丸の内鍛冶橋駐車場に置かれた急速充電器
コンセントによる充電
東京電力技術開発研究所の石川尚博主管研究員
タクシー料金は現在、規制で自由に決められない。また利用者が[[電気自動車]](EV)を見つけやすい乗り場、EV優先の道路利用など、エコなクルマを優遇する仕組みはまだ社会の中にない。「ユーザー、行政など、多くの皆さんと相談し、EVタクシーの未来を考えたい。エコと利便性をともに満たす形は必ずあるはずです」と富田さんは期待する。
ゼロタクシーの挑戦を聞くと、EVの普及のためには、それを支える新しいインフラが不可欠であることが見えてきた。その一つはEV向けの充電器を増やすことだろう。
東京電力は大丸有協議会などと協力して、09年までに大丸有地区にEV用の充電設備を8台、急速充電器を1台設置し、実証実験を行った。東京電力や地域の企業のEVに使ってもらったところ、EVの目新しさに加えて、「電池切れ」への不安が消えて好評だったという。「充電する場所の広がりによって、EVの性能は引き出しやすくなります」と、東京電力技術開発研究所の石川尚博主管研究員は話す。石川さんはEVの充電インフラに関する研究に取り組んでいる。
東京電力は現在300台程度のEVを運用しており、企業の保有数ではおそらく日本でもっとも多い。同社は保有車両約8,000台のうち、軽車両の3,000台をEVに段階的に転換する計画を06年に打ち出した。そして環境によい電気の新しい使われ方を提案している。
電気自動車が増えすぎると発電設備や配電設備を増強しなければならないのではと心配する声もあるが、EVは主に自宅のコンセントで夜に充電されるため、需要が増えるのはほとんどが夜間の電力であると予想している。
同社は各都市に置かれた支社ごとにEVを運用する。EVは120キロ程度走れるために、電気切れの可能性はあまりないはずだ。しかし導入を始めた06年ごろは、電気残量が7?8割程度でも充電できる支社に戻ってしまう社員が多かったという。電気切れを心配したためだ。
そこで同社は各支社の管内に、分散するように複数の急速充電設備を置いた。すると社員は電池気残量が半分以下になってから帰社するようになったという。しかし追加して置いた充電器は、それほど使われていなかった。カギは「安心感」。それでEVの使われ方が変わったのだ。「EVの普及では、クルマの性能の向上だけではなく、インフラ、特に短時間で充電できる急速充電器をどのように整備するかを考えなければなりません」と、東京電力の石川さんは経験から指摘した。
「チャデモ」のロゴマーク
急速充電器が関心を集めている。EVはその蓄電池がカラの場合、家庭向けコンセントなら充電に7?8時間程度かかるが、急速充電器であれば30分程度でほぼいっぱいにできる。現在の急速充電器は全国に300台ほどだが、東京電力では政府の補助金制度や、充電サービスのビジネス化をすることで増やそうとしている。
急速充電器では日本企業が技術力で世界をリードする。東京電力は自動車メーカーなどと協力してその日本規格を世界に普及させようとしている。その名前は「チャデモ」(CHAdeMO)という。「CHArge de MOve = 動く、進むためのチャージ」、「de = 電気」、また「クルマの充電中にお茶でも」の3つの意味を含んで名付けた商標だ。これは効率性と充電スピードで世界最高水準の方式という。
東京電力などの企業連合は、広く世界に使ってもらいたいとの意図から技術情報を会員に対して無料で提供している。この方式は現在、欧米でも採用される方向だ。「使いやすい充電器を、数多く、そして安く普及させたい。大丸有のような人や情報、そして企業が世界から集まる場所にも充電器を増やし、多くの人に知ってもらいたい」と、石川さんは期待する。
エンジン車はガソリンなど可燃物を燃料とするため、その供給にはガソリンスタンドのように安全性を確保した特別な場所が必要になる。EVの場合には、急速充電器があれば駐車場で充電が行えるメリットがある。建物、そしてクルマが集中する都市ではEVの普及に備えて、「充電のあり方」を今から考える必要があるだろう。
電気自動車(EV)の関係者が注目する実験が行われた。経済産業省がKDDIに委託した「大規模駐車場におけるスマート充電システム実証事業」という実験で、09年10月から10年3月まで行われた。これは複数のEVを一度に充電するための、データ、課題を集めるためのものだ。KDDIは、東京電力の協力も得ながら、ソフトウェア開発会社、メーカーなどに呼び掛けて実験をした。