シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

植物から見えてくるもの

子どもの頃は、園芸用のタネを買ってきて、草花を庭のプランターに植えて育てるのが好きでした。でも、最近はせっかく植えたものも、ついついほったらかしになり、気づくと枯れてしまうことも多くなりましたが。植物との付き合い方も、私の中では少しずつ変わっていきました。自然の植物に興味を持って、まじめに見るようになったのは、グリーンセイバーや森林インストラクターの資格の勉強を始めた頃でしょうか、知れば知るほど、植物や自然のことを知るのが楽しくなりました。

はじめは、知らなかった草や木の名前を教えてもらったり、種類を調べたりして新しく覚えることが楽しいものでした。その次のマイ・ブームは、植物がどんな戦略というか、工夫をして生きているか、ということでした。
花粉を運んでもらう虫を呼ぶために、花がさまざまな形に変化したり(写真①、写真②、写真③)、

子孫を残すタネは、風や他の生き物の力を借りて遠くへ運ばれるために、形や色に工夫をしていること(写真④)・・・挙げたらきりがありませんが、「なるほどなぁ」とその知恵に驚くばかり。進化の過程の中で、そうやって変わってきたものが結果的に生き残って今に至る・・その気の遠くなる試行錯誤の時間と、完成度の高い造形を目の当たりにするたびに、自然への尊敬の念を抱かずにはおられませんでした。人の手ではどうしたってできない、植物のカタチ。時間をかけてつくられたものは本当に尊いのです。

こうした生き残る工夫が見事に実を結んだものが、ある環境に特徴的に見られる植物たちなのです。都会のちょっとした空き地を見てみましょう。今ならセイヨウタンポポ、メヒシバ、オオバコ、ヒメジョオンなどが見られるでしょうか。雑草と呼ばれてしまうこれらの植物は、過酷で変化の大きい都会の環境でも、タネをたくさん生産します。受粉しなくてもタネを作る能力を持つものもいます。水田に行ってみましょう。コナギやオモダカ、アゼナの仲間などに出会うでしょう。これらは、水田のような変化の激しい環境や、湿地で土の中の酸素が少ない環境でも平気です。

(写真⑤)海岸はどうでしょうか。砂が飛んできても葉や茎が痛まないよう、潮風や乾燥にも耐えられるよう、丈夫な葉や茎をもったハマボッス、イソギク、ツルナ、浜にはハマヒルガオが見られたりします。(写真⑥)栄養に乏しく、気温も低く、乾燥も激しい高山では、チングルマやコマクサ、オンタデといった高山植物とよばれる植物群と出会えます。(写真⑦、写真⑧)

今の私の植物ウォッチングのブームは、このように、環境によってどんな植物が生えているか、ということです。上に挙げたのはほんの一例。土質や水分、日当たり、気温・・・環境の微妙でさまざまな条件が、そこで生きていける植物を決めているのです。これも長い時間をかけた賜物。逆に、見られる植物から、乾燥しているとか、日当たりが悪いとか、雪が多い場所とか、環境の特徴が見えてきます。これもクイズみたいで楽しい発見です。

植物が好きなみなさんも、いろいろな視点から興味を持たれていると思います。どんな興味にも寄り添うことができるように、私自身も、これからも興味の視点が変化していくと思います。こんなに楽しめる世界があることを知るだけでも、人生、ちょっと得した気持ちになりません?

中西 由美子
中西 由美子(なかにし ゆみこ)

グリーンセイバーマスター・森林インストラクター。つい最近まで会社勤めをしていましたが、フリーの身分に転身。NPO法人樹木・環境ネットワーク協会で非常勤勤務をしながら、自由な時間をたくさん持てるようになるはずが、相変わらず何だか仕事に追われています。自然観察会や講座の講師、植物調査なども楽しくやっていますが、企画や運営も最近面白いです。
NPO法人樹木・環境ネットワーク協会
森林インストラクター東京会(FIT)

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