イベント丸の内井戸端会議・レポート

【レポート】丸の内井戸端会議第2回 ~本当に多様な社会を作るには~

2014年12月17日開催

ゲストプレゼンの紙芝居を塗り絵にして遊び子どもたち

「多様性」って何だろうか

女性の活躍推進、社会・企業のダイバーシティ(多様性)促進など、新しい企業文化、社会文化の創出は政府が主導するまでに必要とされるようになっています。3×3Laboでも多角的にこうした問題にアプローチしていますが、「とりあえず、ざくっと集まってみんなで話してみよう」というのが、この「丸の内井戸端会議」です。12月17日に開催された第2回では、「本当に多様な社会を作るには」をテーマとし、ゲストに「あきゅらいず美養品」の代表 南沢典子氏を迎え、「森」をキーワードに多様性をめぐるトークセッションを繰り広げました。結論を出すことを目的にしたものではありませんが、楽しくも興味深いセッションとなり、「多様性」について参加者一人ひとりが考えを深化させることができたようでした。

モデレーターは井上岳一氏(ゲストスピーカーも兼任)、エコッツェリア協会・田口氏が司会を務めました。

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「森」はなぜ多様性に富んでいるのだろうか

「森」はなぜ多様性に富んでいるのだろうか

「子どもは親から離れたほうが生存率が高いことは生態学的事実」を示す「ジャンゼン-コンネル仮説」(当日のプレゼン資料より抜粋)

井上氏最初のトークは、井戸端会議の仕掛け人でもある井上岳一氏(日本総研、森林スペシャリスト)から。氏は東大農学部で林学を修めた後、林野庁に入庁し、森林管理の現場に即した行政を行ってきました。その後イタリアの家具メーカー・カッシーナを経て現職に。一貫して森を理想のモデルにした社会構築を目指しています。「前回は女性の管理職30%を取り上げ、ダイバーシティって女性だけでいいの?というところから始まり、でもつまるところ、ダメなおじさんが多いからダメなんじゃないの?という意見もあって、とはいえ、女性が企業戦士になるというのがダイバーシティじゃないだろうと」と、第1回目の下りを話し、「そのうえで、森の多様性を背景に、企業の多様性形成を考えてみたい、というのが今回の場」と説明。宮澤賢治の詩『業の花びら』の一節を引用し、「多様性とは生命へのリスペクトでもある。今回は多様性と生命の原理を森に仮託して語りたい」と話し森の多様性について解説していきます。

最初に提示したのが熱帯雨林です。生物多様性の宝庫であり「地球上の生物の3/4、陸域生物の50%」が生存しているそう。「高低差のある樹木が生い茂ることで立体的に生存層を構成する」のが特徴で、植物をエサとする昆虫、昆虫をエサとする上位生物と続く生物の食物連鎖を支えています。

「森には"ゴミ"とか"害虫"という概念がひとつもない。森ではすべての存在に意味があり、良いも悪いも存在が許されている。ある意味でインモラルな世界かもしれないが、そこに魅力があり、救いがある」

そのような多様性が維持されてきたのは、樹木・森林が多様性を担保するよう進化してきたためなのだそう。
「例えば、親木のそばで稚木は育たたない。親木から離れるほど生存率が上がる。親木をエサにする生物が寄ってきたり若木を食べてしまったり、親木が病気になれば同じ病気にかかりやすいからだ。だから木は種をできるだけ遠くへ飛ばすよう工夫してきた。そのように樹木が工夫するために自然と森は樹種が入り乱れる。森は独り占めを許さないようにできている」

しかし、自然林にはシラカバのように単一種で成立するものもあるのでは?と思うかもしれないが、「優占種が支配的な森はまだ若く、年数を経るうちにやがて樹種が変わり、暗い森(照葉樹林)へと変わっていく」といいます。

熱帯雨林の樹種を色違いであらわした写真。多様な樹種が入り混じり、ランダムなモザイクになっているのが分かる。(当日のプレゼン資料より抜粋)

そのような変化を「遷移」と言います。森に空白地ができるとまず雑草のような1・2年生の草木生え、→多年生草木→雑木林(陽樹林)→照葉樹林(陰樹林)というプロセスをたどるそう。遷移の最後の段階を「極相」「極相林」と呼び、日本ではブナ林などがそれにあたるとのこと。

「しかし、最近の研究で極相も安定ではないことが分かってきた」と井上氏。「災害や何かのトラブルによって必ず空地ができる。これを『撹乱』(かくらん)と言う。極相が続くと多様性が欠如する傾向にあり、生物相の崩壊リスクも上昇する。森林の『遷移』と『撹乱』は生物多様性を維持する礎であると言えるだろう」

このように森林は生物多様性のシステムであるばかりか、システムを存続させる原理をも内包しているものなのです。

「4.5億年前から自分を生かすために進化してきたのが森林だ。森に学ぼうということは、4.5億年の叡智を学ぶということでもある。森の暮らしになんて戻れない、という人もいるが、億年周期で考えれば、これほど経済的なシステムはない。森に学んで社会を作り直す時期が来ているのではないだろうか」

そして、「みんな違うことを前提にした社会、企業の在り方を模索する中で出会ったのが"あきゅらいず"の南沢さんだった。会社のビジョンが『森を作る』で、大変面白い会社」と、南沢氏にマイクを渡しました。

がむしゃらに、でも原点を忘れずに

あきゅらいず美養品は「美をカタチづくるのではなく美を養う」ことを目的にしたスキンケア用品の通信販売を行っています。南沢氏はこの活動を軸に、「あきゅ農園」の運営、「森の食堂」「森の楽校」などさまざまな事業を展開。

この日は「会場にお子さんがいらっしゃると聞いたので、後で塗り絵にもなる絵を描いてきたので、これでお話を進めたい」と、マイクを片手に紙芝居方式でトーク。生い立ちから現在に至るまでのいきさつを軽やかに語ってくれました。

「へそまがりで人の話は聞かない、でものんびり屋で夢見がちな」子ども時代。朝、新橋駅の改札から出てくる勤め人のぎすぎすとした顔を見て、「働くのが楽しくなるような、森のような会社を作りたい」と、社長になる夢を育んだそうです。

南沢氏高校卒業後、大手化粧品会社に入社(「入社式で将来はこの会社の社長になりたい!としゃべって顰蹙を買った」)、販売員として16年勤務。「ノルマを達成してたくさん売れば社長になれると思って」ひたすら販売に精を出していたが、ふと「ノルマ達成が本当に人の肌を楽しませることにつながっているのだろうか?」という疑問を抱き独立。

「原点に立ち返り"美を養う"という観点でスキンケアに取り組みました。"食べること"の重要性にも気づき、ちょうどそのときに『半農半X』という言葉も知ったこともあって、農園にも手を出すようになったんです」

その後は「何かとつながる縁」で次々と新しい取り組みを展開してきたそうです。

「お付き合いのあった物流会社が倒産するというので引き取ったら、定年間近のかたがたがもっと働きたい!とおっしゃるので、その人たちのために定年のない『森の食堂』を始めることになりました。『森の楽校』も、オフィスが移転した三鷹で隣のご家族とお付き合いするために始めたようなもの」

農園から始まった取り組みは、今「土」そのものへと移り、また新たな活動を始めるそうです。「実はほかにもいろいろと頼まれてやったこともいっぱいあったけど、結局最後に残ったのは"心・体・肌"という本業にまつわるものだけでした。これからも鼻息荒くやっていこうと思っています」と締めくくりました。

「多様性」とは、生き方暮らし方、考え方

トークを受けて、井上氏から「文化祭」についての質問が投げかけられました。「文化祭」とは、あきゅらいずが毎年1回開催しているもので、通信販売で対面できない顧客とのコミュニケーションのために、当初は「お茶会」として計画されたそう。しかし、「せっかくなら力を入れてやろうよ」ということで規模を拡大。顧客とともにオフィスのある三鷹の住人のかたがたもお招きして盛大に開催するようになりました。
「予算を付けて、リーダーを決めて、毎年テーマも決めて開催してます。1年目は仕事そっちのけでやったものだから結構大変なことにもなって(笑)。でも社員が普段とは違う顔を見せてくれ、新しいアイデアが出てきて、仕事につながるいろいろなきっかけづくりにもなっています」

また、働き方についても井上氏から投げかけ。「8割が女性で、しかも全員すっぴんとお聞きした」という問いに、「スタッフ全員が中医学の勉強をして、美養の体現者としてお伝えできるようにしている」と説明。また、あきゅらいずのユニークな働き方の制度「貢献人制度」も興味深いものでした。

「毎月タスクを出してもらい、その達成率で給与を支払う仕組み。外部の人がほとんどでほかに仕事を持ちながら、働く日にち、時間、仕事量を自分で決めて働けばいいようになっています。制作のような専門職で採用していますね」

井上氏からは「でも普通、そういう優秀な人材は囲い込みたくなるでしょう。なぜそうしようと思ったのか」ともっともな疑問。

「そういう人は北風と太陽みたいに無理に囲っちゃうと逃げられちゃうかな(笑)という思いもあるし、あと、多様な経験をしている人のほうが、仕事の幅が広がるかとも思う」と南沢氏。氏は化粧品会社の勤務時代、海外留学をしたくてこっそり銀座のクラブや吉祥寺のジャズ喫茶で副業をしていたこともあるという。「その時の経験が、販売にもすごく役立った。いろいろな仕事をしていることは、本業をするうえで肥やしになると思った」と、当時を振り返り、だからこそ多様な働き方をしている人を活用したいと思ったのだという。

また、会場からは南沢氏と同様に独立して事業を起こしている人から「男性をどううまく使うか?」という質問がありました。

これに対し「女性には、その場その場で叱ったりほめたりして小さな達成感を与えていくことが大切だけど、男性はそれじゃダメ」とアドバイス。
「男性には少し長い時間の感覚が必要で、『私、こんなことをしたいんだ』という夢を語るのが大切。その夢を実現するために、男性は1カ月くらいは頑張ってくれる。それに失敗してもチマチマ言わない。でもうまく行ったときには『すごいのね、実現してくれたんだね!』と喜んでほめて、また夢を語るとまた頑張ってくれます(笑)」

このほかにも、多くの質問が飛び交いトークセッションが盛り上がりましたが、それも南沢氏が多様性を受け入れて、実に多様なスタイルで事業を展開していることと無関係ではないでしょう。多様性とは制度によって決まるものではない、そんなことを考えさせられるセッションになったのではないでしょうか。

どこか具体的な着地点を目指すのではなく、「とりあえず」テーマを確認し、皆で考えて議論する。トークセッション後の懇親会まで、そんな「場」である井戸端会議らしい盛り上がり方で今回も終了となったのでした。


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「女性の働き方」について考える

丸の内井戸端会議では、女性が企業で活躍していくための課題とそれをクリアしていくための知恵を、参加者が共有する講座を提供しています。女性がリアルに語る"自己実現"についての講演をもとに、ライフステージを意識した時の働き方について、さまざまな観点から議論をしています。

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