シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

善福寺公園の自然と野鳥

善福寺公園は、東京都杉並区の北西に位置する善福寺池を中心とした都立公園である。

戦前、この善福寺池の近くに、2014年3月で創設80周年を迎える"公益財団法人 日本野鳥の会"創設者の中西悟堂が住んでいた。その善福寺池周辺で野鳥観察をしていた中西悟堂は、野鳥保護への重要性を説き、日本野鳥の会の創設に至った。ここ善福寺公園は、日本野鳥の会の発祥の地といっても過言ではないだろう。

1961年6月に開園した善福寺公園は、78,622m2もの面積を保有し、今では杉並区民のオアシスとなっている。道路を挟んで二つの池があり、ボートの浮かぶ上池には、クヌギやコナラなどの雑木林が伺え、武蔵野の面影を残している。そして、ヨシやマコモが繁茂する下池には、サラク、メタセコイア、ラクウショウなどの大木も見られる。

1月、ハクセキレイが凍った池の上を、スケートのように滑りながら歩いている。2月、早くもシジュウカラが「ツツピー、ツツピー」と、さえずり始め、春を感じさせる。
3月、冬越しした多くのオナガガモの数は、日に日に減っていく。4月、ヒヨドリが花蜜を食するため、桜に集まる。

5月、渡り途中のセンダイムシクイのさえずりが、木々の間から聞こえる。下池ではカルガモやバンが繁殖し、スイレンの花の間を泳ぎ回る幼鳥の姿を見かける。

6月、池の上空をツバメが飛び交っている。7月、巣立ったばかりのシジュウカラの幼鳥が、親鳥と一緒に行動している。8月、アブラゼミやミンミンゼミの鳴き声が、公園内にとどろき、ギンヤンマやコシアキトンボは、池の上を舞う。

9月、春、繁殖のため北国へと渡ったオナガガモが、早くも戻ってくる。10月、コガモも姿を現す。11月、冬鳥のツグミやジョウビタキの姿を見かける。12月、下池のヨシの中から、ウグイスの「ジャ、ジャ」やアオジの「チッ、チッ」などの、地鳴きが聞こえる。

私は、1980年より善福寺公園で野鳥を観察している。当時の野鳥事情と現在を比較すると、明らかに鳥の種類が増えている。その主な鳥は、カワウ、アオサギ、アオゲラ、コゲラ、エナガである。

当時、カワウは上野の不忍池の周辺が生息場所で、善福寺公園の池にはいなかった。同じくアオサギもいなかった。今では両種とも普通に見られる野鳥となっている。とくに、アオゲラ、コゲラ、エナガなどは、高尾山のような山へ行かないと観察できなかったが、今では普通に見られる。驚くことに、コゲラ、エナガは公園内で繁殖している。

野鳥観察を始めると、どうしても見たことのない鳥を数多く見たくなるものだ。わざわざ遠くまで出掛け、普段目にすることのできない鳥を探したり、日本へ数回しか渡来しないような珍しい鳥が日本に来れば、その鳥を見に行ったりすることもある。善福寺公園の見慣れた鳥でも、見方によっては楽しむことができるのだ。

魚食性のゴイサギ、コサギ、カワセミなどは、どのようにして小魚を捕まえるのか。
また、シジュウカラは、ヨシの茎の中に潜んでいるカイガラムシを、どうやって見つけ、食べるのだろうか。このような疑問をもって、身近な鳥の生態を観察するだけでもたいへん面白い。

見慣れた野鳥でも、じっくり観察することで、そこの自然環境の豊かさを計り知ることができるのだ。
今日もまた、公園で出会えた鳥たちと向かい合い、飽きずに観察をしている。

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西村 眞一 (にしむら しんいち)

1953年東京都杉並区生まれ。野鳥写真家、日本野鳥の会東京幹事、中西悟堂研究家。日本野鳥の会創設者の中西悟堂が愛した善福寺池をフィールドに、1976年から37年間野鳥観察撮影を始め、個展や各メディアで発表している。
また1982年より、日本野鳥の会東京支部(現日本野鳥の会東京)主催の"善福寺公園探鳥会"を立ち上げ担当を現在も続けている。その他、中西悟堂のありとあらゆる資料の蒐集に務めて展示会や講演会、古書雑誌等で発表している。
日本野鳥の会東京
すぎなみ学倶楽部『杉並区の野鳥』

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