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【レポート】「お互いさま」の社会からグリーンインフラのキーを探る

Green Tokyo研究会 有識者懇談会 第2回 2021年9月6日(月)開催

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都市環境の総合的な評価システムのプラットフォーム構築を目指す「Green Tokyo 研究会」。今年度はその活動の幅を広げることを目指し、緑地というテーマに限らず各界の最前線で活躍する人々の知見をお借りする有識者懇談会を実施しています。

2021年9月6日に開催した第2回目の懇談会では、東京大学大学院人文社会系研究科の白波瀬佐和子教授をお招きし、「大丸有エリアにおけるお互いさまの社会実現に向けて/本当に平等なグリーンインフラとは」というテーマでご講演をいただきました。その後会員を交えたディスカッションも実施し、社会学の観点からコミュニティのつくり方や、これからのグリーンインフラのあるべき姿について見識を広げていきました。

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人口構造は社会を規定し、社会が人口構造を規定する

人口構造は社会を規定し、社会が人口構造を規定する

image_event_210906.002.jpeg東京大学大学院人文社会系研究科の白波瀬佐和子教授

地域やコミュニティと密接に関係するグリーンインフラについて考えていく上で、地域で暮らす人やコミュニティに属する人たちは無視できない存在です。ただし、同じ組織や地域、そして同じ国に属していても、そこには必ず"不平等"が生じます。不平等には「結果の不平等」と「機会の不平等」のふたつがありますが、特に重要なのが後者への対応です。何らかのコトに挑戦する際、年齢や性別、出自や国籍によってその機会が奪われてしまうと、個人だけでなく社会全体にとっての大きな損失にもつながってしまうからです。こうした前提を踏まえ、白波瀬氏は「社会の不平等のメカニズムを明らかにすることが社会学の使命」と述べ、社会に関する様々なデータを紹介しながら、不平等が生じる理由、そして「お互いさま」という考えを持てるような社会を築くヒントを紹介していきました。

image_event_210906.003.jpeg1965年と2015年の日本の人口構造の変化

近代日本において社会がどのような変化を辿ってきたのかを知るために、白波瀬氏がまず紹介したのは人口構造や世帯構造の変化に関するデータです。日本では、高度経済成長期の1965年と2015年では人口構造が大きく変わっており、前者は生産年齢人口(15〜64歳)の中でも若年層である40代以下がボリュームゾーンを占めていましたが、2015年はその逆で45歳以上、並びに65歳〜74歳までの前期老年人口、75歳以上の後期高齢人口が増加しています。人口構造に変化を及ぼす要因は出生率、死亡率、国際移動率の3つですが、日本ではこの50年の間で出生率と死亡率が下がったことにより、現在のような少子高齢化、人口減少が顕著な国となっているのです。

このような状態になったのは、高度経済成長期に都市に労働者が一極集中し、人々の生き方、働き方、価値観が大きく転換したことが関係しています。高度経済成長期以前の農業が経済の中心だった時期には、祖父母と両親と子どもという三世代が一緒に暮らし、家族でひとつの仕事に従事する働き方が一般的でした。しかし都市化が進んで産業構造に変化が生じると、稼ぎ手は男性一人で賄えるようになり「男性は外で仕事、女性は家で家事・育児」という性別役割分業の考え方が強まっていきました。"ダイニングテーブルで食事をとる"ことが豊かさの象徴となったこの時代においては教育への投資も増え、女性たちの間では我が子をサラリーマンにする、あるいはサラリーマンに嫁がせることが夢のひとつとなりました。

image_event_210906.004.jpeg1955年〜2015年までの世帯類型分布の推移

こうした変化は世帯構造にも影響を与えます。1960年代からまでは「夫婦と子ども」と「その他の親族世帯」が世帯構成の中心でしたが、都市化が進んだ1970年代以降は「その他の親族世帯」は減少の一途を辿り、その代わりに「夫婦のみ」と「単独世帯」が増加傾向に転じます。さらに人々の暮らし方が変わっていくに従い、多くの人が結婚し子どもを設ける皆婚社会が崩れていくと、65歳以上の高齢者とその子どもによる世帯、あるいは高齢者の単独世帯も増えていくことになりました。このように人口構造が変わると社会の主流となる世代が変わるため、社会サービスや制度も中心となる世代のニーズに合うようになります。その一方で、人口も生活やそれに伴う社会の諸制度の変化によって変わるものです。白波瀬氏は社会と人口のこのような関係性を「人口構造は社会を規定し、社会が人口構造を規定する」という言葉で表現しました。

「社会のあり方が人口を規定しているという点で、わかりやすいのは結婚後の女性です。結婚後も仕事をしたいけど、環境や諸制度が整っていないと子育てと仕事の両立が難しくなり、仕事か子どものどちらかを諦めなくてはならないケースもあります。これは社会のあり方がどれだけの子を産めるのかということを規定しているのです。健康面を見てみても学歴の違いが健康維持に対する意識に関係することは実証的に分析されています。あるいは、より良い生活を求めて来る移民に対する諸制度も人口に関係していきますし、様々な国籍の人が様々な言葉を使う社会になっていく中で、日本語を母語としない子どもたちがいることを考慮して教育投資がされていくべきだと考えています」(白波瀬氏)

人口と社会が相関関係にあるということは、「助け合い=お互いさまの制度」である社会保障制度を見てみると、高齢化社会の進行に伴って高齢者関連の支出が増えるようになっていることからも明らかと言えます。その支出を支える生産年齢人口の負担も増加の一途を辿っていますが、「世帯主年齢階層別親と子への仕送り割合」というミクロ視点のデータを見てみると、若年層の世帯主の家計は親から支えられている状況であることがわかります。こうした点を紹介した上で、白波瀬氏は「少子高齢化の人口変動に連動した家族構造の変化は、マクロな世代間コンフリクトと必ずしも整合的ではない」と述べました。

image_event_210906.005.jpeg世帯主年齢階層別親と子への仕送り割合

緩いコミュニティを実現するグリーンインフラ

人口構造の変化によって社会が変わると、ボリュームゾーンではない世代の人々に不平等が生じます。また、同じ世代であっても親世代の働き方や、家族親族のネットワーク、地域との関係性の有無なども、その後を人生が変えうる要因のひとつとなります。このように社会に存在する不平等は、所得やフロー、ストック資源などの経済的なものだけではなく、人的資源や情報資源も該当するのです。

「どういう地域で育ったかは子どもの将来を決める要因の一つになります。例えばニューヨークのハーレムというアフリカ系アメリカ人の多い地域で育った子どもたちには中退者が多く、ドラッグの影響で早死しやすいというデータがありました。このように、どういうネイバーフッド(近隣)で育ってきたかは寿命にも関連しますし、教育程度にも関連してきます。つまり空間的なつながりが人々の生活の質を左右することになるのです」(白波瀬氏)

そこで生活の質向上の役割を果たすのがコミュニティです。特に、家の中と外の線引きが明確で、かつ近隣コミュニティへの信頼度が低く、想像以上に異質性を持った多様な人々が地域に住んでいる時代においては、世帯同士が強固につながる旧来型のコミュニティよりも、見守りにつながる緩やかな気遣いを可能とするコミュニティの形成が求められるようになっています。こうした"緩いコミュニティ"実現のために期待が掛かるのがグリーンインフラです。そして平等なグリーンインフラをつくっていく上で重要になるものとして白波瀬氏が挙げたのは「声なき声を汲み上げてデータ化すること」と「議論の際には積極的に新メンバーを取り入れていくこと」の2点です。

「いわゆる"声なき声"を含めてデータで実態を汲み上げ、それを公開するということは基本であり重要です。また、コロナ禍において政府に対する批判が多く集まりましたが、その一因となっているのがメッセージの扱い方や説明責任の考え方、議論をして政策を展開することなどが弱かったことです。一方でこれらは国民自身も決して上手ではありません。ですから、形式的ではなく実質的に、オンラインやフィジカルを掛け合わせて積極的な対話の場を作っていくことは非常に重要になると思います。また普段私たちは当事者でないことの方が多いですが、インフラについて考えていく上ではいかにして多くの人が当事者意識を持てるかが重要になってきます。そのためには、新メンバーを入れて当事者を増やすことが大切になってくると考えています」(白波瀬氏)

このように、日本の平等不平等の現状と、グリーンインフラに対する期待を語り、白波瀬氏は講演を締めくくりました。

「お互いさま」とは同時進行ではなく、より時間的に広い意味を持ったもの

白波瀬氏の講演を終えたところで、Green Tokyo 研究会会員を交えた質疑応答とディスカッションへと移りました。その模様をQA形式で紹介します。

●「お互いさま」の社会に関する質疑応答
Q.「お互いさま」という表現が印象的だったが、この言葉は必ずしもポジティブではなく、時にはネガティブな使われ方をするとも感じた。白波瀬氏としては、どのようにこの言葉を使っていきたいと思われているのか。

A. "お互いさま"について語るとき、「お互いさまという言葉は"悪いことして、お互いに許し合う"という感じがあるように思える」という意見をよくいただくが、ここでいうお互いさまは、「私も間違えたから、あなたの間違えも許容する」というような同時進行のものではない。わかりやすいのが国民年金保険料で、専業主婦などの第3号被保険者は納付を免除されるが、その分を支払う別の誰かは「不公平だ」と考えるかもしれない。しかしその誰かも行く行くは納付を免除されて支えられる側に回ることになる。このように広い意味での構図を意味しているのが、今回の「お互いさま」である。

こうしたことが実感できれば、国に対する信頼度や税金を支払う意味を理解する人が増えるだろうし、そういう実感を持って多くの人が「お互いさま」と思えるような構図を作れれば機会の不平等も減らしていけるのではないかという希望を持っている。今は貧困家庭で育った子は大人になっても貧困から脱しきれない事実があるが、外部の人からすると「なぜ他人の子を貧困から脱する手助けをしないといけないのか?」と思うかもしれない。しかし、自分の子どもの安全を確保するには他のみんなの子どもの安全を確保することが重要である。そういう点からも「お互いさま」というメッセージの浸透が必要だと考えている。

●コミュニティに関する質疑応答
Q. 実際に都内の公園の管理に携わっている。これまで公園の管理業務は地域の自治会や町内会の協力を得ながら行ってきたが、近年では人手不足からそれらの組織が崩壊している地域もあり、公園運営の課題となっている。講演で平等なグリーンインフラをつくるためには、丁寧に近隣の実態把握をすること、新メンバーを積極的に取り入れたコミュニティづくりを心がけることを挙げていたが、それを上手く展開するにはどのようなことに気をつけるべきか。

A. 公園のような共有スペースの質を上げるには、社会としての意識を上げることも必要と言える。そのための方法として、例えば地域の学校の授業の中に公園に関する活動を半強制的に組み込んでもらい、連携して活動を展開する方法が考えられる。また、実際に公園を使う幼い子を持つ親世代や高齢者世代にも参加してもらうべきだがボランティアだけでは限界があるので、そのための仕組みやお金が必要となる。それらは自治体などの協力も欠かせないものであり、地域として取り組むべきものと言える。

Q. 「見守りに繋がる緩やかな気遣いを可能とするコミュニティ」は住宅街など人が暮らす地域を念頭に置かれていると思うが、大丸有エリアのようなビジネス街でもそのようなコミュニティが存在し得ると思われているのか。存在できるのであれば、ビジネス街のような地域における見守りや緩やかな気遣いとはどのようなあり方をするのか。

A. 丸の内のような色々な組織に属している人たちがいる特殊な空間で、その人たちは普段仕事をしながら、気分転換のためにパッと外に出て歩いたり、食事をしたり、話したりしている。そのための場所やコミュニティをつくるということはありと言える。

例えばニューヨークのセントラルパークは、多様な背景を持ち多様な組織に属する人たちが集いそれぞれ自由に活動している場所だが、そういったような緩いつながりが建設された空間をつくるチャレンジングな動きがあってもいいと思っている。

大丸有エリアのような場所におけるコミュニティでは「安心安全」という感覚が必要となる。近くにいるけど詳しくは知らない人が危険な存在だと常に緊張感を持たなければならないし、そのような人と場を共有することはできない。そういう意味ではある程度のエリアマネジメントが必要になるかもしれないが、一方でガードを固めすぎてしまうと人は入ってこない。そのため、ある程度限定的な人々がいる地域だからこそ、お互いの信頼をベースにコミュニティを構築することが理想的と言える。

Q. 「人口構造が社会を規定する」というお話が大変興味深い。大丸有エリアはもともと業務機能が中心のオフィス街であったが、これからの社会では成り立たないだろうということで多様性を形作るプロセスを進めてきた。都市再開発の場合、100年以上もつ建物を作るということを前提に投資を行うものであり、これからの人口動態を反映したまちを作らなくてはいけない。そのようなソフト面は非常に重要だが、同時に、まちづくりを考えるときにはやはりハードの空間にも目を向けざるを得ない。ハードが社会を規定するということはあり得るだろうか。

A. ハードはソフトと同じくらい重要で、社会を規定するものである。ハードはインフラであり、安心して雨風をしのげるといった生活の基盤が保証されていなくては文化的な生活を送ることや優しさを育むことはできない。そういった意味でハードは非常に重要だが、住みやすさや居心地の良さ、境界の区切り方などの作り方における構造や思想は、社会の変化に応じて決定的に変化していくものと考えている。

ソフトに関しては新しい取組に対する圧が非常に強く、いかに仲間づくりを行うことが重要かということをここ何年か実感している。

例えば空き家問題では、行政も手出しができず、今にも倒れそうな家があるのに手を付けられないといった現状がある。これからの100年は、とてもきれいな家だったら良いというようなハードによる価値ではなく、どんな人がそこに住み、どうしたら居心地が良いのかを考えるといったソフトとの関連性による価値が重視されていくはずで、やはりハードとソフトは連携して初めて一つになるのだろう。十分な広さの道路が無くてはだめだが、一方でやはり樹木は必要であり良い空気も吸いたい・・・そういったハード・ソフト両面の要素が総合的に検討され、まちづくりが合意されていく流れを作ることが必要ではないか。

大丸有が多様性を推進してきたという話を伺ったが、外部から新しい人流を入れるということはとても大事だと思う。劇やコンサート、歴史的な建築物などを目の見えない人でも適切な交通手段で訪れて感じられるようにするといったように、文化施設を移動手段とセットで検討することがそのきっかけになるかもしれない。これまで地域に来られなかった人が来られるようになることが、大丸有という多様性のあるまちやコミュニティを作る手段の一つであろう。

Q. バックグラウンドが異なる多様な人々と対話をしたり、社会課題解決に取り組んだりする際、何らかの共通項がないと上手くコミュニケーションができないと感じている。どのような共通項を設けるべきなのか。

A. 共通項は特定テーマでなくていいと思っているが、未来を担う子どもたちに少しでも良い社会を提供するということが、大人にとってのひとつの共通項であり、社会的な責任と言えると思っている。SDGsもそうだが、社会課題を細分化していってもお互いに関連し合っていくことになるので、特定のテーマにこだわる必要はないのではないか。

私自身の場合、不条理な不平等から抜け出せない子どもを一人でも減らすことが共通項だと思っている。そのために専門や分野が異なる人とも手を組み、アプローチをしている。そういった包摂的な観点を持つことは大切と言えるかもしれない。

ただし、現代は皆婚社会ではないので、自身に子どもがいない状態で次世代を語らなくてはならないという人が多くいるし、今後も増えていく。つまり次世代を考える環境が人によって違うことには十分配慮しなければならない。

このようにディスカッションも大いに盛り上がりを見せました。最後に本研究会会長である横張真氏(東京大学大学院工学系研究科 教授)は、この日のセッションを次のように振り返りました。

「"正式な関係性ではない関係性"のことを、私は"偶発的な関係性"と称していますが、そういった緩やかな関係性を大丸有エリアのような限定的な人々が集まる場で作っていくことに将来があると白波瀬先生は教えてくれました。この言葉は、我々にとってひとつの方向性を示してくれたと感じています」(横張氏)

Green Tokyo研究会では今後も「ESG投資やグリーンインフラの評価」「都市・地域のコミュニティ再発見」「SDGsと建築・都市」「少子高齢化時代の多様な都市空間」といったキーワードで有識者懇談会を開催していく予定となっています。

image_event_210906.006.jpegGreen Tokyo研究会会長、東京大学大学院工学系研究科 教授の横張真氏

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