過去のレポート都市の“グリーンワークスタイル”を探る

持続的な支援に向けて、丸の内朝大学コミュニティがアクションを開始(脇坂真吏氏、上田壮一氏、兼松佳宏氏、内藤忍氏、古田秘馬氏)

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1. 人と人とのつながりで、風評被害も乗り越える

大丸有エリアの市民大学である[[丸の内朝大学]]は、開校3年目に入りで受講生OB/OGはのべ3000名以上を数え、講座修了後も活発なコミュニティを形成している。東日本大震災の発生直後から、多くのOB/OGから被災地支援の意見やアイデア、活動について多くの意見が寄せられた。4月4日から6日までの3日間にわたり、コミュニティのネットワークを活用してアイデアを発展させるべく開催された、コミュニティアクションミーティングをレポートする。

1. 人と人とのつながりで、風評被害も乗り越える

早朝7時すぎから、ミーティングが開催される新丸ビル10階のエコッツェリアに「おはようございます」という元気な挨拶があちこちで交わされる。丸の内朝大学のOB/OGたちだ。設定されたテーマに沿って、ゲストトーク、参加者のアイデア発表、グループディスカッションが3日間繰り広げられた。

初日は「食と農」「お金と経済」をテーマに、ゲストトークの後、参加者の活動アイデア発表とそれをうけてのグループディスカッションが行われた。

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脇坂真吏さん

まず、丸の内朝大学で開校以来食学部の講師を務めている、脇坂真吏さん(農業コンシェルジュ、株式会社NOPPO代表取締役、NPO法人農家のこせがれネットワーク理事COO)のゲストトークからスタート。

被災現場の被害状況はすでに多くのメディアで報じられているとおり、非常に厳しい状況にある。津波により農地は海水に浸ったり油が入ったりして、数万haが回復不能と言われている。そういう農地はそっくり土を入れ替えなければならない。畜産業や漁業も甚大な被害を被っている。「養豚業を営む知人の豚舎は津波によって、2000頭のうち48頭を残してすべて流されてしまった」(脇坂さん)という。個人レベルでの再建は不可能な状況だ。

現地でそんな状況を目の当たりにしてきた脇坂さんだが、震災からしばらく続いた首都圏のスーパー等での買い占めや品不足を見て、「これまで東京では被災地をどこか他人事としてとらえていたが、今回は自分事になった」と言う。農業は生産者の高齢化が進み、このままではダメになると指摘されてきたが、それが震災被害と放射線量の基準値オーバーによる出荷停止や風評被害などによって、一気に現実のものとなってきたのだ。また、節電や自粛ムードの影響で首都圏の飲食店にはお客が集まらず、被災を免れた農家には安全な野菜があるのに売れないということも起こっている。

「今回、食と農業の重要性を改めて感じた。消費者という立場から「食と農業」に真摯に向き合う状況になってきたと思います」(脇坂さん)。東日本大震災を機に、都会に住む私たちにも、ようやく自分と農業との関わりが目に見えるようになってきたと言えるのではないだろうか。

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農家のこせがれネットワーク

そんな中で、私たち消費者ができることは被災地域の生産物をどんどん買って食べることだろう。脇坂さんが理事を務める「農家のこせがれネットワーク」でも東北や北関東の仲間をどうやって応援していくかを考え、実行している。同ネットワークでは、土曜朝市の「ヒルズマルシェ」や野菜の農家直送を行うポータルサイト「マイファーマー」など、消費者・生活者と農家をつなぐ活動を日頃から行っているが、それらを活用したアクションには大きな反響が寄せられている。現在もこの先も放射能汚染は農家にとって厳しい問題で、風評被害も大きなものがあるが、「ヒルズマルシェ」のフードマーケットの「いばらき市」では、茨城の農家からの朝摘み野菜を直送販売したところ、生活者の大きな支持があったという。「農家と生活者がちゃんとつながっていることによって、風評被害もカバーできると感じた」と脇坂さん。「マイファーマー」のネット販売で顔が見えなくても、出荷を自粛するとお客さんから『再開したらすぐに買いたい』という声が多く上がってきたという。脇坂さんは「間違いなかった。人と人がつながっていくことで、風評被害も乗り越えていくことができる。そこに特化して支援を続けたい」と、継続的に取り組んでいく方針を語った。

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発表者を交えたグループディスカッション

続いて、参加者のアイデア発表が行われた。「食と農」に関するテーマでは、6名がプレゼン。「被災地の農産物の購入」、「東北カフェ」、「顔晴れ東日本!〜まるかじり観光大使〜」、「元気宣言」など、被災地や風評被害の出ている地域の農産物を食べて応援したり、コミュニケーションの機会をつくることを狙いとしたアイデアが提案された。

「お金と経済」のテーマに関しては、5名がプレゼン。福島原発の被害から復興まで30年と見て継続的な支援を目指す「2041−ニーマルヨンイチ−」、女子高生が商品企画した高機能ノートへ寄付金を募り、被災地の子どもたちの学びを支援する「被災地の子ども支援・ノートプロジェクト」、たくさんの人が楽曲やイベントに参加し、その収益を寄付する「音楽・イベントによる支援」などは、継続的に寄付できる仕組みを模索するもの。外食時のお釣りを寄付する「つりはいらねえぜ作戦」は気持ちよく寄付できるなど、無理なく長期的に実施可能なところがメリットだ。

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2. 復興までの10年を支える息の長い活動を

2. 復興までの10年を支える息の長い活動を

Think the EarthのThink Dailyページ
Think the EarthのThink Dailyページ

2日目は、「物資と寄付」「ボランタリーコミュニケーション」がテーマ。ゲストは上田壮一さん(Think the Earthプロデューサー)。Think the Earthはクリエイティブやコミュニケーションというアプローチで、広く環境問題を知ってもらうきっかけをつくることを目的とするプロジェクトだ。上田さんは1995年の阪神・淡路大震災によって大きな被害を被った西宮市の出身。当時大手広告代理店の社員だった上田さんは、仲間と社内で古本市を行い、その売上げ140万円の寄付先をめぐって悩んだ経験をもつ。「苦労して集め思いが詰まった140万円が赤十字に寄付すると"大海に目薬"で、どこに配分されるかわからない。だから少額でも役に立つ「顔が見える支援」のために、被災地で活動するボランティアに会って、信頼できる3つ、4つの団体に寄付をした」(上田さん)。

上田壮一さん
上田壮一さん

確かに、赤十字への寄付では、そこで自己満足してしまって終わってしまいがちだ。「顔が見える」寄付はコミュニケーションが生まれる。するとまだまだ足りないことがわかって、また寄付をする。そこから人間関係が生まれ広がっていく。「大災害からの復興には、10年という長い歳月を要するが、支援する側もそこに付き合っていく」(上田さん)ことになるのだ。

そんなわけで、上田さんは1998年にフリーの映像ディレクターとなった当時から緊急災害時の支援情報サイトを開設している。大災害が発生するやいなや現地にあっという間に飛んでいく人たちを支援するために、この人たちにお金を届けてくださいと紹介するページだ。今回の東日本大震災でも、「発生の翌12日にすぐ活動を宣言した団体が7つあったので、それを紹介したらツイッターによってどんどん広まっていった」(上田さん)。ある大物ミュージシャンからも「オススメを教えてください」と問い合わせがあったという。その後もたくさんの電話、メールでの問い合わせが続いたため「東北関東大震災Think the Earth基金」をつくった。本来はそれぞれを調べて自分の思いとマッチする団体を選ぶのが望ましいが、それができない場合にこの基金に振り込めばThink the Earthが信頼する団体に割り振って寄付する仕組みだ。第1期は2週間で約2000万円を集め、7団体に250万円程度を3月31日に寄付したという。第4期まで継続して寄付を行う予定だ。

東北関東大震災Think the Earth基金ページ
東北関東大震災Think the Earth基金ページ

物資の提供や寄付などの支援について、ぜひ皆さんに考えてほしいこととして上田さんは次のように語る。「復興にはフェーズがあります。最初は救命・救急期。人命救助、食糧支援などで、これが2-3週間続く。次は避難所等にいる被災者の支援。物資を届ける。その後は瓦礫の撤去、仮設住宅の建設などの生活復興期。さらに自宅に戻るなど日常の生活に戻っていくという生活の再建期です。ここまでには10年くらいはかかります。そのフェーズに沿って、きめ細かくお金を渡していく必要があります」。

当初は気持ちが昂ぶって多くの寄付が集まるものの、時間が経ってメディアも報道しなくなれば、もう大丈夫だろうと思ってしまいがちだ。しかし、たとえば「10万円をまとめて寄付するのではなく、500円を3年間にわたって寄付するようなことをやってもらいたい」と言う。日常生活を取り戻していくのは、お金を持っている人たちから。最後まで取り残されるのは何もかも失ってしまった人だろう。「神戸では孤独死や餓死があった。それが2、3年後にまた起こる。これから活動を考えるなら、息の長い活動を考えてもらいたいですね。最初は私たちにできることはほとんどありません。しかし半年くらい経つと、音楽やアート、心のケアと徐々に普通の人でもできることが増えてきます。その頃、何ができるかを考えてもらえると嬉しいですね」。

Think the Earthプロジェクト

参加者のアイデア発表は9名が行った。「花や植物を被災地へ」は都内で花や植物を育て、苗を被災地に届けるもの。「本を被災地へ(図書館を作ろう)」は本を集め、被災地を回る移動図書館や学校などに寄付を計画「リフレクソロジー、マッサージ」は都内の避難所で癒しを提供する。このほか「災害ボランティア養成講座」は講座の開催とともに、週末などを利用して被災地のボランティアへの参加を目指す。「ピクニックでコミュニケーション」は現地で子どもと一緒に外で遊んだり、ピクニックで交流する場をつくろうというもの。

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3. 次々と生まれる多彩な被災地支援サイト

3. 次々と生まれる多彩な被災地支援サイト

兼松佳宏さん
兼松佳宏さん

3日目のテーマは「情報とコミュニケーション」。この4月から丸の内朝大学の環境学部の講師を務め、エコッツェリアWEBおよび丸の内地球環境新聞のプロデュースも手がける兼松佳宏さん(greenz.jp編集長)から、被災地支援プロジェクトを発信しているユニークなサイトが紹介された。 「Paper Cranes for Japan」は、世界中から10万羽の折鶴を集めて日本の人々を元気づけようというプロジェクト。

「仮り住まいの輪」は、不動産のネットワークで、空き物件を一定期間、無償で避難所暮らしの被災者に提供する物件情報サイト。「EX-CONTAINER PROJECT」は、海運コンテナの規格を流用して被災者のための住宅をつくろうというプロジェクト。

OLIVE PAPER vol,2 折りたたみ冊子版
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「OLIVE」は、被災地で役立つデザイン・アイデア・ノウハウを集めたデータベース。掲載されたアイデアは、印刷もされて被災地に届いている。デザイナーのツイッターでのつぶやきから広がり、NHKの番組でも紹介された。「Todoke!」は、被災地に届けたい支援物資アイデアを共有・署名して企業に働きかけるサイト。すでにスキーウェア700着を届けている。

「#smileat」は、震災後、飲食店に客足が途絶えたときに、ツイッターを活用して飲食店とお客さんをつなぎ、お店の活性化とお客さんの安心を生みだすプロジェクト。「できますゼッケン」は、阪神・淡路大震災の教訓を活かして避難所運営を円滑にするため、ボランティアの得意なことをゼッケンに記して被災者からの声をかかりやすくするもの。

デジタルメディア研究所の支援プロジェクトは、青森県八戸のレストランにコース料理を予約して5000円を振り込む。そのお金でレストランは地元の食材を仕入れ、地元の人に無償で食べてもらう。予約してくれたお客さんには、八戸が元のように復興したら、来店してもらい2500円のコース料理をたべてもらうという仕組みで、復興の応援を表明するプロジェクト。

「RQ市民災害救援センター」は、被災者救援のために、3月13日に発足した任意団体。NPO法人日本エコツーリズムセンターが中心となり、野外教育や自然体験活動で培ったスキルを活かして自主避難している小規模の避難所へ日々変わるニーズに応じた支援活動を行っている。

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内藤忍さん

続いて、マネー学部の講師を務める内藤忍さん(マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長)のゲストトークでは、まだいろいろな活動を自粛している人が少なくない現状に対して、「岩手の酒蔵が花見をして酒を飲んでと言っていましたが、全体主義になってみんなで何でも自粛というのはよくない。何をすればいいかをしっかり考えていくことが大事」と語りかけた。

「それと、サステナビリティ。半年くらいすると冷めてきて興味が薄くなってくることは避けられないので、ずっと続けられる仕組みを考えることが重要」とし、復興支援ファンドを立ち上げた。復興に資金が必要な人が企画を出してくる。それに賛同する人が1万円、あるいは2万円を拠出して、復興がなったら何か生産物を投資者に渡すといったものだ。たとえば、三陸の牡蠣は壊滅的な状況だが、1口1万円で1000口集まると牡蠣の養殖ができ、2〜3年で生育したら20個送るというような仕組み。

「普通、寄付をするとそれでお終いだけど、牡蠣が届くことでつながってくるわけです。養殖途中でも生育状況や何口集まったなどの発信ができてサステナブルだと思う」(内藤さん)。継続的な取り組みの鍵は、どうやら双方向につながっていることだ。一方通行では疲れてきたり、飽きてきたりするだろう。また、そこにうまくお金を絡めていくことも大事なのではないだろうか。「牡蠣20個で1万円は安くはないけれども、復興に関われていることの喜びが味わえるなら安い。どこに寄付すればいいかわからないのなら、いろんなところに出す。そうすれば、中にはサポートして良かったと思えるものもあるはずで、そういうふうにお金を回していってもらえればなと思います」(内藤さん)。

この日の参加者のプレゼンは8名。「NOT FORGET PROJECT」はいまの思いを忘れないように、手帳やカレンダーの半年後、1年後の日付に印をつけようという運動。「都会に泊まろう」は被災地の子どもたちに東京生活を体験してもらうもの。「くだサイト」は「教えてください」「これを使ってください」など自分たちのできることや要望に応える情報サイトの企画。「朝大ネットワーク×マスメディア×被災地東京事務所でアクション」は朝大ネットワークとマスコミを活用し、風評被害払拭のための情報発信とアクションを行う。

「シェアスマイル〜写真でココロの復興を〜」は写真クラスから生まれた。笑顔になれる写真を共有することで、被災地のみなさんと私たち自身も含めた日本中のココロの復興を応援していく中長期的なプロジェクト。3月21日にはシェアスマイルのサイトもオープンしている。「311TIMES」は大震災に関するさまざまな事象や問題について(少なくとも)311回にわたって話し合い、できることを考え実践していくアイデアだ。

また、マネー学部講師の内藤さんからは、7月24日に大手町のサンケイビルで開催される「出逢いの大学カンファレンス」の紹介があった。『出逢いの大学』著者の千葉智之さんを中心にビジネス書作家が集まってチャリティー講演会等を開催し、収益を義援金にあてる。

(株)日比谷花壇からは「花や植物を被災地へ」の提案があった。花や植物を育てる喜びを感じてもらい、心の癒しと土地の浄化を試みる。首都圏で育てた苗を東北に届ければ、被災地との交流も図れるというアイデアで、癒しと土地の浄化、交流など、一石三鳥にも四鳥にもなりそうで、今後の展開に注目したい。

古田秘馬さん
古田秘馬さん

最後に、[[丸の内朝大学]]の企画を行っている古田秘馬さん(株式会社umari代表取締役)に話をうかがった。これを開催するにあたっては、「実施することがいいのか、正解か何かもわからなかった。何か成果を形にしなければ意味がないという意見もあったし、正直わからないまま動いた」という。ただ、みんな何か話したいと思っていることだけは確かであったため、「まずはみんなが集まって話し合える場を提供することが、丸の内朝大学がすべきことではないかと考えたわけです」。まずは場を提供する。しかし「ゴールは設定できないし、しなくてもいい」と言う。今回の震災ではそういうロジックでは動き出せないのではないかと考えているようだ。「どんなものかはわからないけれども、動いてみることが大事だし、そんな場があってもいいんじゃないか」(古田さん)。

「要は、それぞれが抱える思いを、自分がやるかやらないか」。一人ひとりがいまやるべきことを日々、変化する状況の中で判断してやっていく。そのために、丸の内朝大学やそのネットワークをいかに使っていくのか、参加者たちはここから新しい動きが生まれてきそうな予感に気持ちを昂ぶらせて、それぞれ仕事に向かっていった。

丸の内朝大学

編集部から

東日本大震災は、東北・北関東を中心に甚大な被害がもたらされたのみならず、東京でも日常生活に不自由をもたらした。これによって、これまでの災害では経験したことがない感情が生じ、いまでもうまく収めることができないでいる。そんな違和感に突き動かされて、何らかの行動を起こした人も少なくないだろう。一日も早い復興を願うのはもちろんだが、ただ願うだけでなく、一人ひとりが当事者として意見を表明し、行動を起こすような社会をつくっていければと思う。

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