イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】自然とアートが、人を解放する

大丸有シゼンノコパン「まるでアートのように、自然の色・形を『鑑る』(みる)~『自然』という名のミュージアム~」 2022年12月10日(土)開催

できあがったものを見て、胸を衝かれた。
12月10日に開催された大丸有シゼンノコパン「まるでアートのように、自然の色・形を「鑑る」(みる)」は、アートの視点から自然を見ることに主眼をおいたイベントでした。色や形に着目したら、自然はどんなふうに見えてくるのだろう? 「普段とは違う見方(またはゲストの手島さんが見ている視点)で自然をみてほしい」と、主催側が呼びかけたように、アート的に因数分解した自然を見ることは確かに重要だし、貴重な経験です。しかし、イベントの後半で見えてきたのは、素直に心を出すこと、表現すること、その楽しさであったように思えます。

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自然の中から「好き」を探す

自然の中から「好き」を探す

image_event_221210.002.jpeg講師を務めた手島まゆ子さん

イベントはワークショップ形式で、野外に出て自然から「好き」をすくい上げる前半と、その「好き」をベースに「色で遊ぶ」後半という2部構成でした。ゲストは、アートのワークショップを手掛ける手島まゆ子さん。普段は保育園で子ども対象のワークショップをしたり、高校で美術講師をしたりしています。大人を対象にしたアートワークショップは、2021年ころから依頼されることが増えてきたそうです。

「今日は、まず外に行って、自分が好きだなと思う色を見つけてください。特別に、ホトリア広場から葉っぱを取ってきても良いという許可をいただいたので、好きになった葉っぱを1枚ずつ、取ってきましょう。後半は、その好きな色を絵の具で再現して、色で遊んでみたいと思います」

早速、広場に出て「好き」を探しに出かける参加者たち。この日は学生から社会人まで幅広い年代の15名が参加しました。

image_event_221210.003.jpeg広場で思い思いに「好き」を探す

狭いとはいえ、非常に多くの種類の草木があるホトリア広場。花、葉、実と一口に言ってもさまざまな種類があり、色があります。「きれい」「かわいい」という言葉にできる「好き」もあれば、「なんかいいな」という言葉にできない「好き」もあります。持ち帰るために用意した白い紙皿のうえに乗せられたものたちは、それだけでひとつの作品のようにも見えてきます。集めているうちにだんだん楽しくなってくるし、集めているものに触発されて、いつのまにか葉の色のグラデーションを集めている人もいました。

image_event_221210.004.jpeg自然は、それだけで作品になる

持ち帰れないもの、葉や花などのパーツに分けられないものにも心を惹かれる。「そんなときは写真に撮って」と手島さん。ふわふわとした種が残り、ぼんやりと優しい光をたたえているネズミガヤの一種(?)のように、部分ではなく全体で成り立っている「好き」もある。「好き」にもいろいろあることに気付かされます。

image_event_221210.005.jpegネズミガヤの一種のふわふわと光に誘われる

「色をつくる」から「遊ぶ」へ

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後半は、この自然の中で見つけてきた「好き」を使ったワークショップとなりますが、その流れがとても秀逸でした。
まず、「好き」なものの色を再現します。最低限の三原色の基本や、色の混ぜ方をレクチャーした後は、参加者がそれぞれで絵の具を混ぜて色を再現することに取り組みます。

「本当にその通りの色を再現することは難しいと思うんですが、いかに好きなものの色に近づけられるか試してみてください。これは遊びですから、本物に近づかないとダメというものではありません。楽しみながら作ってみてください」

と手島さん。参加者がおもいっきり楽しめる量の絵の具が用意されており、何度でも色づくりに取り組めます。これが、「葉っぱを描いてください」や「植物を描いてください」だったら、多分、参加者も手が止まったに違いありません。しかし、「色を再現する」のなら、絵心がなくてもできそうだ......、そんな取り組みやすさがありました。

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そして、次にやるのがいわゆるアクションペインティングです。これも、色づくりという段階を経て行うから、非常に入り込みやすいものでした。ここでも、手島さんは「遊び」「自由に」を強調します。

「多めに色を作って、アクションペインティングみたいに、紙に色を塗って楽しみましょう。作りながら、混ぜながら。怖いことはありません。童心にかえって、ここにあるものを自由に使ってみて下さい。手を使って表現しても楽しいですよ!おもいっきり遊んで下さい」

image_event_221210.009.jpeg用意されたたくさんの道具

絵の具のほか、細いのから太いのまで筆はもちろん、ペインティングナイフやヘラ、ローラーなどの画材、マスキングテープやスプーン、ビー玉や楊枝、綿棒など、画材とはちょっと違うものまで、いろいろな道具が揃えられています。

ワークショップの間、手島さんは参加者の間を回りながらするのは、アドバイスだけ。「ああしなさい」「こうしなさい」とは言いません。やりたいこと、その意図を汲み取って、その後押しをするだけなのです。「グラデーションを出したいんですね、だったら絵の具だけで作るんじゃなく、画面の中に置いてみると良いかも」「柔らかくしたいなら、スポンジ使ってみると良いかも。硬くしたいなら、硬い道具を使うと良いかも」と、アドバイスも柔らかい。

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参加者たちも楽しげで、ごくごく自然体であったのが印象的でした。最初は言葉少なげでしたが、色づくりが始まると、お互いの会話が増え始め、アクションペインティングのときには、大きな笑顔や活発な会話が飛び交うようになりました。「絵を描いたことはない」という参加者も大胆に筆を走らせています。

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わずか1時間足らずの間に、人によっては数枚、参加者全員が最低でも1枚を塗り終えて、額縁に合わせてフレーミングして作品として並べました。

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こうして並んだものを見ると、どうでしょうか。ハッと胸を打つなにかがあるような気がします。「ただ、色で遊んだだけ」だと言いますが、人の心に触れるなにかが、そこにはありました。

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それを「アートだ」と言ってしまうのは簡単ですが、あまりにも安っぽい気がする。ポロックのようだジャスパー・ジョーンズみたいだ立派なポップアートだと、アートに引き寄せて語ることはいくらでもできますが、それもなんだかもったいない。参加者が、息を吸うように、ごくごく自然に「自分を表現する」ことにたどり着き、楽しんでいることが素晴らしいのではないでしょうか。「好き」を探す、その「好き」の色をつくる、そしてその色で遊ぶというワークショップの設計が、それを実現していることは言うまでもないでしょう。

自然とアートが解放の場を提供する

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「これが、自画像を描け、というワークショップだったら、ちょっと違っちゃうと思うんですよね」と手島さん。

「上手とか下手とかを気にするような場では、緊張して何もできなくなってしまう。ワークショップで私がやろうとしているのは、緊張をなくすこと、きっかけを作ることで、『さあ、どうぞ、何を作りたい?』と投げかけるだけ。最終的にフレームに入れた最終形態はありますが、その途中の工程が大事ですし、脱線してもいい。誰かに褒められたりするものを作ろうとかしないで、みなさんが安心して表現できる場を作りたいと考えています。」

保育園の子どもですら、時として先生や大人の顔色をうかがって、自由にやれないこともあるそうです。ましてや大人が枠をはずして自由に自分を出すのは、とても難しいでしょう。

「確かに、子どもと同じように大人が純粋に自分を解放して出すのは、難しいのかもしれません。しかし、昨年から大人向けのワークショップの依頼が増えてきており、今日のようにアートが苦手だという人でも、最後には笑顔で帰っていただけます。きっかけさえ作れば、誰でも、できることなんだろうと思います」

導入やモチーフに自然を取り込んでいることも、うまく進めるうえで役に立っているのかもしれません。

「そうですね、私は自然について詳しいわけではありませんが、自然の中にいるのが好きですし、陽のひかりも、自然の色も、形も、デザインも好き。アートと自然を絡めて、子どもたちに自然に触れる機会を作ることができるかなと、落ち葉を集めて色をつくるワークショップを始めてみたら、『落ち葉の色の違いが分かって良かった』と好評だったんです。そういう経験が、今のアートと自然のワークショップにつながっています」

ごく自然体で自分を表現することができるようになるアートと自然のワークショップ。そばで見ているだけでもこれだけ楽しいのだから、参加すればきっともっと楽しいに違いないでしょう。

「自然の中から好きを見つけて色をつくるというのは、小さなことかもしれませんが、コミュニケーションしたり、自分を解放したりという体験を通して、なにか感じてもらえればと。私は、皆さんのそうした姿を見て、本当に純粋に感動していて、出来上がった作品だけじゃなく、その途中の工程やその時に出る言葉も、全部ひっくるめてアートだなと思うし、その場に関われる自分は、本当に幸せだなと思っています」

無理なく自然に楽しめる

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参加した人に感想を聞きました。
「自然の中から『好きな色を見つける』というのが良かったですね。こういう自然の切り取り方があるのか、と思いました。本当は美術とか絵画は苦手でした。でも、色づくりからペイントまで、皆と一緒に何も考えずに、楽しくできました。負担に感じるところがなく、ハードルも低くて入り込みやすかったです」
と参加した女性の一人。アクションペイントも数枚描くほどの入れ込みようでした。

別の女性は「ワクワクした」と話します。
「子ども向けのものは知っていて、大人向けがあると聞いて喜んで参加しました。自由にやっていい、遊んでいい、というのが、すごくワクワクできて良かったです」
こちらの女性は、楽しそうに、何度も何度も色を塗り重ねる姿が見られた人でした。

男性ももちろん参加しています。知り合いのFacebookから流れてきて、「面白そうかなと思って」申し込んだそう。
「面白かったです。寒い季節なので自然の中に色はそれほどないかなと思ったら、意外と結構あって、それも発見でした。色の作り方も知らなかったし、自分のイメージとはちょっと違った色になっちゃったけどそれも面白い。アートのことを知らなくても、意外と良いものができたように思えます。作品もトリミングも、偶然の産物ですよね。でも、他の人のものを見ても、すごくクオリティの高いと思えるものばかり。参加して良かったです」

偶然の産物という言葉が物語るように、予定調和的に大団円を迎えるようなワークショップとは一味もふた味も違う自然とアートのワークショップ。こんな自然との関わり方、表現の仕方があるのだと教えられる、貴重な体験となりました。

image_event_221210.017.jpegつくったものを早速スマホカバーにしてしまう人も。楽しい。

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