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【レポート】国産材を使う。森林を守る。

オープニングシンポジウム第4弾「国産材の活用を考える」3月25日

木造建築の減少、安価な輸入材の流入などを背景に、日本の林業の衰退が叫ばれている昨今。今、日本の国土の66パーセントを占める森林は手入れが行き届かず荒廃し、地滑りなど国土保全上のリスクも増大しています。こうした課題に対し、この日のセミナーは、利用の進まない国産材の活用法に迫ります。また、森林そのものの効用を紹介し、いま森林が直面している環境課題も明らかにする内容となりました。

キーノートスピーチでは、慶応義塾大学大学院特任教授の小林光氏が、木材と森林の課題に環境問題の面から迫り、その役割の重要性を語りました。そして、株式会社日本総合研究所(日本総研)創発戦略センターマネジャーの井上岳一氏と建築家で筑波大学名誉教授、そして里山建築研究所を主宰している安藤邦廣氏がゲストスピーチに立ち、森林の効用や日本古来の木造建築の優れた点を示して国産材の活用を訴えました。

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森林は単なる木材供給工場ではない

森林は単なる木材供給工場ではない

まず登壇したのは井上氏。テーマは「木と森と」です。かつては建築資材として主役の座にあった木材が、今はあまり活用されていません。特に国産材は誤った情報の流布もあり、敬遠される傾向にあるのだと指摘しました。日本の森林は、縄文時代以前を除けば、いまは増えているという驚きの話。戦後植林された杉も建築適期である50年を過ぎたが利用が進んでいないのだといいます。このあと、井上氏は木材がなぜ売れないのか、国産材が利用されるには何が必要かについて論を展開しました。

まず、国産材が売れない理由としては、節などの材質の問題があると指摘。さらに、業界そのものの体質にも言及しました。体積を多く見せかけて売る"空気売り"という悪質な販売方法が横行しているのも敬遠される理由です。また、木材に代わる新建材などの登場も木材需要を圧迫しています。では、さまざまな課題を解決して木材の需要を増やすにはどうしたらいいのか。井上氏はオーストリアや小田原の取組みを紹介し、「バリューチェーンの再構築が必要」と指摘しました。

そして、今のまま木材が使われないとどうなるのか、井上氏は大きな警鐘を鳴らします。人の営みのない森林は"もやし林"(樹冠部にのみ枝葉が茂る、枝葉が少ないひょろひょろした木)となり、景観を損ね、安心・安全のない地域になってしまいます。人の手が入らなければ森林そのものが破壊してしまうのです。

これを防ぐにはどうしたらいいのか。井上氏は「森林のファンを増やすこと」と話しています。森林を、単なる木材供給工場ではなく、「人間を幸せにしてくれる場所」として広め、関わる人を増やしていくこと。そのためには、森林と人間を繋ぐ新しいスキームや枠組みを考える必要があり、企業がビジネス的に参画することなどが期待されているそうです。

日本古来の木造建築に注目

続いて登壇した安藤氏は「板倉建築について」というテーマで、日本古来の木造建築の優れた点を紹介し、国産材の利用に結び付けたい考えを述べました

板倉建築(板倉造)は日本古来の建築法で、住環境として非常に優れているものです。有名なのは奈良県にある正倉院。板倉建築は別称を校倉造(あぜくらづくり)ともいい、屋根だけでなく壁にも木材が使われる様式。飛鳥時代に建てられた法隆寺などでは壁に土が使われていますが、これは大陸から伝わった様式で、もともと日本にあった建築ではないそうです。現在の木造建築でも壁に土が使われたりしますが、これは16世紀の戦国時代に戦乱で森林が荒れ、木材が不足したことから利用が始まった様式で、江戸時代に広まったのだそうです。土壁も古くから日本で用いられている建築法と思いきや、大陸の影響を受けたものであったり、環境や社会情勢の変化から広まったりしたものだということに驚きを覚えました。

さて、日本古来の板倉建築を現在にも再現し、木材需要の増加に一役担うというのが安藤氏の主宰する板倉プロジェクトです。しかし、20年30年で建て替えというタイムサイクルでは森林資源はすぐ枯渇する。板倉造の利点は長持ちすること。現在の建築基準法や消防法では板倉造だけの建築は許されていませんが、建物全体の一部だけに取り入れることは可能で、火災などの災害にも強く、「もっと利用されていい」と力説していました。

居室空間内にさらに快適空間を

次のセッションでは、三菱地所株式会社環境・CSR推進部主事の見立坂大輔氏、三菱地所レジデンス株式会社商品企画部グループ長の岡崎新太郎氏、そして、山梨のNPO法人えがおつなげて代表の曽根原久司氏の3名が登壇。コミカルな「モリモリ」アクションで会場を和ませたあとに、「森林CSVを意識した、マンション住戸内の小屋づくり」をテーマに、マンションの居室内にさらに小さな木造の小屋をつくり、快適空間づくりの試みの報告を行いました。会場には3体の"住戸内の小屋"が用意され、その利用のスタイルが示されていました。

木材がつくり出す小さな快適空間を体験

シンポジウムの最後は懇親会。セッションで登場した曽根原氏の地元である山梨県産の米、野菜、地元料理が並びました。会場は、セミナー会場で、テーブル類の配置を整え、大人数でのくつろぎが得られるようにされました。
会場の奥にはセッションで紹介された"住戸内の小屋"の3パターンがそのまま置かれ、参加者自らが小屋の中に入り、癒やしを実感し、感じた利用法は係の女性たちによってアンケートにまとめられていました。


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