イベントCSV経営サロン・レポート

【レポート】協業で拓いていく、未来につながるお金会員限定

2018年度第4回CSV経営サロン 2019年1月23日(水)開催

8,11,17

エコッツェリアに集う企業の経営者層が集い、環境まちづくりを支える環境経営について考えるCSV経営サロン。8年目の今期も、2020年以降のCSVビジネスの可能性を探るべく、前年度に引き続きSDGsを念頭に置きながら、環境をひとつの軸として、社会問題の解決をどうビジネスにつなげていくかについて検討を続けてきました。

今年度、最終回となる第4回のテーマは、「未来に繋がるお金」。グローバル化によって経済圏は拡大したものの、その一方ではお金が一部に滞留し、「必要なところにお金が回っていない」という現状があります。1月23日(水)に開かれたサロンでは、この課題について考察を深めるために、横山天宗氏(SOMPOリスクマネジメント株式会社 上席コンサルタント)と田中秀樹氏(株式会社エルブズ代表取締役社長)をゲストに迎え、単なる利便性ではない、地域内での循環を目指した組織的なお金の使い方をお話いただきました。

冒頭、道場主を務める小林光(エコッツェリア協会理事・慶応義塾大学大学院特任教授)は、「お金のために働くのではなく、私たちがうまく働くためにお金を使いこなすには、どうすればいいのか。その手がかりを見出していくために、横山氏からは今あるお金を最大限賢く使うことについて、田中氏からは新しい形態のお金によって社会問題を解決する取り組みについてご紹介いただきます」と話し、ゲストにマイクを渡しました。

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気候変動リスク・機会にどのように取り組むか~保険業界の取り組み~

気候変動リスク・機会にどのように取り組むか~保険業界の取り組み~

image_csv190123_02.jpegSOMPOリスクマネジメント株式会社 上席コンサルタント・横山天宗氏

横山氏がまず紹介したのは、「グローバルリスクとしての気候変動リスク」。ダボス会議で知られる世界経済フォーラム(WEF)が発表した「グローバルリスク報告書2018」によると、気候変動が引き起こす異常気象や自然災害などが、多大な悪影響を及ぼすグローバルリスクとして認識されています。

気候変動による影響は、農業、自然災害、健康、生態系など、さまざまな分野ですでに生じています。環境省が公開した「気候変動の影響への適応の最近の動向と今後の課題」によると、農業分野では、米の白濁など品質の低下が頻発しており、成熟後の高温・多雨により、みかんの果皮と果肉が分離する浮皮症も見られています。異常気象・自然災害の分野では、短時間強雨の観測回数が増加傾向にあり、生態系では、気温の上昇に伴い、海水温が上昇したことによって、サンゴの白化などの現象が起きているほか、熱中症・感染症に関する影響としては、2015年夏、救急車で搬送された熱中症患者の19市・県計が14,125人までにのぼったことを挙げました。

西日本豪雨をはじめ、特に自然災害の多かった2018年は、人々の生活を脅かす大きな被害が生じました。「現地へ派遣する調査員の拡充、保険金支払い額の増大など、保険会社にとっても多大な影響がありました」と横山氏は話します。世界的に見ても、2005年米国ハリケーン・カトリーナ、2011年タイ大洪水、2012年米国ハリケーン・サンディなど、自然災害による経済損失や保険損害は増加する傾向にあります。

image_csv190123_03.jpeg(左)カーボンバジェット(炭素予算)。(右)パリ協定を踏まえた日本における産業別・温室効果ガス排出量削減目標。当日の投影資料より

2015年11月末から12月にかけてパリで行われたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)では、気候変動の進行を食い止めるために、2020年以降の温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が合意されました。全体目標として掲げられている「世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という『2℃目標』は、世界の気候変動対策の転換点となっています。

「気温上昇を2℃未満に抑えるための二酸化炭素排出量の上限は約3兆トンですが、2011年時点ですでに約2兆トンに達しており、上限までの残りの排出量は約1兆トンと言われています。2℃目標の達成に向けて、世界全体の人為起源の温室効果ガス排出量を2050年までに2010年比40~70%削減することが求められている状況です。パリ協定を踏まえて、日本は2013年度比で2030年度までに温室効果ガス排出量を26%、長期目標として2050年までに80%排出削減することを目指すとしています」

image_csv190123_04.jpegダイベストメント(投資撤退)の推移を示したグラフ。当日の投影資料より

一方、世界の金融業界では、パリ協定を受けて、「ダイベストメント」(化石燃料関連産業から投融資を撤退する動き)が広がっています。

「埋蔵されている石炭・石油などの化石燃料の多くは、温室効果ガスの排出規制強化によって、消費可能量が限られた、将来的に回収不可能な座礁資産と認識され始めており、石炭、石油、ガスのトップ200企業に対して新規投資を行わないなど、ダイベストメントの3つの制約にコミットした機関投資家、個人投資家の資産総額は6.3兆ドルに達しています」

ダイベストメントの具体的事例として、インドの新興財閥アダニ・グループが、オーストラリアで計画している「カーマイケル石炭採掘プロジェクト」と、それに関する鉄道網整備に対して、AXAなどの保険会社が保険提供を拒否していることを挙げました。

豪Market Forces、米インフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、Unfriend Coal,グリーンピース、350.org、Friends of the Earth (FoE)など、73団体のNGOが、同プロジェクトに対して保険を引き受けないよう、大手保険会社に対して共同書簡を送付しており、「鉱区がグレードバリアリーフに近い」、「石炭の増産が気候変動の加速につながる」などの理由により、複数の金融機関が融資を拒否しています。

「こうした動きは、日本にも無関係ではない」と横山氏は続けます。「ある大手運輸会社から、同社における環境対策が進んでないために、イギリスのファンド会社から株式売却を通告されたとのことで、ご相談を受けたケースもあります」

image_csv190123_05.jpeg(左)豪コモンウェルス銀行の2016年年次報告書。(右)同銀行の2017年CSRレポート。当日の投影資料より

気候変動に関する訴訟として世界初となったのが、豪コモンウェルス銀行の事例。2017年8月8日、同銀行の2016年年次報告書において、カーマイケル石炭採掘プロジェクトに関する気候変動リスクの適切な開示を怠ったとして、同銀行の個人株主が提訴しました。「企業の財政状態や事業戦略、将来の見通しについて評価を行うのに、十分かつ公平な情報を公開しなくてはならないと定めているオーストラリアの会社法に違反する」と主張し、同銀行が不備を認めること、そして、今後発行される年次報告書における同様の報告漏れを禁止する裁判所命令を求めています。

「原告の代理として訴状を用意した弁護士は、『この訴訟は、年次報告書で気候変動がもたらすリスクを企業がどこまで公表すべきかを示す最初の事例となる。今後、他社がならうべき指標が決まる重要な裁判だ』と述べています。ニューヨークやサンフランシスコでも、気候変動に関する訴訟が徐々に起き始めています」

2015年9月、環境・農村地域省(Defra)から要請を受けた英国の健全性規制機構(PRA)は、保険に焦点をあてた気候変動適応報告書を発行しました。これによると、保険業界における気候変動リスクは主に3つあります。

ひとつ目は、洪水や台風など、気象に関する一次的リスクとしての「物理リスク」。次に、
低炭素経済の移行に伴い、保険会社が被る金融リスクとしての「移行リスク」。具体的には、石炭、石油などの化石燃料を扱うエネルギー企業や、化学製紙などのエネルギー集約型で、エネルギーコスト上昇による影響を受ける可能性のある企業の株式や債券への投資を通じて被るリスクがあるとしています。三つ目は、「賠償責任リスク」。気候変動による損失を被った者が、その責任の負担を他者に求めることで損失を回復しようとする際に生じるリスクを指しています。

「具体的には、損害保険会社に対する第三者からの保険金請求が増加する可能性があり、会社役員賠償責任保険(D&O)など、第三者負債契約に基づき、その責任のすべてあるいは一部を保険会社に追わせようとする可能性があります」

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次に横山氏は、持続可能な社会の実現に貢献すべく、SOMPOホールディングスグループが取り組むさまざまな気候変動の事例を紹介しました。

そのひとつが、「バリューチェーンを通じた温室効果ガス削減」。「当社は、パリ協定の2℃目標達成に賛同する世界的なイニシアチブSBT(Science Based Targets)にコミットしており、新たな中長期のGHG排出量削減目標はSBTの推奨の削減水準としています」

次に、「再生可能エネルギーの普及・拡大を後押しする保険商品の提供」。再生可能エネルギー発電参入事業者などに対し、万が一の場合の保険や事業施設の立地環境などのリスク分析サービスを提供しており、「近年は、とりわけ風力発電に注力している」といいます。「風力発電は、落雷のリスクや台風による強風の被害などが多く発生し、それによって事業が想定どおりに進まないことが多くあります。当社では、計画段階における風力発電事業リスク診断サービスや洋上風力発電事業者向け損害保険などの取り組みを始めています」

image_csv190123_07.jpeg「ミャンマー天候インデックス保険」のヒアリングサーベイの様子。当日の投影資料より

同グループは、気候変動の影響を受けやすい農業が主な産業である東南アジアにおいて、農業経営リスクの軽減を目的とした「天候インデックス保険」の普及に向けた調査研究も行っています。天候インデックス保険とは、気温、風量、降水量などの天候指標が、事前に定めた一定条件を満たした場合に定額の保険金を支払う保険商品のこと。ミャンマーでは、すでに農業従事者を対象としたパイロットプロジェクトが実施されており、天候インデックス保険の販売における取り組みが進められています。

投資家サイドからも、気候変動リスク・機会の情報開示の要求が強まる中、各国の財務省や中央銀行により構成される金融安定理事会(FSB)は、2015年12月、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」を設置し、情報開示に関する提言書を2017年6月に発表しました。TCFDは任意のガイドラインですが、世界では約500社が賛同しており、日本からは、3メガバンク、3メガ損保、日本郵船、環境省、金融庁、GPIFなどが賛同しています。

「SOMPOホールディングスでは、TCFDへの賛同を表明するとともに、UNEP FI(国連環境計画、金融イニシアティブ)のTCFD保険ワーキンググループに参画し、保険業におけるTCFDのスタンダード策定に取り組んでいます」

他にも、文部科学省の気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)に民間企業として初めて「ニーズ自治体等」として参画し、気候変動リスク分析に取り組むほか、国連責任投資原則(PRI)と欧州のIIGCなどによって発足された気候変動対応をグローバルに推進するための5カ年のイニシアチブ「Climate Action 100+」に署名し、投資先へのエンゲージメントを行うなど、同ホールディングスグループの取り組みは多岐に渡ります。

最後に、横山氏は、SOMPOリスクマネジメントが環境省から調査を受託し、環境情報開示基盤の情報をもとにまとめた業種別の環境関連のリスク・機会を解説し、気候変動の影響低減に向けた適応ビジネスについて紹介しました。

「業種共通のリスク・機会は『CO2排出規制』で、温室効果ガスに関する合意や炭素税など、排出規制が強化される可能性があり、負担増加によって、財務面で影響を受けるリスクあります。対策としては、温室効果ガス削減に向けた取り組みを進めており、エネルギーの効率化やクリーンエネルギーへの転換などを実施しています」

気候変動の影響低減に向けた適応ビジネスとしては、環境省が開設した気候変動適応情報プラットフォームで紹介している企業の取り組み事例を挙げました。自然災害・沿岸域では、富士通株式会社・富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社が、ゲリラ豪雨対策として展開する「下水道氾濫検知ソリューション」、大成建設株式会社が取り組む高潮、津波の被害を低減するためのインフラ強靭化、健康分野では、シャープ株式会社による薬剤を使わずに蚊を捕獲する空気清浄機「蚊取空清」の開発などを挙げました。産業・経済活動分野では、SOMPOホールディングスグループが取り組む東南アジアでの農家向け天候インデックス保険も紹介されています。

「当社グループの事例を含め、各社は必ずしも気候変動だけを意識して進めているわけではなく、気候変動という観点から既存ビジネスを捉え直し、どのように気候変動の解決に貢献できるかを考え、適応ビジネスとして進めています。こうした取り組みは、今後、CSV経営の推進やSDGsの問題解決にもつながるのではないかと思います」と述べ、プレゼンテーションを結びました。

見守らない見守り!? 高齢者向けモバイルアプリ「御用聞きAI」

image_csv190123_08.jpeg株式会社エルブズ代表取締役社長・田中秀樹氏

次に登壇したのは、株式会社エルブズ(以下、エルブズ)代表取締役社長の田中氏。この20年、「大企業が社会課題に取り組み、新しい事業を生み出し、日本の未来を創る」という仮説のもと、さまざまな大企業とともにベンチャー会社の数々を生み出し、チャレンジを続けてきた氏は、2016年2月、ITホールディングスグループのTIS株式会社によるシードマネーの出資のもとにエルブズを立ち上げました。「社会性を持つAIで幸せを提供する」ことをビジョンとして掲げ、今後急速に増加する高齢者に寄り添うコミュニケーションサービスの提供を目指すこのスタートアップ企業が当初着眼したのは「過疎地高齢化」という社会課題でした。しかし進めていく中、「独居高齢者の問題に取り組む企業になっていったともいえる」と田中氏は話します。

「2015年8月、ある大企業との協業で農業クラウドに取り組む中、ある過疎地域で高齢者の孤独死を目の当たりにして、大きなショックを受けました。せめて最期くらい寂しい想いをさせないように、AIの力を活用してできることがあるのではないかと思い立ったのが、エルブズ創業のきっかけでした」

「これ(独居高齢者の孤独死)は、決して当事者だけの問題ではなく、社会全体の問題」だと田中氏は話します。エルブズが実施した孤独死に関わる経済的損失の調査によると、高齢者運転による事故損失額が約1.78兆円、独居高齢者孤独死による不動産損失額は約500億円。さらに、認知症高齢者の貯蓄総額においては約50兆円という統計が出ましたが、田中氏によると、「実際には約150兆円にのぼるとも言われている」のだそうです。これが何を意味するかと言うと、それらのお金の多くが眠ったままになるということ。口座の名義人が逝去すると、金融機関の口座が凍結されることはよく知られていますが、名義人に認知症の疑いがあると診断された場合も、金融機関は個人財産保護のために口座を凍結し、家族であっても勝手に引き出せないようにするためです。

image_csv190123_09.jpeg当日の投影資料より

田中氏率いるエルブズは、大阪大学や京都府立医科大学をはじめとする6大学と共同研究を行い、自治体との連携を取りながら、3年間で全国40の都道府県をまわり、約360名の高齢者の方を対象とした実証実験を18回行いました。多くの高齢者と話すことで見えてきた最大の問題は、「お金のデリバリーができない」こと。

「過疎地域に限らず、都市部でも、駅から徒歩15分離れたところでは、高齢者は孤立しています。例えば、東京郊外にニュータウン構想でつくられた5階建ての古い団地などでは、エレベーターがないため、歩行が困難な高齢者は買い物にすら行くことができない。もちろん、金融機関にお金を下ろしに行くこともできません。高齢者にとって、最もお金が必要になるのは、本人や配偶者が病気になったり、入院した時。入院では、ひと月で60万円の出費がかさむケースもあります。そのため、現金を自宅の金庫に入れるなどして、自ら管理している高齢者は多いです。バスや近くに住む子どもの車に乗せてもらうなどして、自分で下ろしに行く人もいますが、金額や下ろす場所によっては1度で下ろせないため、何度も足を運ばなくてはならないこともあります。お金のデリバリーの問題は、近い将来、自身を含めて皆さんにも訪れる現実。我々は、この現状を変えていきたいと思っています」

image_csv190123_10.jpeg当日の投影資料より

昨今、多種多様な電子マネーが登場していますが、「ほぼすべてが都市部向けで、少し離れた地域では使えないものが多い」と田中氏は話します。エルブズが創業当時から実証実験を続けてきた京都府南山城村(人口約2,800人)では、電子決済が一度もされたことがなかったといいます。

「日本には1718の基礎自治体がありますが、その69%を占めるのは、人口5万人未満の1402の自治体で、南山城村のような過疎地域が多く含まれています。"(過疎地域は)切り捨てるべきだ"とよく言われますが、それをできない理由があります。南山城村のみならず、一見純朴に見える地域の地下深いところには、都市部の生活が成り立つために不可欠な電話回線が通っていたりします。その回線がなければ、都市部の通信が麻痺してしまうほど、重要なものです。このような地域をしっかりサポートできる電子マネーが必要ではないだろうか。過疎地域に特化した電子マネーをローンチできれば、ビジネスの可能性としても大きいのではないか。それが当初考えていたことでした」

しかし、それらの地域での先立つ問題は、増加の一途をたどる高齢化率。高齢者は、認知症でなくても認知能力が低下するため、電子ウォレットをつくっても使えないことが予想されます。仮に、それが過疎地域の若い人たちの間で流通したとしても、問題の根本的解決にはなりません。そこで田中氏は電子ウォレットの代わりに、高齢者がゲーム感覚で使えるチャットのようなコミュニケーションサービスを開発することにしたのです。

image_csv190123_11.jpeg当日の投影資料より

田中氏が約360人の高齢者と話してきて分かったのは、「高齢者は、子ども自慢と雑談が好き」だということ。それを念頭に置きながら、大阪大学大学院 基礎工学研究科石黒研究室と共同研究を進める中、「御用聞きAI」という名のコンセプトに行き着きました。同研究室を率いるのは、マツコロイドで知られるアンドロイド研究の第一人者、石黒浩教授です。

「御用聞きAIは、高齢者が操作のしやすいユーザーインターフェイスを採用しており、分かりやすく直感的な操作が可能なモバイルアプリです。上部には"おはなし"、"こまりごと"などエージェントの一覧があり、指でタップして選択すると、対話ができる仕組みになっています」

エージェントのひとつとして、田中氏は、「だいすけくん」という御用聞きAIのキャラクターが、高齢者の親とその息子(ひできくん)の仲介を行うプロセスを紹介しました。

<息子のユーザーインターフェイスに表示されるだいすけくんとの会話>
だいすけくん:最近お仕事忙しい?
息子:そうだね、忙しいね。
だいすけくん:忙しいのもいいよね。
息子:責任ある仕事だからね。
だいすけくん:頑張ってるね。
息子:ぼちぼちだよ。
だいすけくん:機会があったら、ご両親にも伝えておくね。

<高齢者のユーザーインターフェイスに表示されるだいすけくんとの会話>
だいすけくん:ひできくん、お仕事頑張ってるみたいだね。
高齢者:元気そうで安心したわ。
だいすけくん:責任ある仕事やってるみたいだよ。
高齢者:会社の人ともうまくやってるかしら。
だいすけくん:うんうん、ひできくんは大丈夫だよ。
高齢者:でも心配だわ、体が。
だいすけくん:そうだよね、今度聞いておくね。
高齢者:お願いね。
だいすけくん:うん。

「親子が直接話すと、些細なことでもつい喧嘩してしまうことがありますが、このように御用聞きAIが親子の間に入ることで、うまく取り持ってくれるうえ、ゆるやかな情報交換できます。見方を変えると、高齢者のユーザーが御用聞きAIに子供自慢をしているとも考えられます」

image_csv190123_12.jpeg当日の投影資料より

御用聞きAIでは、石黒研究室と取った特許に加えて、エルブズ独自の「見守り」、「対話」、「認証」の3つの特許を取得しています。そのひとつが、シナリオ辞書を用いて破綻の少ない対話生成を実現した「すべらない話発話機」。

「前後の対話から、いわゆる"鉄板"の最適な話を自動抽出するので、楽しい雑談が行えます。さまざまな地域で実証実験しましたが、1時間以上、夢中になって楽しんでくれた高齢者の方もいます。顕著だったのは、それらの方は皆、同じ話を何度も繰り返す傾向にあることでした」

これらの機能に加えて、病院、警察など、近隣の避難所を対話で検索する機能を追加し、現在、御用聞きAIから検索可能な総登録施設数は、全国32万件にものぼります。さらに、昨年は、老年精神医学を専門領域とする京都府立医科大学の成本迅教授が監修した「御用聞きAI生活元気度チェック」をリリースしました。

「さまざまな機能を追加していく中、便利機能として、電子マネーを組み込むことを実現しました。高齢者にとっては、QRコードよりも、もっと簡単に非接触でできる方法が必要でした。加えて、どんな端末であっても、ブルートゥースで決済できるものを開発する必要があった。そこで我々は、独自の電子地域通貨『エルブズコイン』を開発しました。専用のレジアプリを店舗などの請負側がインストールすることで、専用設備の導入なしに、買い物など御用聞きAIでのエルブズコインの受け取り=キャッシュレスを可能にしました」

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国会で取り上げられたほか、NHKや日本経済新聞などさまざまなメディアから注目を集める御用聞きAIは実証実験のフェーズを終え、今、新たなステージを目指しています。

「我々は、低コストを念頭に大企業と連携しながら、ビジネス拡大を図っていきたいと考えています。今後、アジア諸国でも日本同様に急速な高齢化が始まりますが、御用聞きAIの成功事例が"日本発のブランド"であれば、それらの国々での展開も可能ではないかと思っています。我々が取り組んでいるような社会問題は、ひとつの組織や一個人の想いだけでうまくいくようなものではありません。ご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げるとともに、今後は、我々のビジョンや取り組みにご賛同いただける方との協業を図っていきたいと思っています」

昨年11月30日、実父が他界したばかりの田中氏。残された母親は独居高齢者となり、田中氏はその家族として、エルブズが掲げる社会課題の当事者になりました。「"見守らない見守り"で、さびしさゼロへ。エルブズの代表として、また当事者としてもこの事業を成功させたいと思っている」と語り、プレゼンテーションを結びました。

協業型ビジネスが秘めた可能性

image_csv190123_14.jpeg左:小林光(エコッツェリア協会理事・慶応義塾大学大学院特任教授)(右)本経営サロンの師範を務める吉高まり氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券のクリーン・エネルギーファイナンス部主任研究員、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科特任教授)

プレゼンテーションのあとは、道場主の小林や参加者の方から、登壇したお二方に次々と質問があがりました。ここでは、主だった内容を紹介します。

Q:SDGsは経営者層にとって関心の高いテーマであり、自分ごととして捉えられていない
社員も多くいる。SDGsを社内で浸透させるための良い手立てがあれば教えてほしい。

横山氏:すでにSDGsに関する取り組みを始めているのなら、その内容を社内で共有することはひとつの策だといえる。当社グループを例に挙げると、東南アジアで行っている天候インデックス保険の調査研究は、SDGsにもつながる取り組み。特に途上国では非常に必要とされている商品であり、自身も現地でヒアリングを行う中で保険というものの価値を改めて痛感した。こうした活動内容を社内で共有することで、各自が自社の商品価値に対する気づきを得られるとともに、SDGsへの理解も深まっているように感じる。

Q:企業としてSDGsに取り組まないことへのデメリットはあるか?

横山氏:外部のステークホルダーの視点から、SDGsに取り組んでいない企業とみなされることが、最も大きなデメリットだと思う。最近では、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を仕掛け始めていることもあって、特にSDGsに関しては、多くの企業が活路を見出している。SDGsに取り組むことは対外的なアピールになるだけでなく、社内に対しても自社サービスや商品の魅力についての理解を促すという点で非常に有用な手段であると思う。

Q:電子マネーの観点でいうと、お金のデリバリーができても、モノのデリバリーはどうするのか?お金とモノの連動について教えてほしい。

田中氏:御用聞きAIが「見守らない見守り」を意図してつくったものであるのと同じように、インターネットを介して注文をしたモノを自宅までデリバリーすることは、高齢者にとって良くないことだと思っている。京都府南山城村では個配実験をしたこともあるが、取りやめにして、郵便局やJAの軒先などにモノを置いてみた。そこで分かったのは、高齢者が地域内で(自力で)行ける距離があること。エレベーターのない5階建ての団地ならフロアにモノを置くなどして、一歩でも家から出ることをおすすめしている。我々が理想としているのは、高齢者の方たちが御用聞きAIに促されて外出することで、結果的にお金を循環させていくことである。

Q:御用聞きAIに搭載された電子マネーを事業化するための手数料やスキームはどうなっているのか?ビジネスモデルについて教えてほしい。

田中氏:我々にとって、メインのお客様は基礎自治体。低コストを念頭に、大企業との連携によるBtoBtoC、あるいはBtoGtoCのビジネスモデルを組んでいる。具体的には、エージェント3体と、1体を提供する2つのプランから選ぶことができる。他にも、高齢者を対象とした商品販売を行う大企業などからの要望もあるので、そこでも、販売を行うことをビジネスモデルに組んでいる。アプリは無料でダウンロードできる。決済手数料については、事業計画上では薄く乗せているが、そこで利益を得ることはあまり考えていない。

Q:認知症を発症している高齢者の場合、会話が成立しないのではないか?

田中氏:「御用聞きAI生活元気度チェック」を監修してくださった京都府立医科大学の成本迅教授の専門領域は認知症の中でも、「意志決定支援」と呼ばれる分野である。成本教授によると、「認知症や知的なハンディキャップを持つ人に対して、意志がないかのような扱いをするのはあまり良いことではない。彼らは意志があるが、多くの選択肢からひとつを選ぶことが少し苦手になっただけ」。実証実験では、認知症を発症した方も、100歳を超えて認知機能が低下した方も、御用聞きAIでの会話を楽しんでいた。現に、3、4つの適切な選択肢を示すと、彼らは問題なく選ぶことができている。

「今日のお二方のプレゼンテーションで印象に残ったキーワードは、"協業型"。さまざまな業種の人が力を合わせて、ひとつのビジネス課題に挑戦すること、実際に使えるソリューションを作っていくところが共通していると思いました。日本には、使える仕組みが多くあります。協業することで、人々にとって役立つ商品が生まれ、かつ利益を生み出す仕組みを築いていける可能性があることを切に感じました」と小林は総括し、第4回CSV経営サロンは終了となりました。今後も、CSV経営サロンの発展にご期待ください。

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