イベント環境プロジェクト・レポート

【レポート】「見たい!」「つかまえたい!」子どもたちの熱気で盛り上がった水辺

大丸有シゼンノコパン 「水辺を覗る ~トンボと水草のファミリーな関係~」 2021年8月22日(日)開催

どうして子どもたちは、虫が好きなのでしょうか。野山に限らず都市のなかの公園でも、虫を見つけると夢中になって、つかまえようとしたり、じっと見つめたりする。それは、昆虫という小さな生き物への純粋な興味であり、また、小さな体に詰まった生命に静かに感動しているからかもしれません。

大人になると忘れてしまいがちな、小さな生命と触れ合う感動を思い出させてくれたのが、8月22日の「大丸有シゼンノコパン 水辺を覗る ~トンボと水草のファミリーな関係~」でした。夏休みの親子向け企画で、3×3 Lab Futureのすぐ横にあるホトリア広場で、水辺の昆虫たちを探して捕まえて、観察しました。

ゲストにお迎えしたのは、「東京の虫のことならこの人に聞け」と言われる、昆虫学者の須田真一さん。"杉並のファーブル"と言われた須田孫七氏を父に持つ昆虫一家の2代目です。

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小さな自然のなかで盛り上がる子どもたち

小さな自然のなかで盛り上がる子どもたち

まず会場に集まった参加者たちに、須田さんが「今日は何を見たいでしょうか。何を知りたいでしょうか」と質問。オニヤンマを見たい、カマキリを見たい、トンボの飼い方を知りたい......と口々に話す子どもたち。

「今日はできるだけ外で虫を探したり観察したりしたいと思います。見たい虫がある人は、それを探してみましょう。そして捕まえられたら捕まえて、観察もしましょう。東京は世界の都市の中でも抜群に生き物がたくさんいるまちですが、まちの中の公園は本物の森とは違います。虫たちも、少ない自然の中で一生懸命隠れて生きているので、今日は虫になったつもりで探してみましょう」

須田さんは子どもたちにそう話し、みんなで揃ってホトリア広場へ出発しました。この問いかけの意味は、イベントの後半になって明らかになります。

ホトリア広場は、さまざまな水草の育成が行われていたりします。また、雑多な木々、草花が皇居とのつながりを意識して植えられており、あたかも自然のような環境が生み出されています。

しかし、人間たちの思惑を越えて、生き物たちは自由に行き来し、こんな小さな自然環境の中にやってきて、暮らすようになっています。この日は、子どもたちに小さなすくい網と水槽を持ってもらって、自由に虫を探して、捕まえてもらうようにしました。

「いろいろな虫がいて、手で捕まえられるものもいます。虫の捕まえ方が分からないときは、スタッフに聞いてください」と須田さん。ホトリア広場に入って最初にきれいな小さなトンボを見つけて、みんなで観察した後は、三々五々に散って、自由に昆虫探索をしてもらいました。

子どもたちが、真っ先に気付いて夢中になったのは水辺にいるエビの仲間たち。貝の仲間も3種類(カワニナ、モノアラガイ、サカマキガイ)いるのですが、やはりゆっくり動くものよりも、動きが速いものが好きなようです。生命が詰まっている感じをビビッドに感じられるからでしょうか。

「この仲間のエビとしては、日本にはミナミヌマエビという種類がいるのですが、シナヌマエビなど海外からの種類が入ってきて、交雑が進んでしまっています。そもそもの外来種がどのような種であったのかもはっきりしておらず、今では『カワリヌマエビ』と呼ぶしかない。大変大きな問題になっています」(須田さん)

エビは無数にいて、子どもたちも何匹か捕まえると矛先を別の虫に向けていきます。水の中には時折ヤゴや、カメムシのような顔をした小さな虫の姿が。一方、「カマキリを見つけたい」という子や、水辺だけでは飽きたらなくなってきた子たちは、ホトリア広場の植生の周りに生息する虫を探す子どもたちもいます。その活発なさまには、スタッフはもちろん親御さんたちも驚くやら目を細めるやら。虫を見つけると、水槽や持参した虫かごにそっと入れて、須田さんのもとへ見せに行く。その繰り返しで、あっという間に時間が経っていきました。

出会った虫たちの例。左上=モノサシトンボ、右上=ケシカタビロアメンボ、左下=コバネイナゴ、右下=ナツアカネ

「見る」「観察する」「知る」を学ぶ

昆虫探索の時間はほんの1時間ほどでしたが、あっという間でありながらも充実した時間でした。3×3 Lab Futureのサロンに戻った子どもたちも満足そう。戻ってきたところで、子どもたちが捕まえた虫を、壇上の机に集めて、順番に顕微鏡でさらに観察してきます。

後半のスタートにあたって、須田さんから、子どもたちにこんなお話がありました。

「今日、見つけたかった虫には出会えましたか? まずオニヤンマを見つけたかった人。オニヤンマはどうしていなかったのでしょうか。実はオニヤンマは晴れの日が好きで、天気が良いと、時折皇居の中からこちらのほうまで飛んできます。でも今日はちょっと薄曇りでしたよね、だから見ることができませんでした。オオカマキリを見つけたかった人。見つけられなかったでしょう。どうしてでしょう? オオカマキリといったら他の虫を食べちゃう強いイメージですけど、大きく成長するのは10月ころ。8月の今は、まだまだ小さいので、他の虫や鳥に見つからないように、こっそり隠れているんです......」

これはとても大切なアドバイスです。須田さんは、虫を探すときに「虫の気持ちになって」と言いました。それは、虫がなぜそこにいるのか、どうしていないのか......を考えるということ。そしてそれを考えるには、虫のことをよく知らないといけないということなのです。「観察」とは、そのためにするものなんですね。

そして、順番に顕微鏡で虫たちを観察していきます。顕微鏡の映像はパソコンから会場のモニターに接続されており、会場のみんなで見られるようになっています。最初の観察は「ナツアカネ」です。

トンボでまず気になるのが眼。須田さんによると、ナツアカネの眼は、片方で2万個の眼が集まった「複眼」です。オニヤンマになると片方で5万個とさらに多くなります。複眼が発達したために、他の昆虫では重要な感覚器官である触覚はほとんど機能していないそうです。

「こういう眼だから、人間が見ているものとは異なる風景を見ているでしょう。距離を測るのに長けていて、横の動きに強く反応します。だから、近づくときには、横には動かないこと。ぐるぐる回る動きには、どうも弱いようです」

この複眼とは別に、複眼の間に「単眼」をひとつ持っているそうです。この単眼で見るのは光の方向。トンボは光の方向で上下を判断しているため、黒く覆った水槽の下に小さな穴を開けて光を当てると、下を上だと思って、上下逆さまに止まるそうです。

足のトゲにも秘密がありました。

「トンボは飛びながら餌となる小さな虫を捕まえ、飛びながら食べます。その虫を逃さないように、トゲが内側を向いていて、虫かごのようになっているんですね」

次に観察したのが、「ケシカタビロアメンボ」。アメンボの仲間ですが、普段よく見るスマートなアメンボとは異なり、足は短く、やや寸胴なスタイル。

「短い足だけどちゃんと浮いています。クモがクモの巣に獲物がかかるのを待っているように、このアメンボは水面に小さな虫が落ちるのを待っている。クモの巣が揺れるように水面が揺れるのを感じ取って捕まえます」

アメンボが浮くのは足の裏に生えた毛に脂をつけて、水を弾いているからだそうで、脂を溶かす洗剤などを水面に垂らすと、すぐ沈んでしまうそうです。

次に見たのはヤゴ。「これはオオシオカラトンボのヤゴですね」と須田さん。7月頃に孵化したばかりで、これからさらに大きくなるそうです。顕微鏡で見るために水から上げるとジッと動かくなりますが、これは死んだふり。ホトリア広場では、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、イトトンボの仲間のヤゴの生息が確認されています。

「ヤゴにとっては、水草がとても大事です。イトトンボの仲間は水草に産卵しますし、ヤゴは他の生き物に食べられないように、水草を隠れ家として利用します」

他の生物にとっても水草はとても重要で、水草によって、豊かな生物相が保たれているとも言えます。しかし、水草は汚い水だと繁殖しません。お堀も水が汚れている間は、水草が生えず生き物の種類も限られていたそうですが、水質浄化が進んだ近年になって、ようやく水草が回復し、徐々に生物の多様性を取り戻しているそうです。

「水草があるっていうのは、家でいえばテーブルや椅子、家具があるようなもの。おうちだけあってもそこでは暮らせないでしょう。やっぱり家具がないと。虫たちにとって水草はテーブルやタンスみたいなものであったり、食べ物であったりもするのです」

その後、捕まえたカワリヌマエビ、ハサミムシ、コバネイナゴについても、簡単に説明して、虫の観察と解説はひとまず終了となりました。

「知りたい!」はたくさん。「見る」「知る」を続けることが大切

その後、参加者からの質問にも回答していただきました。

Q.トンボはどれくらいの種類がいるんですか?

A.東京で確認されているのは約100種。そのうち、皇居には45種がいると言われています。比較的広い日比谷公園くらいだと20~25種くらい。一番多い公園は水元公園で、40種くらいが生息しています。そして、ホトリアは10種くらいです。まちなかに水辺を作ると、3~5年で種類がドッと増える。今年始めてホトリア広場でハグロトンボが確認できました。これからどんどん増えていくでしょう。

Q.トンボはどれくらいの種類がいるんですか?

A.種類によって違いがありますが、結構飛べるんです。あまり飛べなさそうなイトトンボでも数キロは飛べます。普段は数百メートルの範囲内で生活していますが、人間と同じようにたまにどこか旅に出たくなっちゃう。そうすると遠くまで飛んでいきます。オニヤンマも普段は1kmくらいの範囲ですが、飛ぶときは20kmくらい飛ぶと言われています。

Q.トンボの飼い方を教えて下さい。

A.トンボを飼うのは難しいです。というのも、飛びながら餌を捕まえて食べるからです。もしどうしても飼いたいなら、ケースを暗くして飛ばないようにしておくこと。餌用の生きたウジムシを止まっているトンボの口に当ててあげると良いでしょう。赤とんぼなら1日1個、ヤンマなどの大型のトンボは、1日2、3個を与えます。
しかし、飛ぶ姿を見られないので、あまり楽しくないかもしれませんね。それだったら、ヤゴはどうでしょうか。コップでもペットボトルの切ったのでも簡単に飼えます。水草をちょっと入れてあげればOKです。餌は水の中で暮らしているエビや虫です。捕まえられなかったら、ダンゴムシでもワラジムシでも、生きている虫を入れてあげれば大丈夫。割り箸のようなものを立て掛けておけば、そこを上がって羽化するところも観察できるでしょう。羽化したてのトンボはピカピカしていてとてもきれいですよ。

他、ダンゴムシ、クワガタ・カブトムシ、この日捕まえたケシカタビロアメンボの飼い方などの質問もあり、丁寧にご回答いただきました。

そして最後に、須田さんから参加者へ、身近な虫を捕まえに行こうというメッセージが。

「今日、すぐそばでちょっとだけでしたけど、虫を探して捕まえて、どうだったでしょうか。虫や生き物との付き合い方というのは、やはりその場所へ行って、自分で探してみて、捕まえられる虫は捕まえて触れ合うことが大事だと思います。そして持ち帰ってもいいし、家で改めて観察したり、インターネットという便利なものがあるので、どんな生き物なのかな、どんな暮らし方をしているのかな、と調べてみたりする。それで知識を得てまた外へ出かけると、また新しいことが分かります。家の中と外、それを繰り返すと、もっともっと楽しくなっていくと思います」

「そして今日体験してもらったように、東京のまちなかにもたくさんの生き物がいます。遠くに出かけるのもいいですが、まずは自分の家の周りで探してみてください。すぐ持ち帰れるし、放すときもすぐ行けます。身近な生き物が、どうやって暮らしているかを知って、他の生き物とどういう関係にあるのかを知ってください。そして大事なのは、見続けることですね。ぜひ今日の体験を活かして、生き物と楽しく付き合っていただければと思います」

「身近だから」まちづくりと自然観察のこれから

イベントが終了した後も、親子揃って熱心に観察を続けたり、質問したりする参加者が多く見られました。そんな親御さんに感想を聞きました。

Aさん「ネットで見つけて、東京都内で近かったので、気軽に参加できるかなと思って申し込みました。カブトムシのような、派手でヒーローみたいな虫がいないのに、こんなにも楽しいイベントになったことに驚きました。子どもたちもエビやヤゴのような地味な虫でも楽しめるんだというのは発見でした」

Bさん「うちの子が、虫が大好きなので、よく都内の自然の多い公園に出かけて昆虫採集をしていましたが、まさか大手町のこんなところで虫がこんなにいるなんてと驚きました。街の中の虫は、隠れているところも違うし、餌もちょっと違う。人工の環境の中でうまく適応していることにも感動しました」

Cさん「近くで開催されていたのでちょっと参加してみたという感じです。遠くに行くのは大変ですが、身近で昆虫観察ができるというのは魅力的です。須田さんがおっしゃったように、子どもと一緒に、家の周りで虫を探すところから始めたいと思いました」

まちの中の自然観察。それは、単に子どもの自然教育というだけでなく、大人にとっても良い影響があるもののようです。自然と人、まちと自然。暮らしと自然。さまざまな角度から、自然と向き合う機会になったのではないでしょうか。

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