。ボランティアをする側も見守る側もすごく不安だと

アクビ: 社会にボランティアをやることへの下地が整っていないんですね

中澤: あと、よく「ボランティアをして勇気付けられました」というような声も聞かれますよね。ボランティアをする側が何かを与えて、される側が何かを受け取るという単純なものではなくて、逆の軸もあったりします。そういったある種の相互作用がボランティアの最大の魅力で、それを続けていくことで情報ネットワークが生み出され、そのネットワークが社会を活性化して新たな局面を開いていくということが最後の方に書いてあります

(ページをめくりながら)たとえばこの人なんて、76歳にして現役のボランティア!アメリカのフィラデルフィアの人なんですけど、テレビで観た貧しい人たちに自分で食事を持っていったという小さな個人の活動が広がってネットワークが生まれて、法律が制定される動きにまで繋がったんです。ボランティアの可能性についても書かれている本なんです

アクビ: 震災支援についても、政府や赤十字などの大きな組織では行き届かない部分を、個人や小さなNPOが速さと機動力と柔軟性でカバーしていますよね

中澤: もう一冊はスティーヴン・キングの小説を紹介したくて。この『スケルトン・クルー <1> 骸骨乗組員』の中に収められている『霧』という小説を紹介します。『ミスト』というタイトルで映画化もされています。あるときに大きな台風があって、突如霧が発生して真っ白になる。「霧の中になにかがいる」と、まちの人たちがパニック状態になるんです。アメリカが舞台なので、そこには人種や宗教が違う様々な人たちがいるんですが、このパニックをきっかけとしていろんなことが表面化していくんです。人間が究極の状態のときにどんな行動をとるか、何を信じるのかというのが書かれている小説です

Booknavi1105_4.jpgスティーヴン・キングの著作なのでエンターテイメントとしてはもちろん抜群の小説なんですが、今の状況とあわせて読むと、また考え深いものがあります。パニックの中で宗教や考え方をもとにしてネットワークや集団ができていくんです。そして、それら同士が対立したりしながら変わっていくんですよ。エンディングは映画と違っているんですが、そこは文章の強みというか、引き込まれるような文体で、今だからこそ得られる読書体験という感じですね

アクビ: パニック状態の社会の中で思想の元にグループが形成されて、それが状況の中で力関係を変えていくって、まさに最近の状況と重なりますね。被災地のコミュニティではそういうものがきっと強くあるでしょうし、東京を中心とした東日本全体でも原子力や放射能に関する思想のもとにいくつものグループやネットワークが生まれています。そういうものの力や情報に飲まれてしまうと大変なので、客観的に見る視点を持てるといいですよね

中澤: そういう状態を想像するきっかけになるような小説ですね。今回の震災では小さい個人や集団の力が大きいなと思いました。私たちは、ボランティアとは違う形なんですが、本を人に贈る、贈りあうことでつながるコミュニティをつくっていけるのではないかということを最近考えています

アクビ: 社会のために何ができるのか、何をすべきかを考える人が増えてきていますよね

在岡: 根本的なことを考えざるをえない時代になっていきますね

アクビ: これから大変な時代が来るとは思いますが、一気に出てきたゆがみを治すチャンスでもあります。これからの社会的責任は、国や会社もひとりひとりの個人も意識的に考えるものにしていけると思います。苦難も良い変化にしていきたいですね

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