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【環境コミュニケーションの現場】 森をまもりながら紙をつくり、届ける ― 三菱製紙「Mori-smile」プロジェクト

企業によるCSRや環境に関する広報と普及の現場を取材する【環境コミュニケーションの現場】。第27回は、「紙」を生産する企業として、森林をはじめとする地球環境の保全に力を入れる三菱製紙の取り組みをご紹介します。社長室担当部長の権藤義弘さん、洋紙事業部印刷用紙営業部営業開発グループリーダーの田中俊有さん、広報・IR室長の白川文人さん、同室の江城雄志さんに、持続可能な森林管理を目指すFSC森林認証を取得した経緯と活動の広がり、消費者や関連企業とのつながりについて伺いました。

三菱製紙 森林認証紙

他社にさきがけてFSC認証を取得

― 製品や包装物などを通じて、森林管理の認証制度であるFSCの認証ラベルを目にする機会が増えてきました。三菱製紙はずいぶん早くからFSC森林認証を取得していたんですね。

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コピー用紙から飲料容器、紙袋、パンフレット、ポストカードに至るまで、さまざまな製品にFSC認証ラベルが付いている

白川 : 今から約11年前に八戸工場で国内の製紙メーカーとして初めてFSC森林認証を取得し、その1年後にFSC森林認証紙の販売を始めました。少し説明させていただきますと、FSC、すなわち森林管理協議会(Forest Stewardship Council)は、環境保護団体や木材関連企業などが設立した非営利の国際組織です。FSCは、森林や林産物の認証機関に対する、評価や認定、監督などを行なっており、国内組織のFSCジャパンもあります。

江城 : 認証された森林から生産された木材や製品には、消費者にわかりやすいようにラベルが付けられます。その種類は、コピー用紙、パンフレット、カレンダー、ポストカード、飲料容器、紙袋などさまざまです。

FSCジャパン

― 2001年の時点で他社にさきがけて認証を取得しようと考えたのはなぜですか?

田中 : 木材は製紙メーカーにとって必要不可欠な原材料であるだけに、木を使わざるを得ない業態の中でいかに環境配慮していくかは永遠のテーマです。当時は、紙の分野で環境保全といえば古紙のリサイクルでしたが、弊社は主に高級紙や情報用紙など、古紙を使いにくい製品を扱っています。そこで、バージンパルプを使いつつ環境に配慮する方法はないか模索し、FSCに行きつきました。


FSC(森林管理協議会)のウェブサイト

江城 : 木を伐るというとイメージがよくないかもしれませんが、手をつけてはならない森がある一方で、生産林などではむしろ人が手を入れて適切に管理していくことで森が生きる場合もあります。「森をまもりながら紙をつくる」という弊社の立場と、持続可能な森林経営を目指すFSCの理念が一致したのです。

― FSCには2種類ありますが、どちらを持っているんですか?

権藤 : 弊社は、森林管理の認証であるFM認証と、加工及び流通過程の管理認証であるCOC認証の両方を取得しています。最初に八戸工場でCOC認証を取得してFSC森林認証紙の生産を開始した後、国内工場で順次COC 認証を取得し、グループの全生産拠点で認証を取得しました。


森林認証の流れ。FM認証を受けた森林からの木材がCOC認証拠点を経て、初めてFSC森林認証紙となる

FM認証については2002 年にチリの植林地で取得したのを皮切りに、国内の社有林で取得を進めており、青森、岩手、福島の3県に認証林があります。認証を取得した主体は、「FSC 10の原則」を守って森林を管理し、生産活動を行わなくてはなりません。製紙メーカーの場合、認証材として認められるには製品に70%以上その原材料を配合することが求められます。

― FSCにもISOのような認証の仕組みがあるんですか?

田中 : はい。取得する場合は、FM、COCそれぞれについて国内の認証機関による審査手続きを受けて、要求事項を満たせば認証登録証が発行されます。1年更新で、毎年手続きが必要です。ISOと同じように、PDCAサイクルを通じて環境負荷を継続的に減らしていく仕組みになっています。

三菱製紙 森林認証紙

元気な森の笑顔を届ける「Mori-smile」プロジェクト

― FSC森林認証など本業を通じた環境貢献の集大成が、「Mori-smile」プロジェクトですね。

田中 : 弊社ではFSC森林認証を主軸に据えて、環境に貢献するためのさまざまなメニューを揃えて展開してきました。こうした取り組みを包括的なサービスとして多くの人に届けるとともに、より分かりやすく伝えていくために立ち上げたプロジェクトが「Mori-smile」です。紙は、まさに森からの恵みそのものです。FSC森林認証などの取り組みにより豊かで健全になった、元気な森の笑顔を届けたいという思いを込めて、こう名付けました。大きく、(1)FSC森林認証紙、(2)エコシステムアカデミー、(3)「FSC森林認証の森」サポーター制度、(4)オリジナルブランド―という4つの「smile」から成りますが、今後、みなさまとともに1つでも多くの「smile」を増やしていくことができればと考えております。

― FSC森林認証紙はどれくらい利用されているのでしょうか?

k_com_m_seishi_6.jpg福島県の「白河甲子の森」で、エコシステムアカデミーの一環として行った紙すき体験と調査(写真上)と植樹祭(写真下)の様子

江城 : 2005年からCOC新規格(クレジット方式)に切り替え、FSC森林認証紙の安定供給が可能になりました。その結果、従来から利用が進んでいた環境報告書やCSRレポートに加えて、雑誌や広報誌などの定期刊行物や、地方自治体の印刷物にも採用されるようになっています。

田中 : 新たな取り組みとして好評なのが、オリジナルブランドによる紙製品の供給です。企業が社有林などのかたちで植林を行っている周辺地区で活用できる木材を利用して、紙製品を供給するサービスです。植えるだけでなく、使うことでより森林の活性化を図ることを目的としています。たとえば、「やまなし森の紙」は、山梨県の県有林のうちFSC 森林認証を取得した森林から木材を調達して、県内の自治体や企業向けにコピー用紙を生産し、販売するビジネスモデルです。

― エコシステムアカデミーとサポーター制度とは?

権藤 : エコシステムアカデミーは、製紙メーカーによる森林保全という観点から、地球温暖化の防止や生物多様性の保全の重要性を理解してもらうために設立した環境教育プログラムです。地元の小学生などを対象として、「森のめぐみと自然・産業のコラボレーション」 をテーマにFSC森林認証林を活用した体験型学習や、森の調査・研究、環境セミナーなどを行っています。東日本大震災の影響もあり少しお休みしていますが、2013年度には再開する予定です。また、企業による社員教育の場としての活用も提案していく考えです。

田中 : サポーター制度は、FSC森林認証紙のユーザー企業が認証林管理費用の一部を負担して、弊社が森づくりの過程で発生する間伐材などの低質材を認証紙に利用する仕組みです。ユーザー企業は、FSC森林認証林を社員の環境教育やレクリエーションの場として利用できます。岩手県岩泉町における三菱UFJ投信様の森(MUAMの森)が最初です。

三菱製紙 Mori-smile

しいたけや木炭がFSC認証製品?


「エコプロダクツ2012」で行ったクイズ形式のアンケート
― 昨年の「エコプロダクツ2012」に出展しましたが、来場者の反応はどうでしたか。

江城 : FSC森林認証紙の認知度を確かめるために、クイズ形式のアンケートを行いました。約2,000人がブースを訪れ、合計で1,123件の回答を得ることができました。「FSCの木が使われている物は?」と尋ねて、ノートなどの紙製品や家具などの木製品に加えて、しいたけを選択肢に入れました。実はしいたけなどの農産物や木炭にも認証製品があるのです。
その結果、紙製品・木製品の両方と回答した人は全体の84%に上った一方で、しいたけの正解率は約5割でした。また、子どもの来場者が多かったのですが、お菓子やノートで見たことがあるらしく、意外に知っている子が多いのは嬉しい驚きでしたね。

― FSC森林認証紙のさらなる普及に向けて、どのような活動を展開していきますか。

田中 : FSCジャパンが、2013年から2014年にかけて国内でFSCを普及するためのキャンペーンを展開するので、製紙メーカーとして参画し、現在進めております。また、印刷会社など関連企業のCOC認証取得支援にも力を入れます。


高級上質紙「金菱」を使用した、「東海道五十三次」のポストカード」にもFSC認証ラベルが

権藤 : 地域や職場での取り組みとしては、CSRレポートを全国各地にある工場の地元で配布したり、社員教育に活用したりしています。

FSCジャパン

白川 : エコプロダクツ展などへの出展のほか、ウェブサイトやパンフレットなどのコミュニケーションツールを今まで以上に充実させて、FSC森林認証紙の認知度向上につなげていきます。たとえば、FSC認証を取得している弊社の上質紙「金菱」を使って、歌川広重の浮世絵「東海道五十三次」をはじめとするポストカードを作製し、ノベルティグッズとして配布しています。2013年度は、本社ギャラリーの活用を図る企画を多数予定しておりますので、是非、お立ち寄りいただければ幸いです。

FSC森林認証紙の認知度を向上させ、多くの人に知ってもらい、使ってもらうことが私たち製紙メーカーの役目であると考えています。

三菱製紙 CSR/環境

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