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【大丸有】日本の古典芸能の女性像とダイバーシティ

国立劇場in丸の内から社会を考える

今を生きる古典

昨年度の好評を受けて、今年も開催されている「国立劇場in丸の内」。第一期ともいうべき昨年は、初心者を呼び込むために広く構えたテーマ設定でしたが、今年はエッジの効いたテーマを設定しています。それは「女性」。

「女性」といえば、現政権が進める「Shine!」に始まり、社会のダイバーシティ向上のための登用の促進、ライフワークバランス向上など、さまざまな形で"働く女性"をサポートする動きに枚挙の暇がありません。しかし、その一方で「女性の登用が進めばそれで良い」とするかのような一面的な考え方もまた増えているのではないでしょうか。

そこで「国立劇場in丸の内」。経営における「三方良し」の例もあるように、日本古来の知恵や古典から学ぶことはまだまだ多いように思えます。女性をテーマに据えた国立劇場in丸の内に何かを見出すことができるのでしょうか。

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社会のダイバーシティは古典の中に

社会のダイバーシティは古典の中に

2回目の日本舞踊のミニレッスンの様子

7月に開催された第2回では、日本舞踊をテーマに勝美流の勝美巴湖氏を招いて講演を行いました。日本舞踊は、日本古来の「舞」や「踊り」の"総称"でもあり、明治時代にそれらを統合して独自に発達した文化でもあります。舞踊は"しぐさ"や"ふり""所作"が豊かにあり、それを通して「男性らしさ」「女性らしさ」を表現します。講演ではそうした日本舞踊の基礎知識を学び、後半にはミニレッスンを行って実際に"女性らしい"踊り方などを学んだりもしました。

こうした古典の中の「女性」から、何を学ぶことができるのでしょうか。日本芸術文化振興会(国立劇場)の阿部俊夫氏にお話を伺いました。

阿部俊夫氏「まず、日本に限らず西洋でも、近代までは陽の当たる場所には男性が立ち、女性は陰で支えるという長い歴史がありました。日本の古典芸能もそうした背景の中で成立しているもの。例えば日本舞踊は歌舞伎を吸収発展したものですが、女性が舞台に立つことを許されたのは明治時代になってから。それまでは女性の"芸"はお座敷での踊りや、町娘が手習いでやる長唄などで、『公』の場に出ることは許されませんでした」

古典芸能の中の女性像もまた、そうした古い価値観に縛られた"しいたげられた"姿なのかと思いきや、「そうではありません」。

「例えば、歌舞伎の中の女性像は、男性以上に強くあり、意志を持って生き生きと生きる姿が描かれています」

例を挙げれば、『曽根崎心中』のお初は「『愛を貫くために死にましょう』と女性の力によって徳兵衛との心中」を決めます。ぐずぐずしたそのへんの男よりもよっぽど潔いわけです。『巴御前』の巴は女だてらに武将として活躍しています。『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の政岡は弱いしいたげられた女性ではなく、強い責任感を持ってお役目を果たしているのです。「社会に縛られながらも、能動的に生き生きと生きる女性の姿が描かれている」。それが古典芸能の中の女性たちなのです。

「現代社会が、例えばLGBTのように、さまざまな人を受け入れるようになってきていますが、それは簡単に言えば『いろいろな人がいて、それがいい』ということだと思います。実は決まりきった古めかしいと思われる古典芸能もまた、"いろいろな人がいていい"という発想のもの。モザイク状に積み上げられているのがダイバーシティのある社会なのだとしたら、それは古典の中にあるのです」

「ゆるゆると鷹揚に、体幹で」

しぐさの男女差の例(傘を差すしぐさ)。左が男性で右が女性

しかしその一方で、古典芸能では「女性らしさ」を特定のしぐさや振りとして定義しています。それは女性らしさの記号化であり、ステレオタイプ化ではないのでしょうか。

「いや、日本に限ったことではなく、芸の最初は"マネ"からです」と阿部氏。江戸時代に、武家の式楽のために、舞を教えやすくするために「様式化」したという歴史もありますが、「大切なのは、マネの先にある本当の目標」。

「行く先の目標は何か、それは"思いの共有"ではないかと思うのです。例えば、主君のために息子を身代わりに出すという話がありますが、それは忠義者を称賛し、そうすべきだと言いたいのではありません。そうせざるを得なかった親の悲しみや辛さを"感じてもらう"こと。古典の舞台は昔のことで、当時の人と社会的価値観を共有することはありえない。しかし、そこに心を馳せることはできるでしょう。プロの芸は"上手を突き詰める""下手を突き詰める"の2つしかありませんが、例えばマネが下手であっても、見る人の心を動かすことができればそれでいいのです」

一部では古典芸能は女性蔑視があると糾弾する向きもあるが、実はそんなことはない、実に豊かなダイバーシティを体現しているということです。では、その古典芸能とどう向き合えばいいのでしょうか。考えるヒントをどう得たら良いのでしょう。

「まず、ヒントになることは間違いないとは思いますが、"知識を得よう"と思って見るのは、大きな落とし穴にはまりこんでしまうような気もしますね」

落とし穴とは、狭い見方でしか古典芸能を見られなくなってしまうということ。まさにこの記事の企画が、その陥穽にはまってしまっている感もなきにしもあらず。感じ方、見方は人それぞれで、得るものも人によって違って当たり前。それを『こういうものだ』と思って見てしまうと豊かな古典の世界を見誤ることになります。「頭ではなく、体幹で見てほしい」と阿部氏は言います。

「よくお客様が『今日の(舞台)は分かった』『理解できた』と仰ることがあるのですが、頭で理解して見るものではないと思うんです。舞台のうえの人と感情を一緒にして感じること。分かりたい、理解したい、研究したい、と思って見るものではない。古典を見るということはそういうことなんだと思います。 『ゆるゆると鷹揚に』という言葉がありますが、まずは大きく構えて見ていただくのが良いのではないでしょうか」

「古典芸能(の鑑賞)に正解はない」と阿部氏。逆に言えばそれは「すべてが正解」だということでもあります。欲を言えば、テレビなどスクリーンを通してではなく「舞台のうえの役者と同じ空気を吸って見てほしい」。幾たびか触れてみると、少しずつ古典が描き出す、豊かな社会の姿を"体幹"で感じることができるようになるはず。今の日本に欠けているのは、地に足のついた体験から生まれる、真に迫った感情の吐露なのかもしれません。古典芸能を通して、そんな深い体験を手に入れてみてはいかがでしょうか。


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