イベント地球大学・レポート

【地球大学Committee レポート】 「女性」と「健康」と「食」を考える

2015年1月27日(火)開催

食と健康を考える地球大学

1月28日、3×3Laboで地球大学コミッティーが開催されました。これは一般向け地球大学とは異なり、主要メンバーらが今後の方針を検討する委員会方式のものです。プレゼンターにラブテリの細川モモ氏を迎え、現代日本が抱える大きな課題のひとつである「女性」と「健康」について討議し、今後の大丸有での食と健康をめぐる地球大学の活動の方針について議論しました。

この数年地球大学では、「食」を中心テーマのひとつに据えており、「Eating Design 」(=食べるという行為全体をデザインする)という概念を提唱するほか、地球環境とリンクする「食」の未来のあり方を示唆する活動を続けています。冒頭、地球大学を主宰する竹村真一氏は、JAや味の素社と提携して取り組んだ「さわれる地球ミュージアム」での企画やミラノ博に向けた活動に触れ、「大丸有は金融・経済・ビジネスの街であったが、これから食・健康の街としてもブランディングしていく活動を展開していきたい」と話しました。

出席者は、農業、食品、健康、化学、製造業など多様な分野から集まっています。一昨年の地球大学コミッティーからスピンアウトしたプロジェクトのメンバーも出席しており、次の展開についての意見交換も行われました。

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「産めよ働けよ」地に満ちよ?

「産めよ働けよ」には社会的ケアが必要

就業女性の割合は今後もますます増加すると見られている(当日のプレゼン資料より)

細川モモ氏のプレゼンテーションでは、ますます社会進出が求められる女性が抱える問題について解説がありました。人口減少が進む今、生産労働人口を確保するために女性の就業は必須のこととされ、現政権でも主要な政策として取り上げられています。また、必要な人口維持のために「働き世代の20、30代の女性には、一人当たり3~4人の子ども」を産むことが求められており、働きながら出産し子育てしなければならないという「正直それはないんじゃないですか、という状況」であると細川氏は言います。細川氏の「ラブテリ東京&ニューヨーク」では、長年不妊症と低出生体重児の課題に取り組んでいますが、最近になって女性の疾病就業のテーマでの講演依頼が増えており、1月だけで3回も同じテーマで話す機会があったそうです。

竹村真一氏(左)、細川モモ氏(右)

女性には月経やPMS(月経前症候群)があり、女性ホルモンに身体状況が大きく左右されるなど、男性にはない健康の悩みがあります。また、近年特に女性のBMIの低下が大きな問題になっています。BMIとはBody Mass Indexの略で、肥満を表す指数のこと。18.5未満で低体重、すなわち「ヤセ」であるとされ、25以上で肥満であるとされます。今、日本の若年層女性の多くが、適正なBMIに達していない、強い「ヤセ」の傾向にあると細川氏は指摘します。

「BMIの低下は、冷え性やPMSの発症と相関関係にあるばかりか、卵巣年齢・妊娠予備能力が低下するということがわかっている。女性がやせすぎていて、メリットはひとつもないにもかかわらず、ヤセ群の増加をまったく食い止められていないのが現状です」

その原因となっているのは「とにかく食べない」こと。働く女性の多くが朝食を摂らず、「それだけでポーンと400kcalは飛んでしまう」のに、昼食で食べるのは「コンビニで買うゼロカロリーばかり」。後述するまるのうち保健室での調査によると、大丸有の就業女性の平均摂取エネルギーはわずか1507kcal。この低さは、貧血やPMS、冷え性、不定愁訴などを誘引するばかりか、この状態で妊娠すると胎児の発育不全が起こる可能性が極めて高い数字です。

「妊娠したら体重を増やさなければならないのにもかかわらず、日本女性はそれでも体重増加を嫌い、その結果、低出生体重児が増えている。低出生体重児は成人後の生活習慣病のリスクが増加するなど健康上のリスクのほか、学力の低下、生涯年収の低下とも強い相関関係があるとされています。また、この影響は三代に渡ることも明らかになっており、つまり、今やせ細っていることは、孫の健康までも損ねていることを理解してほしい」

こうした低出生体重児の健康維持に3000万円の医療費が必要であり、適正BMIを維持しないことに起因する不妊症の治療には月平均7.5日の通院や、1000万円にも上る企業の医療費負担があるそうです。また、長い目で見ると、適正BMIを維持できない女性が後年寝たきりの要介護になる可能性も極めて高く、女性がしっかり食べて健康を維持することは、さまざまな面での医療費の節約につながります。

大丸有を「働く女性」を考える震源地に

サイト「食育丸の内」内のWill Conscious Marunouchiのコンテンツ

しかし、より健康が求められるにも関わらず、現在の就業女性を取り巻く状況は決して芳しいものではありません。会社で実施される健康診断は、男性寄りでしかもメタボ対策が中心。若年女性の多くがヤセ志向で、その結果子どもが産めなくなるリスクがあることを知らないなど、必要な知識の提供にも欠けています。体によい食事を摂りたくても仕事は忙しいうえにその環境がない。世代ごとで健康の悩みも変わっていきますが、その対応窓口もありません。

細川氏はこうした状況を解説するとともに、ラブテリで「女性に特化した健康診断の提供」「健康維持に必要な知識の提供」「切れ目のない健康支援」「実践につながる食環境の整備」の4項目を目標に掲げ活動してきたと説明。そして、そこに服部幸應氏、三国シェフらが取り組む「食育丸の内」がミックスして誕生したのが「ウィル・コンシャス・丸の内」だったそう。「産めよ働けよ」という相矛盾する二つの要求に対して、社会的にケアする体制をどう採りうるか。7万人の女性就業者を抱える大丸有で、その範のひとつを立ち上げようというプロジェクトです。

ここでは、3つの提言とアクションが提示されています。
【提言】
1)食と健康リテラシーの向上啓蒙活動
2)街サポートの構築
3)専門分野連携による相乗効果の創出
【アクション】
1)1000人への健診・フードカウンセリング
2)"たべる"ことのソリューションを考える
3)プラットフォームづくり/コミュニティの醸成

このアクションの第一弾として実施されたのが「まるのうち保健室」でした。細川氏によると、女性は健康の悩みを抱えていても仕事を休んでまで出かけることがあまりないうえに、産婦人科の受診率も非常に低いそう。敷居が高いのです。そこで「保健室」というやわらかい名称をつけ、就業エリアのど真ん中で実施することで、潜在的なニーズの掘り起こしと就業女性の健康データの収集を行いました。ご存知のとおり、毎月第4金曜日に大丸有3カ所で実施されており、10月の開始ともに3月までの予約が即埋まるほどの反響がありました。また、この大丸有の就業女性1000名のデータは多角的に検討され、今後外食産業と連携した食環境の整備などにも役立てていくそうです。

より具体的なアクションへ

プレゼンテーションの後は熱の入った質疑応答、意見交換が行われました。農業、家電メーカー、食品製造業など、食は業種・業界を越えてあらゆるジャンルに関わる問題です。それぞれの立場から「女性」「食」の課題と可能性について議論がありました。

こうした議論を通して見えてきたのは、国政レベルの大きなフレームの取り組みの必要性や、農業・食文化など日本の基層文化にかかわるレベルの課題などでした。女性の社会進出の課題とは、日本が抱える問題そのものの象徴であるとはよく言われることですが、改めて現代の日本が抱える課題の根深さを実感したコミッティーとなったのでした。

今後地球大学では引き続き「食」を主軸におき、議論を深めていきます。次回以降は、スピンアウトしたプロジェクトの動向の報告なども予定されているそうです。


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