12月4日、CSV経営サロンの第4回フィールドワークが、東京・大手町にある日本政策投資銀行(DBJ)のオープンイノベーションプラットフォーム「iHub」で実施されました。第3回のセミナーで提示されたオープンイノベーションを推進するプラットフォームの必要性から、今回はその現場としての「都市」をテーマに掲げ、都市にイノベーション機能を実装させる方法をワークショップで模索しました。
フィールドワークに先立ち、話題提供としてDBJのアセットファイナンス部の飯塚洋史氏、三菱地所・エコッツェリア協会の井上成氏、前回のセミナーに続いてDBJの島氏がショートプレゼンテーションを行いました。ファシリテーションは企業間フューチャーセンターの臼井氏・塚本氏。今回のフィールドワークの成果は、DBJおよびエコッツェリア協会が、今後の都市・街づくりの活動の参考にするとともに、CSV経営サロンの活動にも応用される予定です。
最初に話題提供に立った飯塚氏は、「持続可能性と資産価値」と題し、同社が取り組む「DBJ Green Building認証制度」を紹介。これが、単なるエコロジー認証ではなく、持続可能なイノベーションシティを運用するためのエコシステムを目指すものであることを語りました。
DBJ Green Building認証制度は、エコロジー、リスクマネジメント、快適性・多様性、コミュニティといった5項目による総合評価で、不動産所有者、事業者、投資家の間で共有しやすいよう簡明かつ簡便な仕組みになっているのが特徴。「不動産のミシュランのようなもの」と飯塚氏が言うように、"星"による5段階のグレードがあります。
背景には、人口減少が進む社会では、今後ますます環境・社会配慮型で長期利用が可能なビルの不動産価値が高まるという予測と、「ビルディングが人が集積するイノベーションである」という認識があると飯塚氏。DBJが不動産認証を行うのは、金融業界におけるグリーンに対する認識を向上させること、健全な不動産金融市場を醸成目指すためです。「物件のオーナー、建設事業者の間ではグリーン認識が高まっているが、投資家、金融機関の間ではまだまだ低い」。そのため、「不動産のバリューチェーンにおいて、もっとも資金が必要なオーナーに資金が回らないのが現状」と飯塚氏は指摘します。認証が不動産価値に反映され、不動産金融市場が思い描くように形成されれば、持続可能なビルディングの数が増え、イノベーションシティの実現に近づくということになります。
これまでに95社259件の認証実績があり、「間違いなく社会的ニーズは高まっている」が、「新しく大きいビルに集中していること」「5つ星の取得を目指す傾向が強いこと」が課題。しかし、認証を取得しても「CSR、IRレポートに掲載する」という程度の認識では限界があるでしょう。認証を取得したビルを対象にした「グリーンボンド」を発行したところ、3倍以上の需要があったそうですが、その大半が欧州の投資家・投資機関であり、国内の需要が一部に限られていたことも、それを物語っているようです。
こうした課題に向けて、DBJでは、今後日本不動産研究所との業務提携を進めるほか、分析データの蓄積や、認証取得ビルにおけるサスティナビリティや健康性の分析、実証などにも努めていくそうです。
三菱地所の井上成氏のプレゼンテーションでは、シリコンバレーのような海外の都市と丸の内など国内都市を比較し、イノベーションシティに必要な要素、機能が何か、その実装のために何をすべきかが示されました。
「シリコンバレーモデル」で示されたのは「アントレプレナーが集まるハードとしての空間、メンターを務める成功者などの人材、そして資金が必要」だということ。そして「空間」には、「ハッカソンやアイデアソン、フューチャーセッションなどの"コンテンツ"が必要」で、「スモールオフィスやオープンスペースで人材が滞留できる」ようになっていることも指摘されました。
日本では、大丸有、六本木、渋谷などでイノベーションシティに向けた取り組みが盛んであるとし、大丸有でのこれまでの足跡を提示しました。例えば空間としては、3×3Labo、EGG Japan等の施設があり、活用が進んでいます。しかし、「メンターなどの人材、ビジネスコンテンツ、金融・投資の取り組みが不足している」と井上氏。
また、大丸有の課題として「重厚長大企業が多いこと」「快適性の欠如」という点を挙げています。そして、「重厚長大な大企業が多いと起業が少なくなる。そこで逆に既存企業内でのイノベーションを誘発する"企業内起業"を促進するスタンスはどうか」と提案しています。快適性については、「仲通りで進む公共空間利用を促進するとともに、住機能を拡張していくことも視野に入れている」。
企業内起業については、現在プレ講座が進行しており、来年度に本格稼働が見込まれる「丸の内プラチナ大学」がその役割の一部を果たし、空間としては、2016年春から運用が始まる大手門タワー・JXビルの「3×3Lab Future」をイノベーション空間として位置づけ、活用していきたい旨も語られました。
最後に井上氏は、「街それぞれで独自の取り組みがあってしかるべき。丸の内にしかできないモデルを作り、世界中から人を呼び寄せるようにできれば。そのためのぜひ良い知恵をお貸しいただきたい」とフィールドワークへの期待を語りました。
3人目のプレゼンターとして、前回セミナーで講師を務めた島氏も登壇。前回の内容を振り返るとともに、新たな問いの設定を行いました。
まず前回も触れた社会変化を説明。マスプロダクトの「モノ」を売る社会から、「コト」を起こしていくビジネスが求められるようになったこと。価値観の多様化が進み、社会性や関係性の変化していく中で、イノベーションが必要になったが、「マインド」「構想力」がボトルネックになっており、その解消のためにiHubが設立されたことを語りました。
そして今回のフィールドワークでも重要になる、iHubの3つの視点を改めて提示。それは「人を起点とする」「技術」「ビジネスモデルのイノベーション」であり、この視点が「今後日本の都市が持つべき機能とは何か」という新たな問いにも呼応します。島氏は、今後都市機能として「全体最適の視点」「空間的・技術的機能の価値化」「経済的価値」の3つの視点が重要であり、それを踏まえて、「成熟社会に求められる『イノベーションシティ』とは?」という問いを改めて参加者に提示しました。
この後、イノベーションシティを具体的に議論するワークショップへと移りました。冒頭、臼井氏から「マネジメント」「お金」「技術」「人」という4つの項目が提示され、参加者は、自分が話し合いたい、注目したい内容ごとにグループを組み直しました。各項目2グループ、計8グループでのワークショップです。
最初のテーマは「理想のイノベーションシティにおける〇〇とは?」(〇〇に項目が入る)とされ、あるべき理想像を議論。中間報告を挟んでの次のテーマは「実現に近づくためにハードルと感じる点は」「この場にいるメンバーでどのようにそのハードルを乗り越えますか?」というものでした。
CSV経営サロンの特性として、経営層に近いレイヤーの人が多いことが挙げられます。議論も"夢"を語るにとどまらず、経営や事業に落とし込もうとする手法が多く語られたのが印象的でした。以下に各テーブルからシェアされた内容を記します。
<マネジメント1>
失敗できる環境が必要。そのためには絶対的な大義が必要で、そこは街づくりを担う企業、団体に担保してもらえると良い。
<マネジメント2>
イノベーションシティの指標を作り可視化する必要があるが、既得権益等のハードルがある。その解消には教育が有用であると思われる。街独自のクリエイティビティを醸成することにもつながるのでは。
<お金1>
起業に関するリスクを軽減する方策が必要。例えば、最先端技術のビジネス化に対する「ふるさと納税」ならぬ「丸の内納税」として一般からの資金調達。これはDBJが保証すると良い。トップダウンで企業内起業を促進するため大丸有の経営陣が集まる「丸の内経営会議」の設立。また、失敗したビジネスプラン、アイデアを引き取って利用するための「丸の内失敗取引所」などを設立する。
<お金2>
"お金"を集めるためには、技術の確立が必要であり、そのためにアイデアを生み出し実現する人的交流が必要。その解決策として、等価でない地方と都市の関係を解消し、新たな関係性を作るのはどうか。
<技術1>
人と人をつなぐ、アイデアとアイデアをつなぐ必要があるが、それはAIではなく、人がやるべき。コーディネーターの存在が必要。また、イノベーションシティはそれぞれカラーを持つ必要があるだろう。例えば渋谷はITイノベーションタウンにする等。
<技術2>
イノベーションシティをインフラから考えると、目的ごとにモジュール化された区画を作るという建築技術が考えられる。連結のために統一基準が必要となるため、学会や行政との連携を図る必要がある。
<人1>
人がいきいきとしている環境であるべき。そのためには、お互いを「知る」必要があり、知ること不安は払しょくされる。そのような仕組みは作れないだろうか。
<人2>
イノベーションには人と人が出会う場所が重要。交通機関の発達による人材交流が要。また、人材確保のための婚姻制度の変更なども必要かもしれない。
発表後、話題提供した井上氏、島氏から感想が述べられました。井上氏は、「いいヒントが持ち帰れそう」と話し、「こうしたワークショップが年々増えているが、手法も進化してきていると感じた。今後のワークにも期待したい」と期待を述べる一方で、オープンイノベーションビジネスコンテストイベントの情報などを紹介しつつ「今まではこうした情報もなかなか伝わらなかったが、このような交流を介して、情報交換も活発になれば」と全体の枠組みへの期待も語りました。
島氏は「非常に面白いキーワードが出たので、フラッグを立ててグループワークへと落とし込んでいきたい」と今後のDBJ、iHubの活動に利用していきたい旨を話しています。また、「技術とお金、人とマネジメント、違った項目のように見えて、実は非常に密接に関わっていることも改めて認識できた。イノベーションに関わる金融の人間として、もっと学ばねばと感じた」と感想を述べました。
今回のフィールドワークは、このように参加者だけでなく三菱地所や、DBJが"何か"を持ち帰ることができるように設計されていたことはもちろんですが、「参加者同士が気付きを共有して、より議論を深めたいと思ってもらうのも狙い」と臼井氏は指摘しています。それは、企業と企業人が集積している大丸有において、個人のモチベーションを高めるということであるとともに、企業に勤める人間として、関わることができる"のりしろ"があることを理解するというプロセスであるのかもしれません。
エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。
2024年1月30日(火)15:00~17:00
2023年10月16日(月)15:00~17:00
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