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3. エリアマネジメントに欠かせない「戦略的な資金調達」と「経営的視点」

都市コミュニティが進める低炭素型まちづくり(小林重敬氏、鎌田秀一氏、小松俊昭氏)

3. エリアマネジメントに欠かせない「戦略的な資金調達」と「経営的視点」

都市コミュニティを発展させる担い手として[[エリアマネジメント]]団体や地域プロデューサーに期待が寄せられている一方で、運営や設備投資にかかる財源の確保が大きな課題となっている。しかし、変化の兆しはある。

エリアマネジメント団体や地域プロデューサーなどが持続的に活動していくための財源をいかに確保するかが、まちづくりに共通した課題です。

小林: 近年、社会投資ファンドのように利潤を追求するだけではなく新しい社会動向に合わせて志ある資金を獲得していく仕組みも登場していますが、現実的にはそれだけでは難しいのが現状です。一定のリスクはあるけれどリターンもあるという形で、低炭素型のまちづくりに取り組む組織へファンドがうまく資金を流してくれるような仕組みが必要です。

たとえば、千代田区にある「ちよだプラットフォームスクウェア」では、中小事業者が力を合わせて社会投資ファンドに似た事業を展開しています。その資金集めの手法が興味深いもので、最初に個人や企業などから1億数千万を集め、そこへ日本政策投資銀行がさらに1億円を出資したところ、ほかの地銀が無審査で融資してくれて、結局合計で3億円を超えたそうです。初めから3億円出してほしいと言われたらひるんでしまいますが、日本政策投資銀行が出したお金がシードマネーとなってとんとん拍子に進んだわけです。こうした戦略的な段取りが、社会的な活動に関する資金を集める上で有効です。

ちよだプラットフォームスクウェア

小松さん

小松: コアになるステークホルダーがシードマネーを拠出すると寄付が増えるきっかけになる好例ですね。全体の規模が広がれば個人のスマートな資金が入ってくる機会も増すので、結果として「顔の見える寄付」を質的に補完する働きがあると思います。たとえば、石川県の「のと共栄信用金庫」が近年金利上乗せ定期預金として行った森づくりファンドは、昨年の4月から約4ヵ月間で総額230億円を販売しました。社会のため、環境のために何かしたいという意識を持っている人が多いことの証であり、潜在的にはどの地域にもあるのではないでしょうか。

のと共栄信用金庫 森づくりファンド「やまもり」

もう一つ忘れてはならないのが、4年ほど前に信託法が改正されて、信託銀行にしか認められていなかった信託行為を、一般のまちづくり会社やエリアマネジメント団体など免許を持たない主体もできる民事信託が認められたことです。あわせて信託銀行法も改正され、一般の地銀なども扱えるようになりました。日本の信託制度は歴史的に不動産投信(REIT)などの商事信託の分野が優先されてきましたが、不動産を商売の道具としてだけとらえるのではなく、地域の人たちが寄付的な考え方に立ってエリアマネジメント団体などに担わせる動きが盛んになっていくでしょう。こうした民事信託に関する知識やノウハウを加味していけば、ガイドラインをいろいろな地域へネットワーク化して広げていく上で有効な切り口になると思います。実は、この考え方も大規模災害に遭われた人々が自分の故郷を離れて故郷の復旧や復興を待つ際に、従来のコミュニティを維持する仕組みとしても注目しています。受け入れ地域側の人々の支援の気持ちにも馴染むと思います。

(社)信託協会 「信託法の改正」

小林さん

小林: はい。BIDはもともとカナダで始まった仕組みで、特定エリア内に不動産を所有する人への固定資産税に一定額を上乗せして、その資金をエリア内でBID活動に取り組む団体に配分する制度です。カナダとアメリカでは千数百のBID団体が活動しています。日本でもエリアマネジメント活動が浸透しつつあるだけに、BIDのような仕組みが必要な時期に来ています。ただし、BIDは法律に基づいて厳格に運用されていて、BID団体には出資に対してどれだけ成果が上がったかを報告する義務があり、その結果を審査・監査する仕組みになっています。日本のエリアマネジメント団体やNPOで、そこまでの制度に対応できるところはほとんどありません。

では、どうすれば自治体がもっとお金を投資するようになるでしょうか。エリアマネジメント団体への支援が結果として投資になるということをはっきりと示すことができればよいと思います。たとえば、空き家や空き地を有効活用するとかコミュニティに新しい場を形成するといった活動を続けることで、新規住民を呼び込むことにもつながり、将来的な税収の増加など計算すれば支援した額の数倍の価値があると想定されます。もちろんそのための説得材料が必要になりますが。

鎌田: 自治体の例をお話ししますと、香川県高松市の高松丸亀町における市街地再開発事業では、商店街のにぎわいを取り戻すため、地元の金融機関や投資家、都市再生ファンド投資法人などが出資して保留床取得会社を設立しました。地域での投資が地域内で循環する枠組みを構築する試みです。このようにエリアに関する施策に「経営」の視点が加わることで、担い手にもお金が回るようになるのではないでしょうか。

小松: 地域のためにがんばっている団体やプロデューサーなどの活動が、社会に浸透していないことも理由の一つです。たとえばガイドライン項目を評価指標に用いたりミシュラン的な格付けを行ったりして、よいことを行っている主体へ一定のインセンティブを付与するなどとともに、市民への情報発信に力を入れることが必要です。また、彼らの活動が持続可能になるよう資金が回っていく仕組みも不可欠ですね。

小林重敬

小林重敬(こばやし・しげのり)

東京都市大学教授(工学博士)、NPO法人大丸有エリアマネジメント協会理事長。横浜国立大学大学院教授、日本女子大学講師、学習院大学講師、規制改革委員会参与、参議院国土交通委員会客員研究員などを歴任。エリアマネジメントを中心に大都市と地方の中心市街地の再生、活性化活動などに取り組み、ほぼ四半紀にわたり大丸有のまちづくりに携わっている。著書に、『エリアマネジメント』『条例による総合的まちづくり』『都市計画はどう変わるか』(以上、学芸出版社)など。東京都出身。

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鎌田秀一(かまた・しゅういち)

国土交通省 都市・地域整備局都市計画課企画専門官。宮崎市都市整備部長、国土交通省都市・地域整備局街路課課長補佐、都市再生推進室課長補佐、新潟市都市整備局長などを経て現職に。「低炭素都市づくりガイドライン」の作成に携わり、国内外で低炭素都市づくりの普及に努めている。東京都出身。

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小松俊昭(こまつ・としあき)

金沢工業大学研究支援機構 産学連携室コーディネーター、合同会社「家守公室」代表。日本開発銀行ならびに日本政策投資銀行でロス勤務、地方開発部、交通・生活部、北陸支店勤務などを歴任した後、金沢工業大学へ出向。2006年に日本政策投資銀行を退職して現職に。地域の歴史や文化に根付いた、地域資源を生かす「地域資源活用型産学連携」プロジェクトの実現を目指して、さまざまな活動を展開している。大丸有[[「都市の食」ビジョン]]検討会座長。埼玉県出身。
http://www.llc-yamori.jp/index.html