シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

米作りの環境について

米を作る。それ自体は農作業の一つですが、主食であり、我々日本人にとっては無くてはならない食べ物として歴史や背景を知ると、その重要性が見えてきます。
TPP参加で日本の農業が大きく変化するかもしれない今だからこそ、もう一度、お米を作っている立場からお米についてお話ししてみたいと思います。

栽培方法の移り変わり

私は山梨県北杜市明野町(旧北巨摩郡明野村)という場所で生まれ育ち、現在もこの地で農業をしています。県内では稲作地域として有名な地方で、行政も力を入れてお米栽培が行われています。

水稲栽培は日本では弥生時代から(諸説ありますが)行われていますが、北海道まで含む全国で栽培が本格化したのは明治時代からです。
稲の作り方というと一般的には水田で栽培する水稲栽培ですが、畑で稲を育てる陸稲栽培のほうが歴史は古いとされています。
ではなぜ畑ではなく田んぼに栽培が移って行ったのか?

水稲栽培のメリットをあげてみると
・連作障害が少ない
・品質が良い
・収穫量が多い
・除草管理が容易
などがあげられます。 逆にデメリットは
・移植(お田植え)の労力がかかる
・水田の造成や管理維持が必要
・治水の整っていない地域は水が無いので栽培できない
などがあります。

治水努力と機械化

水稲栽培を行う上で無くてはならないのが水です。比較的雨量が多い日本では水の量はあるものの、山が多い地形に平らな田んぼを造成し、そこに水を引き込む努力がされてきました。

私が住む地域では総延長25kmにおよぶ「朝穂せぎ」という幹線水路が江戸時代から残り、治水の歴史を伝える昔話や苦労話が多くあります。
機械の無い時代に人力作業で山を切り開き、水路を作り、水を上域から引いてくる。こういった努力は全て米作りにかける先人たちの熱い思いが支えていたのではないでしょうか?

しかし近年では、環境の変化、異常気象の影響で毎年のように水不足が心配されています。
生活用水を確保するのに川へ流れ出す水を制限するため、田んぼで使う水が足りないという事態が増えているのです。
これからは環境破壊による水不足問題が米作りの現場では大きな課題になるのは間違いないような気がします。この問題を解決するのは我々世代の責任ではないでしょうか? また、水稲への移行は機械化の歴史ともいえます。

田んぼでの作業といえば、やはりお田植えが一番イメージしやすいですね。この移植作業が水稲栽培の一番大変な作業です。現在の最新の田植え機であれば10a(1000m2)を1時間ちょっとで終わらせてしまいます。この農業機械の導入は昭和40年くらいからなので、それまでは家族全員で手によるお田植えが行われていました。

そのほか、収穫もコンバインという機械が主流で乾燥から籾すりまで一連の作業でできるようになり、水稲の機械化は完成の域に達していると言えるでしょう。

田舎の風景が消えつつある?

しかし、コンバインなどの機械が入らない小さな田んぼや、あぜ道が細すぎて機械が入り込めないところは耕作を放棄されていく引き金にもなってしまいました。また、機械化が進み過ぎてしまったところもあるように感じます。機械での乾燥は天日干しで時間をかけて乾燥したものに比べ食味を落としてしまうこともあります。

「田舎 風景」でインターネット検索すると画像が沢山出てきます。その風景には、かなりの確率で田んぼが写りこんでいます。

お田植え前の水面や、新緑の稲、刈り取り前の黄金色の田んぼや天日干しの風景。こういった風景が耕作条件や機械化の波で減っていっていることも忘れてはいけません。

これからのお米作りは外国のお米との競争になるかもしれません。

「安くておいしい」が簡単であれば問題ないのですが、作り手としても量を優先させていくのか、味を優先させていくのか人それぞれの意見があると思います。
国産米の消費量が減るということは農家だけの問題ではないのです。これからは消費者としても主食であるお米に対して、しっかりとした意思を持ち、考えていく必要があるのではないでしょうか?

三井 紀幸
三井 紀幸(みつい のりゆき)

NPO法人えがおつなげて えがおファーム農場長
東京でのサラリーマン生活から兼業農家の実家へ家族とともにUターン。農業だけでなく地域全体の活性化をめざし活動しています。
NPO法人えがおつなげて

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