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【レポート】大手町の星空に宇宙の果てを見た!

大丸有シゼンノコパン「宇宙を望る ~星空ノムコウ、138億年を旅する~」 2021年7月15日開催

東京のど真ん中から、自然を見直し、自然との付き合いかた、関係性を考える「大丸有シゼンノコパン」。今回のテーマは、今期2度目の「宇宙」です。鳥や昆虫、草木と比べると、身近に感じにくい「宇宙」ですが、夜空の向こうに透けて見える宇宙の構造やその果てのお話からは、壮大ながらけっして他人事ではないということが分かってきます。講師は東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任准教授で、天文学普及プロジェクト「天プラ」代表を務める高梨直紘さん。東京から見える春の最後の星座と、いよいよ本格的に天空に輝く初夏の星座を解説した後は、地球から遠く宇宙の果てまで飛び出して、宇宙の成り立ちについて考えました。

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東京の夜空から宇宙へ

東京の夜空から宇宙へ

この日の冒頭、宇宙について考えてもらうために、高梨さんから、参加者1人1人に質問。「宇宙に関係があるものをひとつ、挙げてください」。

「実は、『宇宙とはなにか』という問いは、ちゃんと答えようと思ったら天文学をやっている人間でも答えるのが難しい質問です。子どもから訊かれた時に、皆さんならどう答えるでしょうか。素朴な疑問ですが、いざ考えてみると難しい。そこで、まずは皆さんの頭の中にある『宇宙』のイメージを、言葉に書き出していってみましょう」

大人・子どもを合わせて20名弱の参加者、全員が一人一個ずつ、宇宙に関連したものを挙げていきます。

「月」「宇宙飛行士」「ブラックホール」「UFO」「流れ星」「ISS」「無重力」「銀河」「暗い」............

「さすが皆さんよくご存知ですね。多分さらに聞けば、もっとたくさん答えてくれるでしょう。このどれもが、確かに宇宙に関係があります。しかしですね、『これらが、どのように関係しあっているか』を考えると、途端に難しくなってくるのではないでしょうか。今日はこれから宇宙シミュレータ『Mitaka』を使って、地球から見える夜空、138億光年の宇宙の果てまで、さまざまにスケールを変えて見ていきます。今挙げられたモノが、どのスケールに属するものなのかが分かると、なるほど、そういうことだったのか、と宇宙のことが少し分かってくるかもしれません」

早速、シミュレータで、まずは開催日・7月15日20時の夜空を見ていきます。もし東京が大停電で真っ暗なら、ひと晩で4000個もの星が見えるそうです。しかし、街の明かりのために、「2等星」「3等星」くらいの星でないとみることができません。この星の明るさを示す等級は、明るいほど数字が小さくなり、この時期、夕暮れに西の空に見える、「UFOじゃないかと問い合わせの電話が来るくらいものすごく明るい星」である金星だと、なんとマイナス4等星にもなるそうです。6等星が、人間が肉眼で見える限界の明るさと言われています。

まずは、北の空でじっと動かない北極星を確認。そして、北極星を見つけるためのカシオペア座、北斗七星を確認した後、いよいよこの季節の星座を見ていきます。

北斗七星の"ひしゃくの柄"のカーブに沿った延長線上に現れる黄色く輝く星が、うしかい座の1等星、アルクトゥルス。さらに柄を伸ばしていくとある、さらに明るい星がおとめ座の1等星、スピカ。そして、7月15日の夜空だと月のすぐ近くにある星がしし座の2等星のデネボラです。

「北斗七星の柄をカーブに沿って伸ばしていくとアルクトゥルスとスピカにたどり着きますが、これを『春の大曲線』と呼びます。アルクトゥルスは黄色いですが、スピカは純白。星は白いほど温度が高いので、とても高温の星ですね。そして、アルクトゥルスとスピカ、デネボラを結んで現れるのが、『春の大三角形』です。デネボラは、そこにあることを知って夜空を見上げると見つけられると思います」

そして、東の空へと視線を向けると、夏の夜空の主役、こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブを見つけることができます。『夏の大三角形』です。

「ベガは織姫で、アルタイルは彦星ですから、間にあるのが天の川だと分かると思います。はくちょう座のデネブは"しっぽ"の意味で、アルビレオは"くちばし"という意味。そこをつなぐと、大きな十字架ではくちょう座がかたどられているのが見えてくると思います。これは『ノーザンクロス』とも呼ばれていて、西洋では有名な星の並びです」

そして、視点は高く舞い上がり、今度は地球を外から眺めます。日本が夜を迎えているとき、ヨーロッパのあたりがお昼くらいになっています。そしてもう少し離れると、地球を周る国際宇宙ステーション(ISS)、そして月の軌道が見えてきます。

「ここでは、スケール感を感じてほしいんです。地球の直径1万3000km。ISSは地表から350~400kmの距離を回っているから、だいたい直径の30分の1くらい離れているわけです。月の直径は地球の1/4。結構大きいんですが、地球からは38万km離れています。近くにいるイメージだけど、実は結構離れているんですよ。このスケール感が分かると、大きさの距離の感じがつかめると思います」

さらに遠く離れていくと、太陽を中心にめぐる惑星の軌道線が見えてきます。時間を進めてみれば、太陽に近いほど公転速度が速いことがわかります。太陽から、一番違いのが水星、次に金星、そして地球。ここで、「今日覚えて帰ってほしい1つ目の単位」として、『1天文単位(au)』を説明します。太陽から地球まではおよそ1億5000万km。太陽系を出るまでは、このauが距離を測る単位となります。

そして地球の次の火星と木星の間には「小惑星帯」があります。ここには、軌道が未確定のものまで含めれば、100万湖を超える小惑星が見つかっています。小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」が探査したイトカワやリュウグウは、もっと地球寄りの軌道を取ってはいますが、この小惑星の仲間です。木星の次の土星は、太陽からおよそ10au、天王星は20au、海王星は30au。準惑星となった冥王星は30~40auの距離にあります。ここまで来れば太陽系も終わり?と思いきや、「まだまだ内側なのです」と高梨さん。冥王星の外側、正確な距離は分かっていませんが、数千~数万auの距離に、「オールトの雲」と呼ばれる天体群があると考えられているそうです。

「この天体のひとつひとつが、巨大なシャーベット状の氷と泥や砂が混じり合った天体。1個数kmから数十kmの巨大な"汚れた雪だるま"です。実はオールトの雲を直接観測したりすることはできないのですが、太陽系の周りを球状に覆っていると考えられているのです」

なぜ観測できないのに、そこにあると分かるのか。それは、「向こうから来てくれるから」です。普段は安定していますが、時折バランスを崩して重力の強いほうへ「落ちて」来る。そう、つまり太陽系の中心、太陽へ向かって落ちてくるのです。

「太陽は直径140万kmもあって、地球の33万倍の重さがあります。どれくらい重いかというと、太陽系全体の重さの99.9%が太陽で占められているくらい。だから太陽系の重力限は太陽と言っても良いのです。そこに向かって、オールトの雲から雪だるまが落ちてくると、太陽に近づくにつれて氷が溶けて気化し、ジェットのように吹き出すのですが、それに含まれる塵に太陽の光があたって見えるようになるんです」

これが「彗星」です。そして、このようにして彗星等から離れた塵が、地球の大気に飛び込んでくると、それが流れ星になります。

宇宙の大規模構造と、宇宙の果て

そしていよいよ、視点は太陽系を飛び出します。

「地球から見ると、ものすごく大きくて重い太陽ですが、宇宙全体から見るとちっぽけな存在です。今度はそれを見ていきましょう」

ここでまた覚えてほしい単位の2つ目が出てきました。「光年」です。光が1年かけて進む距離で、およそ10兆km。そして、この先は太陽と同じ光る星である「恒星」を追ってみていくことになります。

太陽系から一番近い星は、南半球からしか見えないために日本ではあまり知られていませんが、アルファ・ケンタウリで4.4光年。次に近いのは8.7光年のおおいぬ座・シリウス。11光年にこいぬ座・プロキオン。わし座のアルタイルは17光年。こと座のベガは25光年。

「こうして見ると、近くにあるの多くには名前が付けられていることが分かります。近くにある星は、遠い星に比べて明るく見えます。明るく見えるとよく目立つので、みんな名前を付けたがります。だから、名前がある星はだいたい近くにあると思っても、まあそんな問題はありません。明るい星は手前のほうにあり、暗い星は奥のほうにあると思って星空を見上げれば、平面に見えていた夜空も、奥行きを感じることができるようになるのではないでしょうか」

しかし、必ずしも明るいから近いわけではないのが「宇宙の面白いところ」と高梨さん。アルタイル、ベガとともに夏の大三角形をなすはくちょう座のデネブは、なんと1400光年も先にある星。

「それだけ離れているのに明るいのは、ものすごく激しく核融合反応を起こしているから。ベガと同じ距離にあったら、1万倍は明るく見えるでしょう。この激しさの原因は、デネブが太陽の20倍の重さがあることにあります。重い星では核融合反応の効率が高く、あっという間に燃え尽きて、最後は超新星になると言われています。ただし、この場合の"あっという間"は、だいたい数百万年くらいなので、我々が生きてみることはないでしょう」

さて、さらに遠く離れていくと、巨大な光の帯が見えてきます。天の川です。天の川は、星が無数に集まってできているものですが、これを星の大集団である「銀河」と呼んでいます。

「我々の地球、太陽系が属している銀河が銀河系、別名は『天の川銀河』です。直径は10万光年で、太陽系は天の川銀河の中心から2万7000光年のところ、だいぶ外れのほうにあります。その場所から銀河系の断面を見ているものが『天の川』なわけです」

100億から数千億の星が属する銀河ですが、さらに、近傍の"親分肌"の大きな銀河を中心に、数十の銀河が群れて「銀河群」を形成します。数百から数万の銀河が集まるさらに大きな集団は「銀河団」と呼ばれ、それら銀河群、銀河団が集まって、さらに大きな「超銀河団」を形成しています。太陽系が属する天の川銀河は、局所銀河群に属しており、さらに、おとめ座超銀河団の端にあることも分かっています。

「さあ、この大きなスケールでさらに見ていくと、宇宙の構造が見えてきます。天文学者が、作った銀河の地図がこれですが、銀河の分布を見てみると、一様ではなく粗と密なところが交互に現れる網目のような構造を形成していることが分かりました。これを『宇宙の大規模構造』と呼んでいます」

こういった銀河の地図はおよそ数十億光年先まで完成しているのですが、その先にいくとふつうの銀河では暗くなってしまって見えません。そこで、それより先では、ふつうの銀河よりもずっと明るい「クエーサー」と呼ばれる天体の地図が作られています。このクエーサーは、銀河の中心にある巨大なブラックホールに物質が落ち込んで、光などのエネルギーを放出している特殊な天体です。クエーサーの地図が作られているのは120億光年を超えるあたりまでで、その先は観測が難しくなるため、狭い範囲を集中して観測してより遠くまでを見通すことが行われています。その結果、現時点では約134億光年先の銀河まで観測されているそうです。

「じゃあ、その先はどうなってるんですか、とよく質問されますが、これ以上は見えません、という厳然たる壁が138億光年先にあります。それが『観測可能な宇宙の果て』です。どうしてその先がないと言い切れるのか。理屈は簡単で、宇宙が生まれたのが138億年前だからです」

我々が目で見るものは、すべて光の届く時間の分だけ昔の姿を見ていることになります。例えば、1光年離れているということは、1年前の姿を見せていることになります。同じように、今見ている138億光年先のものは、138億年前の姿ということ。したがって、「我々は、宇宙が誕生した138億年より前の姿=138億光年より遠くの宇宙を、原理的に見ることができない」ということになるのです。

「宇宙に果てはあるの?」という、誰もが一度は考えて不安にとらわれたことがある茫漠漠然とした疑問に、東京の夜空から始まった宇宙の旅が図らずも答えてくれる格好となり、シミュレータを使った講義は終了となりました(ちなみに、観測可能な宇宙の果てではなく、空間的な宇宙の果ては今のところないと考えられているそうです!)。

観望会で宇宙がもっと身近に

その後、3×3Lab Futureの外、大手町で夜空を見上げる観望会を行いました。高梨さん、スタッフの皆さんに持ち込んでいただいた、高性能望遠鏡を代わる代わる覗き込んだり、リアルタイムで天体の撮影を行ってくれる望遠鏡「eVscope」が映し出す映像を見たり、思い思いに夜空を楽しむことができました。

あいにく雲が多く、また、街の明かりが明るいために、見ることのできた天体は少なかったですが、「望遠鏡で間近に見る」という体験は、大人子ども双方ともに、新鮮な体験であったようで、しきりに歓声が上がっていました。

東京にいると、なかなか見上げることもなく、見えてもよく分からないでいると、どうしても縁遠く思われてしまう宇宙、天体。しかし、帰りがけに「望遠鏡ほしい!」と親に話しかける子どもの声が聞こえ、今回の大丸有シゼンノコパンが、宇宙を身近に感じるきっかけになったことを実感することができました。


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