イベントCSV経営サロン・レポート

【レポート】エネルギーの地産地消を実践する、地域や企業の取り組みとは会員限定

CSV経営サロン2020年度 第2回 2020年12月2日(水)開催

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東日本大震災を契機に、脱炭素社会に向けた再生可能エネルギーの普及が進む中、大規模発電所に依存した従来型のエネルギー供給システムのあり方が抜本的に見直されています。12月2日に開催したCSV経営サロン第2回では、鈴木精一氏(福島発電株式会社 代表取締役社長)、橋本直子氏(須賀川瓦斯株式会社 代表取締役社長)、比嘉直人氏(株式会社ネクステムズ 代表取締役社長)をゲストに迎え、「新しいエネルギーの未来像〜マイクログリッドとVPP〜」をテーマに、各社の最新の取り組みや課題、未来像についてお話いただきました。

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いよいよ風が吹いてきた

いよいよ風が吹いてきた

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最初に、本サロンの道場主である小林光氏(東京大学大学院総合文化研究科客員教授)が登壇し、話題提供を行いました。

「今、コロナ不況の克服策として、グリーンリカバリー(環境を重視した投資などを通して経済を浮上させようとする手法)が広がりを見せているように、自然災害に強い自律分散型の社会経済構造への修復が世界中で課題になっている。そうした社会経済構造づくりにより、多くの社会課題が改善される可能性がある。特に期待されるのが地球温暖化に対するアプローチ。おりしも、米国がパリ協定復帰の見込みで、日本でも2050年実質排出ゼロの総理方針が表明された。今日はこうした文脈の中で、脱炭素と自律分散型の社会経済構造との係わりを検討していきたい」

昨今、諸外国が表明したグリーンリカバリーの方針の中でも、小林氏が「大変力強い表明だと感じた」と言うのが、英国の「10ポイント・プラン」。再エネ電力の供給面では、洋上風力の徹底強化、需要面では、電気自動車と家庭のヒートポンプを強調しているほか、再エネ熱利用にも触れており、財政出動の金額も具体的に記されています。

「日本の場合、これから検討していくわけだが、CO2排出量のうち約半分は熱利用のための化石燃料燃焼となっているので、短期的には電力への置き換えが必要で、さらに水素活用が長期的な戦略となる。化石燃料の直接燃料を減らし、電力に置き換えることが望まれるので、電力消費自体はおそらくはそうは減らない。一層の節電はもちろん、発電のためのエネルギーを再生可能エネルギーに求めるのが不可避であると言える」

小林氏も研究スタッフを務める日本経済研究センターの研究によると、「これまで日本では、省エネはある程度進んできたが、発電においては脱炭素化と逆方向だった」。GDPあたりのCO2原単位の変化を見ると、多少の進展は見られるも、英国やスウェーデンをはじめとする諸外国に大きく遅れを取っており、再生可能エネルギーの主流化は遅々として進まない状況にあります。

「コロナ禍で電力需要が減った中、再エネ発電は堅調なので、2030年の電源ミックス目標は、足元では偶然に達成したが、この目標は元々弱い。まして、2050年に脱炭素化ということになると、全然足りない。どうすれば、再エネ電力を飛躍的に増やせるかが課題である」

「電気は、需給量が一致しないといけない。そのため、供給面では再エネ電力を余るほど作り、不足時のために貯めて使う。需給面では、再エネ電力発電量に合わせて、需給を上げ下げする調節を行うことが基本となる。需給調節をどのような地理的範囲で、どのような技術手法で行うか。さらにビジネスとして行うには、需給両面でもっと知恵が要るだろう」

地域経済社会への貢献を目指した、再生可能エネルギー事業の取り組み
福島発電株式会社 代表取締役社長 鈴木精一氏

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次に登壇したのは、再生可能エネルギー発電・広域送電のパイオニアである福島発電株式会社の鈴木精一氏。同社は、東日本大震災後、平成25年5月の創立以来、先導的な再生可能エネルギー事業による地域経済社会への貢献を目指して、福島空港メガソーラー、大熊町ふるさと再興メガソーラー発電所、県北メガソーラー発電所などの建設を手掛けてきました。現在は、阿武隈風力発電計画にも参画し、阿武隈山地と福島県沿岸部での再生可能エネルギーの導入拡大に向けた、送電設備の整備にも取り組んでいます。

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冒頭、鈴木氏は、福島県の復興状況について説明しました。

「除染については、帰還困難区域を除き、除染実施計画に基づく面的除染が2018年3月までに100%完了している。県内の空間線量は大幅に低下し、世界の主要都市と同水準になった。一方、災害復旧工事は全体の95%が完了。道路等の交通網の整備も進み、JR常磐線が全線で運転再開されるなど、公共インフラの整備も進んでいる」

次に取り上げたのは、福島県内のエネルギー種別導入実績(設備容量、大規模水力を除く)。2019年度は、対前年比129.5%の2582MWが導入され、単年度での増加量としては、過去最大を達成しました。その大半を占めているのは太陽光発電で、2020年夏の段階で、太陽光発電設備の導入量は、福島県が日本一となっています。

また、2040年頃を目処に、県内エネルギー需要の100%以上に相当するエネルギーを再生可能エネルギーから生み出すことを目標とした「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」に対する2019年度の達成率は34.7%。この推進ビジョンは、原子力に依存しない安心・安全で持続的に発展可能な社会づくりを目指すべく、「環境への負荷の少ない低炭素・循環型社会への転換」と「復興(地域振興)」を基本方針として打ち立てられたもので、現在、改定に係る推進施策に対する基本イメージの議論が行われています。

「元々、再生可能エネルギーの導入推進という第1の柱、再生可能エネルギー関連産業集積という第2の柱、そして、水素社会実現というのがあった。ここに、新たな第3の柱として、持続可能なエネルギーシステムの構築が加わった」

平成29年2月、鈴木氏は、一般社団法人 福島県再生可能エネルギー推進センターの設立に参画。福島県が掲げる「再生可能エネルギー先駆けの地」の実現に向けて、住宅用太陽光設備補助金の交付、事業化支援・普及啓発・人材育成など、県民に身近な再生可能エネルギー・省エネルギーの推進を目的とした活動を行っています。福島県住宅用太陽光発電設備の設置補助は、累計33,000件(令和元年度)を超え、現在も増加中です。

葛尾(かつらお)村のエネルギー地産地消

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再生可能エネルギーの地産地消の取り組みとして、鈴木氏が最後に紹介したのが「葛尾村スマートコミュニティ」。葛尾村は、福島県の浜通りに位置する人口約1400人の中山間地域です。葛尾村スマートコミュニティでは、村の中心部に、太陽光発電設備と蓄電池、全長約5kmの自営線(太陽光をはじめとした再生可能エネルギーの発電所から電力連系点までを結ぶ送電ルート)を建設し、不足する電源を調達するとともに、電力需給システムにより、村中心部に安定的に電力を供給するという試みが、2020年11月末に始動しました。村内交通にも電力を活用するために、電気自動車2台と充放電器3基を設置し、災害時には、蓄電池と電気自動車のバッテリーを活用するなど、防災力の向上にも配慮がなされています。

2018年、このスマートコミュニティのための事業体として、葛尾創生電力株式会社が設立され、鈴木氏は、同社の代表取締役副社長を務めています。

「葛尾創生電力は、葛尾村の会社として、葛尾村でつくった電気を葛尾村中心部の落合地区へ供給する特定送配電事業に加えて、2021年4月から小売電気事業も始める予定。そのほか、発電所保守管理事業も請け負っている。これらの事業によって、再生可能エネルギーの地産地消の実現と防災力の強化、地域経済の活性化と雇用の創出、収益による村や地域の振興・活性化事業・交流人口の増加を目指している」

福島初の地域新電力が拓く、未来の地域エネルギー

須賀川瓦斯株式会社 代表取締役社長 橋本直子氏 

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続いて、須賀川瓦斯株式会社の橋本直子氏が登壇。同社は、昭和29年、福島県須賀川市で創業した創業66年の地域密着型・総合エネルギー企業。県内に23事業所を構え、生活に欠かせないエネルギーの供給を通じて、地域の人々の快適な生活の実現を全力でサポートしながら、地域の豊かな未来に貢献するべく、住・食・医に関わるさまざまな価値あるサービスや製品を展開しています。

地域未来牽引企業、はばたく中小企業300社にも選定された同社の主力事業のひとつは、ガス供給事業。業務用、一般家庭用併せて、計5000件以上にLPガスの供給を行っています。橋本氏は、LPガス供給の現状についてこう話します。

「国内需要が産業用を中心に増加傾向にある都市ガスとは違って、LPガスの国内需要は低迷中で、販売事業者も2割程度減少している状況にある。地域のエネルギー事業者としては、人出不足、配送員の高齢化、供給インフラの維持負担増といった問題に直面している。また、エネルギーの自由化が進む中、業界を超えて価格競争に突入している状況。近年は災害が多発し、甚大化しているが、ガスは復旧が早い。2019年10月、台風19号が発生した際は、当社も浸水し、大変な状況ではあったが、LPガスは、電気や都市ガスと比べて復旧も早く、災害時における重要なエネルギーだと再確認した」

需要開拓・燃料転換の推進をはじめ、インフラを維持していくための人材確保と教育・配送効率化、自動検針などのデジタル化の導入など、課題はさまざまにあります。

「災害対応力の強化、災害対応型バルク設置による自立も必要。あとは、水や酒、最近ではマスクなど、一般のお客様との接点強化を掘り下げ、他エネルギー・商材で多角化していく必要がある」

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次に、橋本氏は、地元エネルギー事業者の視点で見た低炭素社会について解説しました。

「都市ガス・LPガス・電気・ガソリンは、すでに供給網が整っているので、現在のインフラを活用して低炭素、脱炭素社会にシフトしていくのが二重投資にならず現実的。需要が不透明な中、地域の事業者にとって、ガソリンスタンドに代わって水素ステーションをつくるのは、相当な覚悟がいること。さらなる政策の力が必要であり、開店休業は避けたい。また現場での人材確保が、すでに困難な状況。無人の水素ステーションをつくるより、既存のガソリンスタンドの遠隔監視の導入など、事業者としては維持が先決。加えて、水素ステーションをガソリンスタンドやガス充てん所に併設した際の安全対策、人材教育、維持費増など、事業運営のハードルも高い」

水素への転換によってガソリン税が減収した場合、事業者に対して新たな負担が増えるかどうかも懸念材料とした上で、「鍵になるのは、電化と蓄電」と橋本氏。

「地方は、一般家庭中心に太陽光で自家消費し、系統からの調達、託送ロスを最小限に抑える。余剰電力は、蓄電池が電気自動車で蓄電し、LPガスの軒下在庫で災害に備える。都市ガスエリア(都市圏・産業用)は、液化天然ガスを水素へ転換し、全体的なコストダウンを図る。このように、自立・分散・調整していくことが、地域マイクログリッドにつながっていくのではないかと考えている」

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ガス供給事業と並行して、同社では県内に11店舗のサービスステーションを展開し、ガソリン、灯油、軽油の供給も行っています。

「地域防災の要になれるよう、全てのサービスステーションに発電機を導入するなど、防災を意識した取り組みも行っている。車、タイヤ、保険・車検のほか、最近では電気の提案も行っている。震災以降、当社が特に力を入れてきたのが、太陽光発電で、現在は、県内に107ヶ所の太陽光発電所を設置している。2015年に電力供給事業を開始し、発電・需給・供給を一括自社管理している。当初は、9件のお客様からスタートしたが、現在は、高圧・低圧電気を12,000件以上に供給している」

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「福島初の地域新電力として目指すのは、「地産地消電力」。「地域内でお金がまわる仕組みに変えることで、富の流出を防ぐだけでなく、地元にも雇用が生まれ、技術も磨かれていく」と橋本氏は話します。近年は、北海道を除く東日本にも電力の供給可能エリアを拡大しています。

「地産地消を目指しているのに、なぜ?と思われるかもしれないが、他県に事業所を構える県内のお客様から依頼があり、少しずつエリアが拡大していった。また、福島県を応援したいと、首都圏のお客様から契約のお申込みをいただく場合もある」

エネルギーを通じた持続可能な地域づくりを支援するために地域公益型エネルギーサービス事業も展開しているほか、2019年11月から、余剰電力の買取りと防災用の家庭用蓄電池や家電のレンタルをスタートさせるなど、「地域へ奉仕すること」を基本理念とする同社ならではの事業を次々と展開しています。

「今後は、蓄電事業、配電ライセンス制、共同検針の活用も推進していきたい。再生可能エネルギーを導入するにあたって、政策に依った制度はもちろん大事だと思うが、これからはボトムアップで、一人ひとりができることをやっていくことも大事ではないかと思う。福島県をはじめ、地域マイクログリッドで地産地消できる仕組みを広げていきたい」

宮古島における島嶼型スマートコミュニティの取り組み
株式会社ネクステムズ 代表取締役社長 比嘉直人氏

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次に登壇したのは、株式会社ネクステムズの比嘉直人氏。比嘉氏は、「宮古島市 島嶼型スマートコミュニティ実証事業」を通じて、太陽光電気エネルギーを制御技術で整えるエリアアグリゲーション事業を行う同社を率いながら、太陽光電気エネルギーを無料設置で届ける再エネサービスプロバイダ事業を行う、株式会社 宮古島未来エネルギーの代表を兼務しています。

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宮古島市 島嶼型スマートコミュニティ実証事業は、これら2社が、宮古島市、三菱UFJリース株式会社と取り組む沖縄県の事業で、エリアアグリゲーションの実現と、再エネサービスプロバイダ事業の推進を図るべく進められてきました。再エネサービスプロバイダ事業の推進においては、一般財団法人新エネルギー財団が主催する「令和元年度新エネ大賞」で、経済産業大臣賞を受賞。「発足から10年目を迎えた今、ようやく軌道に乗り、実証から実装へと、普及事業に取り組んでいるところである」と比嘉氏は話します。

この事業は、需要家メリットがあり、地域に普及した可制御負荷(主に蓄エネ装置)を
面的群制御することで、系統負荷率向上と再エネ余剰電力吸収を行うことを目指すものです。

「具体的には、SaaSクラウド型EMS(エネルギーマネジメントシステム)に各デバイスを制御できるプログラムを実装し、直接監視制御を行っている。2018年からは、フィールド実証、新システム改良を行いながら、市営住宅や戸建住宅、事業所などへの普及を行ってきた。沖縄電力や電力系統運営者との連携のもと、需給バランスを整えていくことを目指して取り組んできた」

エリアアグリゲーションの活用によって、どのような効果が得られるのか? 比嘉氏は次のように解説します。

「現状の課題として、再エネ普及による需要変動の拡大、小売り自由化による需要変動の拡大などによる託送料金の上昇、発電設備利用率の低下、ひいては、電気料金の上昇が懸念される。エリアアグリゲーションを活用すれば、需要負荷形成で供給リスクを低減し、 発電設備の利用率も向上させられる。よって、電気料金の低下が期待できる。稀頻度リスクにも余力で対応可能できるが、リスク対応も、極力不要にしていきたいと考えている」

エコパーク宮古実証サイト

「将来的には、ひとつの家庭に対し、送配電事業者、電力小売事業者、エリアアグリケーション事業者、再エネサービスプロバイダ事業者の四位一体で、安心・安全な電気を安価で届けられるようにしていきたいと考えている。その実現のために今、エコパーク宮古実証サイトで、模擬負荷等を用いて、対象機器の動作検証等を実施している」

ここで使用している対象機器の蓄エネ家電は、改造品ではなく市販品。標準プロトコルのECHONET Liteを用いて、マルチベンダーでの制御実現を図ることを目指しています。制御の中核となるコントローラーは、本事業で屋外型を開発。対象機器の制御性確立、普及容易性、コスト低廉化を目標に、太陽光発電制御、クラウド制御システム開発など、各種試験を実施してきました。

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「新型EV充電器制御試験では、制御性能を把握するために、充電電力制御が可能なパナソニック製の新型EV充電器を用いて、余剰電力に応じてEV充電できる太陽光優先充電などの制御方法を編み出してきた。また、宮古島等に設置可能で廉価な蓄電池は、制御試験済みのオムロン製電池システムとパナソニック製ハイブリッド蓄電池システムの2機種があるが、いずれも屋内設置仕様であるため、両社メーカーと協議しつつ、約1年をかけて屋外設置方法の検証試験を行い、屋外型蓄電池をつくりあげた。評価を依頼した結果、いずれも、10年保証の範囲であるという結果を得た」

「これをクラウドシステムにつなげる時に、一番悩んだのは通信システム。現在は、通信料金が月間100円を超えない程度で済むシステムを実現している。太陽光パネルも、細波形を標準採用し、出力制限を実行してもkWh(直接利用時間)をより得られる構造とするなど、より安価に設置できる普及モデルを開発している」

「今後は、自家消費型太陽光発電の大量普及を考慮した需給一体型モデルを普及していきたいと考えている」と比嘉氏。2022年度に実装予定のスマートインバーター機能の検証を終えたところで、地域マイクログリッド構築が進む宮古列島の来間島に導入される予定です。

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地域マイクログリッド構築in来間島

来間島では、スマートインバーター機能を実装した住宅用太陽光蓄電池、エコキュート、EMS機器などを設置し、需要側EMSで制御しながら、島内にMG(地域マイクログリッド)蓄電池と充電用ディーゼル発電機を設置して、MG-EMSで制御しつつ、それらを統合制御することによって、台風停電等の非常時にも自律的な電源活用が可能な地域マイクログリッドの構築が進められています。

「今夏以降、実証に着手する予定。平常時は、島内で電力を地産地消しながら、非常時は、島内にある太陽光発電で島内の電力需要をまかなうことを目指している。系統蓄電池は、宮古島全体の太陽光発電の変動なども抑制できる機能を活用して運用していく。来間島には約100世帯が暮らしているが、真に経済的合理性を得るためには、約500〜1000世帯の地域を束ねる方がいいのではないかと思う一方、この地域マイクログリッドがひとつのバランシンググループという単位になると考えている。宮古島内のさまざまな地域に設置していけば、平常時は再エネ自給率を最大化させ、非常時にはその地域で需要電力をまかなうことが可能になる」

「再エネ主力電源化は、不可逆的に到来している。地域特性等を活かしたモデルが必要であり、それを牽引する方の登場が期待される状況にあると思う。地域の主力電源となり得る再エネ発電設備は、電気価値、環境価値だけでなく、制御価値も含めて評価して、還元していただきたいと切に願う」

パネルディスカッション

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後半は、小林氏、登壇した御三方に、本サロンの副座長の吉高まり氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社、経営企画部副部長 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 慶應義塾大学大学院政策メディア研究科非常勤講師)が加わり、パネルディスカッションが行われました。

小林:葛尾村では、自営線を建設されたそうだが、自営線にこだわる気持ちについてお聞きしたい。

鈴木:こだわったというわけではなく、葛尾村は、自然資源に恵まれており、本来ならば再生可能エネルギーを導入できる場所だが、送電線が弱く、低圧ものしか入れられない環境だった。その中で地域の電力需要をまかなうと考えた時、やはりメガワットクラスの太陽光発電所が必要ということもあり、自営線を導入するに至った。

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吉高:今日は、皆さんがご苦労されながら、事業を大きく展開されていることに、大変感銘を受けた。脱炭素社会の実現に向けたトランジションにおいても、ガスは非常に重要。橋本氏が提示されたビジネスモデルは、非常に重要だと思う。福島送電合同会社について、鈴木氏にお聞きしたい。今後はどのような形態で事業を進めていくのか? FIP(卸市場などで販売した価格にプレミアムを上乗せする⽅式)についての見解もお聞きしたい。

鈴木:福島送電合同会社の資本金は1300万円。おそらく日本で一番小さな送電会社だと思う。当初は、連携する発電事業者も、金融機関も「本当にできるのか?」と懸念されていたようだが、2020年3月までに53 kmの送電線の整備が完成している。この送電線を利用する再エネ事業者には、国から補助金が出ており、それに見合った額を毎年寄付していただき、それを地域の復興資金に充てるという形で進めている。規制の部分でなかなか難しい面もあるが今、風力に関する計画も進めている。今後は、非FIT(固定価格買取制度)の電源でやっていこうと思っている。実現できるよう、事業を拡大していきたい。

橋本:FIPは取り組んできたが、収益構造が見えにくく、自家消費率30%以上など、条件も変わってきて、やりにくいところがある。当社では、再生エネ自給率の向上を目指して、非FITで進める形を取ろうと思っている。

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吉高:宮古島での事業で、通信料金を安く抑えられたという話があったが、実際、どれくらいの収益率なのか、教えて欲しい。

比嘉:さまざま技術を駆使して、コストをミニマムに抑えるための努力もしてきたが、金融機関からの投資を受けるにあたっても、念入りに計画を行ってきた。その結果、日本開発投資銀行、沖縄金融公庫からESG投資を受けるに至った。これを原資として、約250件分の太陽光蓄電池等を購入して供給する予定。ストレージパリティが実現すれば、もはや普及は止まらない。私がやりたかったのは、これを証明すること。今期になって、地元や各地域の電力会社も自家消費型の再エネ蓄電池の普及を検討し始めている。こういった状況を生み出すことができたので、第一ステージの目標はクリアできた状態。今、IR(インベスターリターン)は8.5%くらいを確保できている。綿密に計画すれば、利益はきちんと出せる。

都市部に関しては、都市ガスがあるので、太陽光蓄電池はおそらく普及しないのではないかと思う。また、宮古島では台風による停電があるが、ガスコンロさえあれば凌げる状況が多いので、IHクッキングヒーターはおすすめしていない。あくまでも、ガスコンロで生き抜くという手段を取っていただいている。

吉高:IRRが8%を超えているのは素晴らしいと思う。ESG投資では、金融機関もサスティナブルファイナンスということで目標値を持ち、どんどん融資したいというのがあるが、やはり採算性がないと難しい。地方銀行の生き残りにとっても重要な視点かと思うので、ぜひそのモデルを広く知らせていただきたい。

小林: 今後、横とのつながりでビジネスチャンスを広げていく、あるいは技術を向上させていくといった可能性はあるか?

比嘉:当社は、第三者所有モデルとして、企業の設備を各世帯に置かせてもらっている。基本的に、統一した仕様で一括調達しているが、柔軟な対応が可能なメーカーはまだ少ない。仕様の緩和や設置方法の工夫など、提案を少しでも聞いてもらえれば、価格競争力は得られると思う。そういった連携ができれば、再生可能エネルギーが主力電源化を迎える世界の中でも、日本企業の製品が存続することができるのではないかと期待している。地元の電力会社やガス事業者など、同じ志を持つ外部の方々とは、積極的に連携していきたい。

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小林:これは極めて裾野の広い産業であり、さまざまな協力を得ていく必要があると思うが、他の日本企業や一般の電力会社等に対する意見があればぜひ伺いたい。

橋本:蓄電池を一般家庭に入れるにあたって、コスト低減の必要性を痛感している。お客様にメリットを感じていただける価格帯を実現するには、自社努力だけでは無理なところがあるので、行政を含め、皆で協力して取り組む必要があると思う。

中国が2035年を目処に、ガソリン車をゼロにし、電気自動車を50%、新エネルギー車を50%とする目標を掲げているが、そうした時代が目前に迫る中、日本が誇る自動車の技術や二重投資にならないような既存の仕組みを活かしながら、蓄電池等における電化技術も進めていき、安価に供給できるようなことをしていかないと、日本は、本当に乗り遅れてしまうのではないかと危惧している。

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鈴木:我々は、福島県内の再生可能エネルギー関連産業を振興する団体も参加しており、弊社の事業はできるだけ地元の企業に発注している。一方、国産品を使いたいがコストが高くて合わないのが現状。特にバッテリー技術は、地元のメーカーがどれだけ努力しても海外製品の約3倍のコストがかかっている。今後は、双葉郡をはじめとする企業誘致にも尽力していきたい。

吉高: 今日は、新たな連携ができたという風に感じている。20年近く、気候変動のファイナンスに携わってきたが、本当にやっと来たという感じがする。エネルギー関連省庁もこの半年で「相当意識が変わった」と言っていた。まさにこれからだと思うので、ぜひ皆さんには頑張っていただきたい。

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エコッツェリア協会では、2011年からサロン形式のプログラムを提供。2015年度より「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSVに関する最新トレンドや取り組みを学び、コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場を設けています。

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