イベントCSV経営サロン・レポート

【レポート】星野リゾートの地域資源活用会員限定

2016年度第3回CSV経営サロン 12月22日(木)開催

まちづくりと環境課題、そこにビジネスを結びつけて持続的発展を目指すCSV経営サロン。今年度はここまでエネルギー、建物をテーマに扱ってきましたが、今回は地域リソースを立体的に活用する、という視点で、観光を軸にしつつ、環境、地方と都市の関係性をポイントに議論を行いました。

道場主・小林氏ゲストスピーカーは星野リゾート代表の星野佳路氏。星野リゾートは"開発""所有"を捨ててホテル運営に特化、地域リソースを活用し、「界」「リゾナーレ」「星のや」などのブランドラインを揃えています。その運営モデルは、観光ビジネスだけではなく、地方創生のヒントにも溢れたものでもありました。

この日は、いつもの会員企業に加え、オブザーバー企業、団体の皆さんにも多数ご参加いただき、活発な議論を交わすことができました。冒頭、道場主の小林光氏は星野リゾートが「環境の価値をズバリ、商売のタネにしている」とし、今回のインプットトークが観光業の話ではあるものの、幅広く他のビジネスやCSVの取り組みにも「ヒントになるだろう」と述べ、また、アメリカの事例や、オリパラに向けた事例などを提示し、環境負荷低減型、環境配慮型のビジネスモデルでなければ経済成長し得ない構造に変化しつつあることを指摘、「観光という、環境負荷の極めて低い産業が国のGDPを増やすことに貢献していることは素晴らしいこと」と、改めて環境と観光の親和性があり、地域ビジネスとしての可能性が高いことを語っています。

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「運営に特化」するビジネスモデルの意味

「運営に特化」するビジネスモデルの意味

星野リゾートのサイトより

星野氏からは、「宿泊・観光産業が実践する地域リソース活用」と題して、星野リゾートのビジネスモデルとともに、地域ビジネス事例が多数紹介されました。

星野氏星野リゾートは、1991年「バブルの崩壊とともに引き継いで経営に参画した」星野氏が、「当時すでに投資が入ってバンバン新しいホテルが作られた時代だが、そこに対抗して開発、所有し、さらなる供給過剰になるのはやめたほうがいい」と意思決定。「リゾートに投資したい人(企業)は多いが運営したい人はいない。むしろ運営もしなきゃいけないなら投資もしないという人のほうが多い。その中で運営会社を作ったことが投資の幅を広げた」とし、運営に特化したことで業績が拡大した経緯を語ります。現在は国内35拠点、海外2拠点を運営し、経営は順調に推移しています。

成功のもうひとつの要諦に、リート(REIT。不動産投資信託)の活用があります。星野リゾート・リートが投資受託業務と物件の所有を行い、星野リゾートとは賃貸契約を交わして運営を委託する形態です。ここでは海外の機関投資家というよりは、国内の「地方のリゾートを応援したい投資家」、また、「長期的に日本の観光を応援したい投資家」からの投資を多く受け入れることができた、と星野氏は話しています。「国が観光立国を掲げているのだから、応援したい人の受け皿があったほうがいい」(星野氏)という思いとともに立ち上げたそうです。

現在、星野リゾートが運営する宿泊施設のブランドは、小規模高級温泉旅館の「界」、西洋型リゾートの「リゾナーレ」、ラグジュアリーラインの「星のや」などがあります。そのいずれでも、地域のさまざまなモノをリソースとして捉え、観光の目玉にして成功している例が紹介されました。

星野リゾートが地域資源を使う理由

星野リゾート トマムの雲海テラス(星野リゾート トマムのサイトより)

星野氏は、星野リゾートが地域資源を活用しているのは「何も地方創生の後押しや社会貢献をしようと思ってのことではない」と話しています。

「そもそも、リゾートはビジネスホテルとは違って、まず"来てもらう"理由を作るという難しい仕事もやらなければならない。その理由は地域リソースでなくてももちろん良いが、地域リソースのほうが、安くできるし、本物感があるし、差別化もしやすい。進化させることもできるし、私達にとって一番プラスになるのが地域リソースだった、ということ」

界シリーズが温泉に特化しているのもその顕著な例ですが、他にも「リゾナーレ熱海」のツリーハウス、「リゾナーレトマム」の雲海テラス、「奥入瀬渓流ホテル」の苔ガールステイなど、"そこにしかない"さまざまな地域資源活用の例がありました。それら地域資源活用のポイントは、「自然環境の活用」「オフシーズンをなくすこと」「一次産業の資源化」「地域・芸能の活用」「画像の拡散力を活かす」といったコンセプトに集約されそうです。

自然環境の活用は多くのホテルで共通するポイントです。ツリーハウス、雲海テラス、苔ガール等、そこにしかない自然環境をこれまでと異なった視点で捉え直し、資源として活用。「オフシーズンをなくす」は、トマムや奥入瀬が顕著な例。冬期のトマムはスキー客で賑わいますが、夏は激減します。それを解消するのが雲海テラスのアイデアでした。奥入瀬はもともと紅葉の名所でしたが、「日本にある苔約1800種のうち約300種ある」という苔の宝庫であることから、「1年間、PRで紅葉を出すことを禁じて、緑の苔だけを出し」て徹底的に訴求、秋以外の動員を増加させました。

こうした動員をさらに加速させるのが「画像の拡散力」です。小浜島リゾナーレでは「ビーチにライブラリを作っただけでSNSで拡散して人気になった」例もあります。雲海テラスやツリーハウスは、言わずもがなでしょう。

リソースは"人"

界 遠州の「闘茶」(界 遠州のサイトより)

一次産業の活用について、星野氏は「農産物と観光は相性が良い。その地の農産物をアピールすることは、観光ができる最大の地域貢献ではないか」と話しています。例えばブルゴーニュやボルドーのワインの根強い人気にツーリズムが果たしている役割が大きいことを指摘。また、山梨のブドウ、ワインのように、「農産物と地域の結びつきは強く、観光ではそれを活かすことも重要」とし、界 遠州ではお茶のブレンド体験を提供している例を紹介しました。

同様に地域資源を活用する例として挙げたのが、地域の芸能や工芸です。「有名な温泉旅館に行くと魯山人とか有名な巨匠の作品が出て来るが、うちのような新参者では魯山人なんて揃えられない」(星野氏)。そこでその地域で活躍する若き芸術家とコラボレーションして、"今、ここ"にしかないサービスを生み出します。界 加賀では、北陸特産のカニを食べさせる器を地域の陶芸家と共同で作り提供。「料理と合わせてひとつのアートを作り出すことができた」という例も。

また、地域の芸能では例えば青森の津軽三味線。地元の保存会の方々に演奏会をしてもらい、宿泊客に聞かせるというサービスです。保存会としては、自分たちの腕を見せる場を提供され、なおかつ保存のためのアピールの場となる、宿泊客にとってはまたとない地域の伝統芸能とのふれあいの場になる。「発表の場があると地元の若い人も参加してくれるようになる。双方にとって良い成果が得られる格好」(星野氏)。まさにwin-winの関係が地方で作られている例でしょう。

これらの地域資源活用の基本にあるのは「地域の人」である、と星野氏は語っています。

「私達には思いつけない地域のポテンシャルを掘り起こし、形にするには地域の人たちに活躍してもらうしかない。その意味では、人こそ地域リソースとも言えるかもしれない」

苔のような目につかない資源を見つけ出すのも地元の人なら、芸術家や保存会のような人材も地元の人。そのため、その地域で働くスタッフには大幅な裁量権、自由を与えるなど、生き生きと仕事ができる環境の整備にも努めていることも紹介されました。

その他、今後の取り組みとして、旅行人口が減少する若年層をターゲットにした「若者旅プロジェクト」の「RYOKAN CAMP」や、ゼロエミッションに取り組む「EIMY(Energy In My Yard)」なども紹介。観光産業の未来、展望を語って締めくくりました。

"ビジネス"視点が熱い議論を呼ぶ

星野氏の講演の後は、小林氏からの質問、会場の参加者によるテーブルワーク・質疑応答を行いました。

小林氏からは、テーブルワークの方向性の示唆とともに、2点の質問がありました。「星野リゾートが地域資源を活用した運営をしていくためには顧客と共進化していく必要があるのでは?」「ファイナンスにおける困難点は何か」という2点です。
顧客との共進化について星野氏は、ネットの普及による"口コミ"評価の拡大に対して「自社で取るアンケートと齟齬がある」ということと、「ネット上の声に応えていくと、サービス、商品が"普通"で"どこでも見られる"同じようなモノになってしまう」と危惧を示しました。今後は「誰を満足させたいのかということを能動的に選ぼう、うちのホテルが好きなお客様をもっと知ろう、ということが重要になるだろう」とし、研究者とともに「そうしたことをネット上でオンゴーイングに調査できる仕組みを作り始めている」と説明。
ファイナンスについては、銀行の個人保証は「やめるべき」と力説。運営に特化した背景には個人保証にこだわる地銀への不満もあったことを明かし、「個人保証は今後の地方創生のボトルネックになる可能性が大きい。バンカーがバンカーの役割を正しく果たせる仕組みを作るべきではないか」と提議しています。

その後のテーブルワークも熱の入ったものになり、各テーブルから出された疑問、意見に対して星野氏も熱心に回答、活発な意見交換となりました。特に人材育成の方法や、「星野イズム」の定着のための工夫といった人材リソースの活用方法、地域資源の活用方法とそのプロセス、今後の地方創生へのアドバイスなどの議論が白熱。
例えば人材育成について「能力水準を高めることではなく、持っている能力を100%出せるようにすること」「フラットな組織にすること」といった示唆に大きく頷く参加者の姿が見られました。また、地域資源の発掘とは「地域が活躍する舞台を作ること」という解説にも賛同する意見が多かったのが印象的でした。
一方、地方創生について、「小さな民宿が生き残るには」という問い対して「適正規模があり、難しい、諦めたほうが良いのでは」という趣旨の発言もあり、議論は紛糾。旅館業界の旧弊や、需要の考え方の食い違いなどの問題、働き方の課題などにも話題が及び、より広汎で示唆的な内容となりました。

次回はICT×まちの健康

今回もまた、非常に熱量が高い議論ができた経営サロン。道場主の小林氏も「さすがビジネスマンが観光に関心を持って集まると中味の濃いディスカッションになる」とコメントしていますが、地方創生×観光×環境×まちづくりというテーマは、これからのビジネスを考えるうえで、必須なのかもしれません。参加企業の関心の高さ、議論の白熱ぶりはそれを証明するものとも言えるでしょう。次回は2月14日、ICT×まちの健康をテーマに再び熱いセッションを交わします。

会員企業の伊藤園さまから、同社のCSR活動が評価され、Forbes誌の「世界を変える企業50選」に選ばれた報告もありました。

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今回ご参加いただいた会員企業のみなさまは以下の通りです。

株式会社伊藤園
株式会社イトーキ
エーシーシステム・サービス株式会社
株式会社NTTデータ
シャープ株式会社
ダイキン工業株式会社
大成建設株式会社
株式会社ティップネス
株式会社東京国際フォーラム
日本郵政株式会社
東日本電信電話株式会社
前田建設工業株式会社
三菱地所株式会社
株式会社リコー

<オブザーバー>
国土交通省
株式会社そごう・西武
株式会社TBSテレビ
株式会社日本経済新聞社
日本郵便株式会社
株式会社パソナグループ
浜松市東京事務所
株式会社東日本大震災事業者再生支援機構
株式会社日立コンサルティング
株式会社ヒュー
株式会社読売新聞東京本社

<学生>
慶應義塾大学および大学院
東京大学大学院


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エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。

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