シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

有星、自遠方来。 ―宇宙から飛来した衝撃

2013年2月、世界中の耳目を集めたのは、地球の周りにある小さな天体達だった。

観測史上最大のニアミス

2月16日未明は、三鷹で双眼鏡の視野に目を凝らしていた。市街地の影響を受けた空でもはっきりと捉えることのできた小さな光の点は、そうと知らなければ名も知れぬ糠星の一つに過ぎないが、ジリジリと恒星の間を動いていくそれはその時地球の外側、すぐ傍を通過していく一つの別の天体であったのだ。

太陽系には、軌道が未確定のものを含めて60万個以上の小惑星がこれまでに発見されている。その大部分は、火星軌道と木星軌道の間の《小惑星帯》に分布して、太陽の周りを公転している。しかし、一部はもっと内側にも分布していて、地球に接近する軌道を持つものも存在し、中には月軌道の内側をかすめていくものも時折現れる。

そんな中で、"小惑星2012 DA14"が通過したのは気象衛星が周る静止軌道より内側、地表からの距離約2万8000km。広い宇宙においてはとんでもない近距離であり、1990年代以降、定常的な全天観測が進んでから、この規模の―直径45m程の小振りとは言え―天体としては最大級のニアミスだろう。とは言え、昨年に発見されたこの小惑星と地球との衝突の可能性は0と言ってよいほど低いことは、近づく前から知られていた。

一方で、偶然にも―そして全く無関係に―その数時間前に、発見さえもされていなかった小さな天体が突如として地球に飛来して、世界を驚かせた。

隕石の衝撃

2月15日の日本時間14時頃、ロシア・ウラル地方に落下した隕石は、発生したエネルギーから、元々直径17メートル、質量1万トンの大きさの小惑星だったと推定されたようだ。地球に突入した天体は地球大気を急激に圧縮し、高温のプラズマが激しく発光する。天体自身も高熱によって溶融・蒸発し、小さなものであれば大気中で消滅してしまう。しかし、今回のように大きな天体では、最終的に地表まで到達して《隕石》となる。超音速で飛行する天体は衝撃波を発する。特に天体が圧力に耐え切れずに崩壊した瞬間の爆発的な衝撃波は相当な威力があったようだ。人口密集地上空を飛翔し、これほど多くの建物被害と負傷者を生んだのは、記録にある上では異例の人的被害だろう。

実のところ、流星の小さな塵から隕石まで、夥しい量の物質が、宇宙から地球に飛び込んで来る。その量は諸説あろうが毎年4万トンほどに上るとも言われ、1kg以上の隕石の落下は約4500回もあるらしい。その大半は海洋など無人の地域で誰知ることも無いのだろう。つい先月、1月20日午前2時42分、関東地方の空を切り裂いた閃光が目撃されている。明るさがマイナス10等級にも達したという大火球に、一瞬の間、丑三つ時の闇は月夜のように照らされたことだろう。この時も衝撃波の到達によって「ドーン」という響きが聞こえたという報告があるようだ。恐らく、隕石になっていたとしても数十g程度の小さなもので、鹿島沖の太平洋に落ちてしまった可能性が高そうだが、ともかく我々にごく近い所にも、宇宙からの来訪者が飛び込んでいたのだ。

インパクト・ハザードに備えて

今回落下した小惑星より一回り大きな天体、例えばニアミスした"小惑星2012 DA14"がもし仮に衝突していたらどうなっていたのか。アメリカのアリゾナ州に残る直径1.2km、深さ170mのバリンジャー・クレーターが、50mサイズの小惑星の衝突痕とされる。また、1908年、当時のロシア帝国領シベリアで半径30kmにも及ぶ森林がなぎ倒され炎上した《ツングースカ大爆発》も、天体の落下による現象だと考えられている。この時は地上にクレーターが残らず隕石も確認されなかったので、彗星のような脆い天体が上空で粉々に破砕されてしまったのだろう。

地球誕生以来の歴史を紐解くと、何度も大きな隕石の落下が起きていて、例えば6550万年前には恐竜の絶滅を引き起こしたと言われる。この時の隕石の直径は10kmと格の違う大きさで、全地球的な気候変動の引き金になった可能性が提唱されている。

地球規模の大衝突はおろかツングースカのような爆発であっても、人々の暮らす都市を直撃したら破壊的な惨事となる。地球に接近する天体の存在は、事前に分からないのだろうか。しかし、小さな、即ち暗い天体を発見することは大変難しい上に、継続的に捜索していなければならない。

地球に接近する軌道を持つ小惑星などの《地球接近天体 Near Earth Object: NEO》を観測・発見し、早期に軌道を把握して警戒するプログラムは、世界で行われている。この春話題となっている彗星を発見した《パンスターズ(Pan-STARRS)》も、実はNEOsの発見を目的としたハワイ大学のプロジェクトだ。日本では、《NPO法人日本スペースガード協会》が、岡山県の施設を拠点に活動している。

内藤 誠一郎
内藤 誠一郎(ないとう せいいちろう)

東京大学大学院にて電波天文学を学び、野辺山やチリの望遠鏡を用いて分子雲進化と星形成過程の研究を行う。
国立天文台では研究成果を利用する人材養成や地域科学コミュニケーションに携わり、2012年からは現職で広く学術領域と社会とのコミュニケーション促進に取り組む。修士(理学)。日本天文学会、天文教育普及研究会会員。東京都出身。
自然科学研究機構 国立天文台 広報普及員
(社)学術コミュニケーション支援機構 事務局長
天文学普及プロジェクト「天プラ」 プロジェクト・コーディネータ

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