イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】生物多様性を浸透させるには、語り続け、アクションを起こすこと。先進企業に聞く自然再生の取り組みのコツ

企業向け生物多様性セミナー第3回 2024年1月31日(水)開催

日本自然保護協会が主催し、エコッツェリア協会が共催して取り組む企業向け生物多様性セミナーの第3回が1月31日に開催されました。同セミナーはこれまでネイチャーポジティブを共通テーマに、企業が果たすべき役割やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)をトピックとしてきました。今回は「自然再生 先進企業に聞く、ネイチャーポジティブの現場」として、積極的にネイチャーポジティブな社会の実現を目指している企業のご担当者から生の声をお伝えして頂きます。

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国際的に認められたネイチャーポジティブの定義や押さえておくべき原則とは

国際的に認められたネイチャーポジティブの定義や押さえておくべき原則とは

初めにIUCN(国際自然保護連合)日本委員会事務局長を務める道家哲平氏から、前回までの振り返りの意味も込めて「ビジネスとネイチャーポジティブ おさえておきたい10の原則」と題したお話がありました。まず道家氏は、2023年末にNature Positive Initiative が発表したネイチャーポジティブの定義が「2020年を基準として、2030年までに自然の喪失を食い止め、逆転させ、2050年までに完全な回復を達成する」となったと紹介しました。この定義はIUCNだけではなく、NGO、企業、金融、自治体や大学など27の国際的な団体が合意したものです。

image_event_20240131.002.jpegIUCN(国際自然保護連合)日本委員会事務局長 道家哲平氏

さらに道家氏は、2023年11月にIUCN-CEMが発表した「Nature Positive for Business」というレポートでは、ネイチャーポジティブには社会・経済全体の変革が必要としており、「政府、企業、地域社会、先住民、市民社会の協力が必要で、まずは自然への負荷を食い止めたり軽減したりする努力から始めて、その後ネイチャーポジティブに変えていく」と道筋を解説しました。また同レポート内でネイチャーポジティブを実現する上での大切な10原則も紹介され、「大前提として企業だけではネイチャーポジティブは実現できない。政策やNGOなど、様々なステークホルダーと連携していく必要があるというのがこのレポートのメッセージ」と社会全体の協力の重要性を強調しました。

熱意をもって取り組むことが大切。再生型の調達活動を行うラッシュジャパン

次に、積極的にネイチャーポジティブな社会の実現を目指す企業の事例として、ラッシュジャパン合同会社からバイイングチームスーパーバイザー黒澤千絵実氏と同チームスタッフ柿川桜氏から話題提供として「原材料調達を通じて進める自然再生LUSHの進めるリジェネラティブ・バイイング」が始まりました。LUSHはイギリス発祥のコスメブランドで、ラッシュジャパンは1998年に設立、神奈川県愛川町に本社を構え、スキンケアやヘアケア、ボディケアなどの商品を製造販売しています。同社は「地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代に残す」というミッションと「ハッピー&ヘルシーライフを追求し、既成概念にとらわれることなく、化粧品業界の新たなカテゴリーのパイオニアとして境界線に挑み続ける」というビジョンを掲げています。柿川氏は、ビジョンやミッションこそがネイチャーポジティブやリジェネラティブ(再生型)な取り組みの源泉だと語りました。

image_event_20240131.003.jpegラッシュジャパン合同会社 バイイングチームスーパーバイザー黒澤千絵実氏

そしてそのミッション、ビジョンの目指すところが社内にしっかりと浸透されています。バイイングチームでは①リジェネラティブ、②循環型、③バイオフィリック(自然を愛して、自然としての人間を愛すること)、④1つのコミュニティ(地球上のすべては1つのコミュニティで、その繁栄に貢献すること)という4つを意識した調達を行っています。黒澤氏は次のように社内風土に即した行動の必要性を説きました。

「気候危機や自然災害、コロナ禍による経済危機など、今、ビジネスを行う上で根本的な変化や行動が必要となっていると思います。ラッシュジャパンの取り組みは、私たちがこうありたいと思うからこその行動であって、正解かどうかはわかりません。でも、わからないからやらないではなく、まずやってみる。そしてやり続けて答えを見つけていくことが重要だと考えています」(黒澤氏)

そして黒澤氏からより詳しい実際の取り組み状況が説明されました。ラッシュジャパンでは、1994年の創立から温室効果ガス削減や資源循環といった、これ以上環境に悪影響を与えないようにする"持続可能な"サプライチェーンから、2016年ごろから「土壌や野生生物の再生、生物多様性の復元、その周辺地域に暮らす人やコミュニティの地域経済をサポートする」という、さらにその先を目指した"再生型"へとサプライチェーンを再構築しているそうです。その再構築の際に大切にしていることは生産者やサプライヤーをよく知ることとしています。それは、サプライチェーンを具体的に検討するための情報収集という側面ももちろんありますが、それ以上に自分たちがそのプロジェクトに対しどれだけ熱意をもっているかを伝えるためだと話しました。黒澤氏は「新しい原材料を導入する際、イギリス本社との調整が必要になるのですが、私たちは単なる通訳となるのではなく、自分自身が熱意をもって自分の言葉で社内に伝えるようにしている」とその重要性を指摘しました。そのような「熱意」によって実現したのが、南相馬の菜種油を使った石鹸や、イヌワシが住む森の再生を支援するイヌワシペーパーです。

image_event_20240131.004.jpegラッシュジャパン合同会社バイイングチーム  柿川桜氏

東日本大震災で被災した福島県南相馬市の農地に土壌再生の目的で植えられていた菜の花に、ラッシュジャパンのバイヤーが注目したことが商品の始まりでした。黒澤氏は当時をこのように振り返ります。

「バイヤー一人一人が熱意を持って、被災した福島のコミュニティに対し何かしなくてはいけない、何かしたいという想いをもっていました。菜種油を南相馬から買い取ることで福島の環境やコミュニティの再生に対して支援ができるということを本社に伝え、『つながるオモイ』という石鹸の商品開発につながりました」(黒澤氏)

また、イヌワシペーパーは群馬県みなかみ町で絶滅危惧種イヌワシの生息地の再生のためにでる木屑を買って紙に混ぜて作ったものです。発端はイギリス本社が渡り鳥の飛行ルートに沿った地域の再生活動を行っていたことに影響を受け、日本でも何か始めようかと検討し始めたことでした。どうすべきか何もわからない中、日本自然保護協会に出会い、相談する中でイヌワシペーパーを作り、今ではイヌワシペーパーは世界中のラッシュ店舗で包装紙として使用されています。
最後に黒澤氏は今後ネイチャーポジティブに取り組もうとする企業へのアドバイスで締めくくりました。

「地域という視野で捉えて地域への影響度を読み解くこと、そして生産者やコミュニティの思いを聞くことが大切です。次に社内風土、自社の理念や企業理念を読み解いて、その文脈でやりたいことを明確にして語り続けることです。その際に、一企業では限界があるので、わからないことは正直に外に『わからない』と助けを求め、一人でも多くの人にやりたいことやストーリーを伝えていくことで自然と仲間が増えていきます。山あり谷ありも楽しみながら続けていくことが大切だと思っています」(黒沢氏)

 FSC認証取得から広がる持続可能なまちづくりの輪。林業から生物多様性を盛り上げる

次に株式会社佐久の専務取締役佐藤太一氏が登壇し、先進事例を紹介していきます。佐久は南三陸町で12代続く歴史ある林業会社で、東日本大震災以降、地域が一体となって生物多様性を意識した取り組みを進めてきました。まず佐藤氏が南三陸町について次のように説明がありました。

「基幹産業が養殖業と観光業のため一般的には海のイメージが強いと思いますが、実は町の面積の77%は山林です。町境が分水嶺とほぼ一致しており、降った雨だけで町内の水が全部賄われていて、山と里と海が川で繋がった町なので、昔から『山が良くないと海も農地も良くない』といわれるぐらい地域全体が繋がっている意識が強い町です」(佐藤氏)

image_event_20240131.005.jpeg株式会社佐久  専務取締役佐藤太一氏

南三陸町が地域一体となった生物多様性の取り組みを始める契機は2011年の東日本大震災。当時南三陸町は15メートルを超える大津波に襲われましたが、山はほとんど無傷で「南三陸町の中で1番リスクの高い災害が津波であり、その災害の中でも残り続ける財産が山だ」ということに改めて気づかされた瞬間だったそうです。被災した町を復興させるための旗印になったのが自然と共存した持続可能なまちづくりでした。そのなかで佐藤さんは「町の77%を占める林業こそ持続可能を目指さないと本当の意味での持続可能なまちづくりはできない」と考え、佐久でも生物多様性を意識した林業経営へ動き出すことになりました。
その第一歩として取り組んだのが、持続可能な森林活用や保全を目的とした国際的なFSC認証の取得でした。2015年、地域の林業家、行政、山主、大学などが集い南三陸森林管理協議会を設立、宮城県で初めてFSC認証を取得し、佐藤氏は同協議会の事務局長を務めています。FSC認証の森は徐々に拡大し、現在までに町の森林面積の20%に相当の約2,480ヘクタールが認証を受けています。今後さらに面積を増やしていくため「自分たちでマニュアルを作成し、足並みをそろえながらより良い林業を目指してブラッシュアップしている」とのことでした。
佐藤氏らは認証取得に止まらず、FSC認証の森を社会・経済・環境の様々な側面で活用しています。学校教育での活用や毎年の植生調査、さらには異業種とのコミュニケーションツールとして活用する機会も増えてきており、佐藤氏たちの想いや考えに共感してくれる仲間を増やしています。大手コーヒーチェーン店のスタッフを森林に招いてFSC認証を学んでもらい、その後仙台市内の店舗で南三陸杉を使用してもらうことができました。町内での南三陸杉の活用も増え、特に2017年に完成した南三陸町新庁舎では主要な建材にFSC認証を受けた南三陸町産杉材を100%使用しており、公共施設としては日本初となる「FSC全体プロジェクト認証」につながりました。

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佐藤氏たちの取り組みは広がり続けています。その一つが南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクトです。

「イヌワシは南三陸町のみならず、東北のプロ野球球団の球団名やプロサッカーチームのマスコットに採用される東北のシンボルバード。しかし2011年ごろから南三陸町内でイヌワシが観測できなくなってしまいましたが、林業の力でイヌワシを復活させたいと考えました。」(佐藤氏)

2015年に立ち上げた同プロジェクトにはこれまでに28の団体や個人が参画し(2022年10月時点)、ラッシュジャパンもそのひとつです。生物多様性への共感は地域全体に広がりをみせ、2016年には宮城県漁業協同組合戸倉牡蠣部会が養殖版海のエコラベルASC認証を取得しました。これにより南三陸町はFSC認証とASC認証の両認証を取得した世界初の自治体となったのです。また近年では観光協会が主体となって加工・流通過程の管理認証であるCoC認証を取得し、ブルーカーボンや環境DNAの調査が行われるなど「町全体で、生物多様性の動きを盛り上げるような動きがでてきている」そうです。
佐藤氏は今後、このような生物多様性やブルーカーボンに関する調査・研究の知見をもっと地域に浸透させていくことを目指し、2022年には「南三陸いのちめぐるまち学会」設立、「この学会によって町全体がネイチャーポジティブということ、また持続可能な町ということを意識しながらまちづくりを進めていきたい」と期待を語りました。

今後、自然に対する企業の認識は大きく変わる。まずはアクションから始めよう

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先進的な取り組みが紹介された後、質疑応答が始まりました。最初の質問は生物多様性への理解が社内に広まらないことへの打開策を問うもの。登壇者は発言やアクションを積み重ねていくことの重要性を指摘しました。

「普段のミーティングでも単に原材料の話をするだけではなく、生産者さんたちとの思い出話などを挟むことで少しでも生物多様性とのタッチポイントが増えるように心がけています」(黒澤氏)
「地域の人に言い続けてアクションをとっていたら、だんだんと仲間が増えてきました。町外の人も仲間に巻き込むことで、地域内で否定的だった人もいつのまにか仲間になっていたりします」(佐藤氏)
「グローバルリスクレポートなど経営層向けのレポートでも生物多様性の危機はどんどん上位に上がってきています。世界のトレンドはいずれ日本に来るので諦めずにコミュニケーションを続けることが大切です。」(道家氏)

また生物多様性の保全に取り組むメリット、デメリットを問われると、

「デメリットはコストですね。ただ、こういう商品があってほしいと思うのであれば、そのコストを前提にして企業の商品力、企画力、開発力を活かして魅力的な商品を生み出せると思います」(黒澤氏)
「林業では下草を刈るコストなどが削減でき、普通の林業では出会えない販路が増えます。また長期的にみれば生物多様性に取り組んだ方が災害リスクは低減されるので、メリットしかないと思うのです」(佐藤氏)
「メリットとデメリットを検討したまま立ち止まるのではなく、まずは試す、話し始めるなど動き出すことが大事です。やってみてデメリットがあればどんどん消していく、そういう順応的な動きをしていくべきですね」(道家氏)

最後に司会者から今後の5年先を尋ねられ、登壇者は次のように語り締めくくりました。

「どちらが優れた再生型の調達活動かというのを(企業同士が)競うのではなく、その地域にあった、その地域で愛してもらえるものを増やしていきたいですね」(黒澤氏)
「木材以外で山の価値を高め、皆さんに使ってもらうなかで翻って山の生態系などが豊かになるような林業を広げていきたい」(佐藤氏)
「5年後10年後は企業による自然に対する認識は絶対に変わっています。いろんな団体や自治体と一緒になって生物多様性を進めていってほしいです」(道家氏)

具体的な取り組みが紹介され、参加者の方々も自分事として今後の自社活動にどう活かすか考えている様子が見受けられました。
最終回となる次回は「自然と企業と地域をつなぐ『日本版ネイチャーポジティブアプローチ』とは」です。ご期待ください。

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