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【地球大学アドバンス速報】第42回「地球大学アドバンス〔コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ 第2回〕"首都圏大震災―予防減災への課題"」(高嶋哲夫氏)

2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。その第2回は、シリーズ最初のゲストとして『M8』『TSUNAMI』など大規模災害をテーマとした小説で知られる高嶋哲夫氏をお迎えし、7月25日に開催しました。

■ 首都圏の震災へのイマジネーションを広げる~竹村氏

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変動帯に位置する地震大国日本の国民として、最低限のリテラシーを考えようという試みはこれまでなんどもやってきたつもりです。それでも今回のような震災や津波は私でもイマジネーションが及びませんでした。

そんな中、今回の震災は、直接首都圏を襲ったわけではないにもかかわらず数十万人規模の帰宅困難者を生み、首都圏の防災の課題を見える化しました。その課題に対してしっかりと被災シナリオをデザインしていく。そういう予防減災型の国の体制へ入らないといけないということがわかりました。

今回はそういうスタンスで首都圏の震災の問題を5年間の地球大学ではじめて正面から取り上げることにしました。

高島氏は首都圏の震災に焦点を上げた『M8』で、多様な場面で震災にあった人の行動を描きました。しかしそれでも自分の小説に不全感が伴うとして書かれた新書が『巨大地震の日』。ここではさらに被害想定などについて踏み込んでおられます。そんな高嶋先生のおはなしを軸に、私たちのイマジネーションを本当に広げていきたい。それが今日の狙いです。

■ 私は作家です

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5冊も災害に関する本を書いているので災害の専門家と勘違いされるますが、私はただの小説家です。災害について書くようになったのは神戸に住んでいるからです。阪神淡路大震災の時私は垂水に住んでいて、直接の被害はあまり無かったけれど川をわたってすぐのところはすごい被害だったんです。地震からしばらくして被災した地域に入って、作家として何とか残しておきたいと思いました。けれども知識も何もなかったので、そこから資料を集め始めました。でも被災地の人のことを思うといい加減なものはかけなくて結局10年かかりました。それでも神戸を舞台にすることはできなくて、阪神大震災の経験者が首都圏で震災にあうという『M8』を書いたんです。 書くときに注意したのはこれを読めば地震というもの、それに対する国の取り組み、そして個人的にどう対処すればいいのかがなるべく分かるようにということでした。

その後『TSUNAMI』『東京大洪水』と書きましたが、こういう作品を書いたのは、小説ではあるのだけれど、記録、警鐘、啓蒙の役割を果たすことができると思ったからです。災害についてまず一番大事なのは、その災害はどういうものかを知っておくこと。その知るために小説は役に立つのではないかと思うんです。

■ 災害への対応、災害への備え

災害で大事なのは、その時だけでは終わらないということです。今回の震災でもこれからが被災者にとっては本当の苦難の時なのです。そのことを「巨大地震の後に襲ってきたこと」という本にまとめました。

今回の政府の対応が遅いと言われていますがまさにそのとおりで、義援金についても仮設住宅についてもすでに阪神大震災の時に散々議論されてきたことで、それをまた繰り返しているに過ぎません。過去の経験を活かして、今後同じような甚大な災害が起こったときに迅速な対応が出来る体制を作っておくべきです。

心の問題や震災孤児など、今後も息の長い支援を必要とする問題も同様です。助けを必要としている人がいることを忘れることなく末永い援助が出来る体制を整えておくべきなのです。

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そして、備えという意味では災害が起きたらどのようなことが起きるのかをイメージとして持っておいて、それに対して臨機応変な対応ができるという事が大事です。大企業には立派なBCPマニュアルが備えられていますが実際に災害があったときにそのマニュアル通りに行動できるのか。社員の安否確認というけれど、社屋が潰れてしまったとしたらどうやって安否確認をするのか。その時に必要なのはマニュアルではなく生存者を掘り出すためのスコップやツルハシです。企業でもまずは人命救助を第一に考えるべきで、それから様々なことを考えていくべきなのです。

本当に一番大事なのは生き残ることです。そのためには防災グッズを揃えるよりも耐震化を頑張るべきです。今は生き残りさえすれば様々なところから援助の手が差し伸べられます。そしてご近所付き合いを大切にして自分の生存を確認してもらえるようにすることも生き残るために大事になってきます。

そして、高嶋氏はおはなしの最後を「本音」で締めくくってくださいました。

このような備えをするために必要なのは、まずは敵(災害)を知ることです。日頃から災害について知り、イメージしていかなる状態でも機能しうるシステムを作り、訓練をすること。そのためにまずすることと、それは...僕の本を読むこと!です。

竹村氏は高嶋氏の話を受けてメガシティの構造が都市の脆弱性の原因になっていることに触れ、「災害のイメージをいかに日常化するかが大事」であり、「防災の専門家の話よりも小説を読むことで、首都圏の災害リスクを見える化できる」と話します。そして、「今日が首都の防災減災を考えていく出発点なのです」と締めくくりました。

高島哲夫氏の著書一覧

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地球大学の講義をまとめた本が7月27日に発売になりました。この本についても竹村氏にコメントを頂きました。

この2,3年の成果ではありますが、改めてこの原稿のまとめをしているのがちょうど3.11の前後でした。そこで全く風景が変わってしまったと思ったかというとそうではなくて、むしろこの2,3年議論してきたことがいよいよ顕在化しただけである。実は3.11後の新しい日本と新しい地球を作っていくプロセスというのを3年前に初めていたんだというのが正直な実感でした。
という訳で、私は自信を持ってこの本に「3.11後のソーシャルデザイン」という副題をつけました。ぜひご購読をいただければと思います。

皆さん是非ご購読ください!

地球大学講義録―3・11後のソーシャルデザイン―(日本経済新聞出版社)
「地球大学」が本になりました!『地球大学講義録3.11後のソーシャルデザイン』

次回
第43回地球大学アドバンス[ コミュニティ・セキュリティの再構築]シリーズ 3
"3.11"後のエネルギー政策をめぐって

日時:2011年8月22日(月) 18:30~20:30
詳細はこちら

地球大学

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