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【国際】「CSVはCSRのごく一部に過ぎない」―欧州CSRに学ぶ

インタビュー:下田屋毅さん(英国ロンドン在住CSRコンサルタント)

写真:岩竹美奈子(Minako Iwatake)

CSRやCSVと、日本企業はサステナビリティへの課題の対応に奔走しているが、海外ではどのような動きがあるのだろうか。CSR戦略をリードする欧州を拠点に、グローバルな視点からCSRコンサルティングを行うサステイナビジョン代表取締役の下田屋氏に、欧州の現状と日本の目下の課題について伺った。

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欧州CSRの懐の深さ

世界のCSRを牽引する欧州企業
本来のCSRを伝え、実践を促す

-なぜ下田屋さんは、欧州のCSRをご専門にされているのですか?

もともと環境問題に興味があり、環境ビジネスの立ち上げに関心がありました。しかし企業が与える影響において、環境に対する影響のみならず、社会への影響についても非常に重要視されてきています。特に私がいる欧州は、政策的にCSRを推進しているということ、また欧州にはCSRの先進企業が多くあるということ、さらに私は廃棄物管理や再生可能エネルギーをベースとする環境ビジネスの事業会社の立ち上げを経験し、企業の人事労務管理・安全衛生など実務で従業員に関するCSRの部分に10年程携わったバックグラウンドがあったことから、環境問題のみならず社会への影響も考慮するCSRのコンサルティング会社であるサステイナビジョンを2010年に立ち上げました。

具体的な活動としては、日本企業向けにCSRコンサルティング、CSR関連のリサーチ、情報発信、講演、そして英国IEMA認定のサステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格講習を東京で年に2回開催しています。

東京で開催された英国IEMA認定CSRプラクティショナー資格講習にて

-英国IEMA認定CSRプラクティショナー資格講習とは、どのようなものですか?

まずこれは、英国のIEMA(The Institute of Environmental Management and Assessment)という、環境マネジメントシステムなどの普及をしている英国の団体が認定する資格です。資格が得られるということだけでなく、「本来のCSRとはなにか」、そして「CSRを事業戦略に統合する方法」が学べる講習です。

これまでの主な参加者は、企業のCSR部長・課長や担当者、中小企業の代表の方、あるいはCSRに関心がありこれから深く携わっていきたいと考えられている方、また最近では外資系企業の日本法人の方や、IR担当者も参加されています。講師と参加者の双方向でのやり取りで進行し、参加者は常に納得の行くまで質問し、講師はファシリテーションをしながら参加者から意見を引き出します。またグループディスカッションの時間を多くとっていて、全員参加型のスタイルを取っています。

2日間のインテンシブな講習で終了ではなく、授業の課題があります。実はこの課題が最も大切です。この2日間で学んでいただいたことを基本に、それが実践として活用できるように課題に取り組んでいただきます。 こうして「CSRに取り組んでいるものの、何をしたらいいのか分からない」というような状態から、本来のCSRとは何かを学び、考え、実践的なプランを作ることで、現場でのアクションを始めることができます。

多様な活動団体が企業を監視
英国でサステナビリティは"当たり前"

ロンドン市民憩いの場、ハイドパーク
写真:岩竹美奈子(Minako Iwatake)

-お住まいのロンドンは環境先進都市と聞きますが、どのような動きがあるのでしょうか?

NPOやNGO、市民団体の活動が盛んで、それぞれのトピックに対しての意識が高いですね。背景として、宗教・文化が異なる人たちがロンドンのなかで、境のないように生活をしていくためにはどうしたらいいのかを考える機会が多くあるんですよね。それぞれの団体がそれぞれの主張をして、では全体としてどうしたらいいかを考える、そうした文化があります。

-一般市民はどのような意識なのでしょうか

例えば英国のスーパー大手は、サステナビリティ(持続可能性)を配慮した商品を整えることは当たり前に実施されています。店頭に並ぶ商品には、森林や海の保全に配慮した商品の証である、FSC認証(持続可能な森林認証)やMSC認証(持続可能な漁業認証)などのラベルがついています。またフェアトレードのラベルのついたものも当たり前のようにずらりと並んでいますので、消費者は意識しなくても、スーパーで商品を買うことでそうした活動に組み込まれることになります。

また、ロンドンではNGOや活動家が街なかで抗議行動やPR活動を実施し、メディアもそれを大々的に取り上げます。そのため、一般市民も自然とそれらを目にするので、考える機会があると言えます。

加えて、英国のNPO・NGOは信頼度が企業よりも高く、企業の活動を追求する立場にあります。こちらは中途採用で個人がそれぞれの専門性を活かしてポジションに応募するのが普通です。なのでこちらでは、CSRの専門性を持った人たちがNPO・NGO、企業間を移動しています。この人材の流動性によって団体は活性化し、それぞれに優秀な人材が集まっています。

「CSRはもう古い」は間違い!
企業戦略のCSVはCSRの一部

写真:岩竹美奈子(Minako Iwatake)

-欧州ではCSVやCSRは成立しているんですか?

まずCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)的な考え方というのはもともと欧州では実施されているという認識なので、あえてCSVとは呼ばず、またCSVという言葉も広まっていません。一方で、日本はアメリカの情報を取り入れることが多いこともあって、マイケル・ポーター教授が提唱するCSVとして注目が集まっていると思います。

欧州の定義では、CSRとは「企業の社会への影響に対する責任」で、環境・社会・人権・倫理・消費者の懸念を企業の中核戦略に統合すること、そして、ステークホルダーとの密接なコラボレーションを実施することです。そして「株主、広くはその他ステークホルダーと社会の間での共通価値の創造(CSV)の最大化すること」と、「企業の潜在的悪影響の特定、防止、軽減すること」の2つを推進するとしています。この欧州の定義からすると、CSRのうち、プラスの要素を最大化する部分がCSVになります。

日本では「CSRはもう古い、これからはCSVだ」という論調が見られますが、これではプラスの要素だけ抜き取ることになります。企業活動によって発生してしまう環境や人権へのマイナスの影響にも、目を向けていかなければいけません。この危機感から、2013年10月より「CSRとCSVを考える会」のメンバーの一人としても活動しています。

日本で行われたCSRセミナーに登壇する下田屋氏

日本は世界のなかの一員
日本発、英語による情報発信を

-今後、日本が取り組んでいくべき課題は何だと思いますか。

ひとつは、海外で行われていること、議論されていることに、もっと敏感になることです。日本国内だけに留まると、世界の中の一員であるという意識がどうも希薄になります。海外のトレンドは何かということは、日本企業はもっと知っておく必要があります。

次に、もっと英語で企業の取り組みについて発信をしていってほしいと思います。2020年の東京オリンピックも控え、東京は今後より世界が注目する都市となってきます。

2020年の東京オリンピックがサステナブル・イベントとして、ロンドンオリンピックを超えられる、そして後世にも語り継がれるような持続可能性が配慮されたオリンピックとなるように取り組みを進め、準備段階から世界に発信していただきたいです。

-今後の下田屋さんの取り組みを教えてください。

CSRを企業の中核戦略に統合するためにはどうしたらいいか、そのために企業のトップ・経営層にCSRを理解していただくこと、そしてトップダウンでCSRを推進することができるようにCSR担当者へのサポートに継続して取り組んでいきます。これは日本の企業にだけに限りませんが、CSRを企業の中にどのように浸透させるのかが大きな課題となっています。この問題にどう対処していけるかをさらに掘り下げていきます。

また、2011年3月に国連から「ビジネスと人権に関する指導原則」という、企業に関わる人権の原則が発表され、世界の企業はこの指導原則を基準に対応を進めています。欧州に比べて日本は人権への意識が低いと言われていますので、人権関係のセミナーやサプライチェーン上での労働環境に関するセミナーも企画する予定です。

そして、私はロンドンにおりますので、サステナブル・イベントとしてのロンドンオリンピックの経験を東京オリンピックに活用できるように、微力ながらお手伝いできればと考えています。

下田屋毅(しもたや・たけし)
英国ロンドン在住CSRコンサルタント

1967年神奈川県生まれ。1991年、川崎重工業株式会社に入社。工場管理や環境ビジネスの新規事業会社立ち上げに携わる。英国イースト・アングリア大学環境科学修士、英国ランカスター大学MBA(経営学修士)修了。2010年、英国にてサステイナビジョンを設立。欧州を専門とするCSRコンサルタントとして、日本企業のCSRコンサルティング、CSR研修、CSR関連リサーチを実施。ビジネス・ブレークスルー大学講師(担当科目:CSR)、国際交流基金ロンドンCSRセミナーシリーズ2011/2012プロジェクトアドバイザー。

サステイナビジョンWebsite

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