シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

東京にある茅場 武蔵野の草はら再生活動

茅場(萱場)って知っていますか? 現代ではなじみの薄い言葉かもしれませんが、たぶん1960年代まではどこの農村にもあったススキの草はらのことです。昔は茅場でススキを生産し、屋根材や家畜動物の飼料にしていました。その後、生活様式の変化などで茅場が使われなくなり、身の回りからススキの草はらが消えていきました。わたしたちは、そんな茅場を都会に再生しようと活動しています。

公園に生まれた茅場

都立光が丘公園(練馬区)では、公園をつくるとき、もともと棲んでいた生きもののためにいくつかの保全区域が設置されました。そのひとつが、わたしたちが活動している草地保全ゾーン(通称:すすき原っぱ)です。当初は1,070m2しかない小さな保護柵でしたが、わたしたちはススキやオギが生育する草はらをもっと広くできないだろうかと考えました。公園の管理者と話し合った結果、理解を得られて、2005年に保護柵の周りにあった芝生地に1,000m2の草はらが創出されました。創出と言っても、それまでは年に4回行われていた草刈りをやめただけです。小さな掲示板を立て、草刈りをしない理由を掲示しました。

柵がなくても保全区域

新たに拡げた草はらには、柵を作りませんでした。バッタが採られたり、野草が踏まれたりするのは覚悟のこと。草はらを広くするためには、まずは市民が草はらに触れて、よさを知ることが大事だと考えたのです。新しい草はらは、草刈りをやめたその年から、それまでは見られなかったたくさんのショウリョウバッタなどが棲む場所になりました。すると、そこを訪れる市民の利用形態が変わりました。以前はボール遊びや休憩をする場所だったところに、捕虫網を持った大勢の親子が訪れるようになりました。秋にはススキの穂を撮影するカメラマンもやって来ます。生物多様性の保全が、公園に新しい魅力を加えたのです。これは都市部の草はらの今日的な価値だと言っていいでしょう。

保全の肝は地域文化の再生

草はらは、放っておくと木が生えて林へと変わっていきます。草はらの状態を維持するためには、定期的に刈り取りなどをして植生をコントロールしなければなりません。その担い手として、わたしたちは武蔵野茅原組合を立ち上げました。組合と言ってもこれは保全活動を楽しく拡げるためのプロジェクトの名称です。活動日には、草はらに組合ののぼりを立て、はんてんをまとい、草刈りや落ち葉かきをしています。

わたしたちは最近、草はらを保全していくために、地域の文化に注目しています。練馬には、草はらに生えるチガヤで七夕馬を作る『ちゃが馬』の風習があります。ちゃが馬を継承していくためには、チガヤが育つ環境を維持しなければなりません。また神社で行われる『夏越の大祓』では、チガヤなどで作った「茅の輪」をくぐり抜ける神事があります。こういった地域の文化と自然植生とのつながりを回復していくことが、草はらの保全や再生につながっていくのではないでしょうか?

みなさんもぜひ都会の草はらを見に来てください。

※草はら創出活動の詳細は、生態工房調査研究報告集 第5号に収録されいます。

佐藤 方博
佐藤 方博(さとう まさひろ)

90年代に民間の自然保護区や公園でボランティアを始める。調査や管理作業、普及啓発や人材育成に尋常でないほど明け暮れて「宵越しの銭がない」日々を送る。
入れ込みすぎた仲間と1998年に生態工房を設立。自然地や公園の管理運営、生物多様性の保全回復をサポートしている。認定NPO法人 生態工房事務局長。
認定NPO法人 生態工房
すすき原っぱのブログ

おすすめ情報