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【丸善松丸本舗BookNavi】8月号「スマートな家づくり」 ―内田樹『ぼくの住まい論』、尾方孝弘『秘密基地の作り方』、青木淳『家の?』他

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「スマートハウス」「スマートシティ」ってエネルギーだけの話じゃないよね、を考える12冊

松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞のコラボレーションでお届けする【丸善松丸本舗BookNavi】。毎月、その季節にピッタリの本をご紹介しています。

今月のテーマは「スマートな家づくり」

・松丸本舗マーチャンダイザー 栢下 雅澄さん(以下 栢下)
・松丸本舗ブックショップ・エディター 山口 桃志さん(以下 山口)

にお話を伺い、こちらの12冊をご紹介いただきました。

  • 『ぼくの住まい論』 内田 樹(著)/ 新潮社
  • 『我輩は施主である』 赤瀬川 原平(著)/ 中央公論新社
  • 『タンポポ・ハウスのできるまで』 藤森 照信(著)/朝日新聞社
  • 『「いい家」が欲しい。』 松井 修三(著)/創英社、三省堂書店
  • 『秘密基地の作り方』 尾方 孝弘(著)/飛鳥新社
  • 『みえないもののうらがわは?~暮らしの道しるべ覚書』 広田 千悦子(著)/技術評論社
  • 『森の生活』 H.D. ソロー(著)、飯田 実(翻訳)/岩波書店
  • 『自然に学ぶ粋なテクノロジー なぜカタツムリの殻は汚れないのか』 石田 秀輝(著)/化学同人
  • 『「小さな家」の気づき』 塚本 由晴(著)/王国社
  • 『東京R不動産』 東京R不動産(著)/アスペクト
  • 『家の?』 青木 淳(著)/インデックスコミュニケーションズ
  • 『うみのいえ』 大塚 幸彦(著)/岩波書店

家を建てるという物語

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1:『ぼくの住まい論』 内田樹
2:『我輩は施主である』 赤瀬川原平
3:『タンポポ・ハウスのできるまで』 藤森照信

栢下: 家ということでまずイメージが浮かんだのがこの『ぼくの住まい論』でした。内田樹さんが大学を退職されたのを機に家を建てたという話で、目次を見ると土地探しから材料選び完成までどういう過程で家を建てていくのかというのがはっきりわかります。そして最後は内田さんの家に対する考え方で締めるというわかりやすい展開で写真もたくさん使われていて見やすいです。内田さんの本は様々な分野に渡っていますが統一された雰囲気があってなんとなく読みたくなる。これもそんな本の一つです。

次の2冊は品切れで手元にないんですが、芸術家の赤瀬川原平さんと建築家の藤森照信さんの家づくりの話です。ふたりは路上観察学会の仲間で赤瀬川さんの家を藤森さんが建てることになるんですが、普通じゃつまらないということで屋根にニラを植えたりするんです。97年の本ですから屋上緑化とかはまだない時代ですよね。それで、そのあと藤森さんが自分の家を建てるときに今度は屋上にタンポポを植えるんです。そんな変わった家をどうやって作ったのかという本です。

平尾: 家づくりって一冊の本になるんですね。すごいプライベートなことだけど物語があるというか...

栢下: 赤瀬川さんのは小説の体裁を取っているし、そうなんでしょうね。

山口: 赤瀬川さんって利休のことを書いた新書があって、ツリーハウスみたいなお茶室を作ったりもしてるんですよね。

栢下: 赤瀬川さんは芸術家で、藤森さんは建築家なので、普通とは違う考え方で家を建てる、それが読んで楽しい本です。

秘密基地も家づくり?

4:『「いい家」が欲しい。』 松井修三
5:『秘密基地の作り方』 尾方孝弘

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栢下: 今度は少し家づくりをまっとうに捉えた『「いい家」が欲しい。』です。これは家づくりの指南本みたいなもので、1999年から改定を重ねていまのが10冊目になります。一番新しいものを見ると「スマートハウスは『いい家』なのか?」って書いてあって、こういうふうに話題になっていることを盛り込んで改定していくという感じです。

平尾: 10年間のロングセラーですか。昔はいつかは一戸建てみたいな価値観が大きな流れとしてあったと思いますが、今は家を建てるかどうかっていうのはその人の嗜好の問題みたいな感じになってきてますよね。でもやっぱり家を建てたいというニーズは根強いんですね。

栢下: そうですね。基本的な本の構成は同じなんですけど、その時の流行みたいのがあるので微妙に変化していてそれで売れ続けるんでしょう。だから10冊並べてみて見比べてみると家づくりの変遷みたいのがわかって面白いかもしれないですね。

ガラっと変わって『秘密基地の作り方』という本です。秘密基地というと木の上に立てたり、空き地に小屋みたいの立てて隠れるとか、土管の中とか、そういうイメージですが、それを細かく本格的な建築の本みたいに作り方を紹介している本です。これもひとつの「家づくり」かなと。

平尾: 栢下さんオススメの秘密基地はどれですか?

栢下: イメージとしては木の上とかが秘密基地っぽいんですが、この押入れに色々持ち込んで生活するっていうのが好きですかね。家じゃなくて部屋になっちゃいますけど。ダンボールハウスとかもやってみたくなりますね。こんなツリー・ハウスの写真ものってたりして。

山口: これ、先ほど話に出た藤森さんが故郷の長野に建てたというものみたいですね。夏休みだしお父さんと読んでも面白いかもしれないですね。お父さんのほうが夢中になっちゃったりして。

平尾: 住むっていうことバリエーションが見られますね。本格的なツリーハウスから押入れとかダンボールとか。自分のスペースをどうとるかっていう見方が面白いですね。

自然から学ぶ「スマート」な生活

6:『みえないもののうらがわは?~暮らしの道しるべ覚書』 広田千悦子
7:『森の生活』 H.D.ソロー
8:『自然に学ぶ粋なテクノロジー なぜカタツムリの殻は汚れないのか』 石田秀輝

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山口: この本は、ものを裏側から見ることで、目垢を落とすというか、「スマートな家」の前に「スマートな暮らし」を考えてみようというものです。図やイラストを使って問題提起をしたり、物の見方の転換を促したりしてるんです。例えば地球を海から空まで層に分けで何層でできてますとか、缶詰の中身の変遷を見たりとか。身近なものから考えることで、くらしを違った味方で見られるようになる、身近なところから物の見方を変えましょうという考え方なんだと思います。お弁当の盛りつけ方なんかも載ってるんですけど、これなんかは建物の区割りとかにも通じるのかなとか思ったりもしました。

それで、実際に違う暮らしをやってしまったのが『森の生活』ですね。千夜千冊にも取り上げられている本で、暮らすということがどういうことなのかを考えるにはいいとおもいます。

次が『自然に学ぶ粋なテクノロジー』という本なんですが、今のいわゆるテクノロジーというのは「アドバンテージテクノロジー」といって今まだなかった技術で新しいもの、パソコン何かを作るテクノロジーなのに対し、これからは「ナチュラルアドバンテージテクノロジー」といって自然がやっていることからヒントを得てエコなどに活かせるテクノロジーを考えていこうというものです。

「シロアリの巣は無電源エアコン」とか「カタツムリの殻は洗浄不要のキッチン」とか、生き物からムダのない暮らし方を学んで、いまあるテクノロジーと組み合わせて新しい暮らし方を作って行ったらいいんじゃないかという考え方です。一つ一つトピックになっているので読みやすいし、人気のある本です。

石村: 秘密基地と並んで夏休みっぽくて、子どもの自由研究とかにもよさそうですね。

「気づき」が家をスマートにする

9:『「小さな家」の気づき』 塚本 由晴(著)/王国社
10:『東京R不動産』 東京R不動産(著)/アスペクト
11:『家の?』 青木 淳(著)/インデックスコミュニケーションズ
12:『うみのいえ』 大塚 幸彦(著)/岩波書店

山口: この本は建築家の夫婦の話なんですが、家を建てるときに小さな問題に直面してそれで色々な事に気づいて、次にそれを活かしていくという流れなんですが、これも「小さな気づき」からなんですね。これも見方を変えていくというものなのかなと。これから家を建てようという人にとっては読んだら面白い本だと思います。

平尾: 家づくりの本はどれも土地選びから入るんですね。

山口: 敷地というのは周りの環境なども含むので、それが変わると全てが変わってしまうんでしょうね。でもこれは敷地だけに言えるんじゃなくて、部分がずれると全体がずれてしまうというのがあって、だから小さなところから考えて行こうという発想なんだと思います。全体を見るんじゃなくて、そういう小さいところを直していくことで全体としてスマートな家に近づいていくのかもしれないと思いました。

次はこの本ですが、東京R不動産は自分でリノベーションできる賃貸物件を扱っている会社で、買わないんだけど施主感覚が味わえるような物件を売りにしているところなんですね。借りる人のアイデアと使い勝手で好きに変えていいわけで、これは面白いなと思いました。事例もたくさん載っていて。物件自体は古いわけですが、時代の空気読んでるなっていう感じがしました。

平尾: いちから作るのって大変ですからね。見えてるものがあってここ変えていくみたいな方がやりやすですよね。

山口: そうですよ。編集でも「なんでもいい」って言われたら逆に書けなくて、ある程度制限があったほうが書きやすいでしょ。これもそうで、ある程度自由にしてあげたってところが良くて、しかもR不動産ってブランドにしちゃったところもうまいなと思って。

石村: 古い家が多いじゃないですか、だからスマートといえばスマートですよね。壊して建てるんじゃなくて。古いものを活かすという意味で。

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山口: そうそう、古さを生かしながら上手くモダンなものをつくる。しかもそこに借りての力も加えるっていうところが新しいなと思いました。

そこから今度は、これはありえない家なんだけどこんな家どうみたいな本です。白アルマジロと黒アルマジロが暮らすトンネルに、いろんな家の機能を入れていって、その機能について考えることで家や暮らし方を考えるというものです。眠るとか食べるとか生活の基本についてかわいいイラストで考えられて楽しいんですよ。

平尾: これシリーズなんですね

栢下: 「くうねるところにすむところ 子どもたちに伝えたい家の本」というシリーズでいま25冊出てて、家とか暮らしについていろいろな人が主に子供向けに書いています。

石村: 隈研吾さんとか、伊東豊雄さんとか、そうそうたるメンバーですね。

栢下: 私もちょうど『物語のある家』という妹島和世さんのものを持ってきてたんですが、これは物語に出てくるような家を作るという感じの話しになってます。

山口: 最後は写真集です。海に捨てられたゴミが魚たちにはスマートな家になってるという。ミシンとか置物とか、結構面白いですよね。なんだかシュールですし。

栢下: たくましいですよね。

山口: 魚たちが自分たちにあった色々なものを使ってるのでその取り合わせが単純に面白なと思って。

石村: これもものの見方を変えるとか、魚が気づいたかどうかはわかりませんが「これが家になる」っていう気づきですよね。

平尾: 海といういだけで、涼しそうですし(笑)。さてさて、スマートといえばなにか暑さ対策はしていますか?

栢下: うちは団地のしかも1階なので風通しが悪くて暑いんですよ。木が植わっているので日陰にはなるんですけど対策と言ったらすだれとか冷たいものを食べるくらいですねぇ。道路も建物もコンクリートで熱が篭るのでいつまでも暑いですよ。

石村: やっぱり最近の家のほうがスマートですよね。団地とか少し前の家って暑くて寒いからエネルギーがたくさんいる。

山口:寒さよりも暑さがやっぱり凌ぎにくいですね。 『徒然草』にも「家というのは夏の涼しさを旨とせよ」というようなことが書いてあって、日本ってやっぱり昔から蒸し暑いから涼しく風を通すっていうのが大事だったんだなって。

石村: 結局自然を取り入れたほうがスマートということなんでしょうか。

山口: そうですね、自然とうまく付き合うということにつきるんでしょうね。

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