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【地球大学アドバンス速報】第57回「地球大学アドバンス〔食の大学シリーズ 第4回〕日本農業の成長八策 ― 本当の食糧安全保障とは何か?(浅川芳裕氏)

2012年度、5年目を迎えた地球大学アドバンス、今年度は「食」の問題に焦点を当て、丸の内「食の大学」として展開しています。第4回となる今回は「日本農業の成長八策 ― 本当の食糧安全保障とは何か?」と題し、『日本は世界5位の農業大国』の著者・浅川芳裕氏をお招きして11月12日に開催しました。

今年度はこれまでのレクチャー形式に加えて、ワールドカフェの協力の下、参加者がワークショップを行う参加型の地球大学です。今回も「都市における食と農」をテーマに参加者も議論を交わしました。

日本農業を地球産業と考える時代~竹村氏

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東京オリンピック前は8割だった食糧自給率が今は4割だとか、農業人口が6分の1に減ったといわれるが、実は生産量は減ってません。それは生産効率が6倍になっていることであり、それは日本農業に競争力があるということです。浅川さんは日本の農業はアメリカを上回るくらいの高効率で、世界の食糧事情を改善する可能性があるといいます。メイド・イン・ジャパンの食品が中国などで評価されるだけでなく、メイド・バイ・ジャパニーズ、日本人が実は世界の農業に貢献していることは日本農業を地球産業として考える時代が来ていることを意味しているのではないかと浅川さんの著書から感じます。

同時に近郊農業や都市農業が世界でサバイバルの意味もあって大きなスタンダードになりつつある中で、東京というのはまだまだ大きなマーケットであるし、耕作放棄地があるというのは優良農家に農地が集まるいい兆しであると考えることもできるというのも、浅川理論の面白い視点だと思います。皆さんには自分にできることはないかという視点から日本農業をバイタライズする方法を考えていただきたいと思います。

世界5位の日本農業のさらなる成長のために~浅川氏

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わたしは「農業経営者」という農業のプロ向けの雑誌の副編集長をしていて、それで日本全国を取材する中で、世の中がいうほど日本農業は弱くないことを知り、素晴らしい農業経営者がいるということを農家に代わって発信できたらなと思って、活動しています。

政治家に「日本農業が世界でどれくらいか」と聞くと、だいたい50位から100位くらいと答えますが、私はこの業界に入ったときに調べて4位か5位だということを知りました。みんな日々日本の作物を買っているのに、ことさら農業というと衰退しているとか言う、これはおかしいということでまとめたのが「日本は世界5位の農業大国」という本です。

その中に書いたのは、出荷額で言うと日本はオーストラリアの3倍、北海道だけでもニュージーランドやアルゼンチンより大きいというくらい日本は農業が盛んな国だということです。日本で農業が盛んな理由としては、南北に国土が長く年間供給が可能、経済成長した先進国であり輸送などのインフラが整っている、人口大国である、購買力が高い、独自の食文化を持っている、新しい食文化に柔軟、産業技術、農家技術が高い、などが挙げられます。

今、農家が減っていることが問題で、さらに65歳以上が6割以上だから何とかしないといけないと言われます。実際に、江戸時代には5人に4人が農家だったのが、今は100軒に1軒が農家になっています。しかしこれは、99軒がお客さんになることでようやく農業は食える産業になったということなのです。実は65歳以上の人も生産量で言うと9%くらいしかなく、その人たちが亡くなっても全体にはそれほど影響がない。むしろ農業人口の割合が減っていくというのは先進国のトレンドでもあるのです。

それは食料自給率にも関わってきます。自給率というのは供給カロリーに占める国産カロリーの割合ですが、豊かになってロスが増えれば自給率は下がるし、カロリーが低いもののほうが高く売れるので、生産が増えるので生産量が減っていなくても自給率は下がります。自給率は4割でも実際に買っているものの7割は国産だし、海外から入ってこなくなったらどうするんだという議論があるけれど、そうしたら食糧自給率は100%になるというよくわからない数字なのです。

そして、このカロリーが低いものの生産が増えているというのは実は日本の強みで、日本では1989年に青果の生産量が穀物を超えましたが、同じことが2009年に世界規模で起こりました。これは飢えの時代を世界が超えたことを意味していて、20年先行してその時代を生きてきた日本は穀物以外の作物を作る技術において世界に先行しており、今こそコンサルタントや事業パートナーとして世界に出ていくチャンスなのです。

その上で、日本農業がこれから成長するにはどうしたら良いでしょうか。それが日本農業の成長八策です。1つ目は、作物別全国組合を作り、産地同士のつぶしあいをやめて作物別にマーケティング、研究開発をすること。2つ目は検疫体制を強化し、海外からの病気や害虫の流入を防ぐと同時に、海外へも売りやすくすること。3つ目は民間版・市民農園を整備し、農地をオープンにしていくことでサービス業としての農業を周知させること。4つ目は日本の品種の権利を海外に売るなど科学技術に立脚した農業ビジネス振興を行うこと。5つ目は海外から入ってくることを畏れるのではなく農業経営者を特使にするなどして積極的な交渉を行うこと。

以下は省略しますが、農業人口が減り、ある意味では農家がエリート化してきたなかで、このような政策を取りやすい環境が整って来ました。そこで、私たちがそのような農業の発展を支える一番の方法は美味しいものを食べることです。そしていい物を味わえる舌を養うことで農業に貢献できるのではないでしょうか。

エネルギーと多様性のリスク~浅川氏、竹村氏

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竹村: 浅川さん成長八策から私なりに3つのポイントを上げると、1つ目は、日本の農業が弱く見えるのは、優良な農家が見えなくなるほどの保護政策があるから。適度に新陳代謝が起きるような体制がないといけない。2つ目は、舞台は日本だけではないということ。それを進めていけば地球の公転にあわせて食料を融通しあう食糧安全保障も出てくるかもしれないし、しかもそのOSを持っているのは日本だということ。3つ目は、都市農業。都市の膨大な農地を教育の場にしていくなら産業都市も可能性持っているし、重要なフィールドになっていくということです。そして、そのためには、若いちゃんとした目を育てるような政策に転換し、世界に目を向け、もっと教育に力を入れましょうということではないでしょうか。

他方で気になるのは、生産効率とクオリティが石油を使うことに依存しているとすると、脆弱なところがありはしないか、それをこれからどう考えたらいいのかということと、地球の人口の増大を食糧生産が上回る勢いで伸びているが、20世紀のような形で続けられるのかということです。このあたりはどうお考えでしょう?

浅川: 今の農業は石油がなければ何もできません。1馬力は20人力なので、100馬力のトラクターは2000人力。2000人分の作業を1台のトラクターでやるには燃料が必要です。種、肥料、農薬の輸入していますし、すべてエネルギーがネックになります。ただ、外国産の種が97%を占めるのは実はそのほうがエネルギー効率がいいからで、エネルギー効率を高める努力はすでにかなりなされています。それから、エネルギーが値上がりすると最初に影響が出るのは肉で、そうすると肉が売れなくなって餌になる穀物が安くなるという形で肉がバッファになっているという事はあります。みんながベジタリアンになれば穀物はものすごく余ります。

竹村: エネルギーの機器がすぐ食糧危機につながるわけではないわけですね。ただ、もう一つ危惧しなければいけないと思うのが多様性の喪失ではないかと思います。F1やGMOが広がることで、土地の固有種というのがなくなりつつある。多様性は来高校変動に対するバッファだと思うので、質的な食料安全保障がリスクに晒されているといえるのではないでしょうか。

浅川: 多様性の面から言うと、多様性を重要視するのか、農家の所得を重要視するのかという問題になると思います。広まっていく技術というのは農家が選んだものですが、多様性というのも農家が選択するものです。多様性がなくなれば病気が蔓延するなど農家に跳ね返ってくる。それを農家は考えないといけない。そのうえで今問題提起したいのは、日本の農家はそもそもGMOを選ぶことができないということ。選ぶことができなければ勝負もできないし、どのような多様性を選ぶかを判断することも出来ません。

竹村: もう一つは、TPPについて。弱者保護政策を脱すればTPPでも十分やっていけるとお考えでしょうか。

浅川: 事実を言うと、野菜などは関税があまり高くないし、米に関しては米がほぼ100%というのがむしろ異常なんじゃないかと。一般的に世界のものが入ってこない産業は衰退するもので、日本の米もこのまま行くと2050年には8割減反と衰退の道をたどります。むしろ世界から米が入ってくるほうが新しい文化が生まれるし、日本も米を輸出できるようになるのでないかと思います。

竹村: 今日は「日本の農業は弱くない」、「世界に出て行こう」などいくつか論点が出てきました。これからの時間では参加者それぞれがご自分にひきつけて、日本の食と農を育てていくアイデアを交換いただければ。

これからの日本の農業とは~ワークショップ

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今年度はワールドカフェ形式にワークショップを行い、参加者の理解をより深める試みを行なっています。今回も参加者が4人くらいの組に分かれ、まず「浅川さんの話から得られた日本の農業に対する新たな見地は何ですか」という話題で、次にグループのメンバーを変えて「あなたが理想とする日本の農業は?そのためにあなたができることは何か」という話題で約20分ずつ話し合いを行い、最後に各グループが「これからの日本の農業」をテーマに短いキャッチフレーズにまとめて発表しました。

今回も「しあわせを作る技術力」「思いやり、教育、真のプロ」「質とは何?農家は食のオーガナイザー、この志を消費者まで」「つながり」「企業化、利益を得る、農業プラスアルファ」などのキャッチフレーズが発表されました。発表からは、農業を「しあわせ」や「つながり」「社会」を作るものと捉えて、それを共有し合う事の大切さについて考える方が多いということを感じました。

発表を受けて田中氏は「農家の方が聞いたらないて喜ぶんじゃないか。農家は知りすぎていて、知らない人に対する説明を怠っているという新鮮な気づきをいただきました」と発言。

竹村氏は「浅川さんと雑談している中で地産地消は地球産地球消と読むことも出来るんじゃないかという話になりました。自分だけが安心安全なものが食べられても地球全体が病んでいたらどうしようもない。地球の自転公転にあわせて融通しあうことでエレガントな農業が成り立つ。そういう両輪が成り立つ自由を持ったのが21世紀人の自由。両方を向いた視野というのは今までの人類は持っていなかった。新しい人類の視野として新しい可能性を考えて生きたい。丸の内はその全部を含めたハブになるポテンシャルを持っているのではないでしょうか」と締めくくりました。