シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

狩蜂の観察では、クセ(生態)を知るのがコツ

"無くて七癖"などと言いますが、それは人間だけではなく、昆虫たちも同じです。狩蜂の癖(生態)を知ると、彼らの驚くべき行動が観察できます。

狩蜂の化粧行動

私には緊張すると頭を掻く癖あります。これをすることで落ち着いた気持ちになれます。
狩蜂が一番緊張するのは狩り(hunting)でしょう。彼らは、獲物を狩った後は入念に「化粧行動」をして気持ちを落ち着かせます。化粧行動の基本は触角の手入れ。前脚の触角ブラシ(図参照。少し凹んだ箇所)を舌でキレイにしてから、ここに触角を挟み込んで手入れします。時代劇で、刀を拭う場面を見ますが、あれと同じです。
狩りで興奮したあとは、まず化粧行動で気持ちを整理してから、巣へ運び込んで産卵するという段取りです。

北の丸公園の狩蜂観察例 -1

北の丸公園の科学技術館近くで、とある石の上で"オオシロフクモバチ"がしつこく化粧行動をしているのに遭遇しました。「これは!」と思い、近くを探すと、60cmほど離れた別の石の上にクモがいます。10分ほどで蜂はクモのところに飛んでいき、第一脚の根元をくわえて引きずっていきます。1mほど進むと、草の上にクモを引き上げ、ゆすって蜘蛛が落ちないことを確認します。そして、少し先の露出した地面に穴を掘り始めました。

大顎で土を砕き、前脚で後ろにかき出す。穴が深くなると大顎と前脚で土を挟み込みかかえて運び出す。実は北の丸公園で"オオシロフクモバチ"を見るのはこの時が初めて、最後まで見届けたかったのですが用事があったため、ここで観察を終えました。それほど珍しい蜂ではないので、またの機会にとも思っていました。ところが、それから4年の間、この蜂を見ることはありませんでした。

北の丸公園の狩蜂観察例-2

再び出会ったのは昨年(2011)、さえずり館の狩蜂観察会の下見で訪れたときです。蜂を探して歩いていると、花壇の囲い石の影から"オオシロフクモバチ"が飛び出しました。いったん逃げたのにすぐ帰ってきます。近づいて確認しようとすると、逃げますが、すぐに戻ってきます。離れてようすをうかがうと、最初に飛び出したあたりに降り立ちました。静かに近づくと、穴に入った蜂が蜘蛛を引きずり込むところです。
6分ほどして穴から出てきた蜂は穴を埋め始めました。

さて狩蜂観察のコツですが、長時間化粧行動をしている蜂、あるいは立ち去りがたいようすの蜂を見つけたら、みなさんも注意して観察してみましょう。
彼女たち(狩りをする蜂は全て雌)のすぐ近くに、獲物や巣がある可能性が高いですから、がんばって待っていれば面白い場面が観察できるかも知れません。

田仲 義弘
田仲 義弘(たなか よしひろ)

1953年東京都江東区生まれ。昆虫写真家、サイエンスライター。NPO法人 自然観察大学講師。
著書に、『昆虫たちは天才だ』(祥伝社)、『チョウのフェロモン、キリンの快楽』(講談社プラスアルファ文庫) 、『校庭の昆虫』(全国農村教育協会)等。 今年(2012年)9月、40年間撮りためた狩蜂の写真をふんだんに掲載した『狩蜂生態図鑑』(全国農村教育協会)を出版。
空中で獲物に針を刺す瞬間や、針で獲物を運ぶシーンなど、迫力満点の興味深い生態写真が満載で、狩蜂の多彩な行動と生態がわかります。
NPO法人 自然観察大学
『狩蜂生態図鑑』(全国農村教育協会)

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