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【レポート】森、家、人の新しい関係構築へ

森林CSV連絡会

Yakushima photo by Chris Lewis[flickr] ※写真はイメージです。

大企業グループによるソーシャルビジネスのリーンスタートアップ

ホーム、レジデンスなどの住宅関連の企業が集まり、国産木材(国産材)の利用を通して森林と社会の関係について考える「森林CSV連絡会」が開催されました。

「CSV」とは「Creating Shared Value」の略で、経済活動において消費者(利用者)とともに「共有価値の創造」を目指す考え方です。連絡会では、関連するグループ企業から数人ずつ集まり、課題の発見から掘り下げ、そして小さなビジネスアウトを目指します。いわばグループ企業内でスモールビジネスのリーンスタートアップを少人数で行うものですが、三菱地所グループという非常にエスタブリッシュな企業が、横断的にこうした取り組みを行うこと自体が大きな時代の変化を象徴しているともいえるかもしれません。

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家の中の"小屋"が人と木を近づける

家の中の"小屋"が人と木を近づける

部屋の中の"小屋"の例(Tiny House Livingより)

この日は、個別プロジェクトの進捗報告から行われました。

三菱地所レジデンスでは「小屋プロジェクト」を立案、今年度中のモックアップ、プロトタイプの制作を目指しており、前回のディスカッションを踏まえて取りまとめた企画概要、スケジューリングを報告しました。

三菱地所レジデンス 岡崎氏ここでいう「小屋」とは、国産材を使った仕上材・飾り材で構築する木質空間で、集合住宅内に設置するもの。「今流行の一般的にイメージされる"小屋"とは異なり、可変性が高く、子どものための空間から大人のための空間への転用も容易」と企画を担当する同社の岡崎氏。「"100点満点のものを3年後に"ではなく、できるだけ早くモックアップ、プロトタイプへとステップアップして課題を掘り起し、2周目につなげていきたい」と、リーンスタートアップに注力することを強調し、遅くとも2016年2月には南新宿で建設が進むタワーマンションのモデルルーム、大手町ビルヂング内の接客スペースなどへの設置を検討しているそうです。そのため、ノウハウと技術を持つコクヨとの連携を進め、今年12月には試作品を仕上げるスピード感で進めたい意向。

サイズは1820㎜×910㎜(一間×半間)のイメージ。パネルとフレームをモジュール化、高い施工性と可変性を持たせ、パーツ交換による模様替えなども容易にできるようにしていくそうです。

また、岡崎氏は本プロジェクトが「たくさん作ってたくさん売るというものではない」ことを繰り返し訴えました。「モデルルームに来てくれるお客様に木質空間の良さを知っていただきたい。そして、三菱地所レジデンスって良い会社だねという共感を得ることを目指す。まず自分たちがしっかりと説明できる手の届く範囲内から、年度内に2個、あわよくば5個から10個程度で進めたい」と意気込みを語りました。これを受け、進行の見立坂氏からは「今年度末までに形にできるため、本連絡会の象徴的なアウトプットにしていきたい」と期待が述べられました。

汎用性の高い家具でイメージアップ

木製家具は近年人気のアイテムのひとつ ※写真はイメージです(SUMiKaのサイトより)

三菱地所ホームの村田氏からは、同社が構想する国産材を使用したオリジナル家具について報告がありました

「収納や飾り棚など、建付けでつけるものは、使いやすさに傾注し逆に個性を失うことが多い」ため、「ダイニングチェアなど、個性的な家具を製作」し、ユーザーにアピールしていきたい考え。また、「戸建住宅だけでなく、マンション専有部・共用部、オフィス、商業施設などでの利用も促進したい」とグループを横断する多角的取り組みにも意欲を見せています

三菱地所ホーム 村田氏構想段階ではありますが、予算は小規模で、フットワークよく動かしていきたい考え。プロット、年度内のプロダクトアウトを目指します。

村田氏は「グループ企業全体で家具を製作し販売するケースは全国的にも例がなく、社会的インパクトもあり、マスコミからの注目度も高いと考えられ、波及効果も期待できる」と、グループ全体で取り組む必要性を訴えました。

続く質疑応答では、販売戦略の重要性や、ストーリー性の付与(=ブランド化)などアウトプットにおける具体的な事案が議論されています。また、メックecoライフの土橋氏からはリフォーム案件、オフィス案件も視野に入れるべきとの指摘もありました。エコッツェリア協会村上氏からは「コミュニティキッチン」の可能性を議論することも要望として出されています。これを受け、土橋氏からはオフィスビルのリノベ、リフォーム案件でオフィス内にキッチンを置く事例なども報告されました。

"コンクリート"との攻防

小屋筋交いに大胆に木材を使うと木質空間らしさが増す ※写真はイメージです(LODEC.JPより)

三菱地所設計の環境技術推進室の小西氏からは、現在進行中のプロジェクトの報告がありました。

三菱地所設計 小西氏同社では"まちづくりセンター"の設計を受託しており、年度内には着工の予定となっています。多目的利用を前提とした建築物で、内装には木材を積極的に利用していくとのこと。しかしそれは国産材ではありません。「大きな提案事例では、国産材を入れるとコストバランスが合わないことがあった。今回は内装仕上げ材に外国産材を使うことでちょうどいい予算感になった。そうでないと事業者はコンクリートに流れてしまう」と小西氏。大規模建築物、殊に地方の現場では、国産材利用の難しさがあることを詳らかにしました。国産材利用拡大の議論では、日本総研の井上氏から「WTO(世界貿易機関)の兼ね合いで、今後は『国産材』よりも『地域材』という呼び方をしたほうが通りが良いかもしれない」という指摘もありました。

今回の事案では、大屋根の内部の小屋筋交いに木材を大胆に使った意匠で、フローリング、ルーバーなど内装全体を木材で見せるつくり。内装には集成材やCLT(クロスラミネーテッドティンバー)などを使う予定だそうです。

川上から川下まで。バリューチェーン構築に向けて

藤原造林(山梨県甲斐市)のサイトより

最後の報告として、えがおつなげての曽根原氏、野澤氏から、国産材利用の拡大に向けて行った山梨県との面談の内容伝達と確認が行われました。

えがおつなげて 曽根原氏山梨県側との意見交換では、国産材利用拡大に向けて歩調を合わせていきたい意向を双方で確認。曽根原氏は「空と土プロジェクトをモデルにし、コンペに備えたい」とし、準備に取り掛かりたいと話しました。

今、森に何が起きているのか

報告の後、今回からコーディネーターとして参画している井上岳一氏から「ジェネラルビューとして」、日本の森林の現状と課題のレクチャーがありました。

井上氏は東京大学農学部で林学を学び、若かりし頃は深山に分け入り杣人に学んだことも。卒業後林野庁に入庁、長く林政の現場に関わってきましたが、2001年からはイタリアの家具メーカー、カッシーナでブランド立ち上げや、日本人にもなじみの深いALESSIのブランドマネジャーなども務めました。その後2003年から現職。2010年からは持続可能な社会を実現するための社会システムのプランニングや企業活動のコンサルティングなども行っています。

日本総研 井上氏井上氏によると、森林課題のインターフェイスは「かつてないほど増えているが使われていないこと」です。林積は増加しており、60%以上が人工林で、30億立米の材が山にあります。民有林が7割を占めますが、そのほとんどは0.5~2haの零細林業者。「木が切られないために森林からの表出土が減少し、そのため砂浜が減っている」など思わぬ影響もあるそうです。

材木の自給率は平成2年をピークに減少の一途。使われない理由としてよく「国産材は高い」と言われますが、実はそれは勘違いなのだそう。実は国産材のほうが安い。ではなぜ使われないのかといえば「使いにくいから」なのです。「節が多いことや、乾燥から狂いが生じやすいこと、その一方で狂いを見越して家を作ることのできる大工が減った」と井上氏。また、業界側にも問題があります。「空気売り」と揶揄される木材ブローカーの悪しき商習慣や、林家が減少し安定供給が難しくなっている状態など。「森林行政は川上側の問題だけに関わってしまい、川下起点の情報やニーズを把握できていない。がためにサプライチェーンがバリューチェーンになっていないのが林業の大きな問題」と井上氏は指摘しています。

また、林家が減少し国産材利用が進まない理由のひとつに価格の下落もあります。1970年代に立米あたり4万円だった材木は、今は1万円程度にまで下落。しかし、国際価格では標準的であり、「ここから価格が上がる可能性は低い」という。50年育成のスギの1本当たりの価格は、現在1500円。育てるための費用はおよそ2000円。「これは生命の冒涜に等しい。こんな産業が成り立つわけがない」と井上氏は厳しい表情です。

消えていく森、溶けていく森

鹿が侵入し、食害のためトウヒ林が荒廃した。左は昭和38年、右が現在の大台ケ原正木峠

そして「使われなくなった森林」が何をもたらしているのか、その深層の問題を8つに分けて説明しました。

1.資源の偏り
林業資源は一見豊富に見えるが、その実、林業衰退前に植えられた30年生の樹木が大半を占めている。平準化しなければサステナブルな資源にはなりえない。

2.人工林の手入れ不足
人工林の手入れが行われず、表土が荒れると緑の砂漠化が進み、表層崩壊(0.5~2mの深さの表土の斜面崩壊)の危険度が増す。

3.鹿による食害
代表的な例に奈良・三重県にまたがる大台ケ原がある。幽玄なトウヒ林が、鹿の食害のために1995年までに枯れつくした。20~30年ほど前から全国的に被害が拡大している。

4.里山の奥山化
従来「里山」とは、人里の資源として活用されるために伐採と萌芽更新が繰り返され、基本的に樹木は薄い。しかし、里山としての利用がなくなったために奥山同様に茂り、近在の家々を飲み込むようになった。ナラ、マツは減少し、野生鳥獣はあふれかえるが生物多様性は減少する。

5.竹林の増加
手入れの不足した森林の下生えから、竹が繁茂し、生息域を拡大している。竹林はスギやヒノキはじめ雑木を駆逐する。また、60年で一斉に枯れるため、竹林崩壊による危険も危惧されている。

6.皆伐放棄地の増加
"ごっそりとってほったらかし"。特に九州に多い。間伐、植樹を行うサステナブルな林業はコストパフォーマンスが悪いために起きる現象で、その一因がバイオマスプラントであるのは皮肉なことである。

7.ゴミの不法投棄
人の手の入らない山、森林は、恰好の不法ゴミの投棄場になる。大小さまざまなゴミが捨てられ各地で問題化している。

8.外来種の増加
代表例が北米原産の「アレチウリ」。繁殖力が強く、巻きついた高木などを枯死させるほど茂り、1年生だが根が越冬し何度でも繁殖する。

こうした現状を指して井上氏は「人と森の関係性が希薄になってしまっているということ。そもそも森に行ったことがない、どこへ行っていいかも分からない人たちが増えている」と話し、この状況では「木を使いましょう、国産材を使いましょうと言っても理解されないだろう。まずは木のファン、森のファンを増やすところから始めるべきではないだろうか」と締めくくりました。

森と都市の未来を

今後も森林CSV連絡会は定期的に開催していく予定とのことですが、7月は森林での"合宿"を行いたいとしています。「ビジネス、業務に直接関係ないことも含め、ざっくばらんに話し合える場にしたい」と見立坂氏。

ソーシャルインパクトの強いスモールビジネスのプランニングは、ともすればアイデアを弄ぶことに終始してしまうことが多いように思います。しかし、森林CSV連絡会はビジネスアウトの現場があることを前提にしているため、極めて現実的で実現性が高い。三菱地所グループ内で横断的に取り組んでいるからこそのCSVの形だと言えるでしょう。一方で、スケールを狙うのか、収益性をどう考えるのかといったビジネス展開の方向性が不確定のところもあり、今後の進展に期待したいところです。


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