イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】自然界にも格差がある?人間にも似た自然の面白さを発見する

大丸有シゼンノコパン2021 樹木を診る~春爛漫を実感~ 2021年4月25日(日)開催

4月25日、春の大丸有シゼンノコパン「樹木を見る」を開催しました。

コンクリートジャングルと言われた東京にだって、爛漫の春は訪れています。見るものの力量によって世界の見え方は変わると言われますが、植物の専門家から見れば、東京も豊かな自然の宝庫。大丸有シゼンノコパンは、そんな専門家の眼力をちょっとお借りして、身近な自然の"見方"を再発見しようという取り組みです。

今回は、樹木医にして自然ガイドの石井誠治さんが大丸有に登場し、都市の自然の観察の仕方を教えてくれました。リアル開催で現地には約10名が集まり、その様子をZOOMでリアルタイム配信、配信での参加をご希望の皆さんにもお楽しみいただきました。

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都市にも自然はたくさんある

都市にも自然はたくさんある

p>今回は石井さんと大丸有を歩きながら、都市の中の自然を観察し、参加者の皆さんには新しい気付きを得ていただくというもの。「大手町の森」から始まり、お壕端にあるエコッツェリアまでのわずか2ブロックの探索行でしたが、観察した植物は約30種。うち約20種が「樹木」に分類されるものでした。

植物を発見するたびに石井さんからさまざまなトピックスが紹介されていきますが、専門的な話は極力分かりやすく語られ、人との関わり・人がどう植物を見ているのかというような、素人にも馴染みやすいエピソードも、たくさん盛り込まれました。例え話も分かりやすく、新しい目で植物を見るきっかけになったようです。

今回はそうしたお話の中から、参加者の注意を集めた、特に興味深かったものをご紹介していきます。

食べたいけど食べられたくない

アラカシの木を説明する石井さん

アラカシの木を説明する石井さん 動物や人間は実を食べたいが、実は種=子どもだから食べられたくない植物。そこで植物は食べられないように、さまざまな工夫を進化させてきたというお話です。

例に挙げられたのは、「大手町の森」の主役のひとつでもあるカシ、クヌギなどドングリをつける木々。カシもクヌギも同じブナ科の植物ですが、カシは常緑樹でクヌギは落葉樹。アラカシは3~5年で古い葉が完全に入れ替わり、新しい葉はつねに日当たりの良い表面のほうについて成長していきます。ドングリの実が付くのも、そんな新芽のほう。

「一番活力のある、若い新しい葉で光合成して貯められた栄養が、実になっていくわけです。クリやドングリなどは、相当にデンプンを溜め込んでいるので、種から双葉は出ずに、いきなり本葉が出る。いわば持参金を持っているようなもの。だからこそ、人間も含め動物にとっては美味しい食事になるんです。逆に、木のほうでは食べられないように、さまざまな工夫を重ねているんですね」

クリはイガで包まれており、ギリギリまでイガの中から出ないように設計されています。さらに、渋皮(鬼皮)も食べられにくいよう、防御のために発達したもので、タンニンを多く含んでおり、食べるととても苦く渋い味をしています。

ドングリも、地域によっては近世まで常食で食べられていたほど、日本人には馴染みのある実ですが、食べにくいようにタンニンを多量に含むように進化しています。しかし、人間もさるもの、タンニンが水に溶けることを発見し、水にさらして渋みを抜いて食べるようになったということです。

縦? 横? どうして樹皮の割れ目は違うの?

サクラの木を示す。皮目が横なのがよく分かる

木の表面、樹皮を見て、不思議に思ったことはありませんか。樹皮の向き、模様が、横だったり縦になっていたり、種類によっては、つるつるであったりもします。この違いは、木の「呼吸」の違いに由来するものなのだそうです。

木の幹の内部には維管束などの栄養素や水分を行き来させる組織があり、葉だけでなく、木の幹も呼吸する必要があります。しかし、木の内部はウイルスや細菌に弱いために、直接外気に触れたり、雨水などを吸収したりすることができません。そこで、空気は通すが水は通さないコルク質でフタをした呼吸する穴を持つようになります。この組織を「皮目(ひもく)」と呼びます。

クヌギの木の皮目。縦になっており、幹の成長につれて割れていく「この呼吸する穴が、横に繋がりやすいと横縞の樹皮になり、縦に繋がりやすいと、縦縞の樹皮になります。縦につながっている木は成長とともに、樹皮がどんどん裂けていきますが、横縞の場合、肥厚しながら広がっていくんです。その代表例がサクラ。だからサクラの皮は丈夫で、茶筒などの皮細工に向いているんですね」

木の幹がウイルスや細菌に弱いのに、葉はどうして病気にならないのか。それは「葉緑体」があるからです。

斑の樹皮を持つナツツバキ「葉緑体があると、細菌やウイルスに対して抵抗することができるんです。だから葉っぱは気孔から直接空気や雨水を取り込むことができます。同じように、木の幹がうっすらと緑色をしているものがありますが、これは樹皮下で光合成をしている種類。こういう木は、葉緑体があってコルク質で覆う必要がないので、つるつるとした表面をしているのです」

「大手町の森」で見つけたナツツバキの木は、まさにの例で、表面はつるつる。樹皮下光合成をしている若い部分は緑色で、成長して光合成をしなくなった部分はグレーとなり、やがて下に新しい皮ができると剥がれ落ちるというサイクルを繰り返しています。

木の「収支バランス」って何?

「大手町の森」は高木がたくさん生えている森ですが、自然の森と同様に中にはひょろりとした低い木が生えていることもあります。いわゆる「負け木」と呼ばれるもので、「だんだん枯れていくでしょうね」と石井さん。葉が生い茂る高い森の下では、十分な光が入ってこないために、背の低い木は基本的に不利なのです。

「これは、人と一緒で、月収100万円の生活をするか、1000万円の生活をするかという問題です。月収1000万円の人の生活は、収入は多いかもしれませんが、支出も多くなるでしょう。逆に、月収100万円でも支出を抑えれば破綻しませんよね。木で言えば、月収1000万円は背の高い木のこと。たくさん光を浴びて、十分な光合成はできますが、その大きな体を維持するために使うエネルギーも膨大になります。100万円は低木のことで、浴びる光は少なくても背が低いために使うエネルギーは少なくてすみます。問題は、100万円の収入しかないのに、1000万円の生活をしようとすること。その時にバランスが崩れて、枯れてしまうんです」

つまり負け木は、光が十分でないにも関わらず、大きく成長しようとし、その収支バランスが崩れようとしている状態ということです。このバランスが崩れた状態が続くと、やがて枯れていくのです。

右側の林の中程に、ひょろひょろした木が見える。これが負け木

このような光の成長エネルギーの収支バランスで考えると、雑木林が、落葉樹から常緑樹に変わってしまうことの理解もしやすいでしょう。落葉樹は冬に落葉するために、1年中葉を茂らせる常緑樹に、100年くらいかけて遷移してしまいます。昭和初期くらいまでは、落葉樹林を薪炭地として使うために、定期的に伐採して日当たりを良くし、常緑樹への遷移を防ぐようにしていたそうです。

「しかし、エネルギーが石油に変わって70年以上経っていて、薪炭の需要がなくなり、森を切ることもなくなりました。おかげで木は太くなる一方で、コナラやクヌギでも50年くらいの太いものがある。そうした木に、カシノナガキクイムシという害虫が入り込んで、一斉に枯らすという現象が、今日本の山野で起きていることなのです」

木の健康は胴と足元で分かる

落葉樹の芽吹く力、再生力の話にちなんだわけではありませんが、「大手町の森」横の通路で、クヌギの幹から直接生える芽を見つけて、「木の健康はこういうところから分かるんです」と一席。

「木の枝や葉っぱの横には、必ず芽の素となるものがあって、刺激を受けると目覚めて芽吹くようになっています。これを『休眠芽』と言いますが、剪定されすぎて葉っぱが少なくて光合成できないぞ、とか、木が成長しすぎて中間で光合成したほうが良さそうだ、というときに、休眠芽が目覚めて、木の幹から芽吹く。これを『胴吹き芽』と呼びます」

似たような現象で『ひこばえ』といって根に近いところで枝が茂ることがありますが、これは、根が十分な呼吸ができていなかったり、十分な栄養が行っていなかったりすることから、頑張って根に近いところに枝を出しているということ。

「ひこばえや胴吹き芽は、その木が苦しんでいるから出てくるものだと思ってください。木は無駄なことはしません。何かが起きるということは、必ずなにかしらの原因があるということなのです」

ひこばえや胴吹き芽は栄養過多で樹勢が強いのかと勘違いしがちですが、まるっきり逆。何かしら現在の状態では問題があるから、そのようにイレギュラーな成長をするということ。例えば、強く剪定された街路樹のイチョウが胴吹き芽だらけになるのも、同じ理由から。そうやって木々を見ると、胴吹き芽やひこばえが、木の悲鳴のようにも見えてきます。

江戸の武士は「こたつでミカン」がお嫌い

「大手町の森」の隣のビルの一角に、たくさんの柑橘類が鉢植えされていました。石井さんによると夏みかんとのこと。

「ミカンと言えば、日本人にとっては温州みかん。温州みかんは、日本で生まれたもので、中国の温州とは関係ありませんが、上等な印象になるので『温州』と付けられたのでしょう。皮が薄くて剥きやすく、種がなくて食べやすい。江戸時代の武士は、種がないことを不吉と捉えて食べませんでしたが、明治時代から普及し、日本でミカンと言えば温州みかんが定着したのです」

ミカンと言えば冬のイメージです。では、夏みかんとはいかなるものなのでしょうか。

「実は、これも日本が原産。山口県の詩人・金子みすずの生家の近くに夏みかんの原木があります。大きな実で、とても酸っぱい。冬だとまだ酸味が強いですが、翌夏まで待つと酸味が抜けて甘くなり、夏に食べるようになったために夏みかんと呼ばれるようになったのです」

現在は、さまざまなミカンが開発、栽培されるようになり、年中通してミカンを食べることができるようになりましたが、冬はやっぱり温州みかん、夏にはさっぱりとした夏みかんを食べたくなるのが日本人のようです。

木の世界進出は熱帯雨林から始まった

街歩きの途中で、さまざまな木々、草花を見てきましたが、今度はエコッツェリア近くのホトリア広場の話題です。ホトリア広場には人工池では、三菱地所が長年取り組んでいるお濠の水草を守るプロジェクトが進められ、周囲には皇居からのつながり、地域在来種を意識した植生を再現しています。

ここで話題になったのがミズキ。ミズキはその名の通り水際を好み、水を多く吸い上げ、樹液もたっぷりとある木。

「輪生(りんせい)といって、幹からの枝が輪になって生えているという特徴もあります。材が白くて軽いためにコケシに使われる木でもあります。水の近くに生えて、糖化液といいますが、たくさんの樹液がある木ですね」

ここで参加者から水を多く含むのは乾燥に耐えるためなのか、という質問がありました。

石井さんは「必ずしもそういうわけではありませんが」と前置きしたうえで、進化し生息域を広げてきた過程で、植物はさまざまな機能、性質を獲得してきたことを解説しました。

「もともと植物の進化は、年中暑くて雨が降る熱帯雨林の環境から始まりました。やがて、雨季と乾季のある二季性の地域――今でいえばタイの北部あたりとかですが――に進出する際に、落葉性を獲得。乾季には葉を落として生命活動をセーブするんですね。そして、さらに北に向かって手に入れたのが耐寒性です。例えば、山形や秋田くらいまで行くと、常緑樹は生き残るために、背を低く抑えるようになりました。背が低ければ雪の中に隠れて越冬することができる。そのように、環境に合わせてさまざまな性質を獲得してきて、現在の姿があるんですね」

雪国では、常緑樹のヤブツバキは低木のユキツバキに変化し、枝と葉で雪のドームを作り、適度な湿度と温度を確保して冬をのりきるのだそうです。

人が持ち帰って植物の世界が変化する

ホトリア広場にひっそりと咲くヤマブキ。これは普通の花で花弁が5枚

最後に、ホトリア広場のヤマブキとエビネにちなみ、「人が持ち帰る」ことで変化が起きた植物の例をご紹介します。

ヤマブキは、森の辺縁部の「マント群落」と呼ばれる領域でよく見られます。マント群落は、森から草原に変わる中間でツル植物などが多く見られる群で、森林内の湿度を保つ役目があると言われています。歩きやすく、森も観察できることから、「野辺歩きで良く見られるところ」で、平安時代の昔から、貴族が野辺の散策で好んで歩いたところなのだとか。

「そこにヤマブキが良く茂っているのですが、たまに突然変異で花弁が200枚くらいに増えた『八重山吹』と呼ばれる花が見られる。貴族たちはそれを持ち帰り、庭に挿し木で植えるようになったのです。八重の挿し木から咲くヤマブキはやっぱり八重。だから、そのうち、庭に咲くヤマブキは八重山吹、山で見られるのは普通のヤマブキと思われるようになってしまったのです」

八重山吹はおしべが花弁に変化しているため、実をつけることがありません。ヤマブキが種を付けないという俗説も、庭の八重山吹に由来するものだと考えられているそうです。

そのすぐ近くの地表に生えていたのがエビネです。エビネはランの仲間ですが、丸い地下茎(球茎)が数珠のように連なっており、その様がエビのようであることからこの名になったものです。

スズランにも似たエビネ

「それだけ、昔の人たちは植物を良く見ていたということでしょう。でも私は、盗掘していたんじゃないかな?と疑っています(笑)。それだけ庭の花として好まれ、広まっていったのです」

エビネにはいろいろな種類がありますが、一風変わっているのが、伊豆諸島の新島、御蔵島だけで見られるニオイエビネです。本来エビネは香りを出さないのですが、虫の少ない島嶼で、虫を引き寄せるために香りを放つように進化したのです。

「これがとても珍しく、高く取引されるようになったために、一時期島にはニオイエビネを求める人々が殺到し、掘り出したニオイエビネをリュックいっぱいに詰め込んで帰っていく時代があったそうです。そんなことをしていたおかげで、昔は道端に普通に見られたニオイエビネが、山奥にいってもなかなか見つけられなくなってしまった。今でも、ニオイエビネを持ち帰らないように、島では厳しく監視、取り締まりをしているそうです」

自然はすぐそこに。あなたも都市の自然に身を投じよう

この日は、お子さん連れの参加者だけでなく、普段は大丸有のオフィスで働いているようなバリバリのビジネスマンもいて、さまざまな気付き・発見があったようです。ある参加者は、「木が大きくなること、低木であることのコストと収支のバランスが面白かった」と話しており、「人間とすごく良く似ている。雑木林が高木と低木で構成されていて、中間層がうまく育たないというのは、現代の格差社会を彷彿とさせて、興味深かった」と話していました。

例えばこのような、社会学的・ビジネス的な側面から自然のことを考えることができるのは、大丸有のビジネスマンの強みであり、特徴ではないでしょうか。自然と触れ合って新しい気付きを得てもらうのが大丸有シゼンノコパンの目的ですが、逆にビジネスマンから、さまざまな知見を得られるかもしれない。そんな可能性も感じさせられる一コマです。今後も大丸有シゼンノコパンがどのように発展進化していくか、皆さんにはぜひ参加しながら、見守っていただきたいと思います。

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