イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】生の地方創生の現場に直面した上級編(後編)

丸の内プラチナ大学逆参勤交代コース 熊本県南阿蘇村フィールドワーク(2018年9月6日(木)~9日(日)開催)

地獄温泉 青風荘 “奇跡の湯”こと「すずめの湯」の前にて

8,11,15

「上級編」と言われた、緊張感に満ちたフィールドワークとなった南阿蘇村。初日は阿蘇ファームランドの健康コンテンツの体験、2日目は村の観光資源や震災被害の様子を見て、地元キーパーソンとの意見交換を行いました。

フィールドワーク後半はまた異なった角度から阿蘇ファームランド、南阿蘇村を見ることになり、さらに深く、深く地域へと入り込んでいくことになります。最終日の村長を前にしたプレゼンに向けて、受講生一行の熱気も弥が上にも高まっていきます。

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さらに深く地域の課題にダイブする

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<3日目・9月8日(土)>阿蘇ファームランド課題解決ワークショップ→阿蘇東急ゴルフクラブ→地獄温泉→阿蘇山上→阿蘇健康農園・キノコ工場

3日目は、午前中に阿蘇ファームランドをテーマにしたワークショップ、午後は再び視察で村内を回り、異なった視点で南阿蘇村の理解を深めていきます。

▼阿蘇ファームランドの課題に切り込む

いよいよフィールドワークも大詰めを迎えようとしています。最終日に行う課題解決プランの作成の準備に取り掛かるのがこの日。最終プレゼンには、これまで会ってきた村長以下、村内のキーパーソンが全員が参加する予定なだけに、受講生達も自然と熱が入っていく様子。

3日目の冒頭は、原点に立ち返って阿蘇ファームランドの課題を改めて確認します。

竹田氏

まず、社長室長の竹田氏が、阿蘇ファームランドの事業概要、これまでの経緯を解説しました。阿蘇ファームランドの母体は石川県に拠点を置く企業でしたが、自治体の誘致を受けて1995年に阿蘇ファームランドを設立。宿泊施設のほか、建材としてのドーム製造販売、バイオ含む植物工場事業、農作物の生産販売事業などを行うグループ企業も設立。ドームは阿蘇ファームランドの宿泊施設の建物としても利用されています。こうし活動が認められ、国が認定する先進的な国立公園での取り組みのひとつに選ばれており、震災前には来場者数は350万人、年間売上は40億円でした。しかし、現在はどちらも4割減。働き手の不足も問題になっています。

阿蘇ファームランド、宿泊施設の「ファームヴィレッジ」。このドームひとつひとつが宿泊施設になっている。ファンタジックな世界観で、レイヤーにも人気だとか。震災時には避難施設として提供された

こうした背景を受けて、ファームランドの各事業部から、竹田氏が課題をヒアリングし、整理してきたものが以下の9項目です。※発表されたものを編集部で整理

(1)阿蘇ファームランドの健康増進プログラムの効果的な広報、営業(販売)手段は、どのようなものが考えられるか
(2)阿蘇ファームランドの健康増進プログラムを体験した結果(後)、どのような効果が見えると分かりやすいか
(3)宿泊型プログラムでは、お客さまに開放感を味わっていただくため、スタッフの無人化を考えているが、料金に見合ったサービスとはどのようなものが考えられるか
(4)阿蘇ファームランドの健康増進プログラムのためには、働く社員も高い健康意識を持つ必要があると考えるが、意識改革の特効薬としてどのようなものが考えられるか
(5)雇用で、求人数と応募・採用数がかけ離れている問題があるが、どのような企業アピールをすれば「働きたい!」と思ってもらえるか
(6)本格的な健康増進施設としての、幅広い年齢・ターゲット層に向けた健康ブランディング戦略とは
(7)地域活性化とヘルスツーリズム・健康増進をどう結びつけるか
(8)阿蘇ファームランドの施設全体、特にドームホテルを拠点としたリモートワークプランづくり
(9)地域(南阿蘇村)を巻き込んだ、ファームランドでできる健康イベント・集客イベントを企画してほしい

左が営業部長の中司氏。右が渉外部長の竪山氏。竪山氏は、今回の南阿蘇村側の座組みを整えた立役者

各項目とも一筋縄ではいかない状況があり、そのひとつひとつについても説明がありました。例えば、(6)では、従来3世代やヤングファミリー向けの施設として利用されてきた中で、「健康」をテーマにした途端、高齢者イメージが強くなり、幅広い世代にアプローチできていないという問題があります。また、季節に左右されない訴求のあり方も問題です。

もうひとつ例を挙げると、(7)では、「なぜ阿蘇で『健康』なのか」という本質的な問題を孕んでおり、阿蘇ファームランドだけで完結できない問題になっています。この日、竹田氏とともに参加した同社営業部長の中司竜一郎氏が「何をするか、誰に向けたサービスか、の後に続く『なぜここなのか』というラストワンピースが欠けている」と話すように、「健康×阿蘇」の方程式の必然性の問題であり、阿蘇全体でのブランディングにも関わります。

これらの解説を受けて、阿蘇ファームランドのスタッフの皆さんにも加わっていただき、テーブルワークを行いました。受講生も現地視察等で南阿蘇村、阿蘇ファームランドの理解を深めてきましたが、まだまだ情報が足りないところもあります。テーブルでは情報の補足をするとともに、アイデアを出し合い、実施例の有無や可能性を探るなどのやりとりがされていました。

松田氏は、提案のフレームワークを「What・Why・Who・How」の4項目で考えその中心に「I=自分」を置くように受講生達に指導。Whatは「何を」、Whyは「なぜやるのか、それによる効果は何か」、Whoは「誰に向けて(対象)」、そしてHowは方法、事業手法です。その中心に「自分」を置くのは、あくまでも自分ごととしての提案でなければならないから。

「今、地方はいわゆる『提案疲れ』に悩んでいる。特に熊本は震災以降、多くの人がさまざまな提案をしてくるが、事業を行う主体が不在の無責任な発言も多い。丸の内プラチナ大学は、あくまでも自分自身が何をしたいのか、どう取り組むのかという視点から南阿蘇村と阿蘇ファームランドの問題を考えなければならない」(松田氏)

発表は、今年から模造紙1枚にまとめるのがスタンダードになっています。「パワポでまとめると、長くなる人はどこまでも長くなってしまうから」というのが理由ですが、とにかくシンプルにわかりやすくまとめるのが一番、ということ。午前中のセッションでは議論とアイデア考察まで。模造紙へまとめる作業を午後にゆずり、再び視察の旅へと出発します。

▼村内の施設で復興への思いを知る

午後最初に訪れたのが、阿蘇東急ゴルフクラブです。震災で大きな被害を受けましたが、2018年7月に営業を再開、現在は9ホールを回れるようになりました。ここでは現在、復興ツーリズムへの取り組みが始まっています。

阿蘇東急ゴルフクラブから白川・黒川の合流地点。左の山が北向山原始林

東急不動産 清水氏事務所長の清水治郎氏の案内で、テラスから白川・黒川の合流地点を見下ろします。ここは、左手に白川、右手に黒川が見え、正面には黒川と合流した白川が熊本市へと流れていく立野峡谷が見えています。黒川側には、崩落は免れたものの大きなズレのために通行止めになり、2017年8月に再開通した阿蘇長陽大橋があります。その脇は地震で崩落した山の斜面をコンクリートで補強する作業が進められており、その更に上流には、阿蘇大橋の復旧現場を見ることができます。

白川側の山は、北向山原生林。阿蘇外輪山の内側は、牧草地に見られるように人間が手を加えることで調和の取れた自然・生態系が形成されているのが特徴ですが、その中で唯一、人間の手が入っていない原始の姿をとどめているのがこの山です。地震で一部斜面の土砂崩れ、崩落が見られますが「人間の手が入っていないことが特徴」との判断から、保護などの手を加えることなく、自然に任せることになりました。

そして、白川に沿って奥を見ると、南阿蘇鉄道の第一白川橋梁が見え、その奥に「立野ダム」が作られることになります。第一白川橋梁は、地震の被害のためこれから再建されることになっていますが、かつては日本一の高さを誇った鉄橋だけに、ここからの姿も堂々たるもの。

川が湾曲しているため、立野ダムの現場までは残念ながら見えませんが、かように、震災の爪痕と復興の現場が、足下に一望できる場所はそうそうありません。現在は災害教育のため、修学旅行の受け入れなどを検討しているそうです。また、クラブ内のレストランでは、いち早く立野ダムを題材にしたダムカレーを開発し、一日限定20食で提供を開始。受講生一行もカレーをいただいて、次の視察先へと向かいます。

続いて訪れたのは「地獄温泉 青風荘」です。南阿蘇村は温泉郷としても有名で、組合に加盟する温泉旅館は9件ありますが、それぞれ温泉の泉質や効能が異なります。「南阿蘇温泉」と一括りにできないバラエティ豊かな温泉郷なのです。

そのうち青風荘は、江戸時代に開業した由緒ある温泉宿で、みなみあそ村観光協会代表理事を務める河津謙二氏が副社長。お兄さんが社長、謙二氏ともうひとりの弟が副社長。この三人は付近一帯では「地獄三兄弟」と呼ばれ、地域全体の復興でも中心的役割を果たしています。

河津氏の説明で、往時と現状を比較する面々

写真上)本館2階の様子。ふすまで仕切られた小部屋、ふすまを開け放てば大広間になる昔ながらの造り。(写真中)再建中の奇跡の湯こと「すずめの湯」。空気にふれると白化する。(写真下)河津氏が着ているのは、復興を期して垂玉温泉とコラボして作成した復興Tシャツ。背中には地獄・垂玉の陰陽、正面は地獄温泉のキャラクター「ぬっかモン」青風荘の大半の建物は、地震の後に発生した土石流に飲み込まれ、解体を余儀なくされました。残されたのは明治年間に建てられた本館、レストランとして利用していた曲水亭だけ。それも1階部分大量の土砂が流れ込み、「解体したほうが安い」と言われたのだとか。

「しかし、200年の歴史のある建物で、どうにか残したいと思った。震災後にボランティアを募ったところ、温泉のファンが2、300人も集まってくれて、床下に入り込んだ土砂を書き出し、きれいに拭き上げてくれた。2020年の開業を目指して、なんとか頑張りたい」(河津氏)

唯一土石流の被害を免れた露天の「すずめの湯」は、営業再開を目指してリニューアル中。火山性の温泉なのに源泉のまま入れるという珍しい湯で、「奇跡の湯」とも呼ばれています。「土石流の被害も奇跡的に免れた。まさに奇跡の湯で、希望の象徴だと思っている」と河津氏。一行は残った本館やすずめの湯の現在を見て、青風荘のこれからに思いをはせるのでした。

そして地獄温泉を後にした一行は、阿蘇五岳のひとつ、中岳の火口の見学に行きました。霧で眺望は得られなかったものの、雄大な火口や牧草地として知られる草千里ヶ浜や、美しいフォルムの「米塚」(スコリア丘、噴石丘)なども見ることができ、イマジネーションを膨らませます。

▼阿蘇ファームランドのグループ企業

この日は弾丸ツアーで、火口から降りてすぐに、阿蘇ファームランドに隣接するグループ企業「阿蘇健康農園」「阿蘇バイオテック」が取り組んでいる植物工場、キノコの栽培工場を見学しました。

(写真上)阿蘇健康農園の原田氏。自身でヨーロッパを回って技術を学び機材を調達してきたという。(写真下)ドームハウスを使った育苗の実験。現在はLEDの色の見直しも進んでいるという阿蘇健康農園では、8200平方キロメートルの面積でのヨーロッパ型植物工場を行っており、バジルやリーフレタスなどの葉物、トマト、ピーマン、パフリカなどの果菜類を生産しています。案内してくれた同社代表取締役の原田大介氏は、植物工場のメリットを「年間を通して安定した収穫が可能で、高品質のものを低価格で提供できる」と話しています。施設全体や機械類の多くはオランダ、イスラエル、ノルウェーなどの外国製を採用しており、「日本の機械技術は、この点ではまだまだ立ち遅れている」と説明。

その一方で、グループ企業が製造し、阿蘇ファームランドの宿泊施設でも利用しているドームハウスは、堅牢で断熱性も優れており、製造コストが低いため、外国の植物工場事業者からの問い合わせが増えているのだとか。機能性食品の開発・生産とともに、生産システムの開発研究に取り組むグループ企業の阿蘇バイオテックでは、大学などの研究機関とコンソーシアムを構成し、ドームを使った施設園芸の研究を始めているそうです。

また、阿蘇バイオテックでは機能性食品としてキノコの「霊芝」の栽培に力を入れており、手軽に摂取できるお菓子などの開発にも取り組んでいます。視察では、霊芝の栽培現場という貴重なものを見ることもできました。

▼明日に向けて

村内視察を終えた受講生たちは、ファームランドに戻っていよいよ模造紙へのアウトプットを開始。すぐまとまる者もいれば、なかなかまとまらず、夕食までの時間に終わらなかった人もいましたが、夕食後の時間も使って、なんとか明日の発表に向けて仕上げることができたようでした。

終わりは始まり

<4日目・9月9日(日)>南阿蘇村・阿蘇ファームランドの課題解決プラン発表

4日目はいよいよ大詰め、村長ら村のキーパーソンのみなさんに、検討してきたプランを発表します。

▼本気の「私」の発表へ

開会に先立ち、講師の松田氏は受講生、村のキーパーソン双方に向けて次のように述べています。
「受講生たちの提案は、すべて自分を主語にした、実行可能なプランになっている。そのこころは、各地で見られる『提案疲れ』。言うだけの提案は、もう地方では響かない。『私がこれをやる』という『私』主語の提案こそが、都市から地方を支えるきっかけになるだろう」(松田氏)

先述の通り、What・Why・Who・Howを、私主語で示し、「~~プロジェクト」というタイトル付けがされています。以下、発表順にプロジェクトタイトルを記します。

(1)阿蘇ファームランド稼働率アッププロジェクト
(2)プロポーズ大作戦(婚活)~ASOで元気をもらおう!!
(3)阿蘇ファームランド スーパープレミアムコース創出プロジェクト
(4)「サテライト」×「ヘルシーワーク」で来訪者2万4000人アップ
(5)あなたと南阿蘇村のお互い様プロジェクト
(6)MG B/G 48 プロジェクト(南阿蘇、元気な ばあちゃん/じいちゃん 48 プロジェクト)
(7)リソースシェアリングプロジェクト――阿蘇ファームランドオフシーズン稼働率アップ
(8)阿蘇ファームランドを核とした"南阿蘇村発 生涯を通じた健幸づくり"推進プロジェクト

村長が、村の小学校の運動会へ挨拶に行くために遅れて参加。そのため最初は野﨑真司副村長が中心となって、発表プランへの講評を述べてくれています。受講生からのプランはジャンルの幅が広く多岐にわたるものですが、その一つ一つに対して、村で行っている施策との比較、実行可能性、村からの要望・課題などを事細かに語ってくれました。

野﨑副村長

中でもサテライトオフィスについては、移住定住促進の観点からも、これから村で注力したい領域であるとし、要件整理のための意見が聞けたことはメリットとなったと話しています。

「移住希望者が南阿蘇を選ぶことはできても、こちらからは移住者を選ぶことができない現状がある。例えば有機ではない農業をしているエリアに有機農法をやりたいと入ってくるような、受け入れが難しいケースもある。ミスマッチやアンバランスを解消するために、サテライトオフィスを効果的に使うことができれば、うまく回せる可能性があるかもしれない。今旧庁舎や学校などのリソースを活用することも検討しているが、予算を掛けてリノベして、本当に入るのかどうか、そこを考えるヒントがあると具体的になるだろう」(野﨑副村長)

また、倉岡課長や河津氏は、リソースシェアプロジェクトで、逆参勤交代で都会から来た人が草刈りなどの入会地での農作業や地域の小就労を担うというアイデアに興味を示していました。
「都会の人がそんなに草刈りを楽しんでやりたがるとは思わなかった。楽しみながら参加してもらうことが、地域の労働力不足という課題解決に結びつくのであれば、それは素晴らしいことになる」(倉岡課長)

ほか、元気な高齢者を活用するプランに対しては、村の介護保険費が熊本県で一番高いことから、「高齢者が観光客のために仕事をしながら、温泉で元気になったら村の課題解決になる」(河津氏)、「高齢者は一人になると、ご飯を食べたり風呂に入ったりすることさえ億劫になってしまうが、人のために仕事をすることで、元気を取り戻せたらいい」(倉岡課長)といった声が聞かれました

その先は、両者入り乱れての議論、意見交換となり、提案されたプランが本当に観光のキラーコンテンツになるのかどうか、本当に人が来るのかどうか、とかなり立ち入った議論にまで及んだシーンも。

「そういうものを作って、人が本当に入るのか。都会の人に本当にアピールすることができるのか。リモートワークも、ヒアリングすれば『いいね、行きたいね』とは言うが、本当に一歩踏み出して来る人はごくごく一握り。定性調査の必要があるなと感じた」(野﨑副村長)

また、健康をテーマにしたプランが見られたことから、村や観光協会も、阿蘇ファームランドとのリレーションを今後さらに深めていきたい意向を改めて示すコメントも聞かれました。受講生の発表が両者の橋渡しとして機能したのであれば、まさに提案した価値があるというもの。

同席していた阿蘇ファームランドの竹田氏は、最後に「体験の多様化と同じように、健康のあり方も多様でなければならないと教えられた」と感想を述べています。
「阿蘇には自然も水も豊かにあるが、利用価値をどう多様化していくか、体験価値をどう広げるかが重要だと教えられた。同じようにファームランドでも、健康のあり方をシステマティックに捉えすぎずに、柔軟に提示できるようにしていく必要がある。村の皆さんにも気軽に利用していただける、ガチガチでないヘルスケアのあり方を考えたい」(竹田氏)

最後に一言ずつ感想を求められた受講生たちは、一様に「自分が南阿蘇村のためにできること」の実行を明言し、決意を語っています。そしてこれらの決意を引き取る形で、講師の松田氏がまとめを述べました。

「今回一回だけ来て、提案しておしまいではなく、『続けること』『深めること』『広めること』が、これからの丸の内プラチナ大学の役割だと思っている。南阿蘇村を多くの人に知ってもらい、僕ら自身が毎年来れる仕組みを作りたい。具体的にはプラチナ大学の南阿蘇分校を開設できたらすばらしい。逆参勤交代構想は、地方も企業も人も、すべてが幸せになる三方一両得の仕組み。丸の内プラチナ大学を通して、南阿蘇村に逆参勤交代を根付かせたい」(松田氏)

吉良村長も途中から発表を聞いており、最後に阿蘇ファームランド、そして丸の内プラチナ大学との連携への期待を語りました。

「繰り返しになるが、南阿蘇は世界で唯一、カルデラの中に人が暮らし、自然と一体になって暮らしと自然を守ってきた地域。豊富な湧水も3000年かけて培われたものだが、その基盤である農業の担い手が減少しているのが問題だ。現代に生きる我々は、2000年先の子孫にまで、この自然と生きる村を残さなければならない。そのために、この景観をぜひ皆さんに利用して楽しんでほしいと思う。また、阿蘇ファームランドの皆さんとは、介護保険料を減らすために、なんらかの連携をとって、気付いたら『なんか南阿蘇の人がみんな健康になったね』と言えるような、そんな村を作り出せたらと思う」(吉良村長)

▼両思いの関係へ

発表会終了後、改めて村長に今回の丸の内プラチナ大学の成果をお聞きしたところ、「最終的には人」と丸の内プラチナ大学への期待を語りました。
「いろいろな提案をいただいたが、卵のようなもので、温める時間が大事だし、温める人も必要だ。それを誰が担うのか。今回の受講生の誰がしかが、それを担ってくれれば、一歩ずつ先に進むのではないだろうか」(吉良村長)

倉岡課長は、今回の意見交換会や発表を通して、サテライトオフィスの要件検討の材料を聞けたことが良かったとしています。
「サテライトオフィスに企業の皆さんに入ってもらうには、どんな要件が必要なのか。どんな設備が必要なのか。それを考える視点をもらえた。あとは、逆参勤交代構想が、本当に企業の皆さんにとっての、CSRなのか、経済的活動としてなのか、どちらにしてもきちんとメリットのある仕組みとして機能することに期待している」(倉岡課長)

観光協会事務局長の久保氏は、アイデアの是非以前に、このような試みが行われたことを、改めて高く評価してくれました。

道の駅で、久保氏から田んぼカヤックや、学生の「ワーキングホリデー」の受け入れについて聞く

「観光産業でも、今は『関係人口』をどうやって創出するかが大きな課題。なかなか観光だけではハードルが高く、難しい問題だったが、こういうプラチナ大学のような仕組みこそやりたいものだった。これをひとつのモデルにして、地域資源や価値化をどう都会の人に伝えていくか。これから改めて考えたい」(久保氏)

村のキーパーソン側からは、なんらかの形で成果を感じてもらえたようでしたが、では、阿蘇ファームランド側はどうだったのでしょうか。

「実際、こんなにいろいろ考えてもらってありがたかった」と話すのは、営業部長の中司氏。面白い意見、提案が聞けたとする一方で、受講生の皆さんには「もう一歩を」とリクエスト。
「もし、もう一度南阿蘇に来て考えてくれるのであれば、阿蘇ファームランドの健康プログラムについて、What、Why、Who、Howに加えて、『When』『Where』、そして『How much』を加えた、5W2Hで考えてくれたら、営業的にはこんなにうれしいことはない。南阿蘇を健康でブランディングするための最後のワンピースをぜひお願いしたい」(中司氏)

再訪を約して空港でお別れ

竹田氏は今回受講生からもらった提案、プランを「実行するフェイズに持っていきたい」と意欲を語ります。
「みなさんに本当によく考えていただいて、課題を洗い出してもらい、面白いプランを考えてもらった。いただいた提案は巻物にして社長に提案し、ぜひ実行できるようにしていきたい。プラチナ大学、逆参勤交代も軌道に乗って、都市部から来る人たちにも提供できるようにしていけたらいいですね」(竹田氏)

懸案だった村との関係性についても「改善の良いきっかけになった」と嘆息。
「今までは健康を売りにしても片思いだった部分がある。今回の丸の内プラチナ大学のおかげで、両思いとまではいかないまでも、お友達くらいにまではなれたのではないか。まだまだご一緒していくにはハードルもあるだろうが、良い形をつくりたい」(同)

▼フィールドワークの終わりはいつも次の始まり

発表の後は、阿蘇ファームランドでお土産を買ったり、希望者は再び健康診断を受けたりと、思い思いの一時を過ごして東京へ舞い戻りました。

今年度の丸の内プラチナ大学・逆参勤交代コースのフィールドワークも、これにて終了です。昨年のヨソモノ街おこしコースの1泊2日から、3泊4日へと期間を延ばして開催されたわけですが、これでどんな成果を求めていたのでしょうか。事務局の田口真司氏はこう話しています。

白川水源の湧水

「3泊4日は長い、無理だという声もあったが、強行してみて分かったのは、より深く地元に入り込むことができること、そして受講生同士の人間関係が、非常に濃くなることだった。丸の内プラチナ大学も今年で4年目となって中味が充実してきており、研修や実習として利用する企業も出てきた。だからこそ、ただ視察して提案して終わりではなく、『実践』を意識したプログラムを構成する必要があった。その点で、受講生同士が交流を深め、お互いに刺激しあえる場となったことは、次の一歩にとって役立つに違いない」

また、逆参勤交代における「ヨソモノ」の役割が整理されてきたのではないかとも話しています。

「今までは、都会のビジネスマンが地方を理解したつもりになって話してしまうという側面がどうしてもあった。しかし、今プログラムを通して、受講生のみなさんが『自分はヨソモノだから分からない、知らない』ときちんと謙虚に認められるようになってきていることが大きな一歩。地方創生の主役はあくまでも地域の皆さん。そこでヨソモノが果たす役割はあくまでもきっかけに過ぎず、ヨソモノとしての『分』をわきまえることが、これからの逆参勤交代構想では重要になるのでは」

久木野そば道場からの風景も美しい

こうした成果については松田氏も同意見です。

「3泊4日になると本気の人だけが参加するようになり、ちょっと参加してみました、という軽い気持ちの人がいなくなる。逆参勤交代構想も社会に根付かせる段階に来ていると思っており、これからの数年は実践に向けた本気の取り組みをしなければならない。その点、今年は3回のフィールドワークを通して、本気の実践に向けたベクトルをうまく見出すことができたように思う」

発表された提案も「地に足が着いたものになってきた」と高評価。

「3泊4日で深く入り込み、受講生、地域、受講生同士の間でも良い化学反応が起きて、しっかりとした提案ができたように思う。人は誰もが『誰かの役に立ちたい』という利他的な貢献欲求を持っているもの。地域で本気で頑張り、ちょっと困っている人たちと、上っ面ではなく、深く知り合えたことが、良い提案につながっているのかも」

今後は、受講生達の提案の実践も視野に入れつつ、地域の人々と交流し、お互いに高め合う場としての「プラチナ大学南阿蘇分校」ができればと期待を語りました。

地獄温泉への道中、霧の牧草地で出会ったあか牛

「まだまだ南阿蘇も困っていることがいっぱいあるはず。今回も生々しいところを直視してきたが、今後さらに阿蘇ファームランド、地獄温泉、道の駅など地域の皆さんと連携して、活動する道を模索したい」

松田氏個人としても、「残りの10年弱の会社人生で実現したい」と、本気で人生を賭けて逆参勤交代構想に取り組んでいます。

鬼官兵衛記念館

実は南阿蘇村は、丸の内プラチナ大学でもお世話になっている会津と深い関係がありました。会津出身の士分"鬼官兵衛"こと佐山官兵衛が、西南の役で戦死したのがここ南阿蘇村なのです。ツアー2日目に、予定にはなかった佐山官兵衛の記念館を急遽訪れ、鬼官兵衛辞世の句を見つけた松田氏は、今回のフィールドワークの最後に、我が身を託してこの歌を詠み上げるのでした。

「君がため都の空を打ちいでて阿蘇山麓に身は露となる」――佐山官兵衛

いくつあっても命が足りない逆参勤交代。終わりだと思うといつも次が始まります。次回・来年度の丸の内プラチナ大学、逆参勤交代コースにもどうぞご期待ください。

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