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【レポート】SDGsを推進させる「ローカルSDGs」のあり方と超えるべき壁

Green Tokyo研究会 有識者懇談会 第5回 2022年4月11日(土)開催

8,9,11

東京大学大学院工学系研究科の横張真教授を中心に設立した「Green Tokyo研究会」。同研究会は2019年の発足以降、都市緑地の評価ツールやデータベース活用、総合的な評価システムのプロトタイプ作成などを目指して活動してきましたが、2021年度は「緑地」に限らず、様々な分野の考えを取り入れるために有識者懇談会を実施してきました。

そして第5回目のセッションでは、法政大学デザイン工学部 建築学科の川久保俊教授をお招きし、自治体や建築とSDGsを絡めながら、SDGsの周知や実践のポイント、そしてこれからのSDGsのあり方に対する展望などについてお話を伺いました。川久保氏のご講演の要旨と、参加者を交えたディスカッションの様子をレポートします。

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SDGs取り組みの肝は「三層構造」の理解にある

SDGs取り組みの肝は「三層構造」の理解にある

image_event_220411.002.jpeg法政大学デザイン工学部 建築学科の川久保俊教授

川久保氏は、建築や都市のサステナビリティに関する研究を行っている人物です。近年の代表的な研究としては、ローカルSDGs推進による地域課題の解決に関する研究(https://local-sdgs-research.net/)があります。そんな川久保氏には、「SDGsを原動力とした官民連携のまちづくり」と題したご講演を行っていただきました。

川久保氏がSDGsの研究をするようになったのは、1972年に出版された『成長の限界』を通読したことが発端でした。1970年代以降の世界の変化を予想した同書では、その後世界中で発生した様々な社会課題を予見し、2030年前後にはあらゆる国や地域で成長の限界を迎えるだろうと記されています。この書に触れた川久保氏は、「我々が工夫しないとこれから先の未来はないと感じ、先人の言葉に真摯に耳を傾けたいと考えて、持続可能な開発を研究するようになった」そうです。

将来世代のニーズを損なうことなく現世代のニーズを満たす開発を推進すべきという考え方は1980年代以前から存在していました。利他主義の思想を支持する人は少なからずいたものの、では具体的にどのような行動を取ればいいのかが公に定義されず、なかなか社会に浸透していきませんでした。そんな時に出現したのがSDGsです。解決すべき問題を定義し、目指すべきゴールを定め、193の国連加盟国・地域の間でコンセンサスを得られたことは、それだけでも重要な意義があるのです。その一方で、カバーしきれていない分野も存在していることなどからSDGsに対する批判もありますが、中でも大きな課題なのは「定められたゴールに対する誤解が多い」点だと、川久保氏は説明します。

「例えばゴール1『貧困をなくそう』、ゴール2『飢餓をゼロに』とありますが、これらを見て『日本人には関係ない』と考える日本人がいますが、決してそんなことはありません。例えば世界の裏側で発生している紛争の影響で世界のサプライチェーンに混乱が生じ、私たちの食の安全は脅かされています。将来同じ危機を繰り返さないためには自国の農業を持続可能な形に変革しないといけないわけですが、日本の現在の食料自給率は50%を切っていますし、農業従事者の高齢化も進んでいるので、今後我々の食の安全は危ないわけです。このようにSDGsは色々な警告を与えてくれています」(川久保氏、以下同)

川久保氏のように危機感を持った人々が、SDGsを自分ごと化する重要性を説いている影響もあり、SDGsの重要性を認識して学んだりアクションを起こそうとしたりする若い世代は増えています。そんな彼らの動きからは、大人が学ぶべきことも多いと言います。

「以前の学校教育では、答えが用意されている問題をいかに効率的に解けるかが重視されていました。しかしSDGsをはじめとする我々の世の中に存在する各種課題の解決に向けた取り組み方法に答えがあるわけではないので、想像力を働かせ、自らとるべき行動を個々人が考えていかなければなりません。自身の意見を表明し、他者との意見に耳を傾け、互いに異なる考えをぶつけあったり、尊重したりするような形で学ぶ方向に向かっています。こうした姿勢は、我々大人も見習わなければならないと感じています。また、中身を伴わないにもかかわらず表面的にSDGsに取り組んでいるように装うことでイメージ向上などを狙うことを『SDGsウオッシュ』と言いますが、昨今ではそのような動きをする組織も出てきています。そういった組織と一線を画するために、我々は何ができるかを考えることも大切だと言えるでしょう」

では、具体的にはどのような形でSDGsに取り組んでいくべきなのでしょうか。肝となるのは、「SDGsの三層構造」を理解することにあります。そもそもSDGsの17のゴールはあくまでも国際社会が今後目指すビジョンとしての役割が大きいものです。より重要なのは、17のゴールの下に定められた、具体的な行動を示した169のターゲットにあります。1つのゴールに対して10前後あるターゲットを把握していくことで、個人として、組織として何ができるか、何をすべきかが見えてくるのです。

「例えばゴール13『気候変動に具体的な対策を』に関しては、一般的にはカーボンニュートラルに向けた脱炭素化施策(気候変動緩和策)ばかりに目が向けられていますが、ゴール13の下に設定されているターゲットを見てみるとCO2の削減だけではなく、如何にして気候変動に適応していくか、という観点のもの(気候変動適応策)もあります。例えば当面の地球温暖化は不可避なので、その高温化する世界の中で熱中症にならないためにはどうすべきか、豪雨が増えても災害に巻き込まれないようにするにはどうしたらいいか、といった具合で対策案を講じていく必要性が謳われています。気候変動緩和策だけではなく、適応策との両輪で考えねばいけないわけです。このようにターゲットをよく見ていくと色々な気づきを与えてくれるので、SDGsは今後の世界を生き抜くうえでの重要なヒント集だと私は理解しています」

image_event_220411.003.jpeg SDGs推進は、17のゴールだけでなく「三層構造の理解」が重要になると川久保氏

北海道下川町の事例から見る「SDGsの本質」

image_event_220411.004.jpeg 自分ごと化するためにはSDGsのローカライズがポイントとなります

SDGsを自分ごと化していく上で三層構造の理解と共に鍵となるのがローカライズです。SDGsは世界的な課題を解決するものである分、どうしても一個人、一組織、一地域からは縁遠いものと感じてしまう側面があり、この印象が具体的なアクションにつながらない要因の一つとなっています。そこで、自分たちが住む地域や自分が携わるビジネスなど、身の回りの問題をSDGs的な観点で眺め、「Think Globally、 Act Locally(グローバルに考え、ローカルに行動する)」の考えを持って行動していくことで、課題の明確化や協力者の発見、実行力の向上などにつながっていくのです。

このような「ローカルSDGs」の成功事例として有名なのが北海道下川町における取り組みです。人口4000人ほどの同町ではリソースも限られていることから17のゴールすべてを完璧にカバーするのは難しいため、ゴール12「つくる責任つかう責任」、ゴール15「陸の豊かさも守ろう」の2つに注力することを選択します。「たった2つだけ」と感じるかもしれませんが、自分たちでできる2つのことに集中するからこそ他のゴールに対しても好影響が与えられると川久保氏は説明しました。

「下川町ではもともと林業が盛んですが、これは地域の雇用確保や経済成長につながっています。これはゴール8『働きがいも経済成長も』に貢献するものです。また豊かな森や生態系の保全によって、町民や同町を訪れる観光客に森林セラピーの効果をもたらし、ゴール3『すべての人に健康と福祉を』につながります。その他にも、豊かな自然の保全は環境教育のフィールドを提供し、ゴール4『質の高い教育をみんなに』に貢献します。これまでは捨てられていた林地残材をバイオマス資源化することでゴール7『エネルギーをみんなにそしてクリーンに』やゴール13『気候変動に具体的な対策を』にも貢献することができます。全国にはこの下川町のように森に囲まれた自治体が多く存在しますが、そのような自治体にこの下川町モデルを横展開することで、全国のSDGs達成に向けたイノベーティブなまちづくりに貢献するというのが下川町のビジョンです。」

image_event_220411.005.jpeg北海道下川町のSDGs取り組み事例

ビジョンを掲げ、できることから着実に取り組んでいく。そしてそのビジョンや取り組みを内外に示すことが重要です。その結果、そのビジョンや取り組みに共感を覚えた人が集まり、結果的に全国から様々な情報や投資が集まってきます。このようなローカルSDGsの展開が重要であると川久保氏は話します。

「最近では官民連携と称して自治体と民間組織がSDGs包括連携協定を結ぶケースも多いですが、結んだだけで満足してしまっていてはダメです。互いに目指す方向性を明確にし、お互いにウィン・ウィンにつなげていくことが重要なのです」

官民連携でのローカルSDGs推進は分水嶺の時期に

image_event_220411.006.jpeg地方創生SDGs宣言・登録・認証制度の概要。官民連携が全国で増加中

ローカルSDGs推進の鍵となる官民連携は、課題解決に取り組むことで民間企業がしっかりと収益を得て、それを地域に再投資する好循環が構築されていなくては成り立ちません。このサイクルを生み出すには、どこの企業がSDGsに本気で取り組んでいるかを見える化する必要があります。そのためにあるのが「地方創生SDGs宣言・登録・認証制度」です。

「宣言制度」は、文字通り自治体がSDGsに取り組む意思を持っている民間企業を募り、SDGsに取り組むことを宣言していただくものです。「登録制度」はさらにもう一歩踏み込んだもので、民間企業に対して実際にどの程度SDGsに関する取り組みを行っているか自己評価を求めるものです。一定水準以上の取り組みが行われている場合に認定されます。そして「認証制度」は、自己評価に加えて第三者による評価を経た上で認定されるものです。段階を踏むごとに申請にかかる負荷は増えていきますが、その分認定された時のメリットも多くなっていきます。例えば登録制度に認定された企業は、自治体の公共事業の競争入札の際に予め加点がされるようになっていたり、認証制度で認定された企業は金融機関からの融資を受けやすくなったり、SDGsへの取り組みのサポートを得られたりと、多くのインセンティブが用意されています。

このようなアプローチを通じて、全国で官民連携でのSDGsの取り組みが進みつつあります。実際、川久保氏が内閣府と共同で行ったアンケート調査によると、「SDGsの取り組みを推進している」と回答した自治体は年々増えていることがわかっています。その内容としては、普及啓発活動、ビジョン策定、連携強化、体制づくり、総合計画・地方版総合戦略への反映、情報発信、ステークホルダーとの連携、ローカル指標の設定、自己検証といったものです。ただし、自己検証や体制づくりまで取り組めている自治体は多くありません。Decade of Action(行動の10年)に入っている今、SDGs達成に向けたアクションとその効果検証が不可欠であり、川久保氏は「今後SDGsをきっかけに真の変革につなげられるか、それとも一時の盛り上がりで終わってしまうのか、ちょうど分水嶺にある」と説明しました。

SDGs情報を共有するプラットフォームの開発

image_event_220411.007.jpeg全国の自治体のSDGsに関する取り組み情報を検索・発信できるローカルSDGsプラットフォームの概要

ここまで紹介してきたように、日本でも局地的にSDGs推進の動きが見られ、下川町のような好事例が出てきています。ローカルSDGsをさらに広めていくには、こうした情報を社会に共有していくことも重要になります。そこで川久保氏が立ち上げたのが「ローカルSDGsプラットフォーム(https://local-sdgs.jp/)」です。これはSDGsに積極的に取り組む自治体を支援するためのオンラインプラットフォームで、全国の自治体のSDGs関連活動の登録・検索ができるものです。各自治体がSDGsで定められた17のゴールに対してどのような活動をしているか、各自治体の総合計画や個別計画のリンク集、各自治体のSDGs担当者のインタビューといった情報が掲載されています。

「ありがたいことに、現在のところローカルSDGsプラットフォームは500以上の自治体に使っていただいています。具体的な活用例として、大阪府はこのプラットフォーム上のデータを使って自己分析を行い、地域の長所や短所を明らかにしつつ、Osaka SDGsビジョンの策定につなげました。まさにEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)と言えるものです。この取り組みが評価されてジャパンSDGsアワードも受賞されています」

<ローカルSDGsプラットフォームは公的機関の情報が掲載されているものですが、公的機関の取り組みに加えて民間組織のSDGsへの取り組みを集積したオンラインプラットフォームもあります。それが「プラットフォームクローバー(https://platform-clover.net/)」です。

image_event_220411.008.jpeg全国のSDGsに関する取り組み情報を検索・発信できるプラットフォームクローバーの概要

「全国の産官学民の関係者のSDGsの取り組みを一元集約することを目的として開発しました。よその地域や他社でSDGs達成に向けてどのような取り組みが行われているか検索していただいたり、自らの取り組みを発信していただいたり、プラットフォームのユーザー間でコミュニケーションをとっていただくことが可能です。SDGsに係わる情報、知見や成果の共有こそがSDGs達成に向けた近道ではないかと考えています。」

SNSのように気軽に情報発信できる仕組みを構築されており、SDGs投資を考える投資家にとっての判断材料にもなります。また、「ニーズとシーズのマッチング」につながっていくのも特徴の一つです。

「SDGs達成に向けて何かお困りごとがあればニーズとして発信してください。そのようなお困りごとを解決することを目的に活動している方々とオンライン上でつながることができるかもしれません。SDGs達成に貢献し得る技術やノウハウなどをお持ちであればシーズとして発信してください。皆さんの持たれている技術やノウハウなどを求めている人とつながることができるかもしれません」

この他にも川久保氏はSDGsに関する様々なツールの開発に取り組んでいて、例えば文章を入力するとその内容の中でSDGsに関連する部分を判定する「SDGs自動マッピングAI」といったものもあります。このような活動を紹介した上で、川久保氏は次のように話して講演を締めくくりました。

「SDGsはうまく活用すれば自分たちの組織の変革につながります。民間企業にとってはビジネスチャンスの拡大にもつながります。それが結果的に地域や地球規模の課題解決につながることを望みながら研究を続けています」

次に目指すべきは「SDGsの具体的なアクションの誘発」

image_event_220411.009.jpegGreen Tokyo研究会会長、東京大学大学院工学系研究科 教授の横張真氏

講演を終えたところで、Green Tokyo 研究会会員を交えた質疑応答とディスカッションへと移りました。その要旨をQA形式で紹介します。

●SDGs推進のために企業に必要な変化に関する質疑応答

Q. 前回の有識者懇談会で一般社団法人バーチュデザイン 代表理事の吉高まりさんに来ていただき、気候変動ビジネスやESG投資についてご講演をいただきました。その際、これからのSDGsへの取り組みはある種の"罪滅ぼし"的な意識で臨むのではなく、企業が根本的に体質を変えて実行していかないと評価対象にはならず投資もされないという話がありました。この意見に対するお考えや、ご存知の事例などがあれば教えて下さい。

A. おっしゃる通りだと思います。CSRよりもさらにその先へという流れが生まれてきているところですし、企業はSDGsへの貢献度を見える化することで投資を誘引できます。
国連開発計画(UNDP)も「SDGインパクト」という取り組みを始めました。SDGsへの取り組みを定量化しようという試みです。また、昨今海外の格付け機関では、企業が発行するサステナビリティレポートをAIに自動で読み込ませて分析し、点数化するという取り組みをしています。こうした状況を考えると、どんなに良い取り組みをしていても情報開示ができていないとSDGsに取り組んでいないと見なされてしまいますので、国際的な基準に則って適切な情報開示をしていくことを意識すべきでしょう。

Q. 日本では「良いものを作っていれば必ず誰かが見てくれている」という考えが未だに根強いですが、そこから一歩踏み出して、自ら発信していくには何が必要になるのでしょうか。

A. 日本は世界の中でも100年、200年と続く長寿企業が世界の中でも断トツに多い国です。利益だけを追求していると企業は段々と見向きされなくなっていきますし、変化を嫌う企業は淘汰されてしまいますが、日本にはその時々の時流やお客様のニーズに合わせて変化し、地域に貢献してきた企業が多かった結果だと思っています。つまり、SDGsが出てくる前からSDGsが重要視する理念に対応ができている企業が日本にはたくさんあるのです。そういった点に改めて気づいていただき、自分たちの活動をSDGsの文脈で説明したり、ローカルとグローバルがつながっていることを意識していただいたりすることがコツになると感じています。

● 学生とSDGsの関係性に関する質疑応答
Q. 学生たちがSDGsの研究を行う上で、興味のあるテーマはバラけるものなのでしょうか。

A. そうですね。やはり学生によって関心を持つテーマは千差万別です。SDGsには17通りの視点があるので、それに感化された学生達が様々な情報を収集して、新しいアイデアを持ってきてくれるので、当研究室でもSDGsはまさにイノベーションを生み出すツールになっています。

ちなみに、SDGsを学ぶようになったことで、学生たちの就職先にも変化が生じています。建築学科に所属する学生達なので、従来卒業生の就職先はデベロッパーやゼネコン、ハウスメーカーなどの建築業界がほとんどでした。しかし最近では金融やITなどの業界に興味を示す学生が増えています。「自身が専攻した分野とは異なる分野へ就職すると、自身の専門性も活かしづらくないか?」と尋ねると、「むしろ逆です」と言われました。自らが異能となる領域に入っていくことで独自の価値を発揮できると学生たちは考えているのだそうです。こうした思考は、恐らくSDGsを研究テーマとして学んだこと通じて学生たちの視野が広がった結果だと思います。
さらに、就職活動で企業を選ぶ際には「候補となる会社がどれだけSDGsに取り組んでいるか」「SDGsウオッシュ企業ではないか」「企業の主たるプロジェクトが持続可能か」といった点を非常にシビアに見ています。大人が思っているよりも学生たちはSDGsの観点を大事にしていますので、それを理解した上で企業側も準備していかないとならないでしょう。

●オンラインプラットフォームに関する質疑応答
Q. グリーンインフラをまちづくりに活用するためのNPOを主宰しています。このNPOでは、グリーンを通じて健全な生態系を作り、社会環境やコミュニティ、地域経済を活性化していくことで、ウエルビーイングの達成を目指しているのですが、それをどのように定量化していくかということを課題として持っています。また、グリーンインフラを通じた持続可能なまちづくりを実現していく上で、どこにどんなふうにアプローチをすればわかりやすく見える化できるだろうかという悩みも持っています。こうした問題に対して、ヒントがあれば教えていただければと思います。

A. 現在、環境省が地域循環共生圏という概念を出しています。これは環境省版ローカルSDGsと言えるもので、環境を大事にしながら地域にメリットやベネフィットを生み出していこうとしているものなのですが、実は環境省もこの効果を定量化する方法について現在まさに取り組んでいるところです。私も微力ながらそのお手伝いをしているところです。

効果の定量化にあたって難しいのは、情報をどう統合化するかという点です。人間がロジカルに考え、情報をつなぎ合わせていく「知識駆動型」でいくのか。それとも、ビッグデータの中からある種の傾向を見出しながら意味のある情報を創り出していく「データ駆動型」でいくのか。我々としてはその2つのハイブリッドで統合化していくことにトライし、少しずつ成果が出始めているところです。

Q. SDGsで掲げられた17のゴールは、一つひとつ個別に見るのではなく、トータルで考えていかなければならないと聞いたことがあります。わかりやすい例は原発です。原発はゴール13「気候変動に具体的な対策を」の観点から見ればCO2削減につながりますが、人間の健康面に影響を及ぼす可能性があるので、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」の観点からすればマイナスなものと言えます。ローカルSDGsプラットフォームやプラットフォームクローバーでは、指標を定量化するにあたってトータルでの関係性をどう処理しているのでしょうか。

A. 結論から言えば、紹介したプラットフォームではゴール間の因果関係を考慮するモデルにはなっておらず、あくまでも各指標の値を並べているに過ぎません。それは、物事に対する価値判断は人によって異なるからです。例えば環境よりも経済を重視する人がいれば、経済よりも社会を重視する人もいるため、統合化のための議論が複雑になってしまうからです。そのため、現段階では敢えてそこには踏み込まない評価方法にしています。

ただし、2030年のSDGs達成に向けて、ご指摘のようにトータルで考える方法は検討していくべきですし、そのためのツールの制作も重要だと思っています。これは今後の課題です。

Q. オンラインプラットフォームで議論をしていく際には、マイノリティの視点も入れていかないとならないと感じていますが、その点についてはどのようにお考えでしょうか。

A. まさにその形が理想だと思っています。以前、世の中の大量のデータをAIに読み込ませたところ、マジョリティの考えばかりが入力されてしまい、非常に偏ったアウトプットをするAIになってしまったというニュースがありました。この事例のように、AIはどのようなデータを読み込ませるかによって完成形が大きく変わります。そういう意味では、現時点では情報発信できる能力がある方のデータしか得られていないので、今後のツール開発の際には、こちらからマイノリティの意見を積極的に取りに行くシステムが必要だろうと思います。

●SDGsに対する日本と海外の違いに関する質疑応答
Q. 人々のベースに「社会的にいいことをしよう」という思いがあるヨーロッパと比べると、日本ではそうした考え方が弱いと思っています。そうした中でSDGsという言葉が浸透してきましたが、市民の動きや意識が変わってきたという印象はありますか?

A. 私は幼少期にヨーロッパに住んでいました。その経験から言わせていただくと、ヨーロッパと比べて日本人が社会貢献活動をできていないとは思っていません。例えば、日本語の「もったいない」は世界に広がっていますし、地産地消を推進したり、なるべくものを残さないような文化をつくったり、自分たちにできることを着実にこなしています。ただ、日本人と比べるとヨーロッパの人々はアピールが上手な面はあるので、その点は見習って、積極的に世界に発信していくべきではないかと感じます。

そのような中でSDGsが浸透してきて、これを共通言語として様々な議論が展開されるケースが増えたと感じています。例えばFacebookでSDGsのコミュニティに登録すると、フォローしきれないくれいの情報が流れてきますし、SNS上でディスカッションも非常に多く行われています。こうしたコミュニケーションツールとしての価値は非常に大きなものだと言えるでしょう。

SDGsの実践者である川久保氏だけに、参加者からは数多くの質問が飛び交いました。こうしてこの日の有識者懇談会は終了となりました。

グリーンインフラに新たな視座をもたらす有識者懇談会は、多くの会員の皆様からご好評をいただくことができました。2022年度も引き続き開催していく予定ですので、どうぞご期待ください。

image_event_220411.010.jpeg質疑応答の様子

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