過去のアーカイブ過去のニュース

【丸の外NEWS by greenz.jp】 年間3,000トンの廃棄ゴボウをほっこり温まる「ごぼう茶」に変えた、青森県の若手起業家「Growth」

地域活性化のおかげで心も体もあったか?

しっかりと寒い冬、ウォームビズなんていうことも言われていますが、寒いものは寒いし、厚着すると今ひとつ仕事も捗る気がしませんよね。そんな時には体の内側からあたたまる「ごぼう茶」はいかがでしょうか?

宣伝のような口上になってしまいましたが、青森県で廃棄されてしまう規格外のごぼうをつかったごぼう茶を作っている若手ベンチャー企業があるのです。「規格外の作物を使った商品開発なんてどこにでもある」と思うかもしれませんが、過疎化と高齢化が進む農村にあって若者がその商品化に取組み、それを全国に向けて販売するという取り組みは無視できません。しかも、商品開発にも力を入れ、ごぼうの泥臭さを抑え、これまでのごぼう茶に必要だった「煮出す」という手間を省くことにも成功、誰でも手軽に飲めるようになりました。

農業を再生し、地域を活性化するためには、農業そのものから利益をあげられるようにすることが何よりも重要です。このごぼう茶はちょっと高いですが、それは正当な価値であり、それを東京にいる私達が買うことで地方を支え、日本全体を元気にしていくことにつながるのではないでしょうか。だから、飲めば体が温まるのはもちろん、青森に心を馳せて心も温まる、そんなごぼう茶なのです。

* * *

年間3,000トンの廃棄ゴボウをほっこり温まる「ごぼう茶」に変えた、青森県の若手起業家「Growth」

presented by greenz.jp(greenz.jpは、丸の内地球環境新聞をプロデュースしています、じつは。)

青森県三沢市は日本一のゴボウの産地。毎年15000トンものゴボウが採れますが、このうち2割は流通の規格に合わず捨てられてきました。

この大量の廃棄ゴボウを初年度で使いきるほどの人気商品「青森ごぼう茶」を開発したのは、お茶づくりに関しては全員が素人だったという(株)Growthの須藤勝利さんと若手スタッフ、そして地元農家の婦人会でした。

寂れつつあった三沢市の商店街の一角に、ふんわりとごぼうの香りが立ちのぼる、地元の希望を育む小さな拠点が生まれました。

須藤さんの背中を押した、農家の老婦人の言葉

青森県の中でもゴボウの生産量がもっとも多い三沢市では、生産規模が大きい分廃棄される量も半端なく、年間およそ2000~3000トンにも及びます。このゴボウを何とかしようと、市や農家がごぼうチップスを作るなど試行錯誤をしてきましたが、本格的に売り出すパワーや商品力が足りず、といった状況が続いてきました。

須藤勝利さんは、以前の職場で廃棄ゴボウの問題を知り、大のお茶好きだったこともあって、お茶にすることを提案して地元の婦人会とサンプルを作っては売る試みを始めました。

そんな時、偶然にも『人志松本の〇〇な話』という人気番組で、ごぼう茶が冷えにいいという話が取り上げられ、予想外にこの商品に注目が集まります。サンプルは作るほど売れ、地元では「これはイケルのでは!」という雰囲気に。

ところがこの事態を少し冷静に見ていた須藤さん。事業を引っ張っていくことを周りに求められていましたが、なかなか手を挙げてやってみる気にはなれなかったのだとか。

自分にそんな自信もなかったですし、テレビの効果は長続きするとは思えなかったんです。

その須藤さんの背中を押したのは、ある農家の老婦人との会話でした。
須藤さんはこう言います。

>三沢のある農家の方と話していた時に、息子さんはそろそろ実家に戻って跡を継ごうと思っているのに、お母さんの方が「こんなに儲からないこと息子にさせたくない」と反対している事実を知ったんです。跡継ぎ問題は、跡を継ぐ人がいないことだとずっと思っていたのですが、それだけではなかった。

自分たちの仕事が、子どもにやってほしくない仕事だと思ってるってことです。それってすごく寂しいことですよね。

もしも、今捨てられているゴボウを商品化して全国に売ることができたら、農家の売上が増えて「跡は継ぐな」なんてことにならなくなるのか、と考えたら「あ。やったほうがいいな」って思えたんです。

未利用野菜の商品化は今や多くの地域で行われていることですが、須藤さんたちがスゴイところはその後です。

2011年4月にはゴボウ茶を製造販売する会社Growth(グロウス)を立ち上げ、震災の影響で少し遅れたものの、6月20日には本格的な商品の販売が始まりました。

大手保険会社の販促ギフトやHIS、amazonなどの大手ネットショップで販売され、あれよあれよという間に、初年度で三沢市の農家が廃棄していた約3000トンほどを利用できそうなペース。

その人気の秘密は一体何なのでしょう?
答えは、商品に加えたひと手間にありました。

体の隅々までほっこり温まる、寒い冬にお勧めの「青森ごぼう茶」

Growthのごぼう茶は、30~40軒の農家から集められたゴボウを、ほとんどすべて手作業で加工して作られます。

お湯を注ぐと、香ばしいゴボウの香りがふわっとして、しっかりした味ながら柔らかい美味しさ。まさにゴボウのハーブティーです。

この味に至るまでには、何度もの試行錯誤がありました。最終的にたどり着いたのは「焙煎」というひと手間を加えること。これでゴボウの泥くささが無くなり、ほうじ茶のような香ばしい香りと色が出ます。他社では煮出す必要があるところを、お湯を注ぐだけで十分色も味も出るお茶に仕上がりました。

すべて手作業で行われます。すべて手作業で行われます。

スタッフ

価格は40gで1,260円、100gで3,280円と決して安いものではないけれど、日本一の産地でつくられる美味しいゴボウ100%で作るため、須藤さんは無理に値段を下げる必要はないと考えています。

また、ゴボウと言えば、体を芯から温めるのに適した野菜。
冷え症に効くという効果が功を奏して幅広い層に人気です。

お茶

農家だけでなく、商店街や地元の雇用にも新しい息を吹き込む

もともと農家の生計がよくなるようにと始めた事業ですが、須藤さんが会社を立ち上げた際に、ビジョンに掲げたことが他に2つありました。

ひとつは、地元の商店街を元気にすること。
そして障害者の人々にも仕事を創りたいということ。

(株)Growthの会社兼工場を敢えて商店街に置いたことで、社員が食事するのも商店街になりました。
店を閉めるところは増えても、開けるのは商店街にとって十数年ぶりのビッグニュース。大歓迎されました。

商店街

看板代わりにロゴ入りのTシャツがかかったGrowthの工場。看板代わりにロゴ入りのTシャツがかかったGrowthの工場。

障害者の雇用についても、以前ある障害者と話す中で彼らが人に迷惑をかけて生きていると思っていることを知った須藤さん。彼らに「あなたを必要としています」と言いたかったと言います。

現在、従業員は障害者1名を含む7人。初年度の雇用には県からの補助がありましたが、来年以降も同じスタッフを抱えてやっていける目処が立ちつつあると言います。

ゴボウ茶のような商品は、商品力はもちろん、つくり手の「思い」がきちんと伝わるかどうかが大切なこと。地元のイベントには声をかけられれば断らないという須藤さん。人と人のつながりから、各地のフェア出展など商品を紹介する場を広げています。

ゴボウ農家と須藤さん(中央)ゴボウ農家と須藤さん(中央)

個人的な利益追求だけでない社会企業が登場しつつありますが、商品力で勝負して利益を出し、農家や地元に貢献できる成果を出している事例はまだ多くありません。

こうした地元企業が増えることで、彩り豊かな地域社会が作られていくのかもしれません。
ごぼう茶と、Growthが今後も大きく伸びることを願います。