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【環境コミュニケーションの現場】 ネットワーク化で地域全体のエネルギー効率の底上げを図る ― 丸の内熱供給「大手町フィナンシャルシティサブプラント」

企業による環境やCSRに関する広報・普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第24回は、大丸有地区で導入が進む、丸の内熱供給による地域冷暖房システムの取り組みを紹介します。逓信総合博物館のはす向かいに竣工し、2012年11月にグランドオープンした「大手町フィナンシャルシティ」はオフィスや店舗などで構成され、地上31階建ての「ノースタワー」と同35階の「サウスタワー」の2棟から成ります。「大手町フィナンシャルシティサブプラント」はこの複合施設に加えて、建設中の読売新聞社本社への熱供給を行う同社において最高効率のプラントです。今回は大手町フィナンシャルシティの地下にある同プラントにお邪魔して、同社開発部長の佐藤文秋常務取締役と開発部課長補佐の後藤直之さんに、その特長と性能をお聞きしました。

大手町の地下で7つのプラントが冷水や蒸気を供給

― 大手町フィナンシャルシティの地下にこれだけ広い空間があるとは知りませんでした。そもそも地域冷暖房とはどのようなシステムなのでしょうか
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大丸有で働いていても、地面の下でこのようなプラントが動いているということを知らない人が多いのでは?

佐藤: 当社は1976年(昭和51年)から地域冷暖房事業を始め、現在では大丸有エリアと内幸町、港区青山の各地区で熱供給を行っています。地域冷暖房は、ある地域内の複数の建物へ熱製造プラントから導管を通して、冷水や蒸気を供給して冷暖房や給湯を行うシステムです。主にボイラーやヒートポンプで蒸気や温水を、冷凍機で冷水をつくって、需要家建物へ暖房用の蒸気・温水と冷房用の冷水を送ります。

大手町地区では、ビジネスのグローバル化や高度情報化に対応するため、老朽化したビルなどを順次建て替えながら再構築する「大手町連鎖型都市再生プロジェクト」が進行していますが、供給延床面積は約211万㎡、需要家数は約40件に及んでいます。

― なぜサブプラントというのですか

佐藤: この広い供給エリアにおける冷暖房をまかなうため、内堀通り沿いの三井物産ビル「カルガモ池」地下にメインプラントの大手町センターがあります。そのほかに、技術的な役割を果たすサブプラントがここを含めて6ヵ所あるのです。大手町センターでは約20人が交代制で勤務しており、メインプラントからサブプラントを遠隔監視しています。

― このような地下プラントが7つも大手町にあるとは驚きです。新プラントとこれまでのサブプラントの違いを教えてください。
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ターボ冷凍機の機能を説明する後藤直之さん。2台が背中合わせになった構造で、1台だけの運転が可能で、不具合対応、負荷に応じた効率的な運転が可能という

後藤: 大手町フィナンシャルシティは、同プロジェクトの第2次事業である再開発事業の一環として竣工した複合施設であり、エネルギー利用低減率では基準ビルに比べて35%以上の省エネを達成する計画です。この要請に応えられる高い環境性能を実現するため、地下4階にあるこのサブプラントは、さまざまな省エネ手法を採用しています。

目標としては、省エネ効率の指標であるCOPで1.2以上のトップクラスを目指しています。また、冷水連携配管や地域蒸気配管などを有効活用することにより、個別熱源では実現しにくい省エネシステムを構築しています。もちろん、安定供給を確保するための工夫も随所に凝らしています。

熱源設備としては、冷却能力1600 RT(冷凍トン)のターボ冷凍機が5台、同500RTのインバータターボ冷凍機が2台、ダブルバンドルターボ冷凍機が1台あるほか、空冷ヒートポンプチラーや蒸気熱交換器、冷却塔などがありメインプラントから遠隔で状態を見ながら運転しています。

冷水連携やハイブリット温水供給などの最新技術を導入

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プラント内の配管には「冷水」「温水」「冷却水」の文字が

佐藤: 他のプラントとネットワークを構築して相互にバックアップすることにより、地域全体の省エネ効率を総合的に向上させます。夏期の昼間以外のピーク期の熱量は、年間を通した熱消費量の1割もありません。それ以外の低負荷の時間帯には、ネットワークに連携する利点を生かして、効率の良い新設プラントを優先的に運転して熱を融通し、古いプラントは休止することによって、地域全体が新しいプラントによって運転されるため、大きく省エネ効率が向上します。ピーク以外の時間帯が年間の熱消費量の90%を占めるため、古いプラントに繋がっていても新しいプラントの効率にて熱が供給されます。今年度から運転を始めた他の連携プラントでは20%以上の効率向上する実績が得られており、連携がある場合とない場合の差は非常に大きくなります。

― 既設と新設のプラントを連携させることで、全体の底上げが図れるということですか

佐藤: そういうことです。プラントの性能は日進月歩で、たとえばこのプラントの効率を示すCOPは1.2ですが、この地区にある他の既設プラントは1以下です。しかし、これだけ大きな設備の場合、数年で更新するわけにはいきません。そこで、今回のサブプラント開設のようなタイミングに最新の設備を入れて、既設プラントと連携させています。新しいプラントを優先的に運転することにより、既設プラントを含めた地域全体としての効率を、新しいプラント効率に近づけて底上げすることができます。これを繰り返すことにより、地域全体の効率が段階的に向上するという生物の成長のような「都市の代謝」につながります。

信頼性という点でも、プラント相互のバックアップにより地域全体の熱供給の安定化が大きく向上します。

― 地域全体で熱や冷水を上手にやりくりしているんですね。もう一つ、ハイブリット温水供給システムとは?

後藤: このサブプラントは環境性能を重視して電気で温水をつくることとし、COP向上のためにダブルバンドルターボ冷凍機と空冷ヒートポンプを採用することにしました。電気式の場合は従来の方法に比べて効率を上げられますが、設置スペースやコスト面で課題がありました。一方、暖房負荷をみると冬場はかなり高くなるものの、年間のピーク時間は非常に短く、ピークに対して30%以下の時間が熱量の約80%を占めています。

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ハイブリッド温水供給システムは、ダブルバンドルターボ冷凍機とヒートポンプ

こうした解析結果をもとに、電気式の暖房機器と蒸気を連携しながら使い暖房を行うハイブリッド温水供給システムを構築しました。ハイブリッドカーは、低速時には電気モーターと回生電力で走り、高速時にはエンジンを併用しますね。これと同じように効率の良いヒートポンプと瞬時に出力を得られる蒸気、それぞれの熱源の良さを組み合わせたシステムを採用することにより、効率を大きく向上させながらイニシャルコストと設置スペースの抑制を図ることができました。

このほかにも、供給する冷水の水量や差圧を需要家設備からの制御弁開度情報をもとに制御するスマートシステムである「VWV-VM制御」や、冷却塔による省エネシステムなどにより、高効率化と低CO2化を図っています。

見学ツアーも実施、来年には地域連携の環(わ)が完成

― ステークホルダーとのコミュニケーションをどのように図っていますか?

後藤: プラントに関係する主体のほとんどはビルオーナーでが、実際の窓口となるのはビルの管理会社です。大丸有など都市の地下に冷水や蒸気、温水をつくるプラントがあり、熱供給用の配管が張り巡らされているということを、多くの人に知ってもらうことは大切だと考えています。そのために、ビルオーナーやビル管理会社の新入社員研修としての見学や、一般の方も含めた見学を受けおり、回数としては年間100件以上に及んでいます。最近では官公庁の環境対策ご担当が見学に来られることが多くなっていますが、夏休みにはエコッツェリアが行っている「エコキッズ探検隊」の一環として、子ども向けのツアーも受け入れたりしています。
エコキッズ探検隊

― 大手町地区の熱供給は、今後どのように発展していくのでしょうか?

佐藤: 現在建設中の読売新聞社様新社屋の地下において2013年の秋に地域配管が通る予定で、そうすれば地域連携の環(わ)が完成して熱の融通が可能になり、供給信頼性が大幅に向上するとともに、今後のプラント建設時に連続的に効率向上効果が得られる予定です。

当社は今後も地域冷暖房の事業を拡大することにより、都市機能と環境、そして快適さの向上に貢献していきたいと考えています。

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