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暁天に大彗星は尾を引くか ―アイソン彗星観望ガイド

この冬最大の注目を集める天文現象「アイソン彗星」。果たして"世紀の大彗星"は出現するのか? 私達がその目撃者になるにはどう見ればいいか?

彗星イヤーの本命到来

この記事が読まれる頃には、「世紀の大彗星?」の話題はどのくらい巷間をにぎわせているのだろうか。肉眼でも見えるほど明るくなることが期待される「アイソン彗星」C/2012 S1 (ISON)が、2013年11月から12月にかけて、太陽に接近している。

彗星は、水や二酸化炭素などの揮発性の氷を主成分とする小天体だ。太陽系の外縁を公転しているため元々は冷たく凍り付いている天体が、何かの弾みで太陽系の内側に落ちてくると、太陽の熱によって蒸発し、多量のガスやダストを放出する。それが、尾を伸ばした華麗な姿として見られる訳だ。

春先に注目を集めた「パンスターズ彗星」の話題は、覚えているだろうか。夕暮れの春霞の中で、実際にその目で確かめられた幸運な人もいれば、残念ながら見逃してしまった方もいるだろう。肉眼で見られるほどの明るい彗星が現れること自体が稀であるのに、二つ目の肉眼彗星が現れる2013年は、彗星の当たり年と言える。それどころか、この秋から冬に入って、他にも光度を上げる彗星が複数現れた。これも肉眼で狙える4等付近まで増光しているラブジョイ彗星、予想外に明るくなってきたエンケ彗星やリニア彗星など、双眼鏡を通して見ればダークホースの彗星たちにも出会えるかも知れない。稀に見る"彗星イヤー"と言うことができるだろう。その中でもとりわけ期待されるアイソン彗星が、大本命であることは疑いない。

世紀の大彗星?

アイソン彗星が発見されたのは2012年9月のこと。当時は19等と非常に暗い天体だったが、それもそのはず、その時はまだ木星よりも外側にあったのだ。それだけ遠くで発見されたため、かなり大型の彗星であることが期待された。更にその軌道を計算すると、太陽に非常に接近することが判明した。太陽の表面をかすめるような彗星を「サングレイザー」と呼ぶ。近日点距離約190万キロ、太陽の半径の3倍以内の距離を通過するアイソン彗星は、強烈な熱と太陽風を受けて、盛大にガスを噴き出すはずだ。予想された最大光度はマイナス13等、満月の明るさにも匹敵する。場合によっては、彗星本体が分裂してとてつもなく巨大な彗星になるかも知れない。このような怪物彗星には一生に一度出会えるかどうか、「世紀の大彗星の到来だ」と注目を集めてきた。

ところが、2013年に入って、雲行きが怪しくなって来た。当初の予想よりも2,3等低い値を推移し、一時はほとんど横ばいに増光を鈍らせてしまった。彗星の物質的性質、そしてそれに由来する活動の様子にはそれぞれに個体差があり、アイソン彗星のように太陽に初めて接近するか或いはその回数が少ない彗星については、詳しいことはほとんど分からないまま待ち受けることになる。だから、実際に太陽に近づいて彗星の活動を目の当たりにするまで、経験則だけではまだまだ十分に予測することは出来ない。

どれほどの明るさまで発達するのか、大いに気を揉ませてくれるアイソン彗星だが、11月も半ばを過ぎて、俄かに目を離せなくなって来た。光度の上昇が大きくなり、5等級台に入って双眼鏡でもよく見えるようになっているようだ。ガスの尾も発達し、写真では実に彗星らしい立派な姿を呈し始めている。果たしてこの先、私達の肉眼にも見栄えある姿を映してくれるだろうか。

サングレイザーであるアイソン彗星は、太陽への接近時に、大きな変化を起こすことがある。彗星核の分裂あるいは崩壊が起きれば、ガスやダストの放出量が一気に増えて、明るく、長大な彗星へと変身する可能性も、無い訳ではない。

アイソン彗星の観察方法

アイソン彗星は太陽に大接近する。つまり明るくなる期間に太陽からの離角が小さいため、観察は ①薄明 ②地上高度 との戦いになる。
彗星が地平線から現れる時刻は日々変化するが、それを追うように太陽も地平線に迫って来る。日の出の前の空の変化を眺めたことはあるだろうか。日の出が1時間半後に近づく頃になると、次第に暗い星から薄れ始める。これを<天文薄明>と言う。日の出30分前には、空はほぼ完全に明るくなってしまう<常用薄明>。この、刻々と夜から朝に移ろっていく時間帯に、アイソン彗星の観察のチャンスは限られるだろう。

アイソン彗星が姿を現すのは、東の方角の低空である。12月の初旬では、その高度は漸く10度に達するかどうか。10度という角度に見当をつけるには、目の高さに腕を伸ばして握り拳を作ってみるとよい。その時の拳の高さが、大体の目安になる。そうすると、周囲に建物や木立があれば、簡単に隠されてしまうことが予想出来るだろう。予め、東の地平線付近までよく見晴らせる安全な観察地を探しておくことが大事だろう。

近日点を通過し最も彗星が明るくなるのは11月29日、その時には金星をも上回るような明るさになる期待もあるが、この前後数日間は太陽からの離角があまりに小さく、観察することはほぼ不可能になっている。12月の初旬、再び彗星が朝焼けから抜け出してくるころには、2~3等星で確認出来れば上々だろうか。ここまでくれば、北斗七星やカシオペヤ座のように、東京でもしっかりと確認出来る星と同等の等級であり、その姿を肉眼でも確認することが出来るだろう。

ただし、彗星は、ぼんやりとしてとても淡い天体である。彗星の明るさは、広がった全体を足し合わせた"全光度"で測るため、点光源である恒星の鋭い明るさに比べると光が拡散して、同じ等級でも印象としては暗くなる。その姿に出会うには、双眼鏡を用意することが出来れば望ましい。

丁度今頃から12月の上旬にかけて、夜明け前の東の空で、我々はどんな彗星に出会うのだろうか。後々に語られる"2013年の大彗星"の目撃者となることに期待を込めて。
■参考リンク
アイソン彗星を見つけようキャンペーン
彗星観察ガイドのほか、観察用のスカイマップからキャラクターアイコンまで。

内藤 誠一郎
内藤 誠一郎(ないとう せいいちろう)

東京大学大学院にて電波天文学を学び、野辺山やチリの望遠鏡を用いて分子雲進化と星形成過程の研究を行う。
国立天文台では研究成果を利用する人材養成や地域科学コミュニケーションに携わり、2012年からは現職で広く学術領域と社会とのコミュニケーション促進に取り組む。修士(理学)。日本天文学会、天文教育普及研究会会員。東京都出身。
自然科学研究機構 国立天文台 広報普及員
(社)学術コミュニケーション支援機構 事務局長
天文学普及プロジェクト「天プラ」 プロジェクト・コーディネータ

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