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大丸有エリアの企業やまちづくり団体が集まり、都市養蜂を通じたコミュニティ構築と、エリアの豊富な自然と共生する環境都市・健康都市を目指す取り組みである「丸の内ハニープロジェクト」。プロジェクトスタートから10年目を迎え、これまでの振り返りと次の10年に向けたあり方を考える記念イベントを開催しました。
開会の挨拶をいただいた丸の内ハニープロジェクト実行委員会実行委員長の鈴木伸彦氏(一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会 都市機能部会/NTT東日本株式会社)
冒頭では、本プロジェクト事務局長の松井宏宇(エコッツェリア協会)が、これまでのプロジェクトの歩みを振り返りました。そもそもこのプロジェクトは、銀座のビルで養蜂を行う「銀座ミツバチプロジェクト」と日本工業倶楽部が2015年に丸の内で養蜂活動をスタートさせたことに起因しています。その後エリア全体で取り組んでく機運が高まったことから、エコッツェリア協会を含む大丸有エリアの企業や団体が実行委員会を組成し、2016年に正式に「丸の内ハニープロジェクト」としてスタートしました。
丸の内ハニープロジェクト事務局長の松井宏宇
丸の内ビルディング屋上での養蜂活動をベースに、採取したハチミツ(「丸の内のはちみつ」や「丸の内ハニー」と呼ばれる)をエリアの飲食店やホテルに提供して料理に活用いただいたり、コラボ商品を開発したりしてきました。また養蜂体験を提供することで環境教育にも貢献。2018年からは養蜂活動ボランティア(ハチ活)の募集を開始しましたが、2020年には新型コロナウイルス感染症の影響で本プロジェクトも規模を縮小します。しかし、松井が「一度しゃがみ込んで次に立ち上がる機会になった時期」と当時のことを振り返ったように、同時期から企業連携や協賛の申し出が増え始めます。コロナ禍が明けた2023年には再びハチ活の参加者を募ると共に複数の企業と連携した取り組みも開始。企業の研修や社員教育の一環として養蜂活動に参加いただくなど、大丸有エリアの価値を高める活動としての評価が広まっていきました。
こうした動きと同時に、養蜂活動を科学的に分析し、ミツバチの生態の研究や、養蜂とまちづくりの関係性を探る動きなども活発化していきます。そのキーワードとなるのが「ポリネーター」です。
「ミツバチのように花粉を運ぶ生き物を『ポリネーター』と呼びます。花を咲かせる植物の約90%、世界の食用作物の75%以上がポリネーターの受粉に依存していることから、食料の安全保障や生物多様性保全を進める上で重要な存在です。しかしポリネーターは世界的に減少傾向にあるため、それを危惧した国連は5月20日を『World Bee Day(世界蜂の日)』と定め、その注目度を上げていこうとしています。このような背景もあって、本プロジェクトでもポリネーターに資するまちづくりのための実証実験や、ポリネーターの大切さを伝えるイベントなどを展開しているのです」(松井)
こうした歩みを進めてきた中で、2018年には80名だったハチ活参加者は2025年には310名に増加。さらに2016年には282kgだったハチミツの収量は2025年には800kgに達しています。最後に松井は、「都市と自然の技術活用による新しい価値創造、企業や地域とのさらなるパートナーシップ、就業者のウェルビーイング向上、環境教育、情報発信。こういったことに特に力を入れながらこれからもプロジェクトを進めていきたいと思っています」と総括しました。
会場には大丸有エリアの飲食店とコラボした商品も展示された
「ミツバチが教えてくれた"丸の内の緑の地図"」と題した講演を行ったバイオンインサイトの伊藤俊介氏
今回のイベントでは、ミツバチに関する研究の成果発表も行われました。まず登壇したのは、DNA分析を利用した環境調査や分析などを手掛けるバイオンインサイト株式会社代表取締役社長の伊藤俊介氏です。伊藤氏が実施したのは、丸の内ハニーに含まれる花粉中のDNAを分析し、ミツバチたちがどのような花を訪れているのかを解き明かす研究です。
ハチミツは色々な植物種に由来した花粉が含まれており、その花粉からDNAを抽出して塩基配列をデータベースと照合すると、ミツバチが訪れた植物種が特定できます。この分析によってミツバチの行動範囲、蜜源植物、周辺地域の環境の状態などが把握できるのです。
「実際に分析してみると、シロツメクサ、サクラナ、サクラ、ワスレナグサ、イイギリ、アカメガシワといった植物のDNAが多く検出されました。ハチミツの収量は春から初夏にかけて増えますが、主要な花が少なくなっていく6月下旬頃からは採取量も減っていきます。ただ、丸の内の場合はこの時期にもシャジクソウ属やハス属といった草花の蜜が継続的に検出されていることがわかっています。これはエリアの植物種が特定のものに偏っていないことを意味するので、ポリネーターにとっては選択肢の多い環境と言えるでしょう」(伊藤氏)
分析データからはポリネーターとまちの緑の共存関係も見えてきます。例えば、1年前と異なる位置に置いた巣箱のハチミツは検出される植物種に変化が生じていました。これはポリネーターが遠くまで行かなくとも近隣の植栽から蜜を集められていることを表しています。こうした研究成果を発表した上で、伊藤氏は次のように話して講演を締めくくりました。
「植栽のデータを知ってまちづくりを客観的に評価することは、あるべき生物多様性に近づくための重要な手段です。都市部でこうした調査を行えたことは非常に意義のある取り組みでした。この研究を通じてポリネーターとまちづくりが非常に密接な関係性があることを示せたと思います。今後、さらに客観的な評価を続けていくことで、まちづくりと生物多様性の関係をより高精細に解明していけるでしょう」(同)
東京大学博士課程 Laboratory of Field PhenomicsのGrison Sylvain氏(肩書は講演当時)
続いて登壇したGrison Sylvain氏(東京大学博士課程 Laboratory of Field Phenomics)からは、ミツバチが仲間に花の在り処を伝える際に行う「8の字ダンス(ワグルダンス)」と呼ばれる動きをAIで解析し、ミツバチが訪れる緑地を可視化した研究について報告いただきました。
この研究の意義について、Sylvain氏は次のように説明します。
「ミツバチがどこでどのように受粉しているかを知ることは、ミツバチの行動の保全や、人間の活動が受粉にどのような影響を与えるかを把握することにつながるものです」
蜜源を見つけたミツバチは巣の中で腹部を振ったり左右に回ったりするダンスを仲間に見せて蜜源までの距離や方向を知らせます。この8の字ダンスは多くの研究者によって解析が進められてきましたが、動画を撮影し、手動で情報を付与し、分析を行うというフローには長い時間と集中力が要されるため、熟練者でもミスが発生しやすい作業となっていました。そこで近年では、AIを活用して効率的かつ多くのデータを集められるようになっています。
Sylvain氏も丸の内ハニープロジェクトで養蜂されるミツバチを撮影した動画などを活用してAIモデルを作成していきました。その結果、ミツバチの行動範囲は、従来考えられていた半径2〜4kmよりも広く、実際には5kmほどにも達することなどがわかってきたそうです。
「AIを活用することで従来よりも効率的に、そして広く長期的に8の字ダンスを研究できるようになりました。今後はより精度を高めるために東京中から多くのデータを集めたいですし、そのためのガイドラインの作成なども進めていきます」
特定非営利活動法人生態教育センターの大原庄史氏
特定非営利活動法人生態教育センターの大原庄史氏からは、ミツバチや植栽の観察を通じて見えたこれからの"緑と人と都市の共生"のあり方について解説いただきました。
生物多様性への取り組みが企業活動の重点項目となっている現在、企業ができることのひとつに、「オフィス街に生き物を育む機能を持つ緑を加え、ポリネーターを誘致して地域の生物多様性の質を高めていく」ことがあります。大原氏はその実現可能性を探るため、次のような実証実験を行いました。
「緑の"量"から"質"への転換を目指して、ポリネーターに好まれる植栽を探っていきました。具体的にはハンギングバスケットとプランターを使い、日照や植栽の組み合わせといった環境条件を変えてまちに配置することでポリネーターが増えるのか検証していきました」
実験の結果、ポリネーターに配慮しない従来型の植栽と比較して最大で10倍以上増加したそうです。また日当たりのいい場所ほど効果が最大化したことや、ベゴニア、ヒマワリ、ポーチュラカといった植物が特にポリネーターに好まれたことがわかりました。さらに、ダンギクのように夏から秋まで長く花が咲く植物も多くの昆虫に求められている様子が見られたそうです。
「ポリネーターにとっては、季節を通して『食料が途切れないこと』が極めて重要です。特に花が少なくなる時期である夏に咲く花を植えることがポリネーターのための植栽になると言えるでしょう」(大原氏)
丸の内が生き物を育む場所になっていくためには、まさに「ポリネーターのため」を意識することが重要になります。具体的には食料を安定供給できるように長期間に渡って花が咲き続ける品種を選ぶことが挙げられます。それらの品種を植えられない場合でも、花期が異なる花を組み合わせていくことで対応ができます。また、長期的に生態系を支える樹木を活用することも、ポリネーターを支えることにつながります。その反面、花粉の出ない一部の園芸品種ではポリネーターを支えられないことや、侵略的外来植物は植えてはならないことには注意が必要となります。
最後に大原氏は、「生物多様性に資する植栽を作っていき、他の植栽とつなげていくことによって、丸の内全体がポリネーター、そして生命を育むネットワーク拠点へと変わっていきます」と述べて講演を総括しました。
銀座ミツバチプロジェクト 副理事長・代表世話人の田中淳夫氏
各専門家の講演を終えると、事務局長の松井から次の10年に向けての展望が語られました。
「養蜂の本場と言われるスロベニアでは養蜂ツーリズムが行われていますし、養蜂場のすぐ横でエステやヨガをするイベントなども行われています。エコッツェリア協会は環境に関する取り組みが得意なので、これまでの10年は自然共生に関連した取り組みが多かったですが、ミツバチや養蜂には色々な面白さがあるので、今後はプロジェクトに携わる皆さまの関心がある領域や得意なことを取り込みながらプロジェクトの形を広げていきたいと考えています」
そして最後に、本プロジェクト開始のきっかけを作った銀座ミツバチプロジェクト 副理事長・代表世話人の田中淳夫氏から、丸の内ハニープロジェクトに対するメッセージをいただきました。
「これからはミツバチから様々なことが見えてくるでしょう。例えば最近の研究ではミツバチのコミュニケーションが読み解けるようになってきていて、同じミツバチであっても個体ごとに性格が違うことがわかってきました。都会の中で養蜂をするからこそ、多くの人々の様々な考えがインスパイアされ、地域や社会のお役に立てるようになってくるのだと思っています。2050年には世界の人口の7割が都市に集中すると言われている中で、都市から環境をデザインすることがますます重要になってくるでしょう。だからこそ、丸の内ハニープロジェクトのような活動が世界の都市に向かって成果とメッセージを発信していくことを期待したいと思います」
丸の内ハニーを使ったレモンサワーと料理を提供
すべてのプログラムを終えると、懇親会へと移りました。懇親会ではミツバチをイメージした料理や採蜜日ごとのはちみつの試食、ADRIFT by David Myersの協力のもと丸の内ハニーを使ったレモンサワーなど、多数振る舞われ、参加者は舌鼓を打ちながら話に花を咲かせていました。
ミツバチを通じてまちと緑を、そして人と人をつないできた丸の内ハニープロジェクト。次の10年はどのようなつながりを生み出していくのでしょうか。乞うご期待ください。

エコッツェリア協会では、気候変動や自然環境、資源循環、ウェルビーイング等環境に関する様々なプロジェクトを実施しています。ぜひご参加ください。
2026年12月12日(土)14:00~15:30
2026年11月25日(水)、12月2日(水)、12月9日(水)7:50~8:20
CSV経営サロン 2026年度 第1回 2026年9月4日(金)開催
2026年10月17日(土)①13:15〜14:40、②15:00~16:25