過去のレポート都市の“グリーンワークスタイル”を探る

朝大学コミュニティから生まれるこれからのまちづくり(黒田信氏、鮫島冴映子氏、高橋実加子氏、橋之口浩氏、平野美奈氏、古田秘馬氏)

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1. 3rdパーティとしての朝大学

エリアの課題解決のために、マーケットや行政に代わるものとして「新しい公共」が注目されている。公共的な課題に対して集まった市民やNPO、事業者などが「新しい公共」の担い手として、コミュニケーションを重ねながら課題解決に向け協働するという、ソーシャル・キャピタルに基づくコミュニティの形成によって新しい価値を生み出そうとするものである。
丸の内朝大学に集う皆さんは、信頼関係やネットワークなどソーシャル・キャピタルの価値を認識するとともに、「新しい公共」の担い手としての活躍が期待される。そこで、朝大学クラス委員経験者の方々にお集まりいただき、大丸有エリアにイノベーションや新しい価値を生み出し、「新しい成長」を可能とするためにどのような知恵や仕掛けが必要なのか、忌憚のないご意見を伺った。

丸の内朝大学

1. 3rdパーティとしての朝大学

― 皆さんは、丸の内朝大学に通われているわけですが、朝大に通おうと思ったきっかけは何ですか?

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高橋: 丸の内朝大学では「究極のカレーライスクラス」に参加していました、早起きするようになって、早朝のまちがとても好きになりました。いまでは、朝大の仲間とクラスの前に築地に立ち寄って、カレーを食べてから登校することもあるくらい、盛り上がっています。

黒田: 僕は朝の活用が目的ではなくて、地域活性化について勉強したくて朝大へ来ました。仕事の関係上、夜は時間がつくれないので、自分にピッタリでした。

平野: クリエイティブな遊びの時間を増やしたくても夜はいっぱい。自由になる時間は朝しかありませんのでずっと朝大が気になっていました。朝から暇な人たちってどんな人かと。そしたら意外と似た者同士で居心地のいい場所でした。

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鮫島: 私は会社と自宅の往復に飽きはじめていて、何かに参加したいと。でも夜は皆さんと同じく残業などで不規則ですから、朝の居場所を探していたところ朝大がヒットしたわけです。

橋之口: もともと早起きで、毎朝、自宅でいろいろな活動をしてから出社するという生活でしたが、朝大のもつ知的好奇心という響きに惹かれて入りました。もちろん、そう簡単には充たされるものではないのですが、朝大に来たら同じ考えの人がいました。これは、私がこれまで経験したことのあるコミュニティとは別、新しい形なんだと感じましたね。

古田: 朝大には多趣味の人が集まっていますから、いろんなところでつながることができる、そこが面白さかな。仕事上で付き合いのある人と趣味の部分でシェアすることは難しいのだと思います。

― 丸の内朝大学で変化が生じた方が多いようですが、ここが変ったというところは?

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高橋: 本気でバカができる、というところでしょうか。つまり同じエネルギーを持った者同士だから、「やろう、やろう」というノリで行動することができるんです。会社関係ではなかなかないですね。 

古田: 一人では超えられない壁も、三人集まると超えられる。

橋之口: いい意味で甘えられる場所ですね。会社や学校では上下関係があって甘えにくいですが、朝大では互いのスペシャリティを尊重しあって支えあえる関係が生まれてくる。

高橋: でも逆に朝大に通っているような人ばかりが会社にいたらちょっと嫌だなと思ってしまいますが(笑)。

― でも、そんな気がおけない仲間だからこそ一緒に実現できる社会活動があれば、パワーを発揮して有意義なものになると思うのですが。それがサードコミュニティの意義ではないでしょうか?

古田: いまは復興とかソーシャルな課題に皆で取り組みたいという思いを、利害のない場所でやることができる。利害は会社だけでたくさんだから、本当の理想的な自分の能力を発揮できる場所として価値があるように思います。

黒田: ビジネスでは儲けやメリットなどが行動原理になります。朝大学では何のしがらみもなく共有する思いでワーッと実行に移すことができますね。

古田: 共通課題として皆が共有することで力が倍増する。そのエネルギーは凄いなと思います。

平野: それに行動が速い。ただ、なにしろ「すぐやる」だから、くよくよためらっている時間がない。与えられる時間はせいぜい一晩だけだったりします(笑)。

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黒田: ときにはそのスピード感に困惑することもあります。

古田: いままで職域や住まいのほかにコミュニティがなかったので、もって行き場がなく、何か蓄積されたような思いが、そういうスピード感として表われたのかもしれません。とても素晴らしいことなんですが、一方でこれからは揺り戻しもあると思っています。ボランティアによくある話ですが、はじめは多くの人が集まっても、負担になって1年くらいで引いてしまう人も多い。要は仕事とのバランスを上手に保ちながらやるという前提が大人のコミュニティ。その点、ヨーロッパなどでは、見事に定着しています。

黒田: この夏はクラスをとっていないのです。それは「自分はいったい何をしたいんだっけ?」と感じる時があったからなんです。もちろん、朝大学に参加したことはプラスで、仲間が飛躍的に増え、一人では成しえなかったことが実現できているという達成感は大きい。だから、僕はいま、このコミュニティ内の活動と仕事やプライベートとのバランスをとるための揺り戻しの時期なのかもしれないですね。 

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2. 大丸有に必要な新たなコミュニティ

2. 大丸有に必要な新たなコミュニティ

― 丸の内朝大学はすでに一つのコミュニティとなっているようですが、皆さんの中に、それをさらに加速、拡大したいという思いがあるのではないでしょうか。大丸有には、仕事以外の活動を実践するコミュニティも、場も見当たりません。朝大も含めてこの地域として、どうしていけばいいでしょうか?

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古田: 朝大は教会のような場所だと思います。アメリカなどでは会社とは別に教会が一つのコミュニティとなっていて、個人が自由に活動したり、休んだり、なんの制約なく存在している。ウォール街にも教会はあるんですが、ここだけ空気がまるで違う。ビジネスパーソンが仕事の合間にふらっと立ち寄ってお祈りをしていたりする。大丸有に必要なのはそういう感覚だと思う。

平野: 丸の内朝大学を見ていて感じるのは、一人ひとりに鬱積している思いがあって、それが朝大学でパンと弾けて面白くなっている。もしもそれを全部実現させることができたら、一つレベルを突き抜けることができると思います。

古田: 皆、どこか最後が突き抜けられない、そんなところでしょう。難しいけれど、それを乗り越えていくことですね。音でいうとレコードはCDと違って余分な雑音が人を感動させたりすることができる。いまのデジタル社会に欠落している部分かもしれない。

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平野: 普通のやり方だと、どうしてもパッケージ化されて、もの足りなさや不満がたまってしまいますよね。たまったものを、自分の中にしまい込むのではなく、パワーに変えてぶつけてみれば、何か新しいものが生まれるかもしれません。

黒田: いまは、朝大コミュニティと大丸有というものがとても乖離している。そこをまず埋めることから考えてみてはどうでしょうか。実は朝大学は閉鎖的な世界だと思います。募集開始から僅か1分で満員になるクラスもあるくらいなので、先行予約の権利を持つリピーターやラッキーな人しか受講できない。また、安くない費用を負担できる余裕も必要。皆、一部の限られた人です。ですからもっとオープンに気軽に朝大を体験できるプランを、大丸有のコミュニティに対して実行する。例えばカレークラスがセレクトした、このまちで食べられる世界のカレーを堪能するフィールドワークや、温泉クラス主催の大丸有近隣の銭湯を回るツアーを、大丸有のワーカー対象に募集する。そんな朝大発の地域コミュニティ向けの企画で、多くの人を巻き込んで行くというのはどうでしょうか。

六本木ヒルズで開催されている「ヒルズブレックファースト」は、経営者やワーカーが参加してユニークで新しいアイデアを次々発表するプレゼンテーションイベントです。大丸有にもそうした面白い人材や発想はたくさんあるはずなのにプレゼンの場がありません。「何かやっている」「面白い地区だね」って言われる呼び物があってもいいと思います。

平野: それを朝大生がやればいい。絶対できると思います。

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高橋: 朝大生以外のワーカーから生まれる活動が見当たりません。それが出てこなければ変らないと思います。でも出てきた時に、このまちに足りないのは「場」なんです。場がとにかく欲しい。私たちも何かしたいと思っても、場探しで挫折しています。

古田: ここには生活という要素がありません。遊びも含めて生活の場の余白のような場所が大事なんです。美しく整備された緑はあっても、余白の場がここにはないんですよね。

橋之口: 遊びや生活ではなく、仕事と仕事のために通り過ぎるまちという感じなのかもしれないですね。

鮫島: そもそも「大丸有」という言葉だってほとんど耳にすることがありません。特に私の会社は有楽町にあるので、そう感じるのかもしれませんが。まして地下通路を使って行き帰りすれば地域への意識や愛着、地域の一員としての連帯も生まれません。例えば大丸有だけの休日を作ったりすれば、連帯感が生まれるかもしれないですね。

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橋之口: 仕事のイメージが強いためか、土日祝日は、別のところへ行きたくなりますね。結構そういう人が多いと多いと思いますよ。

黒田: このまちに朝大学というコンテンツや楽しみがあるのだから、それを一般ワーカーの方にも楽しんでもらえるような工夫ができればいいですね。

古田: ロンドンで行われている、チャリティマラソン「ザ・グレート・ゴリラマラソン」は警官までゴリラの扮装をしてユーモアたっぷり。3月の丸の内駅伝ではネクタイを襷代りにというアイデアさえも没になりました。それを面白いと思う人がたくさんいることに、気づいていないんだと思います。

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3. まちづくりとしての大丸有

3. まちづくりとしての大丸有

― ほかのイベントでも、なかなか新たな試みができないという現実はありますが、それをまず変える必要がありますね。

古田: 大丸有名物となるような、オリジナルなものが必要です。いまのところは、平野さんが企画された、ビッグウィークエンドくらいですね。

平野: そうですね。ビッグウィークエンドは名物になる可能性のある企画だと思います。2011年8月に第1回めを実施した後、次の予定を立てていませんが、これからでも、やろうと思えば大丸有名物となるものができると思います。

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黒田: ワーカーの方のほうにも帰属意識が足りないと思います。自分のまちというより職場でしかない。でもまちづくりは帰属意識が欠かせません。まずそれを醸成する努力が必要かもしれません。まちを知って、興味を持ってもらい、好きになってもらう。差異化によって自慢も生まれ、誇りも感じる。この界隈は歴史のあるまちだから、例えば「ブラタモリ」のように、古地図を片手に歩いてまちをより深く知る、といった具合にやり方はいくらでもありますよ。

高橋: ビジネスの一大拠点ならではのアイデアもあるでしょう。社長室探訪とか、社食巡りとか。一般ワーカーから参加者を募ってやれば、いろいろほか社の人との横のつながりも生まれてきます。

古田: これまでは企業と企業の連携が軸になっていたように思います。それではできることは限定されてしまう。本当はそこに働く個人と個人の連携がもっとも活性化には有効だと思いますね。企業が前に出てくるイベントというのは、ほとんど盛り上がりません。

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橋之口: たしかにこの地域で働く人は、会社への帰属意識を引きずっています。それを切り離さなければいけませんね。

黒田: 丸の内朝大学のいいところは、職場や肩書きを一切語らなくて済むところです。まっさらな個人としてつきあえる。

橋之口: しかし、大丸有はけっこうまちの雰囲気はいいですよ。仲通りとなどオープンカフェをずらっと並べたら、ほかにはない素敵な景色になります。オシャレだけど値段も高いということは止めて、気軽に楽しめる店にして。リーズナブルならワイワイ人気が出て、八重洲や新橋に流れなくなりますよ。

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高橋: 海外などにはオフィイス街の一画にスタンドバーなどがありますが、そんな雰囲気が大丸有にはありませんね。そんな場所があれば、ほかの会社の人とも交流ができたりしますよね。

鮫島: 自分の会社が入っているビルでも、ほかになんの会社が入っているのかわからないし、どんな人が働いているも知らない。でもそんな場所があればきっと知り合いになることができて、つながりが生まれますね。

古田: いまは、仲通りなどに高級ブティックが並んでいますが、つぎの10年でまちも変って、コミュニティも大きくなるでしょう。ですからエリア内でコミュニケーションができる場をたくさんつくる、という戦略が大事だと思います。

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4. まちづくりのテーマとリソース

4. まちづくりのテーマとリソース

― これからは賑わいで人を呼び寄せるだけでなく、呼び寄せてどうするか、どんな人を呼ぶのか、が大切だと思います。10年後を見据えてご意見をお聞かせください。

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古田: 「ウォール街を占拠せよ」について、日本の報道ではデモと報じられていましたが、始まりはディベートだったんです。ストリートでディベートするなど、日本では考えにくい。つまりテーマなんです。大丸有には場も必要ですが、もっと重要なのはテーマだと思うのです。丸の内朝大学は場ではなく、朝を有効活用しようというテーマに多くの人が集まったのです。ただ場所だけをつくっても閑散としている地方の多目的ホールのようではしかたありません。

黒田: 見ているだけでなく、参加しているという意識ですね。そして必要なのはつながるためのテーマでしょうか。人がつながれば、いろんな議論ができ、いろいろな活動が生まれます。

古田: 鎧を脱いで、いろいろ交流できる場でもあれば、交流を通じて連帯も生まれ、大丸有という地域への意識も芽生えるのでは。その意味で、一つのアイデアですが、ここにシェアキッチンが作られ、皆、自由に使えたらどうか。最近の超高層マンションにはパーティルームがあって、同様にコミュニケーションの場となっています。

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高橋: 朝大のようにテンションの高い、好奇心の旺盛な人の集まりなら、連日一杯でしょう。それなら簡単に参加できそうですし、横のつながりも知らないうちにできるかもしれませんね。

古田: 何事も、一人の凄く熱い人間が会社や周囲を巻きこんで動かさないかぎり変化は起きません。そこにテーマがあれば、さらにいい。例えば危機感。いまは絶好のチャンスかもしれません。

鮫島: 私が地域プロデューサークラスを受講したのは、東日本大震災がきっかけでした。はじめはグループワークがあるので、疲れたまま出社することにためらいがあったんですが、ちょうど震災がおき、突き動かされるように地域のことを考えてみたいと思ったんです。

橋之口: 有事の時は、誰しも何かやらないと、となる。それが一つになる仕組みが大事になりますね。

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黒田: 丸の内朝大学の人は、まずは自分が楽しいからという理由でもいいから、地域の人を巻き込んで、楽しいことを拡げていく、というスタンスでいいのではないでしょうか。

平野: 大丸有の人たちは消費者レベルが高いと思います。真っ白なキャンバスに即、描ける人は少なくても、ポテンシャルは高いから、何か面白いもの、社会のためになりそうなものがあったら、すぐ飛びついてくれると思いますよ。

橋之口: 面白いというインセンティブですね。それがテーマとなるかもしれません。ただ楽しいだけで十分なのかも。そう考えると、朝大のコンテンツを外に見せる場所があるだけで、変化を招くかもしれない。紙やウエブではないリアルのコンテンツなら、効果があるはずですから、そういう仕掛けをつくってもらいたいですね。

古田: われわれ朝大生の役割は、大丸有の皆さんが、自ら参加して走り出したくなるような、面白いレースをいくつも用意することなんだと思います。

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黒田信

黒田信(くろだ・しん)

株式会社日本経済新聞社編集局生活情報部次長。朝大学受講クラスは地域プロデューサークラス、コーラスクラスなど。好きなまちは、JR中央線の西荻窪界隈。荻窪生まれ、西荻在住なので、ホッとする。

鮫島冴映子

鮫島冴映子(さめじま・さえこ)

株式会社ニコン経営企画本部CSR統括部社会貢献室。朝大学受講クラスは地域プロデューサークラス、インスピレーションサイクリングクラスなど。一番好きなまちは、沖縄。飲み屋に行くと、初対面でも一緒に呑んでくれたり、お店の人も呑みながらやっている、そんな雰囲気が好き。

高橋実加子

高橋実加子(たかはし・みかこ)

アズビル株式会社経営企画部広報グループマネジャー。朝大学受講クラスは地域プロデューサークラス、究極のカレークラスなど。好きなまちは、築地。朝大学に通うようになってから、朝が早いまちが好きになった。カレー好きなので、カレー屋が多い神保町も好き。

橋之口浩

橋之口浩(はしのくち・ひろし)

金融会社勤務。朝大学受講クラスは農業クラス、地域プロデューサークラスなど。好きなまちは、仙台と金沢。地方の城下町としての伝統・文化と都市の部分が上手にハイブリッドされている。終の棲家にしたい。

平野美奈

平野美奈(ひらの・みな)

ベインキャピタルジャパン。朝大学受講クラスは環境・ソーシャルプロデューサークラスなど。一番好きなまちは、ニュー・ヨーク。みんなが自己主張しているのに、それがものすごく美しく感じて、理想的。

古田秘馬

古田秘馬(ふるた・ひま)

プロジェクトデザイナー、株式会社umari代表。1999年にノンフィクション本「若き挑戦者たち」を出版。大丸有の「丸の内朝大学」など、数多くの地域のプロデュース・企業ブランディングなどを手がける。好きなまちは、例えば新潟市の古町とか、地方にはいいまちがいろいろあるので、日本の地方を明るくしたい。

編集部から

職業や肩書きにとらわれないフラットな関係のなかで、さまざまなコミュニティが生まれている丸の内朝大学。そこに集う人たちに共通するのは「貪欲さ」だ。今回でも「おもしろいことをしたい」、「人を驚かせたい」と熱い議論が交わされた。そのなかでも、座談会で飛び出した「朝大学は大丸有の余白やノリシロみたいなもの」という言葉が印象に残っている。閉塞感漂う今、この余白かもしれないが、この自発と協働のコミュニケーションが、世の中を変える可能性を秘めている気がする。

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