イベントCSV経営サロン・インタビュー

「環境経営サロン 2013年度を振り返って」師範・竹ケ原啓介氏会員限定

株式会社日本政策投資銀行 環境・CSR部長

− この1年のサロンの活動を通して、どのような収穫や発見があったでしょうか。

竹ケ原氏竹ケ原 一言でいえば、「環境経営」というキーワードを拡張することができたと思います。環境という軸で深掘りできただけではなくて、その概念や範囲も広げることができたのではないでしょうか。一般的に「環境経営」といえば、狭義の環境管理・環境保全を自社の成長と同軌化させる経営モデルをイメージしますが、このサロンの視野はもっと広いです。たとえば、従業員の労働環境、広く人々の心や身体をとりまく生活環境いったことまで含めた「環境」なのですね。元々のコンセプトが「まちづくり」という複合的な視点から組み立てられているためでしょう。いずれにしても、この視点を参加者の間で改めて共有できた1年だったのではないか、と思います。

− 「CSV」という視点についてはいかがでしょう。

竹ケ原 プレゼンテーションを聞くだけではなく、参加者それぞれが「CSV」についてのワークショップ的作業をすることで、自分自身の仕事の中にある価値を捉え直すことができたのではないでしょうか。皆さんの意識もだんだんに収れんしてきたように思います。このサロンは、社会貢献やフィランソロピーだけを考える場ではないし、 狭義の意味での環境だけを論じる場でもない。私たちが追究したい「環境経営」とは、経営上の課題を解決しつつ、同時に事業と関係の深い社会的な問題を解決して、自らの強み・リソースを使いながら効果・利益を導き出すこと−−それが「環境経営」の中味なのだ、と共感できたと思います。だから、レンジは広がったのに、議論が拡散してしまうことなく焦点を絞ることができたのではないでしょうか。

− プレゼンテーションの中にユニークな事例がいくつもありましたが、印象に残っていることはありますか。

竹ケ原 まず、トップバッターに鎌倉投信・鎌田社長が登場する、というシナリオは、サロンの1年間を方向づける巧みな演出だったと思います。お金を動かすという無味乾燥な金融という機能には、通常、重要な社会インフラとしての価値しか見えていないわけです。しかし、鎌倉投信の活動内容を知れば、「もう一つの価値」、つまり社会を良い方向へ変えていく金融のあり方というものが存在しうる、とわかる。サロンの参加者は第1回目で「ワンアクション・ツーバリュー」ということの具体的事例を、目の当たりにできました。 また、カルビー・カルネコ事業部加藤氏の事例は、価格と価値の関係という非常に難しい課題について、説得力のある回答を見せてくれたと思います。消費者は納得できるストーリーや意味を読み取ることができれば価格が高くても購入する、ということ。CSVを進めていく勇気をもらった企業も多かったのではないでしょうか。 そしてキリン栗原氏のプレゼンは、日本初のCSV推進本部を立ち上げたという意味で大変インパクトのある実践事例でした。組織の形から整えて、従業員の意識を変えていくCSVへのアプローチを知る意味でも刺激的でした。

− 中には、娯楽産業と環境経営という珍しいテーマもありました。

竹ケ原氏竹ケ原 一見、遠く見える映画制作と環境経営とが、実はしっかりと結びあっていることをソニーピクチャーズ平林氏のプレゼンで知ることができました。アメリカでは、環境の取り組みをしている映画制作会社にこそ、優れたクリエイターたちが集まってくるのだと。日本でもそうした図式が定着したら素晴らしいと思います。また、ヤクルト木村氏のプレゼンでは、商品の優位性だけではなくて、販売を通して予防医学や健腸長寿といった価値と哲学を届けている、という事例でした。価値普及型CSVです。海外に進出してもその販売スタイルを維持していることに感銘を受けました。

− 新しい価値をいかに伝えるのか。社員や社会にいかに理解してもらうか、という課題は、常にサロンで議論の俎上に上がってきたと思います。

竹ケ原 そうですね。ヤクルトレディの事例からも「伝える」ヒントをもらいました。また最近は、健康経営という言葉も注目されてきています。働く人の健康が企業の競争力を左右する重要な経営課題だ、という認識も広まっています。サロンに登壇したプレゼンターでいえば、オフィス空間をデザインする家具メーカー、ハーマンミラー松崎氏の取り組みや、ドコモ・ヘルスケア竹林氏の事例は、健康的な環境をいかに創出し提案するか、その仕組みをいかに作るか、というテーマにおいて共通していました。あるいは質の高い空間作りという意味では、このサロンを開催しているエコッツェリアの三菱地所や、慶應大学SFCのエコ的なキャンパス・まちづくりも、響きあう取り組みだと思います。

− たくさんの事例が積み上がってきたサロンですが、来年度にむけて挑戦したいこと、期待したいことについてお聞かせください。

竹ケ原氏竹ケ原 今年のサロンでは、企業の本業が社会課題の解決と一体化している事例をいくつも見ることができました。来年度はさらに、まだ登場していない業種、たとえば小売業や物流、情報......といった広い範囲で、現場の取り組みについて知る機会を作ることができたら、と思います。また、集まった事例を比較・分類し、体系付けて、CSVに成功している企業のビジネスモデル/バリューチェーン像に落とし込んでいくことができると素晴らしいのではないでしょうか。そこに双方向のやりとりや予定調和ではない議論、ワイガヤが加わって、これまでにも増して新しい価値や斬新な発想がこのサロンから生まれてくることを期待しています。

CSV経営サロン

2011年からサロン形式でビジネスに関する様々なプログラムを提供。発足当初から小林光氏に座長を、2017年からは吉高まり氏に副座長をお願いし現在に至っています。
2015年度からは「CSV経営サロン」と題し、さまざまな分野からCSV経営に関する最新トレンドや取り組みを学び、 コミュニケーションの創出とネットワーク構築を促す場として取り組んでいます。

小林光氏

座長:小林光 氏

東京大学先端科学技術研究センター研究顧問 /
教養学部客員教授

慶應義塾大学経済学部卒(1973年)、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士、博士(2010・2013年、共に工学)。
1973年環境省(当時環境庁)入省。京都議定書交渉の担当課長、環境管理局長、地球環境局長、官房長、総合環境政策局長、2009年から2011年まで次官を務め退官。
慶應大学教授、米国イリノイ州にて派遣教授、2016年から現在まで東京大学客員教授。その他日本経済研究センター特任研究員、国立水俣病研究センター客員研究員、地方の環境審議会委員や脱炭素対策検討の委員等を歴任。
再生可能エネルギーを主要なエネルギー源とする資源循環型の社会を構築するために必要な価値観の転換、諸制度の整備などに取り組む。


吉高まり氏

副座長:吉高まり 氏

一般社団法人バーチュデザイン代表理事 /
東京大学客員教授/
慶慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授

明治大学法学部卒、米国ミシガン大学環境サステナビリティ大学院科学修士、慶應義塾大学大学院政策・メディア科博士(学術)。
IT企業、米国投資銀行等での勤務を経て2000年より現三菱UFJモルガン・スタンレー証券において気候変動関連の資金枠組みづくり、カーボンクレジット組成などに関与。政府、地方自治体、金融機関、事業会社などに向けて気候変動、GX、サステナブルファイナンスの領域について講演、アドバイスなどを提供し、新たにサステナビリティ経済の推進の実装を図る。

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