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【レポート】カワイイ! 都市で暮らすコウモリに肉薄

大丸有シゼンノコパン「薄暮を触る ~コウモリたちのグルメな夜にご招待~」2021年8月10日(火)開催

「実はコウモリはかわいい」と聞いたら皆さんは驚かれるでしょうか。「吸血鬼」「ハロウィン」など、おばけやモンスターに近い、ちょっと怖いイメージが強いコウモリ。しかし、中にはペット顔負けの愛くるしいコウモリもいるし、その生態を知るとかけがえのない地球の仲間であることが分かってきます。そしてなにより、都市部でも頻繁に見ることができる(ビルが乱立する丸の内でさえも)身近な生物であることが分かれば、親密度もグッと増すのではないでしょうか。

8月10日に開催された大丸有シゼンノコパン「薄暮を触る ~コウモリたちのグルメな夜にご招待~」では、コウモリの会評議員の大沢夕志さん・大沢啓子さんをお迎えして、都会のコウモリの探索に出掛けました。都会でコウモリというギャップに惹かれたのか、この日は16組20名が参加し、コウモリを探しに街へ繰り出しました。そして、コウモリ探しの旅の後は3×3 Lab Futureに戻り、コウモリについて、みんなで考えるセッションを行い、コウモリについての理解を深めました。

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都会に潜むコウモリを探せ

都会に潜むコウモリを探せ

まず、3×3 Lab Futureに薄暮が押し迫ろうとする18時過ぎに集合した参加者たち。夕方からまちへ出かけていくのは大丸有シゼンノコパンならでの進行。挨拶もそこそこに、早速「コウモリのすみか」に出発です。丸の内にコウモリの家があるの?と不思議に思われるかもしれませんが、「都市部にはコウモリの住める場所が結構ある」と大沢さん。目指すは和田倉橋です。

大沢啓子さん・大沢夕志さん

「人間が暮らしているエリアには、結構コウモリが暮らせる場所があるんです。今日行く橋はそのひとつ。タイミングが良ければ、餌を食べに飛び立つコウモリを目にすることができるのでは、と期待しています」(大沢さん)

薄暮の街を歩いて和田倉橋へ。橋へ到着すると、まずは参加者の皆さんへクイズ。

「コウモリは超音波の『声』を出しています。その声で何をしていると思いますか?」

(1)虫をやっつけている
(2)おしゃべりしている
(3)周りの様子を見ている

答えは(2)(3)。仲間同士のコミュニケーションにも使います。そしてまた、超音波の反射から、周囲の状況も把握しているのです。超音波の『声』で虫をみつけるために使っていますが、直接超音波で虫を『やっつけている』わけでは残念ながらありません。

次のクイズは、その食事の虫について。今回のコパンのサブタイトルは「コウモリたちのグルメな夜へのご招待」ですから、ど真ん中の質問です。

「コウモリは1日にどれくらい虫を食べるでしょうか」

(1)20匹くらい
(2)500匹くらい
(3)5000匹くらい

 正解は(2)。

「コウモリは、一晩でだいたい自分の体重の1/3~1/2くらいの重量の虫を食べると言われています。アブラコウモリなら、一晩で数百匹。体重が60kgの人間で考えると、コンビニのおにぎりを一晩で200個から300個くらい食べる計算になります。それくらい、大食らいの生き物なんですね」(大沢さん)

逆にいえば、コウモリが住んでいる場所は虫もたくさんいる場所だということ。今回訪れた和田倉橋はその典型的な例で、コウモリが隠れられる場所があり、水場があってコウモリが大好きなカゲロウなどの水生昆虫がたくさん暮らしています。

こうして話している間にも闇が押し迫り、いよいよコウモリが飛び立つ時間帯に。大沢さんにうながされ、橋の様子を見られる場所へ移動する参加者の皆さん。しかし、この日はコウモリの機嫌が悪かったのか、たくさんの見学者がいるために恥ずかしがったのか、コウモリがなかなか出てきませんでした。そこで木が立ち並び、林のようになっている和田倉門のほうへ移動。すでに飛び立ったコウモリが餌を探して飛び回っているのではと期待してのことでしたが、案の定、飛び回るコウモリを1匹発見することができました。

コウモリの生態に迫る

コウモリを見事観察できた後は、3×3 Lab Futureに戻ってコウモリについてレクチャーです。会場でのレクチャーもクイズ形式で、子どもたちにも楽しく聞いてもらうことができました。

コウモリを見事観察できた後は、3×3 Lab Futureに戻ってコウモリについてレクチャーです。会場でのレクチャーもクイズ形式で、子どもたちにも楽しく聞いてもらうことができました。

当日の投影資料より抜粋

「熊みたいなのもいるので分かりにくかったかもしれませんが、5つがコウモリ。コウモリらしい顔をしているのは『キクガシラコウモリ』や『ニホンウサギコウモリ』。ニホンウサギコウモリはうさぎと違って寝るときに耳を畳みます。『ヤマコウモリ』は山に住むコウモリですが、山奥というよりは人が住んでいるところに近い山で暮らしています」

熊っぽい顔の『クロミミオオコウモリ』はオーストラリアのクリスマス島に生息しています。同じように、熊みたいな顔の『クビワオオコウモリ』は沖縄など日本の南西諸島に生息しており、黄色い毛が首輪のように生えているのが特徴。コウモリと言っても、いろいろな顔をしていることが分かります。

この5種のうち、超音波を使うコウモリは3種のみ。しかも、鼻から出すもの(キクガシラコウモリ)と口から出すもの(ヤマコウモリ)に分かれます。

「ニホンウサギコウモリは口と鼻両方から出している可能性があります。特に鼻から超音波を出すタイプは、人間から見ると、少し『変な』顔をしているように感じますよね。超音波を出さないコウモリは、割と人間から見てもかっこいい、普通の顔をしていると感じるのではないでしょうか」

超音波を出す出さないは、生息する時間帯にも関係があります。コウモリは夜飛ぶもの、というイメージがありますが、実は昼間飛ぶコウモリもいて、超音波を出さないもの(クロミミオオコウモリ、クビワオオコウモリ)や、超音波を出しますが、昼間に餌を探して飛ぶこともあるもの(ヤマコウモリ)がいるのだとか。

昼間飛ぶクビワオオコウモリ。当日の投影資料より抜粋

「ヤマコウモリは、冬眠前になると夜だけでは足りなくて昼間でも積極的に飛んで餌を探します。クビワオオコウモリが昼間飛ぶ姿を見たのは、台風の後です。台風で餌の木の実が落ちて、競争になってしまっているから、早く明るいうちから飛んでいたのです」

こうして聞いていると、コウモリも身近に感じられるようになり、「夜に飛ぶ怖い生き物」というイメージがだんだんなくなっていく気がします。そこで次の質問が、「コウモリは何の仲間?」。ハロウィンにちなんで、おばけやコウモリ、黒猫やフクロウなど、7種の生き物(?)と並べての質問です。子どもたちからは口々と「これは違う」「これと仲間!」という声が上がります。

答え合わせでは、まずおばけは生き物じゃないからハズレ、かぼちゃは動物じゃないからハズレ。次は背骨があるかどうか、と順番に仲間を絞り込んでいきます。
「クモは背骨がないから仲間じゃないですね。蛇は爬虫類だし、フクロウは鳥。コウモリはいわゆる哺乳類だから、仲間は黒猫、ということになります。しかし、夜活動するという点ではフクロウとコウモリは近い生き物。『フクロウが仲間』と言ってくれたお友達もその意味では正解になります」

コウモリが哺乳類とは知ってはいても、実際に授乳し子育てしている姿を知っている人は少ないのではないでしょうか。大沢さんは、いろいろなコウモリの子育ての様子を写真で見せて詳しく解説。

お母さんコウモリの胸にしっかと赤ちゃんコウモリが抱きついている。当日の投影資料より抜粋

「哺乳類ということは、ふわふわの毛があって、卵ではなくて赤ちゃんを生んでおっぱいで育てるということ。コウモリは翼の根本におっぱいがありますが、手が翼になっちゃっているので、抱っこすることができません。だから赤ちゃんがお母さんにしっかりと抱きついて育てられるんです」

飛んでいるお母さんコウモリのお腹にしっかりとしがみついている赤ちゃんコウモリの姿はなかなかに可愛らしいものがあります。この他、コウモリの大きさや色・柄についてのクイズがあって、最後にコウモリの住処についてのお話です。

コウモリは、哺乳類全体の種数のおよそ21%に相当する約1400種が知られており、その約半数が洞窟で暮らし、残りの約半分が木などの植物に暮らしています。そしてごくわずかの種類が、住宅や橋など人間の構造物を利用しているそう。

人間が作った構造物で暮らすアブラコウモリ。キャワワ。当日の投影資料より抜粋

「今日見た、皇居周辺にいるアブラコウモリは人間が作ったものを利用するコウモリの典型的な例。古い家のちょっと剥がれたところ、屋根裏、雨戸の戸袋とか、ちょっとでも隙間があるところに入って来ます。家じゃなくても、コンクリートの構造物の隙間とか、橋の下、ビルの金属のカバーの内側なんかでも暮らすことがあります」

都会は人間だけが暮らすものじゃなく、たくましく生きる生物たちが暮らす世界でもある。そんな気付きは、人生をちょっと豊かにしてくれるような気がします。

そして、プロジェクターで公園や林などの写真を示しながら、コウモリが暮らしているところはどこか?をみんなで考えました。古くなった木のウロ、裂けた箇所など、洞窟のようにひっそりとした場所に暮らすコウモリもいれば、ただ、木の枝にぶら下がっているコウモリもいます。葉っぱの裏側にぎっしりと並んで夜を待つコウモリもいるなど、木を利用するコウモリもいろいろです。また、春先に雪がとけたときに雪の中で冬眠状態から目覚めるコウモリも見つかっているので、雪の中で冬眠していた可能性もありますね。

世界最大のオオコウモリはこれくらいの大きさ。大沢さんが用意したコウモリ衣装を来て着て大きさを体感した参加者。

コウモリの住処を探す子どもたち。これは難しいいい!

そして最後に大沢さんからメッセージ。

「今日、コウモリは哺乳類全体の21%、ネズミの仲間に次ぐ大きなグループだと言いましたが、1400種のうち、かなりの数のコウモリが、絶滅危惧種になっています。なぜかというと、コウモリが暮らす大きな木のある森林が減っているし、洞窟は観光地として利用されるようになって、コウモリが暮らせなくなっています。今日見たアブラコウモリはまだまだ数が多いと言われているし、たくさんいるように見えるのですが、全体ではどんどん数が減っています。そんなことを覚えておいていただけるとうれしいです」

さあ、みんなコウモリファンに!

コウモリをその目で見たためか、それともクイズ形式が良かったのか、非常に大盛りあがりとなった今回の大丸有シゼンノコパン。終了後にも、参加者からのたくさんの質問に答えていただきました。それだけ、コウモリに興味を持って、たくさんのことを知りたいと思う人がいたということ。ある参加者は、コウモリを通して自然を身近に感じることができたと話しています。

「田舎育ちなら当たり前に見るものが、都会では見ることができないと思っていたので、コウモリを東京で見ることができることに驚きました。子どもにも、自然の姿を生で見る良い機会になったと思います。都市でも自然を感じることができる良い機会になりました」

大沢さんによると、コウモリをもともと好きな人はあまり多くはないものの、興味を持っている人は多いのだとか。そういう人たちに向けて、大沢さんはセミナーや観察会を開催しているそうです。

「パンダが可愛いと言っても驚く人はいませんが、コウモリが可愛いと言うと驚きもあるし、好きになってくれる人がいます。こうした観察会を開くと、詳しくは知らないまでもコウモリに興味を持つ人はそれなりにいて、可愛いと知るとファンになってくれる。私たちは、少しでもコウモリのマイナスイメージを払拭したいと思って、地道に普及活動をしていますが、都市部での観察会は、すごく意味があるように思います。都市にもコウモリはたくさんいるのですが、皆さん気付いていないだけ。ぜひ、夕方になったら、空を見上げてほしいと思います」

コウモリを探したい人たちにアドバイスをお願いします。

「夜になってしまうとコウモリの姿を捉えるのは難しいので、日没時、夕暮れの薄暗がりの中で探してみてください。探すポイントは水の周り。コウモリも水を飲みますし、水場には餌となる虫も多く集まります。5~10月が安定して出会える季節ですのでぜひ探してみてください」


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