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【レポート】地方創生プレイヤーの憂鬱

ローカルシフト研究会で見えてきた地方創生の課題

地域おこし協力隊から地方創生を読み解く

地方創生は国を挙げて取り組むべき大きな課題として、ようやく人口に膾炙したといっていいでしょう。巷間での認知度も上がり、各自治体ごとに練り上げられた地方創生戦略は8月末に提出され、今後大きなムーブメントとなって全国各地で盛り上がりを見せることになることが期待されています。

こうした動きに先んじて、地方創生の主要なプレイヤーとして地方活性化に取り組んできたのがご存知「地域おこし協力隊」です。2009年にスタートし、現在では1500名を超す隊員が全国各地で活躍していますが、その第1期、2期のOBらが中心となって設立された一般社団法人「村楽」と、移住・交流をテーマにローカルな情報を発信するウェブメディア「ココロココ」が共催で「ローカルシフト研究会」を開催しました。

ローカルシフト研究会とは、地方創生をめぐる移住、都市と地域の結び方を模索しようとするもので、この日は地方の行政担当者、NPO関係者らが70名近く出席しました。開催日の前後には移住関連のフェスや、地方創生関連イベントが東京で開催されていたこともあり、日本全国から多くの参加者が集まりました。研究会には、内閣府副大臣・平将明氏を筆頭に、地方で活躍する多彩なゲストが招かれ、5時間にわたる濃密なセッションが繰り広げられました。

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「地方創生」その要は

「地方創生」その要は

平氏の議員10周年を記念して花束が贈られた

スペシャルゲストとして登場した内閣府副大臣の平氏は、「地方創生と言えば石破大臣。政務官は小泉進次郎氏が務めており、講演の依頼に石破大臣が行けないとき、私が行くが『石破さんが来られないなら小泉さんで良かったのに』と言われてしまう(笑)。しかし、地方創生の現場は私が一番関わっているのでご安心を」と笑いを誘い、国が地方創生に取り組むようになった背景とともに、進行中の現状と課題について説明しました。

それによると、地方創生とは「ローカルアベノミクス」に位置付けられます。最初に言及したのは現内閣府大臣補佐官の伊藤達也氏。凍りついた経済を活性化させるために始まったアベノミクスは、2年で株価上昇、有効求人倍率を向上させましたが「地方によってだいぶムラがある」。また、地方から大都市、特に東京への人口流入は進む一方で、「先進国でもここまで人口の集中が起きているのは日本と韓国くらいしかない」そう。「低迷する地方経済が陥っている負のスパイラル」を解決することが喫緊の課題なのです。

そのために今、地方に求められているのは雇用の創出ですが、一次産業の多い地方経済ではそれも難しいとされてきました。しかし、平氏は「この1年で大きなビジネスチャンスがあることを確信した」と断言します。
理由は2つあります。「一つは、アジアが豊かになり、大きなマーケットとして浮上してきた」こと。もう一つは「SNS、動画、スマホなどネット環境が整い、世界への発信が容易になった」こと。そのために国は「財政、情報、人材の3つの面で支援」に取り組んでいると施策を解説。具体的には、一千億円の新型交付金の設定、総務省プログラム「地方創生人材支援制度」、そして地方をめぐるお金と人の動きを可視化した情報サイト「RESAS(リーサス)」の稼働などが挙げられました。

平氏はこうした支援体制を説明するとともに、地方創生では「現場での問題意識が非常に大切」であると話し、「"平さん、それは違うよ~"というようなことがあったら、フェイスブックでもツイッターでもなんでもいい。情報を集約してほしい」と会場に呼びかけ締めくくりました。

行政が"見切った"西粟倉村

現場からのレポートとして、第一部では岡山県西粟倉村役場の上山隆浩氏、岩手県釜石市役所まち・ひと・しごと創生室長の石井重成氏が登壇。「地方創生・移住戦略講座」をテーマに、行政側から見た"うまくいく"地方への移住、外部からの人の呼び込み方などを語りました。

西粟倉村・上山氏西粟倉村では、「森の学校」「村楽エナジー」「トビムシ」など地方創生のモデルとも言える事業展開が進んでいます。これについて上山氏は「村役場職員は38人しかおらず、できることは限られている」と"見切り"を付けて、「課題は多くあるが、自分たちで全部やれるかといえばノーなわけで、そこをソーシャルビジネスとしてやってくれる人を探し、受け入れようとしてきた」と説明。ポイントになるのは、「行政に求められがちな公平性、平等性はひとまず置いておく」こと。やる気のある人に"やってもらって"モデル化することが大事です。「まずアクションを起こし、成功事例を具体化する。」し、「文書化する、政策化するのはその後からでいい」と上山氏。また、スピードダウンの大きな原因となる「行政の前例主義を排除したり、"合意形成に縛られない"ようにしている。」そうです。

西粟倉村の取り組みは行政のありうべき姿勢の示唆しているでしょう。目的を明確化し、行政側はその目的を最優先にした柔軟な対応を行う。2008年に村が掲げた「百年の森林構想」を軸にしたサイト「ぐるぐる、めぐる。」も開設されており(運営は株式会社 西粟倉・森の学校)、情報発信にも力を入れています。「今年は"定住しなくてもいいんです"をテーマに地域おこし協力隊の募集を行っている。あまり束縛せずに進めていきたい」と、今年度の取り組み概況の報告も行いました。

肝心なのは活用スキームの設計

釜石市・石井氏釜石市の石井氏は、地域おこし協力隊に類する「釜援隊」の仕掛け人です。震災を機に経営コンサルティング会社を辞し釜石市へ移住、復興に向け、これまでの地方行政では例を見ない新しい取り組みを次々と仕掛け、目覚ましい成果を上げています。

釜援隊は、正式名称は「釜石リージョナルコーディネーター」。震災後に6倍に増加した市の予算に対し職員は1.2倍。まちには多くの"隙間"が存在していて、「パブリックサービスの隙間を埋める」人材として創設されたのが釜援隊でした。キャッチフレーズは「"はざま"で価値を生む」。地域活性化に取り組む各団体・企業・行政間で横断的に活動し、中間的なポジションで課題の発掘、事業開発、事業展開などを手掛けています。石井氏によるとこれまでに20名が参加し、7名が"卒業"しているという(うち2名が釜石に残り活動を続けている)。

他の地域おこし協力隊や、人材登用制度との違いとして石井氏が指摘しているのは、ビジョンとミッションの明確化と共有、クロスファンクションな人材配置、第三者的ポジションでの人材登用など。特に「第三者的」という点は、他では職員という形で採用していることが多いため、画期的な形態と言えるでしょう。「フリーランスの立場で地域の調整役として参加してもらうので動きやすい」のが特徴だ。また、100%の時間をあらかじめ定義した仕事に振り向けず、20%はフリーの立場で自由に仕事をして良いという「80%ルール」が、新規事業開発など新しい取り組みを始める余裕、余白にもなっているそうです。

行政が自覚すべき課題

休憩をはさんで後半の第2部は「地域おこし協力隊の導入・運用講座」とし、村楽の理事も務める地域再生プロデューサーの東大史氏、新潟県のNPO法人「十日町市地域おこし実行委員会」の理事・事務局長の多田朋孔氏の2名が、具体的な地域おこし協力隊の運用ノウハウについて講演を行いました。

村楽・東氏東氏の講演は、行政側の課題整理と提案というべき内容。第一期地域おこし協力隊として活動した実績、その後幾多の地域で地方再生に取り組んできた氏ならではの包括的な議論でした。総論として、募集する自治体側が「何をしたいのか」「誰を必要としているか(どのような人物像を求めているか)」が明らかになっておらず、「予算の垂れ流しになっている」という厳しく指摘。現在では応募者も「何をしたいのか」ではなく、給与は居住地、諸条件で選ぶ傾向が強く「単なる条件競争になっている」のです。

そのうえで、「言いたいのは、まず出口から決めましょうよ、ということ」と、例として「地域起業家/政治家」=一点突破モデル、「コーディネーター/水平展開」=審美眼モデル、「職人/専門職」=手に職モデルという3つのモデルケースを提示。 「何をしてほしいのか、という目的からバックキャストして、地域おこし協力隊に必要なキャリアを設定してみてはどうか」と東氏。また、より具体的に「合意形成に必要なのはファシリテーター」「地域外からの交流人口拡大にはコーディネーター」のような役割とスキルをひも解いてみせました。

そして、提言として「募集」と「運用」のレベルでの留意点をまとめています。それによると、募集時には、1)「地域おこし協力隊」という名称は使わない→「伝統食クリエイター」「空家イノベーター」のような"課題×ミッション"のネーミングが望ましい 2)地元側の受け入れ後見人、外部メンターを確保し、面接時から参画してもらうなどの3点が挙げられました。運用時には1)地元内雇用のパイを奪うのではなく創出する、2)契約を1年ごとに見直し、柔軟に運用する、3)その地域への定住を最終目的にしない、といった点が提示されています。

「定住率」を上げる取り組み

十日町市は、地域おこし協力隊からの定住率が84%とダントツに多い自治体です(途中脱落者を除く)。十日町市地域おこし実行委員会の多田氏は、「地域おこし協力隊制度を上手く使いこなす持続的な地域づくり」と銘打って、豊富な事例紹介を交えて報告を行いました。

十日町市・多田氏多田氏は田植え体験をきっかけに十日町に入り定住したいきさつや、これまでの地域への活動参加事例を紹介し、そのうえで、移住に向けては「ステップをしっかり分けて考える必要がある」と説明。1)導入、2)地域との接点を持つ、3)移住、4)定住というプロセスに分解し、それぞれのフェイズで必要な施策を解説しました。興味深いのは、2)のフェイズで行う「インターン」の必要性だ。「交流人口を増やす取り組みもいいが、それだと数千人中数名しか定住しない。それよりも、本気度の高い人を集めるインターンのほうが定住率が高いのでは」と、十日町で行っているiターン留学「にいがたイナカレッジ」を紹介。イナカレッジでは、2013、14年の2年で22名が参加し、なんと8組10名が移住したというから驚きです。

最後に、地域おこし協力隊の活用のポイントとして、地域・行政・協力隊の三者が望むことを明確にし、それが重なる部分に注力すべきこと、さらに、こまめにコミュニケーションをとって意識のすり合わせをするようアドバイス。また、行政側へ「戦略を持つ」「柔軟な対応を」といった細かな注文を付けつつも、地域おこし協力隊側にも、行政のスピード感や意思決定メカニズムなどを理解するよう訴えました。

地方創生の現実を見るために

講演後は、参加者から多くの質問が熱心に寄せられました。いくつかを紹介すると「自治体と民間で発足した事業の権利関係はどうなるのか」「税金頼みからの脱却はどのように考えるか」「本気度の高い自治体はどこか」「人の取り合いになっているようだが、人材確保の工夫は」などなど。「1年ごとに契約更新とは知らなかった。書類のどこを見ればいいのか」と、現役の地域おこし協力隊員からの驚きの質問も飛び出していました。

地域おこし協力隊は、東氏が指摘するように「奇跡の制度」。しかし、自治体側がうまく活用しきれていない現状もあり、今回の研究会で出された提言も、自治体側への強いメッセージを孕むものでした。登壇者の多くが言及した「目的を明確化すること」「定住を目的にしない」は、自治体からの参加者には耳の痛い指摘だったに違いありません。しかし、それは取りも直さず、地方創生が人口に膾炙したといっても、十分に理解されていない、定義されていないということでもあるのかもしれません。「事件は現場で起こっている」はけだし名言というべきですが、往々にして事件が起きている現場が一番状況を分かっていないということも、決してないことではないのです。都市と地方をめぐる議論は、これからが本当の本番なのかもしれません。


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