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【環境コミュニケーションの現場】 これまでの「次世代社会の担い手育成」への取り組みから生まれた「MUFG・ユネスコ協会 東日本大震災復興育英基金」

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心豊かな成長プログラム「応援交流会」のようす

企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第11回は、三菱東京UFJ銀行と日本ユネスコ協会連盟が2011年4月に創設した「MUFG・ユネスコ協会 東日本大震災復興育英基金(以下「震災復興育英基金」という)」を紹介します。小学校入学から高校卒業までの長期にわたる支援をはじめ、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下「MUFG」という)各社の役職員との継続的な交流など、ユニークな取り組みについて、同行CSR推進部のみなさんからうかがいました。

MUFG・ユネスコ協会 東日本大震災復興育英基金に関するお知らせ

初年度は1,235名の震災遺児・孤児へ奨学金を給付

― 震災復興育英基金は非常にユニークな取り組みですが、まず設立の経緯についてお話しください
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CSR推進部の古田大介さん

古田: 当行を含めたMUFGでは、金融を通じて社会の重要課題に取り組み、持続的な社会の実現に貢献するため、「地球環境問題への対応」と「次世代社会の担い手育成」の2つをCSR重点領域としてさまざまな取り組みを行っているわけですが、東日本大震災での甚大な被害を目の当たりにし、"次世代育成"で何かしなくてはいけない、できることがあるのではないかと考えたのが発端です。

高橋: 今回の震災発生は14時46分で、子どもたちは親と一緒でなく学校にいた。ですから明け方に発生した阪神淡路大震災と比較して親を亡くした子どもは多くなるだろうと考えていました。そういうこともあって、まずは学校、小学校・中学校・高校で安心して学べる環境づくりに銀行、MUFGとして何か手伝えないかと考えたとき、奨学金はどうだろうとなったわけです。

― それで、日本ユネスコ協会連盟と組んで奨学金を給付するための基金を創設されたわけですね

古田: 日本ユネスコ協会連盟さんとは、これまでも協働して環境教育や植樹などの活動を行ってきた中で信頼関係が築けていたということがまず一つ。それから、今回のプログラムでは学校の協力が欠かせませんが、銀行がいきなり学校へ入っていくのは大変ですし時間もかかります。できるだけ早く支援を行うためにも、ユネスコさんと一緒になってやるというのは自然な流れでした。

高橋: 奨学金の募集から審査までユネスコ協会さんにご協力をいただいていますが、このプログラムは児童・生徒が通っている学校長の推薦など、学校の先生がきっちりと見守ってくださっているということがあってはじめて成り立つスキームなんですね。私たちは物理的な距離が遠いものですから、市区町村の教育委員会や学校とスムーズに進めていくためにはユネスコさんとの協働は欠かせないわけです。実際、申請書など"書類まみれ"みたいなところもあったんですが、平成23年度の給付対象を確定することができました。

― 平成23年度は1,235名に奨学金が給付されるそうですね
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CSR推進部の髙橋 悟さん

高橋: 当初、給付は500〜600名と予想していましたが、最終的には1,235名になりました。9月に文部科学省が発表した0歳から18歳未満の震災遺児・孤児数は1,500名強ですので、おそらく小・中・高校の就学児童・生徒に限ればほぼカバーできたのではないかと見ています。

羽根田: これによって、基金の規模は当初の想定10億円から30億円程度まで拡大するだろうと思われますので、当行の拠出額を20億円に増額することにしました。奨学金は一時金10万円と月額2万円ずつ在学期間中ずっと給付されます。また平成26年までの向こう3年間の未就学児童も対象にしますので、6・3・3+3年で合わせて15年間にわたる支援プログラムになっています。

古田:15年という時間軸の中でお子さんたちの自律的成長につながればと思います。

高橋: 基金創設にあたって、ユネスコさんが、あしなが育英会さんにアドバイスをもらいに行った際、あしなが育英会の担当者から「よくやれますね。どうやるんですか? 逆に教えてください」と言われました。あしなが育英会の震災給付は一時金なんですね。本業からそう言われてしまいましたので、正直しんどいけれども頑張らなければと(笑)。

羽根田: 奨学金の給付だけでなく、「心豊かな成長」「花壇再生」「ボランティア活動」という、被災地の児童・生徒、先生と私たちグループ各社の役職員とが交流を図るプログラムなど、ユネスコ協会さんと物心両面から中長期的な復興支援に取り組んでいくことにしています。

震災児童・生徒、先生との交流で、ともに成長を

― それぞれのプログラムについて簡単にご紹介いただけますか
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劇団四季の東北特別招待公演

古田: 「心豊かな成長プログラム」は、23年度については「劇団四季」のご協力を得て、同劇団が開催した東北特別招待公演の観劇を柱とした応援交流会を開催しました。宮城県・福島県の奨学生を招待し、四季の役者さんたちと写真を撮ったり、弊行のボランティアが、奨学生と一緒に食事をしたり、直接コミュニケーションを図りました。ミュージカルは東北を舞台にした「ユタと不思議な仲間たち」です。来年度以降についての内容は未定ですが、何らかの形で継続して定期的に児童・生徒さんとのコミュニケーションを図りたいし、私たち行員もそういう機会を増やして一緒に成長していければと思います。

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CSR推進部の森 直子さん

森: 「花壇再生プログラム」は、津波で塩害を受けた岩手・宮城・福島3県の小中学校の花壇の再生のために、それぞれ200〜300の花の苗を贈って一緒に整備していくものです。私自身、被災地支援で10回くらい現地を訪れていますが、津波によってまちから色がなくなってしまっているんです。子どもたちは灰色のまちの中を毎日、通学してきています。次世代社会の担い手育成ということなら、少しでも楽しく学校に来てもらいたい、そのために色をおきたい。そういうことから花壇を一緒に再生していこうと。5月から始めて2回目からグループ内で参加募集をかけています。これまで5回実施していますが、みなさんの意識が高く、毎回10人程度の募集枠に150人以上が「ぜひ協力したい」と手を挙げてくれています。

このプログラムは、花壇の再生だけでなく、学校の先生から震災発生時にどう避難したのかや、当時から今までの状況をお話しいただく機会も設けています。どれだけ大変な思いをしたのかは、直接お話を聞かなければわかりませんので、私たちにとってすごくいい時間になっています。

羽根田: 「ボランティア活動プログラム」は、いま紹介した交流会や花壇再生に当行の役職員が参加して、児童・生徒さんたちと一緒に汗をかきながら、つながりを深めていくというものです。

― これらプログラムの効果や反響についてはいかがですか

高橋: 奨学金には役職員からの寄付も募っていますが、イントラネットなどでの活動報告もあって共感とともに寄付金も多く集まってきています。また多くのメディアにもとりあげていただきましたし、全銀協や経団連の会合などでも「すごいですね」という言葉をいただいているようです。また、現地の先生、特に校長先生は、いつも教職員の相談を聞く側で、自分の気持ちを吐きだす相手や機会がないということで、いろいろな想いを語ってくださります。

私たちが得られたものは多くの気づきですね。たとえば、文房具が足りないと報道されると、使い切れないくらい送られてきて、体育館に山積みになる。そんな状況を前に聞いたのは「子どもたちがもらうのが当たり前になってしまうことが怖い」「被災者だからという意識で育つと大変な大人になってしまう」という現場の声です。花壇再生は、花に水をやったり、害虫をとったりしなくてはなりません。花を育てるには子どもたちに責任感が生まれ、子どもたちの成長にもつながると、感謝されました。ボランティアによってそういう気づきを得て、それぞれの職場に戻って自分の仕事を振り返ってみたり、私たち自身の成長につながっていると思います。

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左)塩害に晒された土の掻きだし、右)花苗の植え付け

グループ各社の力を集約した総合力で持続的な社会の実現へ

― 今後の課題や展望についてお聞かせください

古田: 復興基金等の取り組みで感じたのは、お金を出すだけでなく現地に行って一緒に汗をかき、それを繰り返すことの大切さです。私たちの今回の活動は、ユネスコさんとの良い関係や、これまでの活動がベースとなり、実を結ばせることができたのだと思います。CSR活動の効果はなかなか見えにくい面もありますが、自らが汗をかきながら着実な取り組みを継続していくことが必要です。

高橋: このような取り組みには、お金だけでなく役職員の理解と応援がなければ成り立たちません。初年度は関心を持っていただいていますが、5年・10年後はどうか。今後はもっと大変になると思いますので、常に情報発信を行って行内外を巻き込む必要があります。大変ですが歯を食いしばってやっていかなければならないと思います。

それから、これは展望というより個人の思いですが、この奨学金を受給したOB・OGがMUFGに入って活躍してくれれば一番嬉しいですね。そうでなくても社会で活躍する人材に成長してくれたらいいなと思います。

― CSRのもう一つの重点領域である地球環境問題への対応で、特徴的なものをご紹介ください
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CSR推進部の羽根田 真さん

古田: 特徴的なの取り組みとしては、法人のお客さまを対象とした「排出権創出支援ローン」があります。これは国内法人のお客さまが省エネ設備等を導入するときに、CO2排出権を生みだすような仕組みをMUFGグループで連携して行っています。

羽根田: メガバンクの中でも信託や証券・リースなど業態では最も広く、かつ各業態でトップクラスにある各社の力を集約した総合力で、お客さまの環境問題への取り組みの支援をしていますので、お客さまの多様なニーズに合わせた最適なご提案ができるというのが、当グループの強みです。リースを使ったスキームや証券がプロジェクトファイナンスを組んだり、CDMもセールスできたりですね。

地球環境問題でも次世代育成でも、ファイナンスは大きな役割を果たします。お客さまのあらゆるニーズに応えられる総合力と、さまざまな切り口でサポートできるファイナンスを通じて持続的な社会の実現に貢献していきたいと考えています。

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