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【レポート】水素社会実現で、CO₂排出量80%削減は可能か?会員限定

CSV経営サロン2019第2回「水素が拓く新時代」 2020年1月15日(水)開催

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CSV経営に関する最新トレンドや取り組みを学び、参加企業間のコミュニケーションの創出とネットワーク構築を目的とするCSV経営サロン。9年目を迎えた今期も、2020年以降のCSVビジネスの可能性を探るべく、サステナビリティやSDGsを念頭に置きながら、環境をひとつの軸として、社会問題の解決をどうビジネスにつなげていくかについて検討を続けています。1月15日(水)に開かれた今年度第2回のサロンのテーマは、「水素が拓く新時代」です。

2019年10月に猛威を振るった台風19号、台風21号を見ても明らかなように、近年、地球温暖化が一因と考えられる異常気象が頻発しています。そうした中、製造過程で温暖化ガスを出さない新たなエネルギー技術として期待が高まっているのが、"水素エネルギー"の利用です。今回は2名のゲストをお招きし、究極のCO₂フリー燃料と言われる水素の役割と可能性について、東京大学先端科学技術研究センターの杉山正和教授に、水素ビジネスの最新動向について、住友商事 水素関連事業ワーキンググループ統括の木村達三郎氏にお話しいただきました。

冒頭、座長を務める小林光氏(東京大学総合文化研究科客員教授)が「日本政府は2030年の住宅部門のCO₂排出量を40%削減する目論見を立てています。この達成は省エネ努力だけでは不可能で、エネルギー源のトランジションが必要。化石燃料は環境を汚染しますが、"安価"という理由で使用が許されています。一方、環境に優しいのに"高価"という理由で使用されないエネルギーもあります。考えてみれば、おかしな話ですよね。その問題をどのように解決していくか、たいへん興味があります」と期待を述べた後、サロンが開幕しました。

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海外で水素を製造し、日本に輸入する

海外で水素を製造し、日本に輸入する

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最初に登壇した杉山正和教授は、水素の利活用はもちろんのこと、CO₂排出ゼロのエネルギーシステム構築に向けた水素源の確保の必要性について力説しました。
「人類が使用してきた石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料は、億年単位の長い年月をかけて形成されたものです。その化石燃料を、産業革命以降、100年単位という短いオーダーで大量消費してきました。このペースで消費し続けていては、サステナビリティを担保することはできません。端的に言うと、収支勘定が合わないのです。燃料を"作るペース"と"使うペース"をなるべく同一にしなければ持続可能な社会は実現できません。では、どのようなエネルギーを使用することが望ましいのでしょうか。そこから考えていきたいと思います」

候補の筆頭に挙げられるのは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーです。2016年、日本政府は温室効果ガスの排出削減目標として、『2050年に2013年度比で"80%"減』を閣議決定しました。80%削減は、容易に達成できる数字ではありません。ただ、明るいニュースも聞こえてきます。固定価格買取制度(FIT)の恩恵もあって、日本国内の再エネ発電量は増加の一途を辿っており、推計によると、2030年の電源構成見通しでは、太陽光発電は総電力供給の7%に当たる75 TWh(テラ・ワット・アワー)を占めると見積もられています。

こうしたポジティブな数字が発表されている一方で、杉山教授は「日本中のすべての空き地で太陽光発電が行なえるようになったとしても、2050年に80%削減を達成することは難しいでしょう」と注意を促します。

「環境省が見込んでいる2050年の再エネ導入量は、最大シナリオで太陽光発電量が約300TWh、再エネ全体で約730TWhになります。日本の年間発電量は約1100TWhであり、80%削減には届きません。注意すべきなのは、太陽光発電と風力発電は"天候任せ"の再エネで、火力や原子力と違って、調整できない電力であることです。電力需給のマッチング、すなわち"電力が不足しそうだから、追加で発電しよう"と考えても、補完的に発電することができないデメリットを抱えています。対策として、日中に発電して、余剰電力をリチウムイオン電池で蓄電するアイデアが考えられますが、いずれにしろ、日本全体で必要な電力量をすべて蓄電池で賄おうと思ったら、とてつもない量の電池が必要になってしまいますし、リチウムの産出量もネックになるでしょう」

端的に言うと、調整力がない再エネ電源だけでは、日本社会は成り立たないということです。そこで杉山教授が注目している燃料が、"水素"です。杉山教授は「CO₂排出量の80%削減の実現には、いま進められているように、まず再エネ電力の活用から始め、少しずつ水素の活用量を増やしていき、いずれは全発電量の半分程度を水素で賄うことが望ましいでしょう」と話します。

問題は、"水素をどう製造するか"です。
「化石燃料を改質して水素を製造する技術は確立されていますが、この方法では結局CO₂を排出することになるので本質的な解決にはつながりません。電気エネルギーを使った水の電気分解によって水素を製造する方法もありますが、発電方式によっては、大元の電気エネルギーを生み出すためにCO₂が排出されます。完全にCO₂フリーな水素を得る方法として、再生可能エネルギーの一つである太陽光発電や風力発電と水電解の組み合わせがベストです。つまり太陽光や風力で発電した電力で水分解を行ない、燃料としての水素を作るわけです。この方法なら、製造から使用までの全工程においてCO₂フリーな水素供給システムを確立することができます」

杉山教授が説明するように、エネルギー需要を満たしつつ、CO₂排出80%削減を実現するには、自動車などの移動体だけでなく発電や高温熱源の燃料を、製造から利用までの間にCO₂を排出しないCO₂フリー水素に転換する必要がありますが、"言うは易し、行なうは難し"です。杉山教授の試算によれば、その実現に必要な水素は、年間6000万tという途方もない量にのぼると言います。
「水の電気分解で6000万tの水素を製造するには3000TWhの電力が必要で、これは、現在の日本の総発電量の約3倍です。3000TWhの電力量を太陽光発電で得るためには、2700GWの発電容量が必要になります。現時点で日本全土での太陽光発電容量が約50GWですから、想像を超える大規模な太陽光発電が必要です」

杉山教授によれば、2700GWの太陽光発電を実現するために必要な太陽光パネルの面積は"180km四方"になると言い、「関東地方が太陽電池パネルで覆いつくされる計算で、ここ丸の内は消滅しますし、天皇陛下にも京都へお帰りいただかなければならなくなってしまいます」と、ジョークで会場を沸かせます。

「つまり、日本国内でまとまった量の水素を作ることは、現実的とは言えないのです。では、どうすればいいのでしょうか。ひとつのアイデアとして、広大な土地を持つ海外の国で大規模な太陽光発電を行ない、その電力で"燃料としての水素"を製造して日本に持ってくる方法が考えられます。水素は、液体水素やケミカルハイドライド、アンモニアやメタンなどの液体状態にすることが可能なため、船舶での運搬に適しています。とくに、ケミカルハイドライドは比較的小ロットから製造できるため、いずれは、灯油のように、家庭に配達できるようになるかもしれません」

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水素製造の候補国のひとつとして、杉山教授はオーストラリアを挙げました。
「オーストラリアには、誰も住んでいない広大な土地がありますし、日照条件も良好です。日射量が多いため、太陽電池パネルの面積を3分の2程度に抑えられるはずです。もちろん口で理想ばかり語っているだけでは何も始まりませんから、私は実際にオーストラリアへ赴き、現地の大学などと共同で技術検証を実施しました」

杉山教授は、クイーンズランド工科大学や千代田化工などと共同で、太陽光で発電した電力で、水素を含んだメチルシクロヘキサンを作り、それを日本に運び、脱水素システムを使って水素を取り出す実験を行ない、見事に成功させました。
「オーストラリアで水素を作り、それを日本に輸送して使用するシステムの確立には、かなりの投資が必要になりますが、日照条件も良く、船舶による輸送の利便性の高さを考慮すると、オーストラリアは絶好の候補地と言えるでしょう。現地の人にこのプランを話してみたところ、拒否反応を示した人はいませんでしたし、クイーンズランド州の首相からも前向きな返事をもらっています。もちろん実現には、経済学的・地政学的ファクターが関わってくるので簡単ではありませんが、オプションのひとつとして考慮する価値は充分にあると思います」

そのほか、杉山教授は、今後の実用化が期待されている"光触媒"を使った水素の製造について触れた後、次のように述べて、講演を終えました。
「明日からいきなり太陽光由来の水素に転換することは現実的ではありませんが、その方向へ持っていくために、何らかのトランジションシナリオが必要。そのシナリオとは、水素がごく当たり前に世界中で流通し、それが日本のエネルギーシステムを支えるというシナリオです。そのためには、まず再エネの不安定性を克服し、それをカバーするための蓄電技術が、水素利用も含めて導入される必要があります。
さらに、再エネ発電量が増えたときに、必ず余剰分の再エネ電力が生まれます。それを何に使うか、水素に転換して燃料電池自動車に使う、あるいはプラスチックなどの化学品の合成に使うなど、いろいろなプランが考えられます。そのあたりの構想は皆さまのようなビジネスのプロフェッショナルにお任せするとして、水素に転換するならするで、大事になるのは"価格"を下げることです。そのためにいま何をすべきか、10年後に何をすべきかを、皆さんとともに考えていきたいと思っています」

必要なのは、正しい技術と時機、強い意志と勇気

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続いて登場したのは、住友商事の木村氏です。住友商事は2015年から水素の全社組織を立ち上げ2018年に『水素関連事業ワーキンググループ』を社内に設置、部門横断で水素関連ビジネスの創出に取り組んでいます。木村氏の話は、宇宙創成の話からスタートしました。
「宇宙は約138億年前に誕生したと言われていますが、この宇宙で最初に誕生した物質こそ"水素"です。さて、宇宙138億年の歴史を地球の1年間に喩えると、まず1月1日にビッグバンが起こり、宇宙空間に水素が拡散しました。9月に太陽や地球が誕生し、9月22日に地球上に原始生命が誕生しています。魚が海を泳ぎ始めたのは12月に入ってからで、12月26日に哺乳類が誕生、科学が登場したのは、12月31日23時59分59秒頃のことで、人間の一生は、たったの0.2秒です。この計算によると、人類が化石燃料を大量に消費し始めたのは0.5秒前のことで、この0.5秒間で、大量の温室効果ガスを地球上にばら撒いてしまいました。これは、何とかして減らしていかなければなりません」

次に、木村氏はエネルギーを取り巻くメガトレンドと水素をめぐる各国の動きを紹介していきます。「例えば、欧州では "エネルギー・トランジション"の必要性が声高に叫ばれていて、水素が大きな役割を果たすのではないかと期待されています。また、"セクターカップリング"という、従来の産業界の壁を越えた連携で脱炭素化を進めていこうという動きがあります。特に北部オランダとドイツでは、再エネ電力を最大限活用する施策が進められており、脱炭素化に向けて大きく舵を切っています。北海周辺を含む欧州では化石燃料から製造したグレーな水素を年間700万tほど産業で使用していますが、これをすべて再エネ由来のクリーンな水素に転換するとなると、直ちに大きなビジネスチャンスが生まれると考えています」

欧州では脱炭素化の取り組みが先行しており、欧州の大手ユーティリティ会社は、軒並みビジネス戦略を再エネにシフトしていると言います。木村氏によれば、大手石油会社もBPやSaudi Aramco、Shell、Equinorなど欧州勢10社が核になり2014年、気候変動対応イニシアティブの『OGCI(Oil and Gas Climate Initiative)』を発足させ、10年間で10億ドルを、気候変動対策の一環として排出削減技術の開発に対し出資する計画を公表、この『OGCI』に2018年、エクソンモービル、シェブロン、オクシデンタル・ペトロリウムという米国の大手エネルギー企業3社が加盟したとのこと。また、スペインの原油・ガス大手のレプソル社は、2050年までにCO₂排出量を実質ゼロにする目標を最近公表しました。これは、石油・ガス業界としてはいち早い試みで、報道によれば、ノルウェーのソブリンファンドは、レプソル社の保有株式を倍増させたといわれており、金融界も敏感な投資活動を具体的に行い始めました。

「こうした世界的な潮流の中、日本はどうすべきなのでしょうか。先ほど杉山先生も話されていましたが、エネルギー源としての水素導入を拡大させていく場合、日本で地産地消で製造すべきか、海外で製造したものを輸入するのかというような議論はエネルギー戦略も含めて今後議論を深化させていく必要があると思います。経済合理性の評価に関しては様々な試算があります。国際エネルギー機関(IEA)が発表しているシナリオもその一つですが今後さらに精緻なものにしていく必要があります。
アメリカもトランプ政権で環境政策が後退したかの印象を受けますが、エネルギー省は着実に水素の大規模導入プログラムの検証を進めています。各研究機関も非常に素晴らしい脱炭素化への提言を次々に発表しています。もちろん日本も手をこまねいているわけにはいきません。
「私たち住友商事も、長期的な視点に立って、水素のビジネスモデルを構築するための活動を全社横断で取り組んでいます。当初、2030年くらいまでは種火や口火を育て、その後の10年間で、実際の投資決定や実行に移ればいいと考えていましたが、最近その考え方をあらためまして、今すぐに口火や種火を育て実装に備えつつ、2025年くらいまでには投資を実行しているような状況になっているべきではないかと、少なくとも私個人は前倒しの必要性を感じています」

そのために必要なことについて、木村氏は次のように述べて話を終えました。
「テクノロジーの正しい理解と適用のタイミングの見極め、そして何よりも、踏み込む強い意志と勇気が必要だと思います。私たちは、水素をただ単に右から左に持ってくるだけの商売は考えておらず、"カーボンフリー"というバリューでビジネスを作ればいいのではと漠然と考えています。先ほども申し上げましたが、人間の一生は、たった0.2秒。このわずかな時間の中で、私たち一人ひとりはいったい何をなすべきか。参加者の皆さまで考えてほしいと思います。ぜひ活発な議論をお願いいたします」

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木村氏の講演終了後、本経営サロンの師範を務める吉高まり氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の環境戦略アドバイザリー部 チーフ環境・社会(ES)ストラテジスト、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科非常勤講師)が、木村氏に対し「私もサスティナブル・ファイナンスに注目し、日ごろからキャッチアップしています。EUが向こう10年間で官民から1兆ユーロの持続可能な投資の誘導を目指すとしており、その中に移動体向けも含まれています。木村さんのおっしゃるファンドは、いったいどこがそれだけの大金を出しているのか気になっています」と質問。
それに対し、木村氏は「EUの基本的な考え方は、民間50%+EU50%です。つまり民間企業が半分の資金を提供して研究開発が行なわれます。この例からわかるように、欧州には自ら血肉を削りながら研究開発に取り組んでいる企業がたくさん存在しますから、競争という観点で考えると、日本は大丈夫かなと危惧しています」と回答しました。

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最後に、小林光氏は「今日はビジネスのヒントが盛りだくさんだったと思います。住友商事さんは、全社横断で水素の使い道を考えるという話でしたが、単に、環境担当部局だけが取り組むのではなく、みんながそれぞれ考えるというところに面白さを感じました。杉山先生の話もたいへん興味深く、例えば水素で農作物を育てるとか、いろいろな要素を組み合わせて、単に水素を作って売るだけではなく、脱炭素の価値が生ずるような仕組みを作ることができれば面白いと思いました」と感想を述べ、この日のサロンが閉幕しました。

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