シリーズコラム

【さんさん対談】企業の「利益」と「社会性」は、必ず両立できる

鎌倉投信 新井和宏氏 × エコッツェリア協会 田口真司氏

3☓3Laboの仕掛け人、田口真司氏が聞く対談シリーズの第3回です。今回は、鎌倉投信株式会社の運用責任者である新井和宏氏をゲストに迎え、公開型で行われました。

投資や資産運用というと、「顧客にいくらの利益をもたらしたか」という数字のみが評価の対象になりがちです。しかし新井氏が仲間とともに創業した鎌倉投信は、その常識を打ち破る、新たな投資信託の運用会社として注目を集めています。

「いい会社に投資する」というのが、鎌倉投信が運用する「結い 2101」の投資スタイル。社会性や地域貢献度を重視し、会社の規模や知名度に関わらず「これからの社会に本当に必要とされる会社」に投資を行っています。とはいえ理念だけの「頭でっかち」ではありません。「結い 2101」は、投資家のために着実に利益もあげており、2013年には『R&Iファンド大賞2013』において最優秀ファンド賞を受賞しました。

なぜそんなことが可能なのか――。
今回は新井氏に、投資の秘密や裏舞台を、たっぷり語っていただきました。

客観よりも主観で投資先を選定

田口:公開対談ということで、まずはご来場のみなさんへ、ご自身の経歴などをご紹介いただけますか。

新井:はい。私が金融業界に入ったのは、1992年です。住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社しました。いわゆる「バブル最終入社組」と呼ばれる世代です。信託銀行には8年ほどいて、その後、外資系のバークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に転職しました。この会社は、当時日本で最大の運用機関でしたが、ほぼプロ向けの投資しか扱っていなかったため、一般にはあまり知られていないかもしれません。そこで約8年働きましたが、ストレス性の難病にかかりまして、退社しました。

そんな状況でしたから、「もう二度と金融では働きたくない、引退しよう」と考えていたのですが、2008年4月に法政大学の坂本光司先生が書かれた『日本で一番大切にしたい会社』という本と出会います。それに感銘を受け、「自分もそういういい会社を応援する仕組みを作りたい」と思いました。そして、2008年11月に、仲間3人と創業したのが鎌倉投信という会社です。

田口:新井さんの講演やお話しを聞く中で、印象に残っている言葉があります。まず、私の心にとどまり続けているのが「金融は社会の血液である」ということ。「金融自体が何かを生むわけではないが、金融という血液がないと社会が回っていかない。そこで、いい会社に投資して血流を流していって、いい社会をつくっていく」という金融論は、とても腑に落ちました。もうひとつが、「客観ではなく主観で会社を選択していく」ということです。投資先を決める基準を、客観性のもとに定量化することもできると思いますが、あえて主観にこだわっていますね。

新井:金融機関や政府系の機関というのは、とにかく客観性を重視します。例えば会議でも、客観的な証拠がないものに関しては、何も反応がありません。別に客観的なものの見方自体が悪いわけではないのですが、僕が金融業界にいて一番気になったのは、客観性しか考えない人が存在するということです。主観があって、それに対して補足的に客観を使うのであれば、それは合理的だと思うんです。ただし、極度に客観に依存してしまうと、そこに本人の意思はなくなります。業務上は、いわゆる責任逃れになりかねない。その究極が金融(特に社会的責任投資)で、「客観的に見るとこうです」という人はいるけれど、「私はこう思う」という人が少ない。そして結局、第三者機関の評価の依存症になってしまう。「第三者の意見により選んでいます。責任はそちらにあります」という具合ですね。

鎌倉投信の「結い 2101」は、客観よりは主観です。企業というのは、人と一緒で、法人格という人格を持っています。例えば田口さんと僕とを比較して「どちらが優れていますか」と聞いても、「どちらがいい、とはいえません」と答える人がほとんどだと思います。法人も同じで、人格があり個性があります。それにもかかわらず、定量的な目線で区切って、「どっちのスペックが上です」というように客観依存で比較評価するというのは、おかしい。企業も「いい人」と同じように、主観で個別に判断するのが自然ではないか、というのが私たちの考え方であり、主張なんです。

田口:金融以外の実業の中でも、似たようなことがありますね。「誰かが言ったから」「総意として」という発言ばかりで、「自分がこう思うから」「私はこうしたい」という発言が少ないように感じます。個人の意見には批判も集まりがちで、結局どんどんメッセージ性が弱まっていってしまう。個人の評価に関しても、簡単に言うと「偏差値社会」になっており、誰もがわかる価値軸でいい悪いを示し、点数化をして判断するという傾向があります。

それがすべてだめなわけではありませんが、僕たちがやりたいこととは違います。3×3Laboでやろうとしているのは、新しい価値軸を作ることです。経済的価値やKPIといった既存の概念ではなく、社会にとって何が大切か、必要かという本質に立ち返り、主観から議論を行った上ではじめて、新たな価値軸が生まれると思います。

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地方の会社ならではの魅力がある

地方の会社ならではの魅力がある

田口:起業にあたって、鎌倉という"地方"を選ばれたのはなぜですか。古民家を本社屋にしている理由も気になります。

新井:場所に関しては、必ずしも鎌倉である必要はなかったんですが、地方にするということは決めていました。僕たちからすると、日本の金融機関や運用会社が東京に集中しているのは、ちょっと気持ちが悪いんです。アメリカを見れば、ニューヨークにはとがっていて面白い運用会社なんてほとんどありません。そういう会社は、基本的には地方都市にあります。僕の勤めた外資系企業もサンフランシスコに本社がありましたし、湖畔に本社を構えている企業も知っています。だから別に東京でなくともいいと思っていました。あとは、創業メンバー4人のうち2人が鎌倉と逗子に住んでいて、私は一生懸命、長野や山梨の物件情報を出していたけれど、多数決で決まりました(笑)。

本社屋についてですが、鎌倉投信を創業したころは、リーマンショック真っ只中。みんなが「日本には夢も希望もない」と言っていた時期でした。だからこそ「日本の素晴らしさを伝えたい」という思いがあって、オフィスを日本の古きよき古民家にすることにしました。

田口:地方にこだわりがあったんですね。この3×3Laboがあるスペースには、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)さんの「TIP*S」もあり、一つのスペースに2団体が同じ目的で入って運営しているという非常に珍しい形です。

中小機構さんは、全国で385万社の中小企業を支援しており、僕たちもそのおかげでいろいろな地方の中小企業の方々に出会うことができています。そんな中で思うのは、都市というのは意外とコンテンツがないということです。確かにたくさんの情報が集まってきて華やかに見えるのですが、生み出すものは実は少ない。流通が都市の役割なのでそれでいいのですが、一方で地方には伝統工芸品やおいしい食材があります。僕たちはそこに魅力を感じ、地方から生まれる「いいもの」に光を当てて都市で紹介することを通じて、地域が潤っていくことを目的に活動しています。

新井さんも、地方にあるあまり有名ではないような企業にたくさん足を運んでいると思いますが、地方ならではの魅力や可能性はあるでしょうか。

新井:まず都市部の企業について考えてみると、東京に本社を置く企業の多くは、その必然性がはっきりしません。グローバル化の中で、本社を税金の安い国に移すことも流行りましたが、そうなると日本での雇用が減ってしまいます。

そういった背景もあり、「社会のため、地域のためになる」という僕たちの投資の趣旨に合う会社が、東京ではなかなか見つけづらいというのが正直なところです。一方で、地方のいい会社というのは、その場所にある明確な理由付けができています。そして「その地だからこそ、そのビジネスがある」ことも、よくわかっています。投資にあたって、「この会社はこの地域にとどまり、しっかり雇用を生んでくれる」というのは大きなポイントです。そこにさらに世界に通用する技術があれば、グローバルとローカルがミックスした理想形になり、彼らの発展によってその地域もまた豊かになるという未来が見えるので、ぜひ投資したいと考えます。

あとは単純に、他社がまだ手を付けていない会社があることも魅力です。都会のファンドマネージャーやアナリストたちがまったくカバーしていないようなかなりの田舎にある会社でも、しっかり上場しているところがあります。投資にあたってそこを取りに行くのは、定石ですね。

田口:貴社は、いわゆる顔が見える関係性において、スモール経済が回っているような会社に投資することが多いですよね。しかし一方にはグローバル社会があって、多くの経済活動がグローバルの中に拡散しつつあります。いずれはグローバルなレベルでも社会を変えるような投資をしていきたいですか?

新井:そこまでやる必要はない、と思っています。もし僕らのビジネスが社会的にも価値があると感じる人が増えてくれれば、「鎌倉投信の「結い 2101」に投資をしてもらいたい」という大企業が出てくるでしょう。そういう会社は、「利益と社会性の両立」に経営の舵を切っていくはずです。そうした企業が多数あれば、他の金融機関も社会性を価値評価のひとつの軸にするようになるかもしれません。そのように広がっていくことで、結果的に社会がいい方向にすすめばいいとは考えていますが、自社だけで社会全体を変えていくような発想はありません。小さいままで、いいのです。

教育がなければ社会的投資は根付かない

田口:社会的投資に関してですが、ようやく日本でもESG投資(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治に配慮している企業へ選択的に投資すること)やSRI(Socially Responsible Investment=社会的責任投資。企業の社会的価値に準じた投資)という言葉が出始めてきています。ヨーロッパは年金の運用などでかなりSRIが増えていて50%超えているそうですし、アメリカでもリーマンショック以降は増加傾向にある。比べてしまえば日本はまだまだだと思いますが、今後はもっと社会的投資が増えてくるでしょうか?

新井:そうですね。政府も社会的投資を推奨していますし、時代背景からいっても増える方向に動くのは間違いないと思っています。それは鎌倉投信としても追い風になるでしょうね。

田口:ただ、社会的投資が増えたとしても、結局は価値観が変わらなければ意味がないと思います。「いい会社に投資する」といっても、それが結局はお金を生み出す手段でしかなければ、「もっと他にも儲かる商売がある」という話が出た段階で、投資を止めてしまうでしょう。社会的投資が根づくのは、「リターンはそんなに大きくないけれど、ソーシャルキャピタルが結果的に増えていって日本や社会が豊かになる」ということを理解してこそ。「政府から儲かると言われたから」といって始めると......。

新井:まあ、残念な結果になるでしょうね。

田口:そういう意味では、新井さんの周りにはいい会社がたくさんあるでしょう。あとはそこに、教育という要素が加わらないといけないと思うんです。3×3Laboには若い世代が多く来ます。彼らに「社会に大切なことと、環境にいいことをして、経済性も追い求めよう」という話をすると「いいですね」と受け入れてくれます。しかしそれを50代の人にいうと「そうはいっても......」と、なかなかすっと受け入れてもらえないのが実態です。若い人の方がすっと入っていく、そこに僕は可能性を感じています。

新井:確かに、最終的には教育だと思います。でも、最近の若い世代は、「家」や「車」にはあまり興味がないなど、僕らの世代とは明らかに変わっていますよね。また、うちの投資先でごみからエタノールを作る会社があるのですが、その会社が高校の教科書に出るような時代になっています。10年後、彼らがメインプレーヤーになった時には、社会の価値観がぱっと変わるでしょう。僕たちおじさん世代はそれにおいていかれないようにしないといけません。

教育は根幹なので、そこがずれてしまうと、すべてがずれてしまう。そして日本では、お金の教育が全然なされていません。だから僕も、鎌倉投信の事業とは別に、お金の教育をやっていかなければならないと思っています。人生の本質はお金自体にはないことを、早い段階で気づいてもらうことが重要です。

田口:そういった意味では、やはり「発信する」ということが大切ですね。いくらいいことをやっても、内側に秘めていると外の人にはわかりません。僕がこうして対談をして、メディアで発信しているのも「いいことやっている人がいる」ということを伝えたいからです。

新井:そうですね。あと大人がやらなければいけないのは、見聞を広げた上で自分たちの価値観を醸成し、自分たちにしかできないものを創っていくことです。そうしていくためには、サードプレイスというのがすごく大切だと思います。仕事をしていけば、自分の業界の話にはとても詳しくなるけれど、異業種の事情やその動きが全然わからなくなっていきがちです。だからこそ、サードプレイスで違う業界の人にじかに触れるということに大きな意味があります。僕自身も3×3Laboの会員で、本当に頻繁に活用させていただいています。田口さん、素敵な場所を作ってくれてありがとうございます。

参加者も対談に参加

ここで対談はひとくぎり。ここまで話を聞いてきた参加者から意見や質問を募り、新井氏と田口氏が答える運びとなりました。

現在大学4年という女性は「確かにお金の教育は受けてこなかった」と話し、「今後どのように向き合っていくべきでしょう」と問いかけました。それに対しては新井氏が「貨幣経済の中でお金の影響力は大きいですが、それを増やすことが人生の目的ではありません。人生とは、あくまで幸せになるためにあるという本質を見失わないこと」と述べました。その他にもいくつもの意見や質問が飛び交い、議論は白熱しました。

そうして意見交換会が終了した後、飛び入りの登壇がありました。

対談する二人とゆかりが深く、「心の師」であるという横浜国立大学の三戸浩教授が、二人の招きに応じて壇上にあがりました。

三戸:私は学者で、イメージを言葉にするのが仕事です。イメージというのは、それだけだといわば気体のように消えてしまいますが、それを話すことで、液体にできる。そして書くことで、固体として残せるようになる。私はこの対談で数え切れないほどの項目のメモをとりました。二人からたくさんのものを与えてもらい、それが私の財産となりました。壇上にいる二人は、みなさんに無償で、自分たちの知識や経験を与えたいと思っています。

今の日本社会では、アメリカのように、交換、貨幣、市場という価値観ばかり目につきます。でも、すべてが数字やお金で換算できるわけではありません。この二人のように、与えることによって社会が変わると信じるからこそ、人は想いや志を持って生きていけるのではないでしょうか。

会場は、大きな拍手に包まれました。

「利益」と「社会性」の両立――。
対談を通じ、これからの世界で企業が果たすべき役割が見えてきました。
なお、対談当日は日本ビル「3☓3Labo」のフィナーレ日。「3☓3Lab Future」へと生まれ変わる記念日にふさわしい、未来を感じる対談となりました。

新井 和宏(あらい・かずひろ)

1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。1992年、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社。2000年に外資系企業に転職しファンドマネージャーを勤めるが、2007年ごろストレス性の難病にかかり、退社。2008年11月、仲間4人と鎌倉投信株式会社を創業。運用責任者として活躍している。個人投資家(受益者)15,400人以上、純資産総額210億円超(どちらも2016年2月時点)という実績とともに、従来の常識をくつがえす投資哲学のもとでの運用が注目を集めている。個人としても、横浜国立大学経営学部非常勤講師、経済産業省「おもてなし経営企業選」選考委員などを務め、活動の幅を広げている。

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