イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】大丸有エリア「都市✕生物多様性」の可能性

「専門家の10年間」×「一般人300人の2か月間」~2つの目線で見えてきた丸の内のかたち~ 2023年7月23日(日)開催

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日本の経済の中心地であると同時に、皇居という都内有数の自然環境に面した大丸有エリアでは、専門家の協力のもと、2009年から継続的にエリア全域のいきものたちの調査が実施されてきました。また、2023年4月から7月にかけては、スマートフォンで撮影した写真でいきものの名前がわかる「Biome(バイオーム)」アプリを約300人の一般利用者に活用いただき、これまでにない大規模な市民参加型調査を行いました。

「専門家」と「一般人」の目を掛け合わせることで、このエリアの生物多様性に関してどのような発見があったのか。エコッツェリア協会は大丸有SDGs ACT5実行委員会と共催し、報告会と観察会を兼ねたセミナーを開催しました。見えてきたのは、大丸有エリアの可能性と、これからの新しい生物多様性のあり方でした。

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都市における生物多様性の鍵は「社会」「建造物」「自然」の再統合

都市における生物多様性の鍵は「社会」「建造物」「自然」の再統合

image_event_230723.002.jpegハーチ株式会社代表取締役の加藤佑氏

冒頭、サステナビリティ領域のデジタルメディア運営などを手掛けるハーチ株式会社代表取締役の加藤佑氏より、「なぜいま生物多様性なのか」と題した講演が行われました。

昨今、メディアでその文字を見ない日はないと言っても過言ではない「生物多様性」ですが、この言葉は「生態系」「種」「遺伝子」という3つの多様性が重なり合って構成されているものです。近年では、環境の健全性と動物の健康、人間の健康はどれが欠けても成立しない関係性であることから、それぞれに対して統合的にアプローチする「ワンヘルス」という考え方も注目を集めています。こうした理由からその保全が重要視される生物多様性ですが、(1)開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少、(2)里地里山などの手入れ不足による自然の質の低下、(3)外来種などの持ち込みによる生態系のかく乱、(4)地球環境の変化による危機、という4つの危機を迎えています。いずれも、その根本には人間が深く関わっています。

「ネイチャー誌に掲載されたある論文では、2020年には世界における人工物量が生物量を上回る可能性があるというデータが発表されました。その反面、1970年から2016年までの間に地球全体の脊椎動物の個体群は平均で68%減少し、特に淡水域では減少量は84%にまで達しているというデータもあります。人間という種が地球上に大きな巣を作ることで他の生物に影響を及ぼしてしまっている状況を迎えています。その中で、人間も地球上で生きる種のひとつとして、どのように他の種と共生していくかが問われているのだと思います」(加藤氏)

こうした状況下で大きな注目を集めているのが「ネイチャーポジティブ」という言葉です。生物多様性の損失に歯止めをかけ、2030年までに回復に転じさせていくことを意味するこのワードは、今では世界共通の目標となっていることもあり、今後企業は自社ビジネスにネイチャーポジティブの考え方を取り入れていくことが必要となっているのです。

「このような中で都市における生物多様性は、私たちが暮らす『社会』、それを支えるインフラとしての『建造物』、そしてその下にあり、現在は前者2つと切り離されている『自然』という3つのレイヤーをいかに再統合していくかが鍵となります。海外では様々な取り組みも進められていて、例えばトルコでは、イズミルという自治体の市長が『すべての生物の市長となる』と宣言しています。またフランスのデザイナーの方は使用後にミツバチの巣として活用できるキャンドルを考案したり、イギリスでは高さ5m以上の新築建造物にアマツバメの巣箱設置を義務化したりという動きがあります。こうしたことをヒントにしながら、人間を含めた多様ないきものが大丸有エリアで暮らしやすくしていくにはどうしたらいいのか、考えていきたいと思っています」(加藤氏)

image_event_230723.003.jpeg各国の生物多様性を実現するユニークな取り組みが紹介されました

本気の生物多様性への取り組みには、いきものも応えてくれる

image_event_230723.004.jpegNPO法人生態教育センターの佐藤真人氏

続いては、三菱地所、エコッツェリア協会と共に大丸有エリアのいきもの調査に取り組んでいるNPO法人生態教育センターの佐藤真人氏より、このエリアの生物多様性の現状や調査を通じて判明したことが紹介されました。

佐藤氏らによる大丸有エリア、神田エリア、日比谷エリアのいきもの調査では、鳥類59種、昆虫類407種、クモ類61種、両生類・爬虫類6種、植物1,189種が見つかっています。つまり大丸有という大都心であっても1,700種以上ものいきものが生息しているのです。中でも特徴的なのが、東京都や環境省が絶滅の恐れのある野生生物として指定しているいきものが、ビル緑地に多くいたことです。そのビル緑地とは、3×3Lab Futureのすぐ目の前にある「ホトリア広場」です。ホトリア広場は、3×3Lab Futureが入る大手門タワー・ENEOSビルと、隣接する大手センタービル、大手町パークビルディングが形成する大手町ホトリア街区内にある約3,000㎡の環境共生型の緑地広場で、皇居周辺に生息するいきものを誘致するために、皇居の二の丸雑木林を意識したつくりをしています。

「ホトリア広場は、様々な生き物の蜜源となる植物が植えられていますし、トンボをはじめとした昆虫たちの産卵場所となる水草が豊富に生える水辺環境もあります。また、人の手で管理されているので、アメリカザリガニなど特定外来生物も生息しておらず、モノサシトンボやベニイトトンボといった希少ないきものも観測されています。ただ単に植物が植えられているような場所ではなくて、ホトリア広場のような"本気の緑地"の調査を通じて、人が本気を出して生物多様性に取り組めばいきものはしっかり応えてくれるということがわかりました」(佐藤氏)

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このような質の高い緑地を作ることで、都市の中でも生物多様性の保全と拡大が期待できます。佐藤氏たちはまちの中の花に訪れた昆虫類や、昆虫類の利用が見られた植物の調査も実施。すると、在来種だけでなく、園芸種だけでなく帰化植物(本来の生息地から人の手によって他地域に移されて野生状態になった植物)にも多く昆虫類に利用されていることが明らかになったそうです。そして佐藤氏は、次のような言葉でプレゼンテーションを締めくくりました。

「この調査から、庭先やベランダなどちょっとした緑が実は地域の生物多様性を支えていることがわかりました。大丸有の緑はずっと一緒なわけではなくて、ビルが開発されて新しい緑地が生まれればそれを利用するいきものも変わってきます。そう考えるとこれからの時代、新しく緑地をつくる際には『いきものが利用しやすいか』という観点を持つことも重要になってくるでしょう」(佐藤氏)

300人の一般人の目を通してわかった生物多様性とは

image_event_230723.006.jpeg株式会社バイオーム取締役COOの多賀洋輝氏

3番目に登壇したのは、このエリアでの市民参加型調査に活用したいきものコレクションアプリ「Biome」を開発する株式会社バイオーム取締役COOの多賀洋輝氏です。多賀氏から、Biomeアプリを使った市民参加型調査の結果報告と、この調査を通じて得られた知見について共有がなされました。

多賀氏らが開発・提供するBiomeアプリは、スマートフォンのカメラで動物や植物を撮影して投稿すると、AIもしくは他のユーザーがその名称を判定してくれるアプリです。単に調査のためだけではなく、写真を投稿するとポイントがもらえたり、お題に沿って写真を撮るクエストが開催されたりと、楽しみながらいきもののビッグデータ構築に貢献できるものです。2019年のリリース後4年間で80万ダウンロード、国内540万件以上のいきものデータを集めています。バイオームとTokyo Marunouchi Innovation Platform(以下、TMIP)は、三菱地所、竹中工務店、戸田建設、日本アイ・ビー・エムの有志社員と協同で2023年4月から7月にかけてこのBiomeアプリを活用し、「丸の内いきものランド」と題した大丸有エリアのいきもの調査を実施。まちと企業、市民が一体となって生物多様性の調査に取り組む先進的な事例で、注目を集めました。

「ホトリア広場、一号館広場、丸の内仲通りなどこのエリアの主要な緑地をフィールドとして、15のクエストを開催しながら調査に取り組んでもらえるようにしました。結果的に340人から4,420件の投稿があり、まだ解析途中ですが、暫定で908種のいきものが発見されました。エリアが限定され、かつ短期間の市民調査の成果としては過去に類を見ない規模になったと言えますし、位置情報を確認すると大丸有エリアは他地域の緑地や公園と同じくらい『人といきものが出会えるエリア』だということもわかりました」(多賀氏)

投稿内容からは、一般の人が撮影しやすい植物が約7割を占めている点、ホトリア広場は皇居やお濠の生態系と共通点が多い点、特に投稿数が集中していた一号館広場は「人といきものが憩う場所」として機能している点、大丸有エリアと日比谷公園をつなぐ道はケヤキを中心とした植栽が並び「生態系の道」となっている点などが明らかになりました。また、佐藤氏からの報告にもあったように東京都のレッドリストに登録されているニホンヤモリ、アオダイショウ、スッポンなどの希少種が発見されたことや、ミシシッピアカミミガメを始めとした生態系に害をなす可能性のある外来種、ツマグロヒョウモンのような気候変動の影響で分布が変化している種も把握できたと多賀氏は説明します。

「千代田区のいきもののハブとなっている皇居を100としたとき、大丸有エリアの周辺ビル群での生物再現率はどれくらいなのかを見てみたところ、鳥類、クモ類、トンボ類などは高いことがわかりました。これらの種の再現率が高いということは、その餌となるいきものや、水辺環境が充実していることも意味します。このことから、大丸有エリアは質の高い緑地管理を実現し、その結果として高い多様性を誇っていると言えると思います」(多賀氏)

そして多賀氏はBiomeアプリの投稿時間や位置情報から、人の生態も解析できたと言います。例えばお昼休みやティータイムに加え、早朝に観察・投稿する人が多いことがわかっています。その反面、19時以降の投稿はほとんど無かったそうです。また、観察・投稿をするために周辺の緑地の回遊率が高まったことも見えてきました。こうしたデータを集めることは、よりユーザーにマッチした形でのイベント開催や、アプリを通じて人々の行動変容を起こすきっかけづくりになるとも言えるでしょう。最後に多賀氏は、今回の調査を通じて得られた3つのポイントを紹介し、プレゼンテーションを終えました。

「1つ目は、市民参加型調査は膨大なデータを短期間で収集できるメリットがあると示せた点です。2つ目は、まちを訪れる人といきものの接点を把握できることにより、『いきものに出会えるまち』を設計するための基礎データが得られる点です。そして3つ目が、市民参加型調査は分類群や場所に偏りも生じるものであるため、専門家による調査と並行することでより深掘りできるものになるという点です」(多賀氏)

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大丸有はネイチャーポジティブの先進エリアになり得る

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それぞれのプレゼンテーションを終えるとパネルディスカッションへと移りました。ファシリテーターの加藤氏は、生物多様性という観点で見た大丸有エリアと他地域の間にはどのような違いがあるのか、と問いました。これに対して佐藤氏と多賀氏はそれぞれ次のように回答しました。

「皇居というコアゾーンを意識しながら生物多様性に配慮した緑地づくりをしている大丸有エリアは、圧倒的に生物多様性を実現している地域だと思います。最近では同様の取り組みをしているまちも増えてきていますが、それでも非常に先進的な地域だと言えるでしょう」(佐藤氏)

「人口の少ない地方であれば、生態系を守るためには自然を放っておくのが一番です。しかし大丸有のような大都市の中にある緑地では人との関わりを持ちながら生態系を生成していかなくてはなりません。その違いは大きいと思います。また、都市の中で生態系を守ることは、地方以上に教育効果やレクリエーション効果が高いと思いますし、これらを活かすことで人と生物の共生を体現できるのではないかと期待しています」(多賀氏)

では今後、大丸有エリアの価値向上や生物多様性保全に向けて、どのような調査や取り組みが重要になるのでしょうか。佐藤氏と多賀氏は、それぞれ「生物多様性保全のための行動につながる取り組み」が必要だと口にしました。

「地球環境が変わり、生物多様性が危機に晒されているということは多くの方が理解してきていますが、じゃあ生いきものを守るためにはどのような行動を取ればいいかということはあまり知られていません。そこで、大丸有エリアの大企業とも連携した保全活動や、まちの中で緑を作る活動などができると良いのではないかと感じています」(佐藤氏)

「ネイチャーポジティブを達成する手法はまだ確立されていないので、大丸有エリアの緑地をモニタリングすることで、新しい手法の検討にも役立つのではないでしょうか。また、佐藤さんが仰るように、このエリアは大企業が集積していることも大きな魅力です。ネイチャーポジティブのためには企業間の連携が鍵になるはずなので、大丸有の企業がつながればネイチャーポジティブの先進的なエリアになれる可能性もあると思っています」(多賀氏)

大丸有が、より生物多様性の先進地域となるには、佐藤氏が所属する生態教育センターのような専門家集団と、バイオームのような多くの市民の力を活かせるプラットフォーマーのコラボレーションにも期待がかかります。この点に対して、多賀氏は次のような考えを述べました。

「Biomeアプリのユーザーたちが専門家の方々に教えていただくイベントなどを開催し、一般の人々が知識を蓄えられるようになっていくと、大丸有エリアをいきものマイスターだらけにすることも可能でしょう。そうやってたくさんの専門家がいる世界になると更に効率よくデータを集められるでしょうし、まちを緑豊かにしていこうという意識も醸成されていくはずです」(多賀氏)

専門家と一般人の力の掛け合わせは、都市における生物多様性保全の近道になると言えそうです。

image_event_230723.009.jpegBiomeアプリでホトリア広場の植物や昆虫を撮影したり、植物を手に取る参加者たち

こうしてセミナーを終え、会場に訪れた参加者と共にホトリア広場の観察会を行いました。多賀氏の監修のもと昆虫や植物を撮影したり、実際に手に触れ、においを嗅ぐなど、五感をフル活用して都会の中の自然を感じていました。多賀氏は「Biomeアプリを使って植物の名称を知り、記憶すると、それ以降自然に対する意識が変わったと話すユーザーは多くいます」と述べましたが、実際に参加者たちが目を輝かせながらBiomeアプリ使う様子からは、人々の行動変容を促す可能性が垣間見られました。また、アテンド役を務めたエコッツェリア協会の松井宏宇は、企業が生物多様性の取り組みを行う意義や注意点について次のように説明しました。

「今後企業は、自社のビジネスが自然環境や生物多様性に対してどのようなリスクを持ち、どのような施策を展開していくかを開示していかなければなりません。各企業は環境に配慮した試みを行なわないと利用者に選んでもらえなくなる時代になる可能性も大いにあります。一方で、うまく活用すれば各企業の価値(チャンス)にもなる生物多様性。自社のビジネスが抱えるリスクとチャンスを検討していくことが重要になるでしょう。その中で、まちの取組としてはこのホトリア広場のような場の整備も重要な一手となってくると思います。」(松井)

image_event_230723.010.jpegエコッツェリア協会の松井宏宇

企業がこれからも自分たちを維持し、成長していく上でも、生物多様性の保全は重要です。そして、大丸有のように「社会」と「建造物」と「自然」という3つのレイヤーを統合しつつあるエリアには、そのためのヒントが多く眠っています。

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