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持続可能な浜の再生に向けて 「三陸水産業・漁村・漁港復興に向けた産学官連携支援プロジェクト」 第3回

東京大学の震災復興プロジェクトの一つ、「三陸水産業・漁村・漁港復興に向けた産学官連携支援プロジェクト」を中心に、三陸沿岸部での復興へ向けた取り組みを紹介する本企画。第3回は、震災後1年を経た大槌町の現状とこれからの復興・再生に向けた動きをレポートする。

3月11日 一年が経って

2012年3月11日、筆者は大槌町東日本大震災慰霊祭に参加した。大槌はまだ寒さが厳しく、雪がちらつく天候はちょうど1年前と同じだったという。町のいたるところで花を捧げる方々の姿が見られた。慰霊祭には震災犠牲者の遺族や町職員等約1,500人が参列し、犠牲者への鎮魂と祈りをささげ、復興を誓った。昨年6月に行われた合同慰霊祭後に死亡届が出された町内震災犠牲者674名の名前が読み上げられた。14時46分、黙祷とともにサイレンが鳴り響いた。自分は強く「生かされている」者の使命と責務を考えた。

1年が経ち、瓦礫が整理されたとはいえまだ震災の傷跡を色濃く残している。これからこの町にかつての産業が復活し、人々が普通に生活できるようになるまでには、どれだけ時間がかかるだろうか。瓦礫の処理、町の再建、水産業の復活などはいずれもさまざまな要因により、必ずしも計画どおりに復興が進んでいないのが現状である。これからも復興に向けた息の長い支援が必要である。

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新しい地域漁業への転換

大槌町の水産施設・漁船・養殖施設といった水産業の被害額は約512億円とされている。これは農業といったその他の産業を含めた被害総額(約1,505億円)の34%になる。復興計画の中で、漁業については漁業協同組合を中心として漁船・養殖施設・種苗施設などの生産基盤を整備し、漁業の早急な再開を支援することを掲げており、水産加工業および水産流通業については、被災した加工場・施設等の復旧・整備を図ることを掲げている。経済活動と雇用環境に大きく影響を与える水産業の早期再建が、大槌町の復興にとって極めて重要であり、漁業の6次産業化の推進や付加価値の高い生産構造への転換を目指すことが、復興計画の中でも掲げられている。

しかし、水産業の復興において極めて重要な役割を果たす漁業協同組合(大槌町漁協)が1月に経営破綻した。震災以前からあった負債に加え、今回の震災被害により負債が膨らみ、約10億円の債務超過に陥ったためだ。その後旧漁協は解散、新組合の設立総会が2月に開かれ、新組合の体制整備が急ピッチで進められている。

水産関連復興予算のほとんどは漁協が受け皿となっているが、漁協が経営破綻し、新組合も十分な体制ができていないため、大槌町には現在のところ水産復興関連の交付金は支払われておらず、水産業の復興に向けた動きは止まったままである。さらに、新漁協は従来の漁業を行なうのではなく、漁業の6次産業化の推進や付加価値の高い生産構造への転換を図らなければならない。そのためには従来の水産業・漁村のステークホルダーに加えて、外部のさまざまな組織や人と連携・協調することが必要となる。

東京大学農学生命科学科の黒倉壽教授は、「都市部の消費者や企業と連携し、三陸の水産物のどこが魅力的なのかをあらためて考えなおす取り組み、地域全体で外部の研究機関と連携し先端水産技術の活用を図る試み、海洋風力発電に挑戦し、その電力を使って加工する取り組みなど、地域の特性を生かした付加価値を高める工夫を絶えず行なっていくことがこれからの被災地漁村の復興には極めて重要だ。」と説く。これらの産地の魅力を再確認する努力は、産地側と外部のさまざまな組織の連携がなければ進めることができない。そのため多様な切り口で外部の組織や人と地域をつなげる取り組みが極めて重要となってくるのである。

海洋アライアンス国際シンポジウム:「震災復興過程に見る人と海の将来像」

「三陸水産業・漁村・漁港復興に向けた産学官連携支援プロジェクト」では学生や研究者を、大槌町を中心とした三陸地域に派遣し調査活動や漁業復興支援活動を行なってきた。そしてこれらの経験をもとに三陸における復興過程を国際発信し、また2004年にインドネシアで発生した津波被害からの復興過程との共通点や、そこで得られた教訓などを国際的に共有するために、「震災復興過程に見る人と海の将来像」と題した国際シンポジウムを開催する予定である。

陸上に住む人間が、海の幸を消費するためには、海から食卓に届くまでのそれぞれの段階で資本や労働の投下や情報の交換が行われることが必要であるが、震災でこれらの活動が寸断された。この復興状況がどうなっているのか、日本型やアジア型の復興特性といったものがあるのかどうか、更には海と日本人の関係を再構築するためには、どのような解決が望ましいのか、シンポジウムでは、さまざまな分野の専門家が集まり、この課題を分析し、共有する。これをもって、短期的には震災復興を更に円滑に行うことに資することを、長期的には海と日本人、更には海と人間の関係を追求することを目指す。

研究者だけでなく、三陸の水産復興に関心を持ち、これからの都市と被災地域のあり方を考える多くの方に参加いただければ幸いである。

海洋アライアンス国際シンポジウム:「震災復興過程に見る人と海の将来像」

日時:5月14-15日
場所:東京大学弥生キャンパス中島ホール

千田良仁(せんだ・よしひと)

東京大学海洋アライアンス特任講師、株式会社アミタ持続可能経済研究所 アソシエイト・フェロー。専門は水産経済学、地域開発論。全国各地で地域に眠っている地域資源を発掘、可視化し、これらの地域資源を地域内外の「ひと・もの・かね」をコーディネートすることによって、地域に「生業(なりわい)」を創出し、地域主導で内発型の持続可能な地域活性化の構築を支援するさまざまな活動を展開している。地域再生マネージャー(中津川市、三好市)、総務省「地域人材ネット」登録専門家、食農連携コーディネーター。香川県出身。

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