シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

X線で探る宇宙

宇宙からは、私たちの眼で見ることができる光だけでなく、さまざまな電磁波がやってきています。X(エックス)線もそのひとつ。X線で、宇宙はどう見えるのでしょうか。銀河では日々星が産まれ、死んでいきます。そのバランスによって、銀河の高齢化や若齢化が進むことになります。

聞こえないものを聞き、見えないものを見る

街中を歩いていると、キーンという高い音が聞こえてくること、ありませんか?新しいビルの入口付近などで聞こえる、不快な音。実はこれ、虫除けを狙った音波です。虫が嫌がる高周波の音を出すことで、虫が建物の中に入ってこないようにするという理屈。いろんな場所に設置されているようです。なぜ伝聞形か。この音は若い人には聞こえるけど、年を取るに連れて聞こえなくなる音なんですね。いや、まったく不快な音です。

どうしても聞いてみたいという人にお勧めなのがこれ、バットディテクター。コウモリ(バット)が出す人間の耳には聞こえない高周波の音(超音波)を捉えて、聞こえる音に変換してくれる装置です。これさえあれば、通常は聞き取れないような超音波を聞くことができるのです。いや、まったく便利な世の中です。

ふつうには感知できないけど、特殊な装置を使うことで感知できるようになる。これは天文学の世界も一緒です。例えば、X線もそのひとつ。X線は私たちの眼にはまったく見えませんが(…見えないですよね?)、X線を捉えるための特殊な装置を使えば、X線で宇宙の姿を見ることができるのです。

X線で探る宇宙

宇宙でX線を出しているのは、数万度を超えるような超高温のプラズマなど、高いエネルギー状態にあるものです。爆発現象に伴うものや、白色矮星や中性子星、ブラックホールの周囲など、特殊な現象や天体からX線はやってきます。X線で宇宙を見ると、そういった極限環境にあるものを観測できるのです。

しかし、X線での観測は簡単ではありません。そもそも地球大気をX線が透過できないので、地球大気の外、つまり宇宙空間に観測装置を打ち上げる必要があります。それだけでも大変なのに、X線での観測は、その物理特性から分解能を上げることが困難です。言い換えるなら、視力が悪いのです。そっちの方向からX線が来ていることがわかっても、ぼんやりとしか見えず、具体的にどこからやってきているのか、細かいことがわからないのです。

これまで、小田稔博士による「すだれコリメータ」の発明をはじめ、さまざまな工夫によってX線を出している天体の位置を正確に求める努力が行われてきました。その結果、最近では以前に比べて格段に良い視力でX線を捉えることが可能となってきました。これまで、ぼんやりしていた景色が、はっきりと見えるようになってきたのです。

その効果は劇的です。例えば、銀河系の円盤部からは強いX線が出ていることがわかっていましたが、それは広がった星間ガスから出ているのか、それともたくさんの点源から出ているのかは、よくわかっていませんでした。しかし、視力が上がったことで、どうやらたくさんの点源から出ているらしい、ということがわかったのです。その中には、これまで知られていたX線源とは異なる性質を持つ天体が見つかるなど、たくさんの新発見がありました。観測技術が進むと、それに対応して新しい世界が見えてくる。天文学の長い歴史の中で繰り返されてきたことは、今でも起き続けているのです。X線天文学は次にどんな世界を私たちに見せてくれるのか、今後の研究に期待しましょう。

※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」11月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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