生物多様性を保全しつつ、人と自然との共生を図っていくためには、その土地の自然と生態系を十分に知った上で開発を行う必要がある。大成建設の「エコロジカルプランニング」は、その代表的な手法だ。同社は、2010年9月に制定した「生物多様性宣言」に基づき、各地の建設現場などで生物多様性の維持に取り組んでいる。
大成建設は、総合建設会社としてインフラ施設やオフィスビルなど数多くのプロジェクトを手がける中で、自然から学び、活かす取り組みを積極的に行ってきた。それと同時に、自然環境を劣化させないようにする手法を1990年代から模索してきた。その答えの一つがエコロジカルプランニングであり、2001年に竣工した北海道にある日本最北の全天候型ドーム「札幌ドーム」の計画、施工で、成果が実を結んだ。
「エコロジカルプランニングは、生態系の原点とも言える『水』、地域の生活の歴史とともにはぐくまれてきた植生などの『緑』、四季折々に吹く『風』、そして『人』という4つの要素について深く知ることで、地域の自然と暮らしの有様を読み解き、魅力を高め、いきいきとした社会とその未来をつくり出す計画技術です。札幌ドームの建設計画では特に『緑』とそこに生息する生物についての環境設計技術が求められました。」(大成建設環境本部)。
広さ31haもの農業試験場跡地に建設された札幌ドームは、周辺に広がる広大な緑地との連続性を維持するように開発された。この緑地では水辺の創出を視野に入れた設計・施工が実施され、竣工後も維持管理・運営に力を注いだ結果、建設前に比べて倍以上の生きものが息づく環境が生まれた。完成から10年以上経った現在、90種を超える鳥や虫が飛来しているというから驚きだ。
エコロジカルプランニングは、名古屋市の「ノリタケの森」などその後のプロジェクトに次々に採用され、市街地における大規模開発計画の環境設計へと発展しつつある。2010年2月に竣工した静岡県富士宮市の富士山南陵工業団地も、エコロジカルプランニングを導入して生物多様性の保全に取り組んだ事例の一つだ。
富士山南陵の自然と豊富な伏流水に恵まれた同地での開発に当たり、大成建設は環境に配慮した最新技術を惜しみなく投じた。掘削した表土を造成後に使用するとともに、樹木間競争を誘導し強い森をつくる「自然配植緑地技術」を適用することで、地域にもとからあったであろう自然植生の再生を図った。その他、水路に落ちた小動物を救出する脱出用のスロープを設置する等、工事区域内に生息する希少な動植物の保全にも力を入れた。今までにない試みとして注目すべきは、工事完了後10年をかけて森をつくるという「富士山南陵の森 フォレストセイバー・プロジェクト」だ。地域の環境NPOを核として、富士宮市、事業者、研究者、進出企業が協力して植林や環境教育に取り組むという、新しい森へのアプローチであり、環境時代に相応しい開発のかたちとして期待される
大成建設は、エコロジカルプランニングに代表される環境活動をいっそう深めていくために、2012年5月、環境省に対して環境保全の取り組みを実施することを宣言して「エコファースト企業」としての認定を受けた。同社では認定を機に、建設事業を通じて生物多様性に貢献する技術や取り組みをさらに推進する。また、施工現場における環境負荷低減への意識を高めるために、「生き物と建設工事」を全作業所に配布するなど社内教育にも熱心だ。今後は、自治体やNPOと連携して樹上動物の保護や緑地保全、環境関連の体験プログラムなどを実施するという。