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災害に負けない新生日本のヒントがこの本に=「知の埋蔵金」をこの一冊からみんなで掘り起こそう―『地球大学講義録−3・11後のソーシャルデザイン』の読みどころ―

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エコッツェリアで開催している人気講座を書籍化した『地球大学講義録−3・11後のソーシャルデザイン』(日本経済新聞出版社刊)が好評を博している。エネルギー、ソーシャルデザインなど、日本のさまざまな問題に第一線の専門家や実務家が行った講義をライブ感覚で提供する。編著者で『地球大学アドバンス』(以下、地球大学)のコーディネーターでもある京都造形大学教授の竹村真一氏、そして日経新聞出版社で編集を手がけた桜井保幸氏に、本書が問いかけるメッセージを聞いた。

地球大学アドバンス

希望を語る「地球大学」への感動から本が誕生

桜井 「私たちが直面する危機は素晴らしい社会を生み出すチャンスである」。竹村先生が地球大学で伝えるこのメッセージに感銘を受け、私は『地球大学アドバンス』に通いました。そして大変な知的刺激を受けました。環境問題というものは暗い話になりがちです。しかしこの講座は希望を語っていました。読者の皆さんと、その感動を共有したいと思ったのが本を企画したきっかけです。

竹村 そのコメントは「我が意を得たり」という感じで、とてもうれしいですね。「未熟な現代文明を作り直す好機である」という希望を語ることが、まさに地球大学の講座と本の目的です。環境問題の現実を見つめるほど、地球の将来に悲観的になるかもしれません。しかし、この20年の技術の進歩と社会変革で、あらゆる問題に「代替策」が登場しています。例えば、エネルギーでは以前は「石油などの化石燃料か、原子力発電か」という選択肢しかありませんでした。

今ではEUなどが「2050年には電力の100%を自然エネルギーで賄う」と宣言するほどに、自然エネルギーが電力の基幹になりえる時代がやってきました。環境エネルギー政策研究所(ISEP)の飯田哲也さんや、成長戦略研究所の山崎養世さんと新エネルギーの可能性を講座で語り合い、本でも紹介しています。こういう新たなトレンドを次世代にむけて伝えずに、悲観的な要素ばかり語るから、若者は未来に希望を持てずにいる。本当はこんなにワクワクする時代はないはずなのです。

桜井 本の編集中に東日本大震災と原発事故が起きました。日本がどうなるかという不安や切迫感が社会を覆っていました。そうした状況下で竹村先生が書き下ろした『はじめに』、最終講『東日本大震災後の「コミュニティ・セキュリティ」デザイン』では、具体的な東北復興と日本再生の方法と希望が語られ、深い感銘を受けました。竹村先生は東日本大震災復興構想会議の専門委員ですから、提案のいくつかが政策として検討されています。また講義は震災前に行われたものですが、防災、治水、原子力の限界、コミュニティの再生策など、3・11後にクローズアップされているテーマが取り上げられています。こうした先駆的な知恵が震災前に活かされなかったことが残念です。

竹村 「知の埋蔵金」が日本のいたるところに眠っています。それは社会の損失です。この本では、広げるべきさまざまな例を紹介しています。例えば、地球大学が開催される新丸ビルは「生グリーン電力」と呼ばれる青森県の風力発電などの自然エネルギーで全館の電気をまかなっています。これは社会から突出した例外とみなされがちでしたが、原発事故以来、自然エネルギーの導入の拡大は社会的に緊急の課題です。この書籍で取り上げられた事例は、新たな社会デザインのモデルケースになりつつあります。

さらに日本を持続可能、そしてロバストな(変化に対応しうる強靭な)形に生まれ変わらせることは、大震災の犠牲者の方々への何よりの鎮魂になると私は考えています。

社会変革の知恵が本に込められる

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『地球大学講義録』編著者の竹村真一氏(左)と、日経新聞出版の桜井保幸氏

桜井 この本は400ページと厚めの本ですが、講義形式でライブ感を残し、楽しく読める工夫もしました。分量が多いのはディテールの一つひとつが面白く、削りたくなかったためです。

竹村 現代社会の特徴として、ICT(情報通信技術)の進化で人々がつながることで「世界のフラット化」(均一化)が起こっていると指摘されます。世界はフラットに相互接続され、時差を超えてシンクロナイズしている、と。確かにアラブの民主化やリーマンショックなど、経済、情報の面ではそうでしょう。しかし、それはあくまで人間社会の中だけでのこと。私たちの文明が自然や生態系としっかり相互接続しているか? 地球のリズムとシンクロしているか?というと、決してそうではありません。

それは近年の生物多様性の危機や、30年毎に津波に襲われてきたにもかかわらず十分な準備体制がデザインされていなかった今回の東北津波・震災でも明らかになったことです。この本では、そうした問題を解決する本当の意味でのイノベーションに光を当てたつもりです。

桜井 環境まちづくりを進める丸の内で行う講座であるために、この本では都市の改革のアイデアも詰まっていますね。

竹村 講座の目的の一つは、「東京を進化させたい」という願いです。原発事故以来、日本のエネルギー体制の脆弱さが顕在化しましたが、問われたのは原発の「安全神話」だけではありませんでした。石油などの化石燃料の輸入コストがいまや08年で23兆円という価格急騰に直面するなかで、どっぷり海外の石油に依存した20世紀の都市社会全体がおよそサステナブルではなくなってきています。

震災前から私は『地球の目線』(PHP新書)などで日本の脆弱さを指摘してきましたが、震災によってはっきり顕在化しました。このような情勢が変化するなかで、東京も100年前の都市デザインのままで良いわけがありません。また大震災の帰宅困難問題でも明らかになったように、東京は災害に非常に脆弱で、多くの課題を抱えます。

しかし逆に考えれば、丸の内は日本経済の中心、さらに東京は大消費地ですから、巨大な「需要地」としてのパワーで日本全国に大きな変革をもたらす可能性も持っています。新丸ビルの「生グリーン電力」のように、東京に風車が立たなくても、東京は日本全国に風車が増える牽引力ともなりえるのです。毎月の地球大学で、こうした「知の埋蔵資源」をもっと多くの人に知ってもらいたいという思いで開催しています。

桜井 竹村先生は講義の中で、日本を「課題先進国」、そして東京を「課題先進都市」と描写しています。先駆的に私たちが課題を解決できたら、地球と社会に、大きな貢献になりますね。

竹村 地球大学で取り上げてきた問題は、世界全体の問題です。今の世界は、環境制約、資源制約、人口制約という3つの大きな重荷を背負っています。日本特有の問題と思われる少子高齢化、エネルギー需給と産業構造の脆弱さなどは、急速な成長を遂げる中国、インドがまもなく直面する問題でしょう。時間軸、そして地理的な視野を広げて考えると、こうした課題を私たち日本人が解決できれば、地球と未来への大きな貢献になります。

日本は変革をボトムアップで成し遂げてきた国です。17世紀に戦国時代を卒業して農業革命によって「パックス・トクガワーナ」を実現した江戸初期の転換は、「鉄砲を捨てた日本人」として世界で注目を集めています。明治維新、第二次世界大戦の敗戦後の高度成長なども実はボトムアップの「民のちから」による大変革の成功例でしょう。新しい日本、東北の再建に向き合う私たちにとって、こうした日本の歴史は大いに参考になるはずです。この本にはそのヒントが数多く盛り込まれています。

竹村真一氏がコーディネーターを務める公開講座『地球大学アドバンス』は毎月、新丸ビル10階の「エコッツェリア」で開催されています。
「地球大学アドバンス」開催案内

『地球大学講義録−3・11後のソーシャルデザイン』(日本経済新聞出版社刊、竹村真一+丸の内地球環境俱楽部・編著)は全国書店で発売中です。(価格(税込み)1945円、400ページ)