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都市再生とそれを支える5つのキーワード(安昌寿氏)

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1. 大臣や幹部、有識者との連携で組みあがった成長戦略

国土交通省の成長戦略会議(座長:長谷川閑史氏)は、2010年5月に、策定した「成長戦略」を国土交通大臣へ報告した。この中の住宅・都市分科会では、2009年度後半より十数回にわたり委員会を開き、これからの住宅・都市分野の成長戦略について議論を重ねてきた。生活の基盤である住宅・都市分野において、今後、どのような政策が実施されることになるのか??。成長戦略会議の委員であり、当住宅・都市分科会で座長を務めた安昌寿氏を招き、成長戦略の概略について語っていただいた。
(於:エコッツェリア協会理事会特別講演会(2010年5月開催))

国土交通省 成長戦略会議
参考:新成長戦略(平成22年6月18日閣議決定)

1. 大臣や幹部、有識者との連携で組みあがった成長戦略

住宅・都市分科会の座長を務めることとなり、住宅・都市分野に関する事項について、2010年1月に、会議において問題提起をさせていただきました。
次に、問題提起に関連してできるだけ幅広い意見を集めようと、さまざまな有識者や専門家の方々からご意見を頂戴することにしました。そこでは、大都市の都市再生問題、高齢者問題や公共施設の管理、公民連携、歴史的市街地の維持などさまざまな重要課題について貴重な示唆をいただき、十数回の委員会での議論を経て、徐々に成長戦略としてかたちにしていきました。さらにここ数カ月間は、前原誠司国土交通大臣や国土交通省の幹部の方々とも議論を重ね、民主党政権が掲げる国土交通政策について理解を深めるとともに、大臣はじめ政務官、官庁、関連業界が連携し、成長戦略案を進展させることができたのは大きな成果だったと思います。
また、分科会の外でも、竹中平蔵氏や孫正義氏、大前研一氏等の有識者からもご意見を頂戴することができました。また個人的には、エコッツェリア協会(大丸有環境共生型まちづくり推進協会)の理事長を務めておられる伊藤滋先生のもとへは何度も足を運び、頂戴した数々のご意見に共感するとともに、重く受け止めさせていただきました。

さて、実際に成長戦略に関する問題提起として当初掲げたキーワードは、以下の5つです。

GLOBAL BRANDING
ONE STOP
PUBLIC PRAIVATE PARTNERSHIP
QUALITY OF LIFE
TOLERANCE

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今回、国交省の成長戦略分野として、まず海洋・空港・観光・国際という4つのテーマが取り上げられ、追って住宅・都市分野が加わり5つのテーマとなりました。
これらの分野が選ばれた背景には、海外、特に近隣諸国との関係を強く意識するという思いがあったのではないかと思います。前原大臣は大学卒業後すぐに松下政経塾に入塾され、松下幸之助氏を大変尊敬しておられるとお聞きしましたが、松下氏は昭和30年代から、もはや日本はものづくりではなく、観光立国となるべきだという先駆的な考えをおもちだったようです。そうしたこともあってか、今回のすべての会議に出席された前原大臣が、ツーリズムに強い思いを抱いていらっしゃる様子が感じられたと同時に、【GLOBAL BRANDING】のため、大都市市街地がその中心的な役割を担っていかなければならないという私どもの提言案について、すぐにご理解・ご共感いただき、さまざまな点から強化していくという方針を固めることができました。

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2. 成長を支えるインフラ・制度にも力点を置く

2. 成長を支えるインフラ・制度にも力点を置く

そうしたなかで早期実現を目指す課題として、「大都市の国際競争力強化に向けて、国家戦略プロジェクトによる都市の再構築とそれを実現するための官民連携による"ワンストップ型"の体制を確立するため、都市再生特別措置法の前倒し延長・拡充や大都市圏戦略の策定を行う」という文言を織り込めたことは、大きな成果だと思います。これは、【ONE STOP】=ワンストップサービスの実施による事業進捗の円滑化を目指すもので、国、そして東京都や大阪府など大都市を抱える自治体との話し合いを円滑に進めることを前提にしたものです。
また、都市の国際競争力を高めるために、容積率などの都市計画制限をはじめとした各種規制緩和や、外国企業に対する税制優遇など、各種税制減免を行う国際競争拠点特区(仮称)を設定する、あるいは地権者間の調整や土地を集約して大型化するための支援をするといった文言を織り込むなど、都市再生に関連する項目については、大変踏み込んだ内容になっています。そして、これらの政策を早期に実現するために、官民連携にしろ、省庁間の連携にしろ、やはり「ワンストップサービス」というのが重要なキーワードであるとしてたびたび強調されてきました。

次に挙げる「PPP*」=【PUBLIC PRAIVATE PARTNERSHIP】も重要なキーワードの一つです。これは、多様な官民連携主体による、地域の自発的な広域的地域戦略の提案と、その推進を促すための仕組みを、法制度も含めて構築しようというもので、具体的には、広域的・府省横断的な政策課題に関する地域戦略の提案を募集し、一定の要件を満たす提案主体を国が認定したうえで、認定主体に対して国が準行政的権限を付与するというものです。つまり、官民協働による「新しい公共」に即したNPOなどの主体の活動環境を整え、まちづくりを推進していこうというのが狙いです。その先進的な取り組みを行っている地域として、大丸有地区の事例も書き込みました。

* 大丸有におけるPPPの例

さらに経済成長に寄与するキーワードとして挙げたのが、【QUALITY OF LIFE】です。QUALITY OF LIFEの実現のためには、少子高齢化時代において、とりわけ高齢者の将来不安をいかに取り除いていくか、が大きな課題となっています。高齢者対策については、大都市の国際競争力強化と並んで優先的に実施すべき事項として掲げられており、急増する高齢者の「安心」で「自立可能」な住まいを都心で確保すべく、コンパクトシティの実現や公的団地の再生、公共施設の民間的な有効利用などを推進することを目指しています。

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優先的に実施すべき事項としては、もう一つ、「チャレンジ25の実現に向けた環境に優しい住宅・建築物の整備」を挙げました。住宅エコポイントなど国民に対する省エネ化へのインセンティブの充実や省エネ化に向けた規制の強化などにより、チャレンジ25を実現させようというものですが、たとえば、容積率の緩和というインセンティブと環境配慮を直結させることにより、環境配慮型の投資を促進させたいという側面もあります。環境に優しい住宅・建築物の整備というのは、巨大な投資が見込まれる分野だけに、経済効果のうえでも非常に大きな期待が寄せられています。

ちなみに、本会議には東京大学の坂村健先生もメンバーとして関わっておられ、ICT(情報通信技術)の急激な普及により、これらの課題を実現に導くという点を強調されておられましたが、おっしゃるように今後ますますICTが果たす役割は非常に大きなものがあると思います。

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3. 専門家を巻き込んだ議論、民間のプロジェクト提案に期待

3. 専門家を巻き込んだ議論、民間のプロジェクト提案に期待

最後のキーワードが【TOLERANCE】です。トロント大学の教授で都市社会学者のリチャード・フロリダ氏は、グローバルシティの要件として、人材と技術と寛容(TOLERANCE)の三つを挙げていますが、国土整備の「選択と集中」を進めるうえでは、企業家のさまざまなチャレンジに対する「寛容」な精神(規制緩和等)が必要であり、それが都市の発展に寄与する重要な要素だと考えています。

成長戦略の策定に関わり、まだまだ議論が十分ではないと感じている部分があります。たとえば、議論の対象が大都市だけでいいのか、地方都市はどうするのか、といったご意見もいただきました。高齢者や環境への対応など、大都市に限らない課題について提示できたことは大きな成果です。一方で、地方の場合、どこから原資をもってくるのかなど、具体案を書くことができなかったのは反省すべき点といえます。もちろん高齢者の問題であれば厚労省などの予算の一部を住宅・都市分野に充当することも可能かもしれませんが、民間の資金の流れについては十分に踏み込んだ議論まではできませんでした。

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また、総花的で具体性に欠けるのではというご意見も頂戴しています。これについては、成長戦略に記述されたことについてはすべて実行することを前提に吟味した内容であり、大臣と国交省の幹部の方々、我々の間で具体的な事例を念頭に詰めて議論してきましたので、ご期待いただければと思います。もっとも、つまみ食い的な内容も多々ありますので、今後、都市計画の専門家などとより深い議論がなされる必要は大いにあると思います。

また、成長戦略に書かれていることを具体的に動かすためには、民間側からのさまざまなプロジェクト提案が必須です。すなわち民間の発意ありきの内容となっていますので、具体的なプロジェクトの早急な立ち上げに大いに期待したいと思います。すでに博多港の再開発や東京羽田の国際空港化関連プロジェクトなど、具体的な計画も浮上していますので、期待したいと思います。


なお当日は、安昌寿氏のご講演後、理事長の伊藤滋氏も登壇し、出席された小林重敬氏(東京都市大学)、角洋一氏(鹿島建設)、小櫃秀夫氏(大林組)、鎌倉賢司氏(東京電力)、長島俊夫氏(大丸有協議会)といった方々と、成長戦略や都市再生に関して活発な意見交換がなされた。
安氏が指摘する通り、これからますます専門家を巻き込んだ深い議論や、民間のプロジェクト提案・実施が進むことが期待される。その中で、大丸有として取り組むべきプロジェクトについては、成長戦略の視点を取り込んで、さまざまなステークホルダーによる議論や取り組みを深度化させていく必要があるだろう。

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